金堀衆
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大陸歴438年深緑の月七日夕刻・マスタールーム
ラステンブルク猟兵部隊を壊滅させてダンジョンへと帰投したアイリスはミリアリアと朝食を摂った後にミリアリアと共にベッドに潜り込んで仮眠を取り、夕刻を迎えた頃に起き出してミリアリアと共に食べる為の夕食の準備に勤しんでいた。
エプロン姿のアイリスは軽く鼻歌を歌いながらフライパンで鹿肉に火を通しており、テーブルで待つように言われたミリアリアは幾ばくかの申し訳無さを感じながらアイリスに声をかけた。
「……その、何時も、すまないな、アイリス」
「……フフ、気にしなくて良いわよ、好きでやってる事よ」
ミリアリアの言葉を受けたアイリスは機嫌良く返答しながら鹿肉をフライパンから取り出しスライスして皿に並べ、作り置きしていたオレンジソースをかけて茹でたジャガイモや野菜を添えた。
メインディッシュを作り終えたアイリスは手早く他の皿に木の実のスープやパン、果物等を盛り付けた後に小さく指を鳴らしてそれらの皿に浮遊魔法をかけてテーブルへと運び、出来立ての料理をテーブルに並べた後にミリアリアの向かいに腰を降ろして笑顔と共に口を開いた。
「それじゃあ、食べましょう」
「ああ、そうだな」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷きながら返答した後にテーブルに置かれた戦利品のワインを互いのグラスに注ぎ、2人はワインが満たされたグラスを手に取って口を開いた。
「「乾杯」」
アイリスとミリアリアはそう言いながらグラスを軽く触れさせた後にグラスを傾けてワインを喉に流し込み、アイリスはグラスを置いた後にメインディッシュの皿を示しながら笑顔で口を開いた。
「今日は鹿肉をロティにしてオレンジソースをかけてみたわ」
「そうか、早速いただいてみよう」
アイリスからメインディッシュの説明を受けたミリアリアはそう言いながらフォークで鹿肉のロティを口へ運び、絶妙な火加減の鹿肉と甘酸っぱいオレンジソースを味わった後に感嘆の呟きをもらす。
「……何時も思うんだが、アイリスは本当に料理が上手だな、羨ましい限りだ」
「フフ、ありがと、ミリアに喜んで貰えて嬉しいわ」
ミリアリアの称賛の言葉を受けたアイリスは嬉しそうに微笑みながらそれに応じ、2人はそれから暫く歓談しながら夕食を楽しんだ。
用意された料理を食べ終えるとアイリスとミリアリアは空になった皿を簡易キッチンに運んで洗い、その後にテーブルに戻って果物を肴にワインを嗜み始めた。
「……このまま楽しくおしゃべりしてたいけど、そう言う訳にもいかないわね……少し今後の方針を話して置くわ」
談笑していたアイリスはそう言いながらグラスを置くと真摯な眼差しでミリアリアを見詰め、ミリアリアが表情を改めながら頷くと不敵な笑みと共に口を開いた。
「……現在、取りあえずだけどダンジョンの態勢が整い、食糧の自給態勢も概成したわ、次は経済力を整備する為に採掘を行うつもりよ」
「……採掘?」
アイリスから告げられた今後の方針は採掘と言う予想外の物であり、ミリアリアが怪訝そうな面持ちで呟くとアイリスは頷きながら言葉を続ける。
「マリーカに教えて貰ったんだけどヴァイスブルクの森に琥珀の鉱脈が何ヵ所かあるそうね、確かあたし達が散々叩いたロジナの連中の宿営地の近くにもかなり大きな鉱脈があった筈よね?」
「……ああ、確かに何ヵ所か鉱脈はある、既に採掘場として機能している鉱脈が2ヵ所にロジナの連中の宿営地近くの1ヵ所、その他にも3ヵ所あるんだがラステンブルク伯国との境界付近と中々に微妙な位置にあって採掘は保留されていた、ラステンブルク伯国も3ヵ所採掘場を管理していた筈だ」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷いた後にヴァイスブルクの森に存在する翡翠の鉱脈に対する説明を行い、それを聞いたアイリスは頷いた後に不敵に微笑いながら言葉を続ける。
