惨劇・傭兵捜索集団編・一蹴
今後も本作を宜しくお願い致します。
傭兵捜索集団本隊
慌ただしい出撃命令に急かされ押っ取り刀で出撃した傭兵捜索集団本隊(約1500名)は獣人傭兵隊救援の途を急ぎ、指揮官のスコットは部隊の先頭付近で肩を怒らせて暗い木々の先を睨みつけながら怒声を張上げる。
「獣人どもから連絡は無いのかっ!!」
「……は、はいっ!連絡を続けておりますがいまだ返信はありません」
スコットの怒声を受けた魔導士は思わず身体を強張らせながら返答し、スコットはその答えに対して盛大に舌打ちした後に忌々しげに呟いた。
「……獣人どもが、醜態を晒しやがって、所詮獣人は獣人と言う事だな、こうなったらダンジョン前に彷徨くアンデッドどもを蹴散らしてついでにダンジョンも攻略してやるか」
スコットが忌々しげに呟いた刹那、先頭集団の周辺で多数の魔光弾が弾けて周囲を照らすと同時に夥しい量の炎弾が降り注いで先頭集団の傭兵達を吹き飛ばし、その光景を目の当たりにしたスコットは足を止めると狼狽えながら口を開いた。
「……な、何事だっ!?」
スコットが狼狽えた声をあげていると再び炎弾が降り注いで先頭集団の周囲で炸裂して傭兵達を吹き飛ばし、突然の攻撃に動揺が生じる中先頭集団から派遣された伝令が本部に駆け込み血相を変えながら口を開く。
「き、緊急事態です、ぜ、前方に多数のワイトが突如出現し猛烈な射撃を受けています尖兵小隊は甚大な被害を受け、我が隊にも被害が続出していますっ!!態勢を立て直す為後退許可若しくは増援を願いますっ!!」
「ワイトが多数出現だとっ!?有り得んっ!!こんな所に大量のワイトが発生などするものかっ!!」
伝令の凶報を受けたスコットは俄には信じ難い内容に伝令を睨み付けながら怒声を発したが、伝令はそれにやや怯みながらも必死に抗弁する。
「ま、間違い無くワイトですっ!!数十体、下手をすれば50を超えるワイトが我が隊に猛烈な射撃を加えています、一刻も早く増援を御願いしますっ早急にっ!!」
「ええいっ!貴様では話にならんっ!俺が直接この目で確認するっ!!案内しろっ!お前達後は続部隊には現在地で待機を命じ、残りの者は腑抜けどもの救援だっ!!行くぞっ!!」
伝令の抗弁を受けたスコットは激高してそう告げると後続部隊に待機を命じる伝令を派遣した後に本部を護る中隊規模の傭兵達を率いて猛烈な射撃を浴びせられている先頭集団への救援と状況の確認に向かい、ミリアリアと共にワイト中隊の攻撃状況確認と督戦を実施していたアイリスは使い魔から送られて来た魔画像で襲撃開始からスコットが先頭集団に向かうまでの一連のやり取りを確認すると嘲笑を浮かべながら呟きをもらした。
「……あらあら、随分無様に狼狽えてくれるのねえ、面倒じゃ無いからこう言う扱い易い輩って助かるのよねえ」
アイリスがそう言いながら右手を掲げるとそれに呼応する様に五芒星の魔法陣が具現化され、それを目にしたミリアリアは身構えながらアイリスに声をかける。
「……やるのか?」
「……ええ、攻撃の視察と督戦だけの予定だったけど折角敵の指揮官が出張ってくれるんだったら派手に一撃御見舞いしてあげるのも悪くないと思ったのよ」
アイリスがそうミリアリアの問いかけに応じていると周囲に展開したマジシャンズローブを纏った金色の骸骨、ワイト達がアイリスが具現化させた五芒星の魔法陣に歓喜する様にカタカタと骨を鳴らしながら次々に五芒星の魔法陣を具現化させていき、アイリスとミリアリアの傍らにいた中隊を指揮する一際立派なマジシャンズローブを纏まったワイトが恭しい口調でアイリスに語りかける。
……我等ガ元ヲ訪レテ下サッタダケデ無ク、ソノ偉大ナル御力マデモ御披露下サル、我等一同大イニ沸キ立ッテオリマス、我等モアイリス様ノ偉大ナル一撃ノ端クレニ加ワル事ヲ御許シ下サイ……
「勿論構わないわクレッチマー、その力を存分に奮いなさい」
中隊長のワイト、クレッチマーの懇願を受けたアイリスは鷹揚に頷きながらそれを受け入れ、そのやり取りを見ていたミリアリアはアイリスの傍らに歩み寄りながら口を開いた。
