クラス
ホームルームが始まる十分前にオレのクラスである2-Bの教室に入った。
すでに、ほぼ全員学校にいるみたいだ。
オレはこのクラスに馴染んでいないので、とくに挨拶をする友人がいない。
とくに挨拶もせずに自分の席に座る。
「おはよう、橘くん」
クラス委員長である隣席の女子が話しかけてきた。
名前は……なんだっけ? 言葉に詰まる。
「また名前忘れたの?佐々木よ佐々木」
「ああ、佐々木さん。おはよう」
「いい加減名前覚えなさいよ」
彼女が、あきれたように言う。
人の名前を覚えるのは苦手だ。
彼女はクラスで唯一よく話しかけてくるクラスメイトだ。
責任感が強いのだろう、クラスに馴染んでいないオレを気にかけてくれる。
彼女はクラスの人気者でリーダーだ。
オレ一人に神経を割かせるのは申し訳なく感じる。
何人かの男子が睨んでくる。
まあ、そういうことなんだろうな。
青春だなぁと勝手ながら思う。
正直このクラスは、いいクラスだと思う、特にいじめもなく平和だ。
彼女の人格がこの雰囲気を形成させる要因の一つだと思う。
オレは、馴染めてないけど。
「今日こそはクラスメイトとお昼を食べなさいよ」
不吉な言葉が聞こえた気がしたので聞き流すことにしよう。
いいタイミングでチャイムが鳴り、担任が入室してきた。
「わかったわね」
そう言い放ち、彼女は自分の席に着いた。
めんどくさいな、今日もあそこに逃げるか。
このクラス、2-Bの担任である、植原先生は女性の先生だ。
相変わらず、恐ろしいほど強い眼光である。
絶対に目を合わせたくない。
そう思ってしまうほど強いものだ。
彼女の異名は六徳の女帝である。
美人だが、性格は苛烈の一言だ。
まさに女帝の異名を持つにふさわしい人格だと思う。
一年の頃、クラスの不良グループの人間が彼女の授業を妨害したことがあった。
おぞましい目に合ったらしい。教室に戻ってきた彼は顔面蒼白で生気がまったく感じれなくなっており、しばらく、彼は学校に来なかった。
久しぶりに来た時、髪を坊主にして別人のように真面目になっていたのを思い出す。
なにをされたんだ……
先生への恐怖でこのクラスはめったに遅刻者がでない、いいことなのだろうか。
一度、遅刻した生徒を怒っているところを目撃したが、思い出したくもない……
このクラスが平和なのは彼女の恐怖政治が最大の理由かもしれない。
ちなみに先生は女子に人気が高く、男子の一部には熱狂的ファンがいるようだ。
まあ、いわゆるドMな奴らだろうな。
先生が出席を取る。
いつもの光景で、今日は誰も休んではいないみたいだ。
そういえば、そろそろテスト週間だった。
おそらく、全校規模で休みは少ないのだろう。
テストは……赤点を取らなければいいか。
今日は実習系の授業はない、いいことだ。
自分で何かを創作するのは苦手だ。
実習系科目でいい成績を取った試しがない。
今日も一日が始まる。
なんでもない一日だ。