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惨劇・傭兵捜索集団編・突出

今後も本作を宜しくお願い致します。

ヴァイスブルクの森・傭兵捜索集団本隊


フィリアス戦闘団の夜襲を受けた獣人傭兵隊からもたらされた悲鳴の様な救援要請は捜索集団本隊の野営地を揺るがし、その報せを受けたスコットは飲みかけのワインのコップを放り投げながら怒声を張り上げた。

「アンデッドの襲撃だとっ!?たかがアンデッドごとき何故蹴散らせねえんだよっ!!」

「じ、獣人傭兵隊からの報告では数百規模のボーンウォーリアーが攻撃魔法に支援されながら襲撃して来たとの事です、戦力差がある為至急きゅうえ」

「……で、伝令、獣人傭兵隊より急報です、し、正体不明の大型モンスターが出現し損害が続出した為、ダンジョン前の野営地を放棄して撤退するとの連絡がありましたがその後此方からの呼びかけに反応がありませんっ!!通信魔法可能な魔導兵が死亡若しくは重傷を負ったと思われます」

スコットの怒声を受けた伝令の魔導士が身を竦ませながら返答していると血相を変えた新たな魔導士が到着して更なる凶報を報せ、それを聞いたスコットは肩を怒らせながら立ち上がると更なる怒声を張り上げた。

「どいつもこいつも不甲斐ないっ!!獣人傭兵隊の指揮官は腑抜けのクメッツだったなっ!!総員出撃だっ!!アンデッドどもを叩きのめして腰抜けどもを助け出すぞっ!!」

スコットの怒声を聞いた周囲の者達は慌てて四方に散ってスコットの命令を伝え、傭兵達は急な出撃命令に追い立てられる様に出撃態勢を整え始めた。

ダンジョン捜索と発見後の封鎖に備えて用意された食料等の物資を満載した荷馬車群を警備する為に留守部隊として中隊規模の傭兵隊が残され、その部隊を除いた捜索集団の全部隊(1個大隊及び2個中隊相当)は慌ただしい出撃命令に急かされる様に装備を整えると各部隊毎に集合した。

「総員出撃!!アンデッドどもを蹴散らして不甲斐ない連中を救出してやるぞっ!!」

出撃準備が整ったのを確認したスコットは叩きつける様な口調で出撃を命じ、傭兵達は急な出撃命令に急き立てられる様に野営地を出撃して獣人傭兵隊への救援に向かった。

傭兵達は暗い木々の合間を急き立てられる様に進み、木々の枝の上に止まった梟や木菟は静かに前進する傭兵達の姿を見下ろしていた。


アイリス戦闘団


襲撃の報せを受け押っ取り刀で出撃した傭兵捜索集団本隊出撃の様子は使い魔達によって展開するアイリス戦闘団の元へ送られており、アイリスはミリアリアと隣り合わせで座りながら送られてくる映像と彼我の状況が記された地図の魔画像を注視していた。

「……あっさり出てきたわね、しかもほぼ全力でろくに状況も把握しないまま」

アイリスは出撃した傭兵捜索集団本隊の様子を見ながら不敵な笑みと共に呟き、その後に物資を満載した荷馬車が置かれた野営地の様子が映された魔画像に目をやりながら言葉を続けた。

「……この様子ならあの物資も頂戴出来そうね、予備隊に装甲火蜥蜴隊、使役獣の地炎龍、硫黄龍、吸血球獣を加えた部隊で野営地を襲撃させましょう、指揮官はリリアーナでヴァイスブルク伯国亡命政権とリステバルス皇国亡命政権からも人員を派遣して貰うわ」

「……そうだな、ならばフィリアス戦闘団には獣人どもを蹴散らした後はその場に待機して予備隊になって貰う様にすればいいのでは無いか?」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは地図の魔画像を見ながら出撃する予備隊の代わりに残敵掃討中のフィリアス戦闘団を予備隊とするよう意見し、アイリスが頷く事でその意見に同意した後にダンジョンとの連絡を始めるのを静かに見詰めた。

アイリスがダンジョンに残るマリーカやアイリーンと会話を進める度に傭兵達に対する攻撃態勢が刻々と整えられていくのが実感され、その光景を見詰めるミリアリアの脳裏に1ヶ月前の自分達の姿が浮かび上がった。

