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蹂躙・アイリスの包囲戦(アイリス・ポケット)編・瓦解

ブックマーク330件を突破致しました。今後も本作を宜しくお願い致します。

大陸歴438年深緑の月七日・ラステンブルク猟兵部隊野営地・第七猟兵団本部


ロジナ候国軍第九騎士団より警報を受け警戒態勢を強化した矢先に発生した襲撃を受け粉砕された4ヵ所の外哨拠点は壊滅する寸前に野営地に対して悲鳴の様な敵襲の報告を送っており、野営地では急報を受けた第六、第七、第九猟兵団長が善後策を講じるために最先任の第七猟兵団長の下を訪れていた。

「……各外哨拠点からの続報はまだかっ!!」

「は、はいっ!先程の敵襲報告以来各外哨拠点からの報告は途絶したままですっ!!」

第七猟兵団長のコレリアス・フォン・アーナンの怒声を浴びた幕僚は青ざめた顔で報告を行い、それを受けたアーナンが舌打ちをしていると第六猟兵団長のギュンター・ベカワが難しい顔付きになりながら口を開いた。

「至急増援を派遣する必要がありそうだな」

「ああ……しかし、警戒強化を命じた矢先にこの体たらくとは、全くもって情けない」

ベカワが呟いたのに続いて第九猟兵団長のクリオネル・フォン・タオバも渋面と共に呟き、それを聞いたアーナンは頷いた後に各外哨拠点に対する増援派遣を命じた。

第七猟兵団からは2個中隊が北及び東外哨拠点に、第六猟兵団と第九猟兵団からは各1個中隊が西外哨拠点と南外哨拠点に各々派遣される事が決定され、出撃を命じられた部隊が慌ただしく準備を整えていると何の前触れも無く野営地の四方を囲む木々の合間から多数の火球が降り注いで来た。

降り注ぐ火球は野営地を囲む木柵の周囲に着弾炸裂して発生した爆発に巻き込まれた猟兵達が吹き飛ばされてしまい、それによって慌ただしく出撃準備を整えていた猟兵達の間に動揺と混乱が生じた。


アイリス戦闘団


鎧袖一触で外哨拠点を突破した各戦闘団による野営地に対する射撃戦の開始とその効果は使い魔達によって逐一アイリスの下に送られており、魔画像を確認したアイリスは満足気に頷いた後に上空で待機している円盤携帯のブラッディスケアクロウに向けて命令を下した。

「……行きなさい」

アイリスの命令を受けたブラッディスケアクロウは滑る様に滑らかな動きで前進を始め森の木々の頂ギリギリの高さの上空を高速で野営地目指して進み始めた。

ブラッディスケアクロウが飛行を始めて暫くすると四方から攻撃魔法の射撃を浴びている野営地が前方に出現し、ブラッディスケアクロウは高度を上げながら更に野営地に接近を続けた。

ブラッディスケアクロウは四方から降り注ぐ攻撃魔法への対応に躍起になっている猟兵達に気付かれる事無くその上空をフライパスしながら搭載していた8発のミステルを投下し、投下されたミステルは組み込まれた魔術式の効果により吸い込まれる様に各猟兵団本部と集積された物資に向けて落下して行った。

投下された8発のミステルは迎撃を受ける事無く各猟兵団本部と物資の集積場所に2発づつ着弾して爆裂魔法を作動させ、作動した爆裂魔法によって8本の火柱が発生した。

第七猟兵団本部を直撃した2発のミステルによりアーナン、ベカワ、タオバは第七猟兵団本部の要員達と共に火柱に巻き込まれ、第六、第九猟兵団本部を直撃した各2発のミステルによって両猟兵団の本部要員達の多くも吹き飛ばされてしまう。

一方物資集積所に着弾した2発のミステルは集積された物資や荷馬車を吹き飛ばし、近くに繋がれていた駄馬達が突然の爆発に脅えて暴走を始めてしまう。

四方から降り注ぐ攻撃魔法への対応に躍起になっていた猟兵達は背後で発生した突然の爆発に激しく動揺し、その動揺が鎮まる前に更なる災厄が襲いかかる。

動揺している猟兵達の足下が突然激しく揺れ始め、猟兵達がよろめいていると大量の土塊と土煙を撒き散らしながら2体の巨大モンスター、地炎龍と硫黄龍(カッツバッハとネルがブラッディスケアクロウのミステル投下に呼応させる為外哨拠点を突破した際に出撃させた)が出現した。

出現した地炎龍と硫黄龍は業火と可燃性ガスを手当たり次第に発射して周囲を炎に包み、2体の周囲にいた猟兵達が狼狽えながら炎の中を逃げ惑う。

「……各戦闘団は本格攻勢へ移行しなさい、逃げ散った連中は包囲している部隊に任せて野営地とそこに残る連中を粉砕、高位の指揮官については可能であれば情報収集の為に捕縛し、それ以外の連中は殲滅して頂戴」

ブラッディスケアクロウのミステル投下とそれに連動した地炎龍と硫黄龍による奇襲の成果を確認したアイリスは魔王に相応しい凄味のある笑みを浮かべながら各戦闘団に命じ、それを受けた各戦闘団が総攻撃を開始した。

