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私は職場である、町の食堂に足を運びました。
ここでのお仕事は、今までで一番長く続いたし、クビではなく自分から辞めるのは心苦しいですが仕方ありません。店長は残念そうに、
「セシルちゃん、折角慣れてきて、お客さんの評判もいいのに、残念だなあ。でもよく働いてくれてありがとうよ」
とお給料に心づけまで下さいました。私は深く感謝し、やるべき事が終わったらまた雇って頂けますか? と尋ね、店長はにっと笑って、もちろん、セシルちゃんならいつだって歓迎だよ! と言って下さいました。本当にありがたい事です。
次に私は、お仕事の斡旋場へ足を運びました。
今まで、お針子、洗濯女、食堂の皿洗いからお給仕まで、色々なお仕事をしましたが、どれもが、下町に来て最初に親切にしてくれたここの親父さんの紹介です。
住む部屋を借りるという事、職を探すという事すら知らず、宿屋でぼーっとしているうちに、あっという間に所持金も底を尽き、宿屋を追い出されて行き倒れていた所を助けて頂きました。
けれど折角紹介して下さるお仕事も、最初は中々続きませんでした。町の常識というものを知らなかった私は、やたら言い寄って来るお客さんや店主に「無礼者!」と平手打ちしたりと……まあ色々やらかしてしまった訳です。その度に親父さんがお店に謝りを入れて私を引き取ってくれて……おかみさんもとても良い方で、本当に私は運が良かったと思います。
「おう、セシルちゃん、久しぶりじゃねぇか。また、食堂で酔客に尻触られて水ぶっかけてクビになったのかい?」
「違います。今の職場はとても良い環境だったのですが、やりたい事が出来たので、お詫びを言って辞めてきたのです」
「やりたい事?」
私は壁中に貼り付けられた募集中のお仕事の一枚を指差しました。
「あ~。あそこかい。セシルちゃんも噂好きなんだねぇ。だけど、あそこの仕事はきついって言うぜ? しょっちゅう辞めるやつが出るから、いつも下働きを募集してるんだ」
「きつくても構いません。紹介状を頂けますか」
「勿論、セシルちゃんみたいによく気の付く子なら、きっと周りから気に入られるよ! あっ、でも女主人様は、綺麗な女の子は苛めるらしいから、気を付けた方がいいぜ」
「……まあ、未来の王妃さまの事をそんな風に言って、憲兵の耳にでも入ったら大変ですよ」
そうです。私はエリスの館に下働きとして潜入する事にしたのです。あの女も今やバカ王子に立派なお屋敷を与えられ、その女主人。だけど、良くない噂がこんな下町にまで入って来るのです。近くで見張っていれば、何かボロを出すに決まっています。
そんな訳で私は気の良い斡旋所の親父さんに紹介状を書いて貰い、あっさりエリスの館に潜り込む事に成功しました。何しろ、未来の王妃様のお屋敷ですから、誰にでも書いてくれる訳ではありません。みんなの相談役として町でも一目置かれている親父さんのお眼鏡に敵えるくらいに、私も町人として馴染み、お仕事をこなせるよう頑張ってきたからこそだと思います。でも親父さんが助けてくれなければ、そもそも今の私は行き倒れて死んでいたかも知れないのですから、本当に感謝です。