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援軍到来

230000PVアクセスを突破しました。今後も本作を宜しくお願いします。

大陸歴438年深緑の月十六日・ヴァイスブルク城前


ヴァイスブルク男爵領国正式発足を祝う式典が挙行されてから十日以上が経過した大陸歴438年深緑の月十六日、度重なる異様な襲撃により多大なる損害を被っていたロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍の下に待望の援軍が到着した。

午前中にロジナ候国からの援軍を交換条件にラステンブルク伯国より派遣された2個猟兵団(第二、第三猟兵団)がヴァイスブルクの森を迂回する道程で到着して将兵達の歓声に迎え入れられ、それから数刻が経過して中天に日が差し掛かる頃、援軍の本命とも言うべきリステバルス王国軍ヴァイスブルク派遣軍が到着した。

ヴァイスブルク城前の広場に整列した軍楽隊が歓迎の為の行進曲を奏で、勇壮で軽やかな音色が舞い将兵達が歓迎の歓声をあげる中、司令官のリキメロスが鹿毛の駿馬に騎乗して近衛騎士大隊と共に姿を姿を現した。

リキメロスと近衛騎士大隊に続いて第三騎士団、第二魔導士団、神殿騎士大隊、軽装歩兵、軽騎兵大隊、弩砲兵の各大隊と言った派遣軍所属部隊が次々に姿を現して鳴り響く行進曲の下を進み、度重なる損害に士気が低下しかけていたロジナ候国軍の将兵達は威風堂々と進む援軍の頼もしい姿に歓声をあげた。

リステバルス王国ヴァイスブルク派遣軍はロジナ候国軍将兵の盛大な歓迎を受けながらその前を通り過ぎて割り当てられた宿営地に向けて移動していき、スティリアはナルサスやアロイス達と共に行進するリステバルス王国軍の将兵達を見詰めていた。

(……ナルサスやアロイスは援軍が到着したならば速やかに残敵掃討戦に移行すると言っていたな……状況が不透明な中での攻撃強行だが、2人ともいやに自信満々な様子だった)

スティリアが行進するリステバルス王国軍の将兵を見守りながらここ数日目に見えて自信に満ちている様子のアロイスやナルサスの様子を訝しんでいるとリステバルス王国軍の全部隊が広場を通過して行き、それとほぼ同時に司令官のリキメロスが数名の随員と共に歩み寄って来た。

「……リキメロス殿、良く到着なされましたな、リステバルス王国軍の頼もしき姿、感服致しておりますぞ」

「……感謝致しますリキメロス様、我国が至らぬばかりに貴国の助勢を頂く事となりました事、実に申し訳無く思っております。そして助勢頂きましたる事改めまして深く感謝致し、御礼させて頂きます」

ナルサスが満面の笑みと共にリキメロスに告げた後にアロイスが追従の笑みと共にリキメロスに援軍への謝意を表明し、リキメロスは爽やかな笑みを浮かべて頷いた後に口を開く。

「……御礼には及びません、ナルサス様、僕達がロジナ候国より受けた恩を考えればこれくらいの事は安い物です、それにこのヴァイスブルク伯国の残党にはあの高慢女アイリーンもいると言う話ですし、それならば僕達にとっても無関係な話ではありませんよ」

(……リステバルス王国国王リチャードの腹心の1人リキメロス、リチャードを始めとした他の高位貴族子息と共に1人の女に入れ揚げた揚げ句にリステバルス皇国を滅ぼす元凶となった者……まあ、滅ぼしたのは我が国だから私自身余り偉そうな事は言えぬが……出来れば極力関わりたく無い輩ではあるな)

リキメロスの返答を聞いたスティリアはロジナ候国の姫である自身の立場に対する自嘲を交えつつリキメロスに対する評価を再確認し、一方ナルサスはリキメロスの言葉に相好を崩して頷いたが直ぐに表情を曇らせながら言葉を続けた。

「……リキメロス殿、実は重大な報せがあるのだヴァイスブルクの残党どもにリステバルス皇国の女狐アイリーン・ド・リステバルスが加わっている事は既に知っていると思うが、実はそれに加えて新たな女狐、エメラーダ・ド・トラジメーノも残党に加わっている事が判明したのだ」

「……何ですって!?」

ナルサスからアイリーンに加えてエメラーダの存在も告げられたリキメロスは眼鏡の下の緑眼を軽く見開きながら驚愕の声をあげ、ナルサスは重苦しい顔付きで頷いた後に更に言葉を続けた。

「……現在ヴァイスブルク男爵領国の手の者達が発生したばかりのダンジョンを基にした残党どもの本拠地に潜り込んでおり、その者達がエメラーダの存在を確認しており」

「……本当に救い様がないね、嫉妬に狂い聖女の様なプラチディアを陰険に虐げ続けた末に因果応報の末路を辿り、更にプラチディアの優しさにより命を助けて貰ったにも関わらずそれを逆怨みして国賊皇女と共に反逆者達に尻尾を振る、家柄と気位だけが高い高慢女に相応しい浅はかで無思慮な行いだね」