1ヶ月前のミリアリア達は落城寸前のヴァイスブルク城にて行き着く先が分かりきった状態での絶望的な抗戦を余儀無くされており、その時の事を思い出したミリアリアはあの頃に比較すると劇的と言える程に変化した状況に感慨を抱きながら状況を激変させた原因であるアイリスを改めて見詰めた。

(……あ、アイリスは私を追手から護る、た、ただ、それだけの為にこの状況を作ってしまった)

アイリスを見詰めるミリアリアが初めてアイリスと出逢った時の事を思い出して頬を赤らめていると、アイリスはダンジョンとの通信を終えてミリアリアの方に向き直り、思わず身を固くさせたミリアリアに対して穏やかな表情で口を開いた。

「話がついたわ、ヴァイスブルク伯国亡命政権からリーナ、アリーシャ、ライナの3名が、リステバルス皇国亡命政権からはクラリス、リーアン、アークティアの3名がそれぞれ派遣される事になったわ、部隊名はリリアーナ戦闘団、あたし達の攻撃開始と同時に進撃を始めて日付の代わる前後に野営地に対する襲撃を実施する予定よ」

アイリスの言葉を受けたミリアリアは頷いた後にアイリスへの感謝を述べる為に口を開きかけたが、アイリスはそれを制する様に人指し指の指先をミリアリアの唇に押し当てた。

「……ッ」

「……フフッ、あたしは目覚めた魔王として好き勝手にやっているだけよ、だからミリアは気にしなくて良いのよ」

ミリアリアが唇に押し当てられたアイリスのしなやかな指先の感覚に頬を赤らめて口ごもっているとアイリスが仄かに頬を染めながら悪戯っぽい口調で告げ、その後にミリアリアに寄り添うと艶の含んだ声で囁きかけた。

「……でも、それでもミリアが感謝してくれるなら……ギュッて、してくれる?」

「……ッ」

アイリスの囁きを受けたミリアリアは笹穂耳まで真っ赤にさせながらも頷くとぎこちない手付きでアイリスの背中に手を廻してその身体を抱き締め、アイリスは嬉しそうに微笑むと自分の身体を抱き締めるミリアリアの腕と押し当てた指先から感じるミリアリアの唇の感触を噛み締めながら襲撃態勢を整え始めた。

アイリスは接近してくる傭兵捜索集団本隊の進路上に足止め用のワイト中隊を配置し、足止めされた傭兵隊を挟撃する形でスケルトン2個大隊を配置した後に骸骨軽騎兵隊とジンベルヴォルフ及び魔狼集団にクーリア率いる女戦士傭兵隊を加えた強襲隊を編成してクーリアを指揮官に任じ、喜色を露にその任を受けたクーリアにブラッディスケアクロウが収められたカプセルを手渡しながら言葉を続けた。

「ワイト部隊が戦闘を始めたらこの子と一緒に後方から傭兵達の背後を襲撃して頂戴、それに連動する形でスケルトン部隊と狂機獣で襲撃するわ派手に暴れて連中を引っ掻き廻して頂戴」

「お任せ下さいアイリス様、我等女戦士の槍働き存分に御見せ致します」

アイリスの指示を受けたクーリアはカプセルを押し頂くと力強く宣言した後にユーティリアや女戦士達と共に配置に向けて前進し、アイリスはそれを見送った後に後方で若干顔を赤らめさせながら控えているミスティア、ティリアーナ、イストリア、メルクリアスに声をかける。

「あたし達は予備隊のボーンマジシャン隊と第二死霊連隊のスケルトン大隊と一緒にワイト部隊の支援を行うわ、女戦士達が襲撃を開始したら狂機獣を先頭に突撃を敢行するからそのつもりでいなさい」

「「ハイッ!!」」

アイリスの指示を受けたミスティア達はミリアリアに抱き締められたアイリスの姿に頬を赤らめながらも力強く返答し、アイリスは頷いた後にミスティア達に配置につく様命じると名残惜しげにミリアリアの唇から指先を離しつつ真っ赤な顔のミリアリアに声をかけた。

「……あたし達も行きましょう」

「……あ、ああ、そうだな」

アイリスに声をかけられたミリアリアが掠れ気味の言葉で応じるとアイリスは頷いた後に頬を赤らめながらミリアリアにもたれかかり、それを目にしたミリアリアは真っ赤な顔で頷いた後にアイリスの身体を抱え上げた。

