接触
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アイリスが情報収集の為に放った使い魔たちは、森に住まう動物達の姿で周囲に散り、その中の1匹が化けた鷹がダンジョンの方に近付いている一団を発見した。
ミリアリアや救出した3人との朝食の最中に使い魔から接近する一団の存在を知らされたアイリスは直ちにその映像を表示させ、一同は食事を続けつつそれを注視した。
「これが使い魔が見付けた連中の映像よ、距離的にはこのダンジョンまで後1時間程度と言う所かしら」
アイリスは映像に映る一団を見ながらそう告げると眉を潜めさせながら塩気の多い干肉を口に運び、ミリアリアは軍用ビスケットを水につけて柔らかくさせながら口を開いた。
「見た所、中央にいる士官クラスの奴と案内をしている2名はロジナ候国軍の人間だが他の連中は傭兵隊だな、ロジナの連中は傭兵どもも相当数引き連れていたからその一部だろう、人数は20名程だからダンジョン発見を報告された本隊から派遣された下級参謀とその護衛と言った所だろう」
ミリアリアは映像に映る一団を見ながらその正体に関する推察を述べ、それを聞いたライナは同意する様に頷いた後に口を開いた。
「動きを見るとかなり森での活動に慣れている様です、魔導士らしい人間もいますのでダンジョン攻略の経験がある連中では無いでしょうか?」
「その可能性はあるな、ダンジョンは遠隔地にある場合が多いからダンジョン攻略をしている連中はこの様な地形での活動に長けた連中が多く、傭兵としても重宝されていると聞くからな」
ライナの推察の言葉を聞いたミリアリアはその意見に賛同しつつ水につけて柔らかくした軍用ビスケットを口に運び、一連の会話を聞いていたリーナは水を一口飲んで喉を湿した後に口を開いた。
「見た所、捕虜はいないみたいですね」
「そうみたいだね」
リーナが進む一団の中に虜囚となったエルフが存在しない事に安堵の表情で呟くとアリーシャも同じ様な表情でそれに和し、それを聞いていたアイリスは軍用ビスケットを手に取り、その堅さにげんなりとした表情を浮かべながら口を開いた。
「救出しなきゃならない存在がいないなら取りあえずこのまま様子を見るわ、入って来るかどうかも分からないしそこまで神経質になる必要は無いわ」
アイリスがそう言うとミリアリア達が頷く事でその意見に同意し、それを確認したミリアリアが再びげんなりとした表情で水につけた軍用ビスケットを手に取っているのを目にしたミリアリアが苦笑しながら声をかけてきた。
「やはり軍用の携行食は口に合わない様だな」
「……軍用に限らず携行食はこういう保存の効く物が主体なのは理解してるけど、それにしたって酷いわね、コレ、落ち着いたら食材調達についても考えなきゃならないわね」
アイリスはげんなりとした表情でミリアリアの言葉に応じながら水につけた軍用ビスケットを口に入れ、ミリアリアは頷いた後に微笑いながら言葉を続けた。
「この森は果物や木の実が豊富でそれを餌にする動物も多い豊かな森だ、情勢が一段落したら私も食材調達に協力しよう」
「私達も協力させて貰います何れはラステンブルク伯国に向かう予定ですが、こうして御世話になっているので御礼はしておきたいので」
ミリアリアの言葉を聞いていたライナが続けてそう告げるとリーナとアリーシャもゆっくりと頷き、それを目にしたアイリスは笑いながら口を開いた。
「貴女達エルフやダークエルフって義理堅いのね、あたしは魔王でしがらみとかとは無縁なんだから遠慮せず利用すれば良いのに、まあ、食材調達に協力してくれるのはありがたいわ、台所も作った事だし料理にも期待してるわね」
アイリスの言葉を穏やかな表情で聞いていたミリアリア達だったが料理と言う単語が飛び出した瞬間、場の空気が一変してしまう。
ミリアリアやライナがあからさまにアイリスから視線を外すと同時にリーナも明後日の方向を見ながら白々しく口笛を吹き始め、その様子を目にしたアイリスは小さく溜め息を吐いた後に視線こそ外していないものの申し訳無さそうな表情になっているアリーシャに声をかけた。
「……まあ、あの反応から見るにあの3人の腕前については聞かないわ、貴女はどうなの?」
「……え、えーと、その、や、焼くくらいなら多分……自信は、無いですけど」
アイリスの質問を受けたアリーシャは若干視線を泳がせながら頼り無い答えを返し、それを聞いたアイリスは大きく溜め息を吐いた後に言葉を続けた。