(……やるせないな、コイツが得々と宣えば宣う程、私達やコイツ等の愚かさが際立って来る)

ナルサスの説明を受けたリキメロスは緑眼に剣呑な光を宿しながらアイリーンとエメラーダに対する糾弾と呪詛の呟きをもらし、スティリアがその身勝手な呟きに自らやリキメロス達リステバルス王国首脳部を嘲笑っていると、アロイスが取り成す様な笑みと共に口を開いた。

「……ですがリステバルス王国から到着しあ頼もしき援軍により残党どもの命運も風前の灯火となりました。連中の本拠地に潜り込んでおります我が手の者には連中の本拠地を直接襲撃する為の仕込みがございます。そして残党どもの間にも離間の兆しが見え楔を打ち込む事に成功したとの事でありますので連中が良い気になっていられるのもこれまででございます」

(……成る程、これがナルサス達が自信満々な理由か、しかし、我軍により辛酸を舐めさせられて来た筈の者達が我々の誘いに応じたと言う話、俄には信じ難いが……)

アロイスの言葉を聞いたスティリアはナルサスとアロイスの妙に自信に満ちた態度の原因とその原因に対する違和感に複雑な表情を浮かべ、一方リキメロスはアロイスの言葉を聞くと、酷薄な雰囲気の微笑を浮かべながら口を開いた。

「……それは良い話です、高慢女達はそんな事も気付かずに穴蔵でノウノウと過ごしている。高慢女に相応しい滑稽な話ですね」

リキメロスの言葉を受けたナルサスとリキメロスは我が意を得たりとばかりににこやかに頷き、その光景を目にしたティリアが胸中に漠然とした不安が生じさせているとリキメロスがナルサスにスティリアの事を紹介し始めた。

「……リキメロス殿、此方に居られるのは第三近衛騎士団を率いられているスティリア・フォン・ロジナ様だ」

「……スティリアだ。貴殿の到着を頼もしく思っている、宜しく頼むリキメロス殿」

ナルサスの紹介を受けたスティリアは軽く一礼した後にリキメロスに声をかけ、リキメロスは爽やかな笑みと共に頷いた後に興味深そうにスティリアを見ながら口を開いた。

「ありがとうございますスティリア様、此方こそ宜しくお願い致します。シルバーナイトでもあるスティリア様の御高名聞き及んでおります。あの高慢女達とは大きな違いですね」

(高い魔力に加えて聡明かつ典雅な立ち居振舞いにより皇女に相応しい才媛と称されていたアイリーン・ド・リステバルスに魔力農耕の分野に於いて類いまれなる才覚を発揮していた才媛エメラーダ・ド・トラジメーノ、何れ劣らぬ彼女達は我国の外交部が警戒する程であったのだがな……)

リキメロスの称賛の言葉を受けたスティリアはその言葉の中にあったアイリーンとエメラーダへの侮蔑の言葉と、その言葉とは対極の位置にあるとも言えるロジナ候国外交部の2人への評価を比較して内心で大きく溜め息をつき、スティリアとリキメロスのやり取りを聞いていたナルサスは挨拶が一段落したのを確認して改めて口を開いた。

「……挨拶も済んだ所で早速小うるさく蠢動している残党どもへの攻撃計画の協議を開始するとしよう。お疲れであろう所に申し訳無いがリキメロス殿にも参加して貰いたい」

「勿論です。高慢女達の存在は我国にとって汚点であります。それを雪ぐ絶好の機会、逃す訳にはいきません」

(……我国にとって警戒すべき相手が排除されれば、後に残るのはコイツ等の様な輩のみ……自業自得、だな)

ナルサスから作戦会議の召集と会議への参加を要請されたリキメロスは微笑と共にそれを快諾してナルサスに案内されて歩き始め、スティリアは内心で大きな溜め息をつきながらその後に続いた。

(……本日夕刻若しくは翌朝には本国より派遣された第三及び第十二騎士団も到着する。これ以上の戦力投入を避ける為にも勝たねばならない。勝って禍根を断たねばならない……だが、敵の招待すら定かで無い現状で、本当に、勝てるのか?)

作戦会議の場に向かうスティリアは度重なる戦力投入に対する憂慮と先行きに対する漠然とした懸念に小さく唇を噛み締めながら歩みを続け、一方のナルサスとリキメロスはスティリアの胸中で燻る憂慮と懸念を尻目に自信に満ちた様子で歩を進めていた。



ラステンブルク猟兵部隊壊滅10日以上が経過した大陸歴438年深緑の月十六日、損害を重ね続けているロジナ候国軍ヴァイスブルク派遣軍の下に待ち望んでいた援軍が到来した。

ロジナ候国軍及びヴァイスブルク男爵領国軍の将兵はラステンブルク及びリステバルス王国より到来した援軍の姿に歓声をあげ、スティリアは胸中に憂慮と懸念を燻らせながらナルサスと共にリステバルス王国からの援軍を率いるリキメロスを出迎えた……


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