「……アイリス、私も参加させて貰えるか?」
「……勿論よ、あたしの手を握ってあたしに魔力を注いでみて頂戴」
ミリアリアの問いかけを受けたアイリスは嬉しそうな口調で応じながら左手を掲げてミリアリアに差し出し、ミリアリアは頷いた後に少しぎこちない手付きでアイリスの掲げた手を握り、その柔らかな感触に頬を仄かに赤らめさせつつ自身の魔力をアイリスに注ぎ始めた。
「……ッン……フフフ、ミリアの力が流れ込んで来てるわ」
アイリスが注ぎ込まれて来るミリアリアの魔力の感覚に歓喜の呟きをもらしているとアイリスが具現化させた魔法陣が一際大きく輝き、それに続いてクレッチマー率いるワイト中隊(牽制攻撃として炎弾を発射している一部のワイトを除く)のワイト達が具現化させた魔法陣も魔力の充填が完了した事を示す淡い輝きを放ち始めた。
「……強襲隊、こちらはアイリスよ間も無く敵の指揮官を吹き飛ばすわ、その攻撃を合図として敵を背後から奇襲しなさい」
「……こちら強襲隊、了解しました我等女戦士の槍働き御覧下さいませ」
攻撃準備を終えたアイリスは傭兵捜索集団本隊の後方に進出した強襲隊に魔通信を送り、強襲隊を率いるクーリアからの返信を受けた後に傍らのミリアリアを愛しげに見ながらミリアリアの手に重ねた己の手に力を入れてミリアリアの手を優しく握り締めながら口を開く。
「……それじゃ行きましょミリア」
「……あ、ああ、そうだな」
アイリスの言葉を受けたミリアリアは仄かに頬を赤らめながら応じながらアイリスの手を握り返し、アイリスは嬉しそうに微笑みながら頷いた後に視線をワイトの牽制攻撃(アイリス側から見れば牽制攻撃だが受けている傭兵達にとっては本格攻撃にしか感じられない程の射撃)を受けている傭兵捜索集団が映し出されている魔画像に視線を向けた。
魔画像にはワイトの炎弾射撃を浴びて動揺する傭兵達の所に到着したスコットが部下達と共に動揺する傭兵達に怒声を張り上げている様が映し出されおり、その不用意極まりない行動を目にしたアイリスは凄惨な笑みを浮かべながら口を開いた。
「……画面越しにはじめまして、愚かな傭兵隊長さん、そして、永遠にサヨウナラ……薙ぎ払え、フラム・ウント・トロンベッ!!」
アイリスが冷たい声色の挨拶と共に言霊を解き放つと魔法陣から無数の黒い炎の炎弾を灯った猛烈な旋風が迸り出てワイトの牽制攻撃によって釘付けにされた傭兵達の所に向けて襲いかかり、クレッチマー達が発射した無数の炎弾、氷弾、風弾が濁流の様な勢いでそれに続いた。
発射された攻撃魔法はそれまでの攻撃が児戯に感じられる程の弾幕となって釘付けにされていた傭兵達を呑み込んで炸裂し、多くの傭兵達は何が起こったのか理解する間も無く吹き飛ばされてしまった。
不用意に前線に近付き過ぎていたスコットは濁流の様な攻撃魔法をもろに浴びてしまい周囲の傭兵達共々に吹き飛ばされてしまい、生き残った僅かな傭兵達の一部は余りの衝撃によって脱け殻の様な虚脱状態に陥ってしまう。
先頭集団が飲み込まれた凄まじい規模の攻撃魔法の弾幕射撃とそれの炸裂音は粉微塵にされる前のスコットが出した命令を受けて待機していた他の傭兵達を大きく動揺させ、動揺する最後尾の中隊規模の傭兵隊の後方では強襲隊に所属する女戦士達が暗い木々の合間に展開して指揮官のクーリアからの攻撃命令を受けていた。
「これよりアイリス様より賜ったブラッディスケアクロウと骸骨軽騎兵隊による襲撃を実施する。我々は連中が混乱する間にジンベルヴォルフ及び魔狼隊と共に敵の本部を強襲して粉砕するぞ、魔法を使える者は敵陣に突入したら派手に発射して、閃光と爆音で敵の精神をズタズタに引き裂け」
クーリアは出撃後にアイリスから渡された魔通信機能付のブレスレット、フライヤを使って展開している女戦士達に的確に指示を送り、その光景を見ていたユーティリアは嘆息してフライヤを見ながら呟きをもらした。
「……凄まじいな、アイリス様の御力は」
「……全くだ、夜間の森でこれ程秩序だった戦闘が行えるとはな」