「マリーカの話ではラステンブルク伯国は他にも鋼玉の採掘場も持ってるみたいなの、だからあたし達も採掘を行って琥珀や鋼玉をたんまり頂くつもりよ、あたしには国境も税関も関係無いし」
「……成程、地炎龍や硫黄龍を使う訳だな」
アイリスの宣言を受けたミリアリアは地中を自由に掘り進み移動可能な使役獣達の姿を思い浮かべて得心の呟きをもらし、アイリスは頷いた後に更に言葉を続けた。
「……勿論最初はあの2匹にも手伝ってもらうけどあの子達はかなり戦闘力が高いから主任務は攻勢作戦従事で採掘は補助的に行って貰い、採掘は採掘専従部隊の金掘衆を設立して従事させる予定よ」
「……金掘衆?」
アイリスから採掘専従部隊、金掘衆設立の言葉を受けたミリアリアは聞き慣れぬ部隊名に戸惑いの声をあげ、アイリスは頷いた後に金掘衆に関する説明を始めた。
「マリーカとアナスタシアに教えて貰ったのだけど金掘衆は扶桑皇国で組織されている採掘集団らしいわ、常日頃は採掘業務に専従しつつ有事の際は培った技術を活かして攻城戦等にも従事する戦闘工兵的な一面も持っている集団みたいなの、だからこのコンセプトを参考に採掘に専従しつつ有事に際しては補助戦力としても運用が可能な部隊、金掘衆を編成して運用する予定よ」
(……補助戦力等と言ってるが、恐らく普通に主戦力クラスの戦闘力を持っているんだろうな)
アイリスの説明を聞いたミリアリアはこれまでのアイリスの規格外の力と微妙にずれた戦力把握感覚に顔を引きつらせかけながら頷き、その頷きを目にしたアイリスは新部隊、金掘衆の説明を始める為に指を小さくパチンッと鳴らした。
アイリスが指を鳴らすとミリアリアの前に栄螺の様な多数の突起部と後部に存在するドリルの様な螺旋状の巨大な突起物が存在する殻を持った蝸牛の様なモンスターと丸く巨大な触眼と口の部分にヒゲの様な者を生やした蛞蝓の様なモンスター、そして所々に金色の塗装が施されたシルバーメタリックの体躯と、左腕部に丸い砲丸状のハンマー、右腕部に短い筒状の物体を装着した人型の機械の様な物が映し出された魔画像が具現化され、ミリアリアが自分の予感が的中したであろうと思いながら魔画像を見詰めるとアイリスが蝸牛の様なモンスターを示しながら口を開く。
「……この子は金掘衆で最も重要な坑道掘削及び採掘を担当するモンスター、スパライラルシェルよ、殻の後ろにあるドリルを使って地中を掘り進め、坑道を掘削したり鉱脈を採掘するのが主な任務よ自衛手段として眼から光線を出したり、殻に隠れた状態で転がって体当りしたりは出来るけど戦闘力はそれなりだから過信は禁物ね、炎魔法もウィークポイントだからフラムジャベリンとかを10発くらい叩き込まれたりしたら不味いわね」
「……いや、それ炎魔法に耐性があるとか無いとかに関係無く相当なダメージになるぞ、まあ、確かに使役獣に比べれば大人めとは言えるが」
アイリスから蝸牛の様なモンスター、スパライラルシェルの説明を受けたミリアリアは予感が的中した事に若干顔を引きつらせながら感想をもらし、アイリスは続いて蛞蝓の様なモンスターを示しつつ説明を続けた。
「この子はスパライラルシェルを護衛するモンスター、ラージスラッグよ、スパライラルシェルの弱点の炎魔法に耐性があるけど使役獣に比べれば防御力は低めよ、武器は眼から発射する熔解光線や石化させる光線よ、この子も戦闘力はそれなりだけどスパライラルシェルと一緒に戦えばそこそこ戦える筈よ」
(……私には普通にバリバリ戦える様にしか見えないんだが、と言うか明らかに採掘場で遭遇するモンスターのレベルを超えてるぞ)
