対処計画
今後も本作を宜しくお願いします。
大陸歴438年深緑の月六日夕刻・ダンジョン・マスタールーム
ロジナ候国軍との合流を目指してヴァイスブルクへ向かっていると思われるラステンブルク伯国軍猟兵部隊と出迎えの為に出撃したと思われるロジナ候国軍部隊、それらの部隊に対する襲撃計画の骨子は夕刻頃に概成し、それを確認したアイリスは襲撃計画を伝達する為に各勢力の首脳部を再びマスタールームへと召集した。
アイリスの召集命令を受けた各勢力の首脳部は直ちにマスタールームに集合して敵性部隊の状況が記された地図の魔画像が具現化されたテーブルを囲み、全員が集合したのを確認したアイリスは皆への紅茶を用意したフランシスカ達を退室させた後に皆を見渡しながら口を開いた。
「……襲撃計画の骨子が纏まったわ」
アイリスの言葉を受けた出席者達は表情を鋭くさせながら頷き、アイリスはそれを確認した後にリリアーナに視線を向けながら言葉を続けた。
「リリアーナ、先ずはあたし達の軍備について説明しなさい」
「……畏まりましたアイリス様」
アイリスの言葉を受けたリリアーナが静かな口調で応じた後に書類を手に立ち上がると出席者達の前に現在の魔王軍の状況が記された魔画像が具現化され、リリアーナはそれを確認した後に書類に目をやりながら口を開いた。
「それでは現在の軍備を説明させて頂きます。第一死霊連隊に関しては従来と同一の編成のままですが、第二死霊連隊はスケルトン3個大隊の内1個大隊がボーンウォーリアーに強化されています。また、先の戦闘の結果ボーンウォーリアー1個大隊、骸骨軽騎兵及びボーンビショップ各1個中隊が新たに編成されました。また、大型モンスター部隊に関しては更なるテイムの成功により部隊規模が大きくなった為種族特性に応じた部隊再編を実施しました。具体的に言うと装甲火蜥蜴44体を敵拠点への強襲や直接火力支援を行う突撃大隊に、ブラッディマンティス54体とグロスポイズンサーペント47体を奇襲及び追撃戦任務を実施する駆逐大隊に、ジンベルヴォルフ38体とロジナ候国軍が使役していた魔狼の生き残り約80匹を警戒、偵察、追撃戦等の任務にあたる偵察大隊に各々配属しました。現時点で突撃大隊が1個、駆逐大隊及び偵察大隊は2個大隊が編成されています。また、偵察大隊の魔狼に関しては今後アイリス様の魔力供給によって適宜ジンベルヴォルフへと進化させていく予定です。これにアイリス様が製作された使役獣のメタルゴーレム、トーテムミノタウルス、一角龍、双角龍、珊瑚龍、双鞭龍、狂機獣、ラビットドラゴン、地炎龍、硫黄龍、ブラッディスケアクロウ、吸血球獣、光壁龍、氷鳥龍が加わります」
((……うわぁ))
リリアーナから現在の戦力概要を聞かされた出席者達は思わず顔を引きつらせかけながらも頷き、それを確認したリリアーナが視線をアイリスに向けるとアイリスは頷きながら立ち上がった後に口を開いた。
「……現在2つの敵性部隊は野営の準備を行っているわ、あたし達の作戦目標はラステンブルク伯国猟兵部隊の殲滅よ、有力なる支隊を持ってロジナの魔曲騎士団に対して大規模な欺瞞攻撃を実施してこれを牽制拘束し、その間に主力をもってラステンブルクの猟兵部隊を強襲し包囲殲滅するのが大まかな流れになるわ」
アイリスの説明に呼応する様に展開する敵性部隊に向けて2つの青い矢印が伸び、出席者達の視線がそれに集中する中アイリスの説明が続く。
「魔曲騎士団に対して欺瞞攻撃を実施する部隊をA作戦集団と呼称するわ、同集団には新たに作成したボーンウォーリアー大隊と軽騎兵中隊とボーンビショップ中隊に火力支援大隊のワイト中隊、突撃大隊、1個偵察大隊が配属され、同盟者の魔龍にも協力して貰うわ。指揮官は闇神官リリアーナ、配属使役獣は光壁龍、ラビットドラゴン、狂機獣、氷鳥龍、メタルゴーレムよ。同集団にはリステバルス皇国亡命政権を主体に要員を派遣して貰う事になるわ人選については任せるわ」
「畏まりました。御下命謹んでお受け致しますアイリス様」