ミリアリアに抱え上げられたアイリスは頬をあからめながらも甘える様にミリアリアの胸元にもたれかかり、ミリアリアは真っ赤になりながらアイリスを抱えて待機場所に向けて歩き始めた。


ダンジョン・マスタールーム階層・貴賓室


アイリス戦闘団だ血気に逸り出撃した傭兵捜索集団本隊の迎撃態勢を整え終えた頃、手薄となった野営地とそこに集積された物資を目標に編成されたリリアーナ戦闘団に所属する者達が出撃準備を整えており、準備を終えたクラリスは貴賓室のアイリーンの下を訪れていた。

「……アイリーン様、行ってまいります」

「……お行きなさいクラリス、我等の勝利と貴女の武運と無事を祈っておりますわ」

クラリスから出撃前の挨拶を受けたアイリーンは穏やかな眼差しでクラリスを見詰めながら激励の言葉を述べ、クラリスが頷く事で応じるとゆっくりとクラリスに近寄り始めた。

「……あ、アイリーン様?」

「……動いてはいけませんわ、クラリス」

クラリスはアイリーンの行動に戸惑いの声をあげたが、アイリーンは穏やかながらも確固たる口調で応じ、その言葉に動きを止められたクラリスが目の前に迫って来るアイリーンの美貌に頬を赤らめているとクラリスの目の前に到達したアイリーンが足を止めた後にゆっくりと右手を掲げ始めた。

掲げられたアイリーンの手は仄かに赤らんだクラリスの頬に優しく添えられ、クラリスが頬に当たるアイリーンの指先の感覚に更に頬を赤らめさせていると触れた指先からクラリスの温もりを感じ取ったアイリーンも仄かに頬を染めながら言葉を続ける。

「……必ず帰って来なさいクラリス、命令ですわ」

「……承知しました、アイリーン様」

アイリーンの微かに艶が入った言葉を受けたクラリスは心臓を早鐘の様に脈動させながら応じつつ躊躇いがちに左手を掲げて自分の頬に添えられたアイリーンの右手にぎちなく、けれども優しく重ね、それから暫しの間2人は互いをしっかりと、そして愛しげに見詰め合った。

「……行って参りますアイリーン様」

「……お行きなさい、クラリス」

暫し見詰め合った後にクラリスはアイリーンに声をかけ、アイリーンが穏やかな声色で応じた後に名残惜しげにクラリスの頬から手を離すと深く一礼した後に踵を返して貴賓室から退室した。

貴賓室を退室したクラリスが集合場所である多目的ルームに到着すると其処には既に指揮官のリリアーナが到着しており、リリアーナは到着したクラリスに向けて微笑みかけながら口を開いた。

「……準備は良いの、クラリス?」

「……はい、大丈夫です、姉上」

リリアーナの言葉を受けたクラリスは穏やかな表情と口調で応じ、リリアーナが微笑みながら頷いていると装具を整えたリーナ、アリーシャ、ライナが到着し、その数瞬後にリーアンとアークティアも到着して出撃する者達が集合を終えた。

「……皆さん、準備は宜しいですね」

全員が集合した事を確認したリリアーナは皆を見渡しながら最終確認の問いかけを行い、クラリス達が頷く事で応じたのを確認すると転位魔法を使ってリリアーナ戦闘団の集結地に向けて出立した。


リリアーナ戦闘団集結地


リリアーナ達が転位魔法で集結地に到着すると、既にアイリスの転位魔法によって転位されていたクノーベルスドルフが到着したリリアーナ達を出迎えた。

……リリアーナ様、スケルトン2個大隊、ボーンビショップ2個中隊、ボーンマジシャン1個中隊、装甲火蜥蜴14体展開ヲ完了致シマシタ、命令ガアリ次第何時デモ出撃可能デス……

「……分かりました、出撃命令が出るまで現在地にて待機して下さい」

……御意……

クノーベルスドルフから部隊の展開が完了した事を告げられたリリアーナが待機を命じるとクノーベルスドルフは叩頭して応じた後にリリアーナ達の前を辞し、ライナはそのやり取りを見た後に周囲に拡がる森に視線を巡らせた。

暗い木々の合間には闇に紛れ込む様にして多数のスケルトンが佇んでおり、それを確認したライナが改めてアイリスの規格外の能力に嘆息していると同じ様に周囲に視線を巡らせていたリーナとアリーシャが同じ様に嘆息しながら口を開いた。

