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黙祷

220000PVアクセス突破出来ました。今後も本作を宜しくお願いし致します。


大陸歴438年深緑の月七日払暁・ダンジョン周辺


ロジナ候国軍に対する欺瞞攻勢を行ったA作戦集団とラステンブルク猟兵部隊への攻勢を行ったB作戦集団、作戦目的を完遂した2つの集団はアイリスの発した撤収命令の下粛々と前進を続け、払暁を迎えた頃にダンジョン周辺に到着した。

到着した2つの作戦集団はイライザ率いる守備隊やマリーカ、アイリーン、エメラーダによって出迎えられ、再会した一同が勝利を喜び合う中、アイリスとミリアリアがマリーカやアイリーン達の所へと歩み寄った。

「……アイリス様、鮮やかなる勝利と凱旋おめでとうございます」

「……お疲れ様です、アイリス様、勝利と凱旋、謹んでお慶び申し上げますわ」

「……アイリス様、勝利と凱旋、謹んでお慶び申し上げ致しますわ」

アイリスを出迎えたマリーカ、アイリーン、エメラーダは深く一礼した後にアイリスの勝利と凱旋に対する祝福を述べ、それを受けたアイリスは悠然とした笑みを浮かべて頷いた後に口を開いた。

「出迎え御苦労様、変わった事は無かったかしら」

「……ええ、あの2人が時折何事かしていた以外は特に変わりはありませんでした。リステバルス皇国亡命政権の方々に御迷惑をかけてしまった様なので申し訳無く思います」

アイリスの問いを受けたマリーカはメッサリーナとアグリッピーナの活動に関して報告した後にその活動に関する謝罪をアイリーンに行い、アイリーンは穏やかな表情で頭を振った後に口を開いた。

「お気になさる必要はありませんわマリーカ様、あの方々が色々やらかしておりますのは今に始まった事ではありませんもの」

「……それに、色々と考えながら行動しておりますのはあの方々だけではありませんわ」

アイリーンが穏やかな表情で告げたのに続いてエメラーダが穏やかな表情のまま意味深な言葉を続け、それを聞いたアイリスは不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

「……中々面白そうな話ね、細かい所は後で聞かせて貰うわね」

アイリスがそう言いながら周囲を見渡すと最後の部隊としてリリアーナが率いる殿部隊が到着し、それを確認したアイリスは転位魔法でアンデッドや大型モンスターを転位させてリリアーナ達を出迎えその労を労った後に言葉を続けた。

「それじゃあ解散前に少し話をするわ、御苦労だけど皆を集合させて頂戴」

アイリスの指示を受けたリリアーナやミリアリア達は手早く皆をアイリスの前に整列させ、アイリスは整列した一同を悠然とした動作で皆を見渡しながら口を開いた。

「皆、よくやってくれたわね、貴女達の奮戦によって作戦目的を完遂する事が出来たわ」

アイリスの言葉を受けた一同は誇らし気な笑みを浮かべ、それを目にしたアイリスは穏やかな表情で頷いた後に言葉を続ける。

「夜間の行軍と戦闘で疲労しているだろうから今日の採取や狩猟は中止して休養日とするわ、食事が用意されている筈だからそれを食べてゆっくりと身体を休めて頂戴」

アイリスがそう言いながら傍らに控えるマリーカとアイリーン達に視線を向けるとマリーカ達は頷く事でそれに応じ、アイリスはそれを確認した後に表情を真摯な物へと変えて言葉を続けた。

「……今日でこのダンジョンが出来て1ヶ月になるわ、それは同時にヴァイスブルク伯国が滅びて1ヶ月と言う事になるわ」

アイリスが静かに告げた言葉を受けた一同はごく一部の例外を除いて表情を引き締めながらより一層威儀を正し、アイリスはそんな一同を見詰めつつ真摯な口調で言葉を続けた。

「……確かにヴァイスブルク伯国は亡国してしまったわ、そしてリステバルス皇国も、でも、貴女達はこうしてここに存在している。言われなき理由にて亡びた両国の魂を継承する貴女達は確かにこの地に存在しているわ、解散前にヴァイスブルク戦役とリステバルス戦役の戦没者達に対する黙祷を捧げるわ、死者達に鎮魂を捧げ、これからの決意を示す為に……」

アイリスが真摯な口調で告げた言葉は威儀を正した一同の間に染み渡り、一同がその言葉に感銘を覚える中その空気を切り裂く様に不躾な声があがった。

「……フン、綺麗事と偽善ね見てて反吐が出そうよ」

「……あんな見え見えの偽善に乗せられるなんて、単純で可哀想な人達」

不躾な声で場の空気を切り裂いたメッサリーナとアグリッピーナは挑む様な面持ちで周囲を睥睨し、その様子を目にした周囲は思わず眉を潜めたがアイリスはさして頓着する様子も見せずに言葉を続けた。