アイリスから蛞蝓の様なモンスター、ラージスラッグの説明を受けたミリアリアはその能力に何とも言えない表情になりながら頷き、それを確認したアイリスは最後に残った人型の機械の様な物に関する説明を始めた。
「……これは金掘衆の数的な意味での主力、マジックマリオネットよ、採掘場の警備や細かな採掘、採掘された琥珀や鋼玉の収集が主な任務よ、今魔画像に映っているのは小規模な炎魔法を発射できる発射器と採掘様のハンマーを装備したスタンダードタイプで発射器を両手に装着した警備専用のソルジャータイプや通常の手を装着した採取専用のトランスタイプなんかがあるわ簡易的な魔法耐性とそれなりに頑丈だから対人だとそこそこ戦える筈よ、金掘衆はスパライラルシェルとラージスラッグ各1体にマジックマリオネット約200体で部隊を編成する様になるわ、今の所は1部隊だけだけど折々部隊数を増強していくつもりよ、採取した琥珀や翡翠は転位魔法陣でダンジョンに運搬し、金掘衆がやられて敵が魔法陣をダンジョンに進攻しようとした場合は自爆して採掘場ごと敵を生き埋めにさせる様になっているわ」
「……そ、そうか、それは安心……だな」
(……この部隊を倒す連中は中々現れ無いとおもうがな)
アイリスから人型の機械、マジックマリオネットと金掘衆の部隊編成に関する説明を受けたミリアリアはその内容に顔を引きつらせかけながら感想を述べ、アイリスはその反応に満足気な笑みを浮かべて頷いた後に更に言葉を続ける。
「……金掘衆の編成が完了したらロジナの宿営地跡付近の鉱脈で琥珀を採掘させるつもりよ、ヴァイスブルク伯国亡命政権に対して採掘許可を求め、許諾されれば引き続いてリステバルス皇国亡命政権も含めて採掘した琥珀の分配交渉を始める予定よ」
「……アイリス……本当に何時も何時もすまない、私は本当に何時も貰ってばかりだ」
アイリスから金掘衆編成後の方針を聞いたミリアリアはヴァイスブルク伯国亡命政権とリステバルス皇国亡命政権に対する配慮に対して深々と一礼しながら感謝を告げ、アイリスは照れ臭そうにはにかみながら言葉を返した。
「……もうっミリアったらあたしは何時も充分ミリアから貰っているわ、さあ、難しい話はもうお仕舞い、後は楽しく飲みながらお喋りしましょう」
「……ああ、そうだな」
アイリスははにかみながらそう告げた後にグラスを掲げ、その様子を目にしたミリアリアは穏やかな表情で応じながらグラスを掲げてアイリスが手にするグラスに軽く触れさせた。
それから2人は談笑を再開し、果物を肴にグラスを重ねながら穏やかな時を楽しんだ。
ラステンブルク猟兵部隊を殲滅させてダンジョンに凱旋したアイリスはミリアリアと共に憩いの時を過ごし、その席上にてミリアリアに新たな部隊の編成を告げる。
新たに編成される部隊、それは地中に埋まるトミを採掘し、有事に際しては戦力としても使用可能な戦闘工兵部隊、金掘衆……
ミリアリア「……なあ、このスパライラルシェルなんだが」
アイリス「違うわよ、古の大国を滅ぼしたり、封印された像をギャングに奪われた結果ふっかつして暴れ回ったりしてないもの」
ミリアリア「この話に限らずこの手の話のそういう輩は大概因果応報の目に遭うよな、それとこのラージスラッグなんだが」
アイリス「勿論違うわよ火星から宇宙開発への警告として送られた金色の球から出てきたりしないもの……因みにあたし的には拾い物をアクセサリーにして渡すのは評価駄々下がりね」
ミリアリア「……ああ、うん、流石に私もアレはどうかと思うな……それて最後のマジックマリオネットだが、どう考えてもアレだよな」
アイリス「勿論違うわよ、だって正体不明の謎の地下基地を警備したり、ウルトラガ○でも倒せるのにワイドショッ○で倒されるっていうオーバーキルで倒されたりしてないもの」
ミリアリア「……ああ、うん、確かにちょっとアレはオーバーキルだったな」