ユーティリアの呟きを受けたクーリアは相槌を打ちながらブラッディスケアクロウが収められたカプセルを手に取り、その様子を目にしたユーティリアはロングソードを鞘から抜きながら言葉を続けた。
「……本当に良いのか?」
「……我々とロジナ候国の関係は単純に傭兵と雇い主の関係だ、そしてロジナ候国は雇い主としても最底辺の連中だ、干戈を交える事に些かの躊躇いも無い」
ユーティリアの問いかけを受けたクーリアは事も無げな口調で即答し、その後に愛しげにユーティリアを一瞥しながら言葉を続けた。
「……貴女と共に戦えるしな」
「……ッ……あ、貴女は何時でも狡い女だな」
クーリアから想いの籠もった言葉を伝えられたユーティリアは頬を赤らめながら恥ずかしげに抗議の声をあげ、クーリアは愛しげにユーティリアに微笑みかけた後に女戦士に相応しい凄味のある表情になりながらカプセルを投じた。
「……その御力、御見せ下さいっ!!」
クーリアが投じながら発した言葉に呼応する様にカプセルは虚空で爆ぜて眩い閃光を放ち、突然生じた閃光に驚いた傭兵達の前に血のように真っ赤な巨大なモンスター、ブラッディスケアクロウが佇んでいた。
ブラッディスケアクロウは突然の出現に驚く傭兵達に向けて光線を発射しながら襲いかかると巨大な触手や鎌を振り回して蹂躙を開始し、傭兵達は突然のブラッディスケアクロウの出現と襲撃によって大混乱に陥ってしまう。
ブラッディスケアクロウの攻撃によって絶命した傭兵達はアンデッドとして蘇った後に周囲の元同僚達に襲いかかり、それによって傭兵達の混乱状態に更に拍車がかかる中更なる災厄が襲いかかって来た。
ブラッディスケアクロウの背後に広がる暗い木々、その合間から湧き出る様に多数の骸骨軽騎兵が姿を現すと混乱状態の傭兵達に対して突撃を慣行し、暴れまわるブラッディスケアクロウに意識を集中させていた為に気付くのが遅れた傭兵達は雪崩れ込んで来た骸骨軽騎兵の突撃をまともに受ける羽目になってしまう。
ブラッディスケアクロウと骸骨軽騎兵の襲撃によって傭兵達が大混乱になるのを確認したクーリアはユーティリアや女戦士達と共にジンベルヴォルフや魔狼達を従えて移動を始め、ブラッディスケアクロウや骸骨軽騎兵に蹂躙される傭兵達の脇を通り抜けて傭兵隊の隊長の近くの木々の合間へと移動した。
隊長はすぐそばにクーリア達が到着してる事に気付かぬまま大混乱に陥った自軍の状態を立て直す事に躍起になっており、クーリアは覚めた視線でその様子を確認しながらジンベルヴォルフと魔狼達に突撃を命じた。
クーリアの命を受けたジンベルヴォルフと魔狼の一団は暗い木々の合間から飛び出して近くにいた傭兵達に襲いかかり、クーリアはジンベルヴォルフと魔狼の襲撃に一層浮足立ち混乱する傭兵達を見据えながら口を開いた。
「総員、突撃!!」
クーリアは突撃を命じると同時に一対の緩やかに湾曲した片刃の剣を両手に駆け出し、傍らにいたユーティリアもロングソードを手にそれに続いた。
クーリアとユーティリアが駆け出すと同時に散開している女戦士達も突撃を開始し、一団は軽やかな足取りで木々の合間をすり抜けると狼狽える傭兵達に疾風となって襲いかかった。
歴戦の女戦士とジュディとジルが戦斧と長短2本の剣を振るって周囲の傭兵達を薙ぎ倒す様に斬り捨てていき、ダイナとバブスを中心とした攻撃魔法を扱える女戦士達が周囲に向けて炎の槍や火球を手当たり次第に発射した事により傭兵達の混乱により一層の拍車がかかる中、クーリアとユーティリアは右往左往する傭兵達を尻目に傭兵隊長の所へと駆け込んだ。
ユーティリアは流れる様な動作で傭兵隊長の周囲にいた傭兵達を斬り捨て、それに援護されたクーリアは事態の急変に狼狽する傭兵隊長に向けて両手の剣を閃かせた。
クーリアの斬撃を受けた傭兵隊長は狼狽えながらもロングソードで応戦しようとしたが練達の女戦士であるクーリアは右手の剣で傭兵隊長のロングソードを受け止めつつ左手の剣で傭兵隊長の胴体を深々と抉り、傭兵隊長は絶叫と血飛沫を迸らせながら地面に転がった。
度重なる襲撃に大混乱に陥っていた傭兵達の士気は指揮官の死によって完全に崩壊してしまい、士気の崩壊した傭兵達は災厄から逃れる為に我勝ちに逃走を開始した。