各戦闘団はボーンウォーリアーやスケルトンを前進させる前に残存するゴリアテを突撃させ、突撃を開始した8台のゴリアテは1台も欠ける事無く混乱する野営地に到達して爆裂魔法を作動させた。

突入したゴリアテが作動させた爆裂魔法によって野営地の周囲を囲む木柵の其処彼処が周囲にいた猟兵達ごと吹き飛ばされて巨大な突破口が穿たれ、それを確認した各戦闘団の指揮官達は即座に突撃を命じた。

突撃命令を受けて木々の合間から吐き出される様な勢いで姿を現したボーンウォーリアーとスケルトンの大群は降り注ぐ攻撃魔法に援護されながら野営地に殺到し、混乱の為散発的になってしまった猟兵達の迎撃を押し潰す様に穿たれた突破口から野営地内へと雪崩れ込んだ。

突破口から雪崩れ込んだボーンウォーリアーとスケルトンの集団に対して比較的統制を維持出来ていた猟兵達が迎撃を行ったが、その数は雪崩れ込んで来るボーンウォーリアーやスケルトンの数に比べると余りにも少数な上に士気も低下してしまっており、迎撃した猟兵達は次々と前進を続けるアンデッドの集団に呑み込まれて行った。

猟兵団本部の壊滅と絶え間無く続く攻撃に続出する損害と言う現状に猟兵達の士気は瞬く間に低下して行き、そんな猟兵達を叱咤しながら雪崩れ込んで来たボーンウォーリアーの大群の迎撃を指揮していた中隊長がボーンウォーリアーの集団に呑み込まれた事によりその光景を目の当たりにした猟兵達の士気が完全に崩壊してしまう。

戦意を喪失してしまった猟兵達の中の1人が迫り来るボーンウォーリアーの集団に背中を向けて逃走を始めると周囲の猟兵達も同じ様に逃走を始め、その流れは瞬く間に周囲に波及してしまう。

野営地の一角で生じた逃走劇により既に一方的になっていた戦局の傾きは致命的な者となってしまい、それを感じ取った猟兵達の一部が次々に持ち場を放棄して逃走を開始した。

続出する損害と逃走により野営地の組織的抗戦能力は完全に崩壊し、逃走の機会を逃した猟兵達は地炎龍と硫黄龍の放つ業火と可燃性ガス、そして雪崩れ込んで来たボーンウォーリアーやスケルトンの振るう刃によって次々に骸へと変えられていった。

一方、逃走を開始した猟兵達に対しては同士討ちを避けるために攻撃目標を野営地から逃走する猟兵達に変更したボーンマジシャン隊とボーンビショップ隊の攻撃魔法の雨とカッツバッハ戦闘団とクーリア戦闘団が出撃させた双角龍と双鞭龍が襲いかかり、猛攻を受けた猟兵達は瞬く間にその数を減らしながらてんでんばらばらに暗い木々の合間へと駆け込んだ。


逃走部隊


てんでんばらばらに森の中に逃げ込んだ猟兵達の一部は死に物狂いで逃走を続けた後に暗い木々の合間で脚を止めてゼエゼエと荒い息をつき、彼等を指揮していた第九猟兵団の中隊長は呼吸を整えた後にこの場にいる猟兵達の掌握を始めた。

周囲にいた猟兵達は中隊長の指揮下にあった猟兵14名に第六猟兵団所属の猟兵9名と第七猟兵団に所属していた猟兵11名であり、それらの猟兵達を掌握した中隊長は水筒の水で喉を湿した後に顔をしかめながら口を開いた。

「……それにしても、一体何が起こったと言うのだ?」

「……我々にも皆目見当がつきません、我々が外哨拠点の救援に向かおうとした矢先に襲撃が始まり、その後は瞬く間にこの有り様です」

第七猟兵団の猟兵達を指揮していた小隊長は中隊長の疑問の呟きに対して中隊長と同じ様に顔をしかめて返答し、それを聞いた中隊長は渋面で頷いた後に周囲の猟兵達を見渡しながら口を開いた。

「……ロジナ候国の連中も攻撃を受けているそうだ、逃げた他の連中を回収しつつラステンブルクに戻るぞ」

中隊長の言葉を受けた猟兵達は疲れた表情で頷き、中隊長はそれを確認した後に猟兵達に前進を命じた。

猟兵達は第六猟兵団の猟兵達を先頭に疲れた足取りでラステンブルク方面に向けて歩き始め、道すがらに単独、若しくは数名で逃走していた猟兵達を吸収しながら前進を続けた。

中隊長が人数が増えた事に安堵の表情を浮かべているとその気持ちを嘲笑うかの様に前方の藪がガサガサと激しく揺れ始め、それを目にした猟兵達がぎょっとした表情で脚を止めると藪から2体のブラッディマンティスが姿を現した。