「……今更だけどアイリス様の力を実感するわねえ」

「……そうねえ、私達が助けて頂いてもうすぐ一月になるけど、驚かされ通しね」

リーナとアリーシャの呟きを聞いたライナの脳裏に捕らえられロジナ候国の将兵達に嬲り尽くされた自分達の事が頭に過り、ライナは思わず唇を噛み締めた。

(……あの時の私は無力だった、リーナもアリーシャも護れず絶望の中で溺れかけていた、アイリス様はそんな私達を救って下さった)

「……リーナ、アリーシャ、これからも共に戦っていこう、アイリス様にほんの僅かでも御恩を返せる様に」

ライナは自分達を絶望の中から救ってくれたアイリスへの感謝を改めて噛み締めた後にリーナとアリーシャに声をかけ、それを受けたリーナとアリーシャは大きく頷いた後にライナに近付き、リーナがライナの右手を、アリーシャがライナの左手を握り締めた。

「り、リーナ?アリー……シャ?」

「勿論戦うわ、ライナ、でも無茶はしないで、もう見たくないのあたし達の為にライナが壊されちゃう姿を、あたしやアリーシャだってライナの事護りたいんだから」

「……リーナちゃんの言う通りだよ、ライナちゃん、3人一緒に戦って行こう、今度は私やリーナちゃんもライナちゃんを護るからね」

突然のリーナとアリーシャの行動に戸惑いの声をあげているとリーナとアリーシャが愛しげにライナを見詰めながら声をかけ、それに込められた2人の想いを感じ取ったライナが頬を赤らめながら頷いているとリリアーナが使役獣の収められた3つのカプセルを投じた。

リリアーナの投じた3つのカプセルが眩い閃光と共に爆ぜると地炎龍、硫黄龍、無数の吸血球に分裂した状態の吸血球獣が姿を現し、それを目にしたライナ達が慌てて身構えているとリリアーナが微笑みながら声をかけてきた。

「……安心して下さい、あの子達には地下から野営地を襲撃して貰うつもりで呼び出したんです、地炎龍と硫黄龍に地下を掘り進んで貰い、野営地に攻撃をかけるタイミングに合わせて分裂した吸血球獣と一緒に地下から強襲して貰う予定です」

リリアーナの言葉を受けたライナ達は得心の表情で頷いていると地炎龍と硫黄龍が凄まじい勢いで地面を掘り始め、リーアンとアークティアは半ば呆気に取られた表情で目の前に繰り広げられる光景を見詰めていた。

「……何て言うか……深く考えるのが馬鹿馬鹿しくなる様な光景よね」

「……そうね……私達も早く馴れなきゃ駄目ね」

リーアンとアークティアは呆れと驚きがない交ぜになった複雑な表情で言葉を交わし、それから暫しの間を置いた後にリーアンがアークティアの手を躊躇いがちに握った。

「……リーアン?」

「……正直状況についていききれて無い時もあるけど、でも、また、あんたと戦える事については……う、嬉しく思ってるんだからね」

アークティアがリーアンの行動に戸惑いの声をあげているとリーアンが明後日の方向を見ながら告げ、その口調とは裏腹に狐耳や尻尾が揺れている様を目にしたアークティアは愛しげに目を細めた後に、リーアンの指先に自分の指先を絡ませながら言葉を返す。

「……ありがとうリーアン、私も嬉しい、また、リーアンと一緒に戦えて」

「……べ、別にあんたに感謝して貰いたくて言った訳じゃ無いわよ……い、言った訳じゃ無いけど……で、でも、そ、その、あ、ありがと」

アークティアの言葉を受けたリーアンが真っ赤な顔で狐耳と尻尾を嬉しそうに動かしながら応じていると地面を掘り進む地炎龍と硫黄龍の姿が消えて穿たれた穴に分裂した吸血球獣が進入し、それを確認したリリアーナがアイリスに部隊の状況を報告した事により魔王軍の展開が完了した。



獣人傭兵隊からもたらされた悲鳴の様な救援要請を受けたスコットは部下の不甲斐なさに怒声を張上げながら短兵急に捜索集団本隊に救援を命じると留守部隊を残して慌ただしく出撃し、それを確認したアイリスは突出した傭兵捜索集団本隊と手薄になった野営地の双方を叩くべく部隊を展開させた……


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