傭兵達の敗走を確認したクーリアはブラッディスケアクロウとジンベルヴォルフ及び魔狼隊に追撃を命じた後に周囲の逃げ遅れた傭兵を斬り捨てつつ女戦士達と骸骨軽騎兵隊に集合を命じ、それを受けた女戦士達は素早くクーリアとユーティリアの周囲に集合を果たした。
「……手傷を負った者が数名おりますがその他の損害はありません」
手早く女戦士達の状況を確認したヴァルは女戦士達に目立った被害が生じていない事を伝え、クーリアが頷く事でそれに応じていると使い魔からの映像で一連の状況を確認していたアイリスからの通信が到達した。
「……鮮やかな攻撃だったわ、貴女達のおかげで敵の後衛部隊は完全に組織的戦闘力を喪失したわ、先程狂機獣を出撃させてスケルトン部隊も攻撃を開始したから貴女達と骸骨軽騎兵隊は現在地で逃げてくる連中を襲撃して頂戴」
アイリスが状況の説明と新たな命令を告げているとその話を裏付ける様に前方から大量の爆発音が遠雷の様に響き、それを聞いたクーリアは凄味のある笑みと共に返信を送る。
「了解しましたアイリス様、当地にて待機し残敵掃討に当たります、よき狩りを」
「……そうさせて貰うわ、そちらもよき狩りを」
クーリアの返信を受けたアイリスは楽し気な口調で応じた後に通信を終え、クーリアは女戦士達と骸骨軽騎兵隊を周囲に散開させて逃げ散って来る傭兵達を待ち構え始めた。
クーリア達が展開を終えたのと相前後する形で残る傭兵隊に対する攻撃が狂機獣とブラッディスケアクロウを先頭にして実施され、急変した事態の連続に動揺していた傭兵達は狂機獣とブラッディスケアクロウの猛威にワイト隊の猛烈な弾幕射撃、そして湧き出る様に出現して雪崩れ込んで来るスケルトン部隊の突撃によって一蹴され暗い木々の合間に多数の骸を晒す事となった。
リリアーナ戦闘団
アイリス戦闘団による傭兵捜索集団に対する一方的とさえ言える程容赦無い襲撃が実施されていた頃、手薄となった野営地とそこに集積された物資を目指してリリアーナ戦闘団が前進を開始していた。
下生えを踏み拉きながら前進する装甲火蜥蜴に木々の合間を粛々と進む各種アンデッド部隊、暗い森の中を進む異形の軍勢の姿は魔王の軍勢と呼ぶに相応しく、指揮官のリリアーナは感嘆に若干の呆れが混じった表情を浮かべてその光景を見詰めながら呟きをもらした。
「……アイリス様の御力ならこれ位当たり前なんだろうけど、何度見ても凄い光景よね」
「……これに加えて地下を進んでいる地炎龍達まで居ますからね」
リリアーナの呟きを耳にしたクラリスは地下を掘り進んで野営地に向かっている地炎龍と硫黄龍と吸血球獣の事に思い浮かべながら相槌を打ち、リリアーナが頷く事で同意しているとアイリスからの魔通信がもたらされた。
「……こちらの攻撃の進捗状況は順調よ、流石にこれだけ派手にしてるから野営地にも気付かれてるかも知れないけど大した戦力は残ってなさそうだから安心して頂戴、流れ弾で物資が燃えちゃうかも知れないけど燃えたら燃えたで所詮は敵の物資だから問題無いわ、だから気兼ね無く野営地を叩きのめして頂戴」
「……畏まりましたアイリス様、全力を尽くします」
アイリスから状況と襲撃に関する留意事項を告げられたリリアーナは同時に送られて来た蹴散らされる傭兵達が映し出された魔画像を確認しながら返信し、通信を終えた後にクラリスに視線を向ける。
リリアーナの視線を受けたクラリスは決意の表情で頷き、それを確認したリリアーナは同じ様に頷いた後に異形の軍勢達と共に野営地に向けて粛々と前進を続けた。
獣人傭兵隊の壊滅を知らぬまま救援に向かっていたスコット率いる傭兵捜索集団本隊、不用意な状態で進む彼等に対してアイリス率いる異形の軍勢が襲いかかった。
アイリス自らも加わって猛烈な攻撃魔法に続いて行われた使役獣をはじめとした異形の軍勢の襲撃を受けた傭兵達は文字通り一蹴されてしまい、指揮官のスコットは猪突の報いを自らの命によって購う事となった。
獣人傭兵隊壊滅に続き捜索傭兵集団本隊が壊滅し、残された野営地に対しても異形の軍勢が刻一刻と接近しつつあった……