魔曲騎士団への牽制攻撃部隊A作戦集団の概要を告げたアイリスがアイリーンを見詰めながら要員派遣を要請するとアイリーンは典雅な動作で一礼しながらそれを快諾し、アイリスは頷いた後に猟兵部隊に向けて伸びる矢印を示しながら口を開いた。
「ラステンブルクの連中に攻撃をかけるのが主力部隊、B作戦集団になるわ、第一及び第二死霊連隊に火力支援大隊の2個ボーンビショップ中隊に駆逐大隊、偵察大隊各1個が配属されるわ。配属使役獣は双角龍、珊瑚龍、双鞭龍、地炎龍、硫黄龍、吸血球獣、ブラッディスケアクロウになるわ。指揮官はあたし、この集団にはヴァイスブルク伯国亡命政権と女戦士傭兵隊を主体に要員を派遣してもらう事になるわ」
「承知致しました。アイリス様」
「我等の槍働き、御覧下さいませ」
アイリスから主力部隊、B作戦集団への要員派遣を要請されたマリーカとクーリアは即座に深く一礼しながら快諾の言葉で応じ、アイリスは鷹揚に頷いた後に更に言葉を続ける。
「……残った駆逐大隊と使役獣のトーテムミノタウルスと一角龍はダンジョン守備隊とするわ、ヴァイスブルク伯国亡命政権に騎士団長若しくは副団長クラスを1人残して貰い、その者を指揮官とするわ、リステバルス皇国亡命政権や女戦士傭兵隊にも腕利きを何名か残して貰うわ」
「……あの御調子者どもへの備え、と言う事でしょうか?」
アイリスがダンジョンに守備隊を置く事を告げるとヴァルが目をスウッと細くしながら質問し、アイリスは頷いた後に不敵な笑みと共に言葉を続けた。
「……まだ動くとは思えないけど用心しておくに越した事は無でしょ?」
アイリスの言葉を受けた出席者達は大きく頷き、アイリスはそれを確認した後に言葉を続けた。
「それじゃあ最後にタイムテーブルの概要を伝えるわ、各勢力はこの会議が終了したならば直ちに各隊への派遣要員選定作業を実施、要員選定が終了したならば各作戦集団毎にブリーフィングを行いその後に出撃するわ、出撃した部隊は日付が変わるまでに所定の配置につき戦闘準備を整え待機して攻撃開始命令を待って貰う事になるわ、質問が無ければ各勢力は派遣要員の選定作業を始めて頂戴」
アイリスの言葉を受けた出席者達は深く一礼する事で応じ、アイリスはそれを確認した後に解散を命じた。
アイリスの解散命令を受けた出席者達はアイリスに向けて深々と一礼した後に退室し、アイリスはそれを見送った後に別室に控えていたフランシスカを呼んで出撃する者達に手渡す弁当を作る様伝える事を命じた。
アイリスの指示を受けたフランシスカはその指示を厨房に伝えるべく退室し、指示を出し終えたアイリスは簡易キッチンを示しながらミリアリアに話しかけた。
「……あたしとミリアの分はあたしが作るわ」
「……分かった、私は部屋で出撃の準備をして来る」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは小さく頷きながら言葉を返し、一拍の間を置いた後に更に言葉を続けようとしたがアイリスはそれを制する様に微笑みつつ口を開いた。
「……あたしは魔王として好き勝手にやっているだけよ。だからミリアは気兼ねしなくて良いのよ」
「……ぐっ」
アイリスに機先を制されてしまったミリアリアは言葉に詰まってしまい、アイリスはそんなミリアリアを愛しげに見詰めながら言葉を続けた。
「……それでもミリアが御礼をしたいと思ってくれてるなら、帰ってから一杯甘えさせてくれる?」
「……わ、分かった、そ、それくらい御安い御用だ、お、思う存分甘えてくれ」
(……ミリアリア様、本質がヘタレな割には結構頑張ってますね、まあ、本質がヘタレなので結果としてアイリス様が若干生殺し状態になってしまいますけどアイリス様はそれも楽しんでおられる様なので問題無しですね)
魔王としては控え目なアイリスの要望を受けたミリアリアは頬を赤らめながらそれを受け入れ、リリアーナは頬を緩めながらそのやり取りを見詰めていた。
発見されたラステンブルク伯国猟兵部隊とロジナ候国軍、アイリスは2つの敵性部隊に対処すべく部隊を編成した上でダンジョンに拠る各勢力に協力を要請し、各勢力はそれを快諾して派遣要員の選定作業を開始した……