「……全く、何のためにあれだけ立派な台所を作ったと思っているのよ、まあ、良いわ、食材調達頑張ってね、料理についてはあたしがしてあげるわ」
「あ、貴女は料理が、出来るのかっ!?」
アイリスの呟きを耳にしたミリアリアは聞き捨てならない内容にアイリスの方に視線を転じながら驚きの声をあげ、アイリスは苦笑しながらそれに応じた。
「美味しい料理を食べると作りたくなるでしょう?そう言う風に行動してたら自然と上手くなったのよ」
「……そ、そう、なのか……そう……か、貴女は料理も、出来るのか」
アイリスの答えを聞いたミリアリアはどんよりと沈み込んだ表情で呟き、その様子を目にしたアイリスは穏やかに微笑みながら声をかけた。
「ふふ、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ、貴女の作ってくれた料理を食べるのも楽しみだったけど、貴女にあたしの作った料理を食べてもらうのも同じくらい楽しみなのよ、だからあたしの作った料理を沢山食べて頂戴、そして御料理を覚えてあたしに食べさせて頂戴ね」
「……わ、分かった時間はかかるかも知れないが必ず料理を覚えて貴女に食べて貰うからな」
アイリスの激励の言葉を受けたミリアリアは表情を明るくさせながら言葉を返し、アイリスは穏やかな微笑みを浮かべながら頷いた。
残党狩部隊・連絡隊
アイリス達が食事をしながら今後の方針を決した頃、残党狩部隊本隊からダンジョンを捜索中の部隊に向けて派遣された下級幕僚は、ダンジョン捜索経験のある傭兵隊ワンウッド隊12名とダンジョン捜索部隊が派遣した2名の伝令から成る連絡隊を指揮してダンジョンに向けて前進を続けていた。
「ダンジョン発見と捜索開始の伝令が到着してからかなりたつが未だに進捗状況を報せる伝令すら来ない、一体何をしているのだ」
「発生したばかりとは言ってもダンジョンはダンジョン、甘く見て大怪我する奴だって少なくないって事ですよ」
下級幕僚が疑問の呟きをもらしているとそれを耳にしたワンウッド隊の隊長が笑いながら答え、それを聞いた下級幕僚は渋面を作って頷きながら言葉を続けた。
「妙な事態に陥っているとしたらやはり貴公達の助力が必要になるな、ダンジョン捜索パーティー、ワンウッド隊の実力期待しているぞ、ダンジョン捜索部隊の捕虜にはエルフの他にダークエルフもいるらしい、貴公等が活躍した折にはその捕虜の所有について進言してみよう」
「そいつはありがてえ、清純そうなエルフも良いが好き者そうで艶っぽいダークエルフもそそるからなあ、エルフの国のヴァイスブルク伯国軍にゃあダークエルフの女兵士なんて一握りしかいねえから競争率が激しいんだよ、本隊に捕まってるダークエルフの騎士団長なんざ本隊の士官連中が夢中になって嬲り尽くしてて俺等に分け前なんざ廻ってこねえからなあ」
下級幕僚から報酬について耳打ちされたワンウッド隊の隊長は野卑た笑みを浮かべながら答え、その後に共に進むワンウッド隊の傭兵達に向けて声を張り上げた。
「おいっ!お前ら、これからダンジョンに潜る事になるかも知れねえから準備しておけっ!このダンジョン踏破を無事に成功させりゃあダンジョン捜索隊が捕虜にしてるエルフとダークエルフが俺等の奴隷になるかも知れねえっ清純なエルフと好き者なダークエルフを好き勝手にする為にも大いに働くんだぜっお前らっ!!」
隊長の激励を受けた傭兵達は野卑た歓声と雄叫びでそれに応じると勇躍して進み始め、下級幕僚はその様子に満足げに頷きながら彼等と共に進んだ。
意気軒昂に前進を続ける連絡隊、その様子を木菟に化けたアイリスの使い魔が枝の上から見下ろしており、やがて栗鼠や雲雀に化けた使い魔達が前進する連絡隊を追跡し始めた。
進む彼等は気付いていない、ダンジョンとの接触が既に始まっている事を、逸る彼等は気付いていない、彼等の接近が既にダンジョン側に知られている事を、そして、哀れな彼等は気付いていない、自分達の命日が今日だと言う事に……
激動の一日から一夜が過ぎた大陸歴438年霧の月八日、魔王アイリスが作った異形のダンジョンが再びロジナ候国軍と接触した、産声をあげたばかりの魔王のダンジョンは新たな獲物を求め、姿を現した新たな獲物は吸い込まれる様に異形のダンジョンに向けて進む。
自分達の運命に気付かぬまま滑稽な程に意気揚々と……