表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

はちゃめちゃ

「くるみって美味しそうな名前だね」

付き合って、最初のデートのときに神木先輩に言われた。なんでかわかんないけど、そのとき私はとても温かい気持ちになった。でも、私はナッツ系があまり好きじゃないから正直嫌なんですよ。

「そうですね」

でも、名前を褒めてもらったことが、先輩から話を振ってくれたことが嬉しくて、思ってもいないことを言った。

「心配しないで。大丈夫、食べないから」

私は神木先輩の言葉に本気で笑って、心から幸せだと感じた。隣を見れば、先輩も笑っている。凄く、清潔な笑顔だ。それを感じると、くるみという自分の名前がこの上なく大切に思えるから不思議だ。

スマホからsalyuが流れ、LINEがきたと教えてくれる。開くと咲希からだった。

今何してる?

誘いの連絡だったのだろう。私は少しの優越感を感じてしまった。

神木先輩と初デート!

と返す。幸せ真っ最中‼︎、と付け足して打とうとしたが、やめた。咲希が可哀想だ、と思ったからだ。

「salyu好きなの?」

先輩が気になったように訊く。さっきの着メロのことを言っているんだろう。

「はい。でもマイナーってよく友達に言われます」

「そんなことないよ。リリィ・シュシュのすべてって映画見たことある?」

リリィ・シュシュのすべて。

「何ですか?その映画」

初めて聞いた。salyuと何か関係してるのだろうか。

「ちょっと昔にやってたんだけど、岩井俊二監督の、中学生が主人公の映画。リリィ・シュシュっていうのは歌手グループの名前で、映画に出てくるんだ。それで、なんとリリィの役をsalyuがしてるんだぜ!実際に歌ってる。俺、劇中に使われてる楽曲全部好きなんだ」

先輩は夢中で話す。なんだか微笑ましい気持ちになってくる。本当にその映画が好きなんだろうな、ということが伝わってくる。

「そうなんですか。聴いてみたいです」

どんな曲だろう。結構本気で気になる。

「あっごめん。俺ばっかしゃべってて。引いた?」

先輩は恥ずかしそうに赤面した。先輩が意外と天然で驚く。そこがおもしろくて、前よりもっと、好きだと思った。

「引いてないですよ。気になります」

「本当?良かった」

心からほっとするように先輩は言って、曲の説明をしてくれて、打ち解けた感じがして、良い感じのムードになって、手を繋いで散歩して、映画を見て、帰りの時間になったからまた会おうねって約束して、ああ、なんでこんなに覚えてるんだろう。あのときの状況とか、どんな気持ちになったかとか、今でも鮮明に思い出せる。だからこそ、今がつらい。リア充に戻りたい。そんなこと思うの、どう考えても自分勝手だし、悪かったのは自分だし、普通に生活していくしかこの先の方法は無いんだろうな、と思ってしまうから尚更悲しい。


ブチッ、と切れてしまう私の生活。記憶に残ることなんて、ほとんどない。いろんなエピソードがあるはずなのに切れ切れにしか思い出せない。

バッ、っと目の前にseventeenが広げられる。

「くっるみー!この服可愛くない?」

咲希が指さしているのは、この冬必見カジュワルコーデ!と書かれている、いかにも咲希らしいピンクの服だ。

「こっちのほうが良いな」

私はそう言って、シックな清楚系コーデと書かれている白いカーディガンを指さした。

「えーっ、絶対こっちのほうが可愛いよ」

咲希は不満気にさっき指さしたピンクの服を推す。私はそれには答えず、

「三吉彩花可愛い」

と言った。色白美人で本当に憧れる。紙面上では済ました顔をしている。

「ああ、大人っぽいよねー。20歳には見えない」

褒めてるのか貶してるのか、わからないように咲希は言う。

「うち、広瀬すずきらーい。なんかウザーい」

そう?別にかわいいと思うけどな。

だけど思ったのは、咲希はなんかウザーい、という意見でこれまでも人をいっぱい嫌ってきたな、ということだ。具体的な理由はないのに、見た目とか、咲希独自の判断ですぐに人を拒絶する。

「期末テストも終わったことだし、放課後駅ビル行かない?」

「いいよー」

暇だし。JKの日常って感じがする。

「最近楽しすぎて怖いわ。翔悟と付き合えれば、もっと充実するんかな」

ほのぼのと、でもちゃんと私に聞かせようと咲希は言った。私は耳を疑う。楽しすぎて怖いだと?何だよ、それ。

咲希は何が楽しいんだろう。友達をハブって楽しい。人の悪口を言って楽しい。嫌なことしか浮かばない。結局、嫌なやつになってるのは私なんだと思う。今、咲希の発言にイラッとした。完全に咲希に嫉妬してる。なぜか胸のうちから何とも言えない濁った気持ちが湧いてきて、私の体はもやもやで埋めつくされる。どうして咲希がエンジョイしてて、私がつまんない生活送ってるの?楽しいと感じるなんてムカつく、と思う。

「幸せで良かったですね。咲希さん」

少し皮肉っぽく言ってやった。すると、咲希は笑う。

「くるみはどう?やっぱ先輩と別れて寂しい?」

「うっざ。咲希さん、いい加減にしましょうね」

これ以上何も言うな、と思う。だけどそこで言ってしまうのが咲希だ。

「だってー。咲希はね、ヨリ戻すべきだと思うよ!くるみ最近元気ないし、咲希から言ってあげよっか?」

もうちょっとでハラワタ煮えくりかえりそう。はあー、鈍感で自尊心高すぎ。うんざりする。バカじゃないの?

「咲希さん!さすがの私もキレるよ」

もうキレてるけど。

「ごめ〜ん。でも、咲希はくるみのこと心配してるんだよ。最近元気ないしさー。神木先輩と別れたことが原因なら絶対ヨリ戻したほうが良いと思ってさ」

あー、私はこの子に心配されてるのか。落ちたもんだな、私も。

おっと、心の中で毒づくの止めよ。あー、でも止められないな。最近は咲希の嫌なところしか見えなくなってる気がする。ちょっと前まではそこまで悪い子じゃない、って思ってたはずなのに。

「くるみは神木先輩が嫌いになったの?」

「咲希しつこい。関係ないでしょ」

咲希と一緒にいるとイライラする。

「ごめん。うるさかった?」

「もういいよ。で、駅ビル何時頃行く?」

「四時半は?咲希はくるみに合わせるよ」

「わかった」

それでも離れられないんだよ、私は。

価値観が狭くて、自分とは違った意見の人を差別してすぐに人を見下し、性格が最悪と噂されてる咲希。去年のクラスでつるんでたサオリと瑠璃には何度も心配された。


咲希と一緒にいるとストレス溜まんない?

くるみはもっと、はっちゃけられる友達とつるむべきだよ。

咲希って自己中じゃん?もうくるみ、我慢の限界だと思うよ。

はっきり言って、咲希のこと嫌いなんだよね。くるみはどう思う?

くるみは人気物なんだから、別のグループ混ざっても仲良くやれるよ。


きっとサオリと瑠璃は、私が日頃から毒づいてることを知らないだろう。気がかりに思ってくれてるのは嬉しいけど、余計なお世話だと思ってることを知らないだろう。よく二人は、くるみは性格が良いし、ノリが良いから完璧だ、と言ってくれるけど、本当の私は全くそんなんじゃない。

咲希と離れなれない理由は、そこだと思う。咲希のことは心底からムカつくけど、可哀想な子だと思う。価値観が狭くて、自分とは違った意見の人を差別してすぐに人を見下す咲希は、戦場のような毎日を送ってる私と同じくらい悲しいと思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