「あたしの言葉をどう受け取りその結果としてどう行動しようが当人の自由よ、それじゃあ今から黙祷を始めるわ、どう行動するかは、貴女達次第よ」

アイリスがそう言うと一同はメッサリーナとアグリッピーナを無視して威儀を正し、アイリスはそれを確認した後に厳かに告げた。

「ヴァイスブルク戦役並びにリステバルス戦役戦役者に対し、黙祷」

アイリスが厳かに告げた言葉を受けた一同(メッサリーナとアグリッピーナを除く)は静かに瞼を閉じてヴァイスブルク戦役とリステバルス戦役における戦役者達に対する黙祷を行い、メッサリーナとアグリッピーナは侮蔑の眼差しで黙祷するアイリスと周囲の者達を睨み据えていた。


ヴァイスブルク近郊・ロジナ候国軍近衛第三騎士団宿営地


ダンジョンに凱旋したアイリス達がヴァイスブルク戦役とリステバルス戦役の戦役者達に対して黙祷を捧げていた頃、ヴァイスブルク近郊に設けられているロジナ候国軍近衛第三騎士団の宿営地は慌ただしい雰囲気に包まれていた。

日付が変わった頃から開始された異形の襲撃の報告を第九騎士団から受けたスティリアはギレ率いる第二大隊を増援として急派させつつ情勢の把握に努め、払暁を迎えた現時点で情勢の概略を把握する事が出来た。

第九騎士団は陽動攻撃と思われる統制された攻撃を受け軽装歩兵及び軽騎兵各1個中隊相当の兵力を喪失し、本格攻撃を受けたと推察されるラステンブルク伯国猟兵部隊との連絡は途絶、現在救援部隊を派遣中も状況は絶望的と思われる……

第九騎士団と増援として急派された第二大隊からもたらされた凶報を受けたスティリアはその内容に襲撃を受けながら後送されてくるであろう負傷者を収容する為の救護所設営を命じ、その作業が概成したのを確認した後に休憩の為騎士団長用のテントへと戻った。

襲撃開始の報を受けてから今に至るまで情勢の把握と対策に努めていたスティリアが疲労を感じながら椅子に腰を降ろしてドレスアーマーの胸甲を外していると、メイド服を纏ったクーデリアがホットチョコを満たしたカップを載せたトレイを手に歩み寄ってテーブルの上にカップを置き、胸甲を外し終えたスティリアは頬を緩めさせてクーデリアに視線を向けながら口を開いた。

「……ありがとう、クーデリア」

スティリアの感謝の言葉を受けたクーデリアは穏やかな笑みと共に頷き、その後に口を開く。

「昨夜は襲撃の報告以来御休みになられていません……今日は式典にも参加しなければならないのですからせめて今は御休み下さい」

穏やかに告げていたクーデリアの言葉が一瞬途切れ、その瞬間だけ表情も翳り、それを目にしたスティリアは思わず唇を噛み締めてしまう。

クーデリアの言葉にあった式典と言うのはヴァイスブルク戦役終了1ヶ月とヴァイスブルク男爵領国の正式発足を祝する祝賀行事の事であり、スティリアが複雑なクーデリアの心境を慮り唇を噛み締めているとクーデリアが穏やかな表情で声をかけてきた。

「……スティリア様が御気になさる必要はありません、スティリア様の御立場を鑑みれば出席は当然の義務なのですから」

クーデリアの悟りの籠められた言葉を受けたスティリアは唇を噛み締めたまま頷き、その様子を目にしたクーデリアは躊躇いがちに言葉を続けた。

「……スティリア様、願わくば、戦没者達に対する黙祷を行う事を御許し下さい」

「……許すも許さぬも無いわ、式典に出席しなければならない私に貴女を止める資格等無いわ」

「……ありがとうございますスティリア様」

クーデリアの躊躇いがちの要望を受けたスティリアは表情を柔らかくさせながらその要望を受け入れ、スティリアの返答を受けたクーデリアは深く一礼して謝意を告げた後に顔の前で両手を組みつつ両目を閉じて黙祷を始めた。

スティリアはクーデリアが黙祷を始めたのを確認した後に視線を外しながらホットチョコが満たされたカップを手に取り、昨夜の襲撃によって発生した甚大な損害への憂慮やこれから参加しなければならない祝賀会への憂鬱、そして互いに想い合っているが故により一層意識せざるを得ない立場の違いと言うクーデリアとの間に存在する分厚く高い壁への苛立ち、そんな諸々の感情を一緒くたにホットチョコを喉の奥へと流し込んだ。

クーデリアが作ってくれた甘く温かなホットチョコは疲労しているスティリアの身体に染み渡ったが一緒くたに飲み干した諸々の感情は小骨の様にスティリアの胸の奥に苦味を残し、スティリアはその苦味を漱ぎ落とす様にグラスを傾けてホットチョコを喉に流し込んだ。



大勝してダンジョンに凱旋したアイリス率いる異形の軍勢、アイリスは凱旋したミリアリア達と共にヴァイスブルク戦役及びリステバルス戦役の戦役者達に対する黙祷を捧げた。

一方甚大な被害の報せを受けたスティリア率いる近衛第三騎士団の宿営地ではクーデリアがヴァイスブルク戦役の戦役者達に対する黙祷を捧げており、それを許可したスティリアの胸中には様々な感情が小骨の様に刺さっていた……


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