「……ば、馬鹿な、な、何故こんな事が起こるんだ、い、一体この森で何が起こっているのだ」

中隊長が度重なる災厄に唖然としながら呟いていると後方の猟兵数名が突然悲鳴をあげて地面に倒れ、首の辺りを押さえてもがき苦しみ始めた。

周囲の猟兵達が慌ててもがき苦しむ猟兵達の所に駆け寄ると猟兵達の首には吸血球が取り付いて血を貪っており、生きたまま血を啜られる猟兵達は苦悶の表情と共にもがき苦しんでいた。

惨状を目にした猟兵達が唖然とした表情で立ち尽くしていると、暗い木々の合間から新手の吸血球が出現して猟兵達に襲いかかり、猟兵達が吸血球の襲撃に混乱しているとブラッディマンティスまでもが襲いかかり紅の鎌を振り回して猟兵達を撫で斬りにし始めた。

吸血球とブラッディマンティスの襲撃を受けた猟兵達は蜘蛛の子を散らす様に逃走し始めたが、逃げ込もうとした藪や木々の合間から魔狼やジンベルヴォルフが飛び出して猟兵達に襲いかかり、暗い森の中に猟兵達が迸らせた恐怖と断末魔の絶叫が響き渡った。

「……ば、馬鹿な、こ、こんな馬鹿な事がある筈無い、ある筈……無い」

目の前で繰り広げられる凄惨な光景を目の当たりにした中隊長が血の気の失せた表情で譫言の様に呟いているとその周囲を吸血球が取り囲み、中隊長はへなへなとその場に座り込んでしまった。


アイリス戦闘団


「……捕虜も獲得出来たみたいね」

「アイリス様、こちらネル戦闘団中隊長クラスの指揮官を捕虜にしました。負傷し気を失っていますが命に別状はありません」

使い魔から送られて来た敗走する猟兵達への伏撃の様子を確認したアイリスがその成果に満足気な呟きをもらしているとネル戦闘団からも捕虜獲得の報告がもたらされ、アイリスはその労を労った後に改めて戦局の確認を始めた。

現在野営地の殆んどは雪崩れ込んだボーンウォーリアーとスケルトンで埋め尽くされ、地炎龍と硫黄龍の支援を受けながら野営地の一角に追い詰められた猟兵達を蹴散らしており、逸早く逃走を始めた猟兵達も暗い森の中でブラッディマンティスやジンベルヴォルフ、魔狼、吸血球等の襲撃を受けていた。

「……大勢は決したな」

「……ええ」

アイリスの傍らで戦局を確認していたミリアリアは崩壊したラステンブルク猟兵部隊の映像を見ながら呟き、アイリスは相槌を売った後に小さく伸びをしながら言葉を続ける。

「……野営地を制圧したら残敵を掃討しつつ残った物資を頂戴してダンジョンに戻りましょう、A作戦集団にも帰還を命じるわ」

「……ああ、そうだな」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷きながら言葉を返し、それから数拍の間を置いた後に更に言葉を続けた。

「……何時も、何時も、ほんとうにすまない」

「……もう、何時も言ってるけど、あたしは目覚めた魔王として好き勝手やってるだけだから、ミリアが気にする必要は無いわ」

ミリアリアの感謝の言葉を受けたアイリスは苦笑しながら言葉を返し、その後に仄かに頬を赤らめながら言葉を続けた。

「……それに、最近はしっかり御礼を貰ってるわよ」

「……っぐ」

アイリスの続けた言葉を受けたミリアリアは真っ赤な顔になって絶句してしまったが、暫く口をもごもごさせた後に笹穂耳まで真っ赤になりながら両手を広げ、それを目にしたアイリスは嬉しそうに微笑みながらミリアリアの腕の中に歩を進めてミリアリアの身体に抱き着いた。

アイリスがミリアリアの身体に抱き着いた瞬間、アイリスの甘い香りがミリアリアの鼻腔を優しく撫で、ミリアリアはこれ以上無い程真っ赤になりながらアイリスの魅惑的な肢体を優しく、そしてしっかりと抱き締めた。

アイリスが自分を抱き締めてくれるミリアリアの腕の感触に頬を緩めながら野営地の状況を確認すると野営地の一角に追い詰められていた猟兵達がボーンウォーリアーの大群の中に呑み込まれてしまった所であり、それを確認したアイリスは甘える様にミリアリアの胸元にもたれかかりながら言葉を続ける。

「……ケリがついたみたいね、A作戦集団に撤退を命じるわ」

「……あ、ああ、そうだな」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは柔らかなアイリスの身体の感触にドキマギしながら言葉を返し、アイリスはミリアリアの返答を聞いた後に作戦の成功と撤退命令を伝える為にミリアリアの腕の中からA作戦集団に対する魔通信を始めた。



鎧袖一触で外哨拠点を粉砕したアイリスの攻勢はその勢いのままに野営地へ襲いかかり、野営地の猟兵達はその猛攻の前に瞬く間に瓦解してしまう。

これによりアイリスはラステンブルク猟兵部隊の殲滅と言う作戦目的を完遂し、逃げ散る猟兵達を掃討しながら欺瞞攻勢を実施中のA作戦集団に撤退を命じた……


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