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プロローグ

作者の趣味と欲望てんこ盛りの作品になります、閲覧は自己責任でお願いします。

大陸歴438年霧の月七日・ヴァイスブルクの森


大陸歴438年霧の月七日、一つの国が地図と歴史から消え去った。

その国の名はヴァイスブルク伯国、神聖ラインラント君主連邦帝国に所属する三百余りの君主国の中の一つであり、森の住民で魔法と弓の扱いに長けた種族であるエルフの国である。

広大な森の中に設けられた城ヴァイスブルク城を中心に拡がる木々と同化した町ヴァイスブルクと周辺の中小の町や村によって構成されていた小国は帝国歴438年桜の月、帝国を形成する君主国の中でも特に力を持ち、帝国を統率する皇帝を選出する為の皇帝会議に出席し、賛否の意見を述べる事が出来る七つの国、七選帝候国の一つであるロジナ候国から突然の侵攻を受けた。

ヴァイスブルク伯国を護るエルフを中心とした将兵は寝耳に水の事態ではあったものの懸命の防戦に励み、庭と知り尽くした森での得意とする魔法と弓による抵抗を続けたが雪崩れ込む大軍の前に防衛線はジリジリと下がり続け、侵攻開始から二ヶ月が経過した霧の月七日、ヴァイスブルク城の陥落をもってヴァイスブルク伯国は滅び去り、国主であるヴァイスブルク伯爵は雪崩れ込んだロジナ候国軍の刃の下で物言わぬ骸となった。

ロジナ候国は占領した旧ヴァイスブルク伯国に大軍を配置すると侵攻の手引きをしたヴァイスブルク伯爵の甥を傀儡にした占領地統治に入ると同時に激しい抵抗を行ったヴァイスブルク伯軍の残党狩りを始めた。

捕らえられ無惨な最期を強要されるヴァイスブルク旧ヴァイスブルク伯国軍の残党の兵達だったが、その中でも殊更に凄惨な目にあったのはエルフの女士官や女兵士達であった滑らかな陶磁器の様な白い肌に金糸や絹糸と見紛う程に美しい金髪や銀髪に宝石や水晶とも称される蒼や碧、紫の瞳、彼女達の美貌は周辺国はおろか大陸にすら知れわたる程の物であり、残党狩りに参加したロジナ候国軍や傭兵隊は残党として捕らえた彼女達に襲いかかった。

女士官や特に見目麗しい女兵士達を捕虜(と言う名目で)上官達に渡した彼等は残る女兵士達に牙を剥いて襲いかかり、激しい凌辱にさらされた彼女達の泣き叫ぶ声が森やヴァイスブルク城(捕虜となった女士官や女兵士は其処に連行され残された女兵士達と同じ様な目にあっていた)の其処彼処で哀しく木霊し続けていた。

凄惨な凌辱に泣き叫ぶエルフ達の哀しい木霊と絶望的な抵抗をはかる残党と残党狩りによって起こされる散髪的な干戈の音が響く森の奥には惨劇を何とか潜り抜けて再起を期する一握りの残党が散り散りに存在しており、その中の一人ヴァイスブルク伯軍第三騎士団長ミリアリア・フォン・ヴラウワルトは戦いに疲れた身体を木陰に潜めていた。

エメラルドグリーンに塗装されたライトアーマに包まれたメリハリのきいた肢体とポニーテールに纏められた銀糸の髪に淡い煌めきを放つ蒼水晶の瞳の美貌と卓越した魔法と戦闘技術からヴァイスブルクの蒼き風と呼ばれていた彼女だったが、激しい攻防戦とその後の逃避行による疲労が全身を蝕んでおり、身を潜めた彼女はその疲労感に顔をしかめながら立ち上がると水の入った皮袋の先端を口に入れて生温い水を一口喉に流し込んだ。

僅か一口だけで生温い水ではあったがそれは疲労した身体に染み込み、ミリアリアは小さく息を吐いた後に森の奥へと更に進み始めた。

微かに聞こえていた干戈の響きは何時しか後方に消え去り、それに気付いたミリアリアは些か焦眉を緩めさせたが、緊張が緩んだ為に身体を蝕む疲労感を自覚させられ僅かに緩んだ眉が今度は疲労によってしかめさせられてしまった。

疲労感に蝕まれる身体を叱咤しながら孤独な逃避行を続けるミリアリア、彼女が孤独な歩みを延々と続けているとその目の前に洞窟の入口が姿を現し、それを確認したミリアリアは木陰に身を潜めながらその様子を窺ったが、洞窟からは人や動物の気配は一才感じられ無かった。

「……風穴の類いか?」

ミリアリアが訝しげな表情で呟いているとその頬に雨粒が落ち、それに気付いたミリアリアが顔を上空に向けると鬱蒼と繁る木の葉の間から大粒の雨粒が降り注ぎ始め、ミリアリアは降り注ぐ雨粒を浴びながら自嘲の笑みを浮かべた。

「……お似合いだな、何も護れなかった、敗残兵の私には」

ミリアリアはそう呟いた後に立ち上がり、降り注ぐ雨粒に濡れながら言葉を続けた。

「雨露程度なら凌げるだろう、もしも盗賊や魔獣の住処だとしても、私のみすぼらしい末路にはかえって相応しいな」

自嘲と自暴が入り交じった呟きをもらしたミリアリアは些か覚束無い足取りで洞窟の入口に向かい、やがて彼女の姿は洞窟の中に消えた。

ミリアリアが洞窟に入って暫くするとロジナ侯国軍が森の奥に逃げ込んだ残党狩りの為に大量に解き放った魔狼の一部がミリアリアの匂いを辿って姿を現したが追跡していた筈のミリアリアの匂いは忽然と消失しており、魔狼達は戸惑った様に周囲を見渡しがミリアリアが入った筈の洞窟の入口はなく魔狼達は鬱蒼と繁る木々の様子を暫く窺った後に諦めて走り去って行った。



これから始まるのは二人の女性が紡ぐ物語、国を喪ったエルフの女兵士と永き眠りから目覚めた美しき女魔王、そんな二人が共に進んで行く物語……

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