第三章 始動
第三章 始動
「ごめんなさい、今日はちょっと用事があるから先に帰るね」
「また?最近どこに行ってるのさ。たまには部室に顔を出しなよ」
公立高校のとある部室の前で二人の女子生徒が話をしている。
優等生のようで伏せ目がちなこの少女は『桔梗綾乃』。地元財閥の令嬢にして成績は常にトップクラス、優等生を絵に描いたらこの子のようになると言ってもいいほど。もっといい高校にも行けるのになぜこの公立高校に在籍しているのか疑問の声があるところ。しかし、その答えは相対している少女。
黄色いリボンのポニーテールにスラリと伸びた脚、少し上がった目じりがその気の強さを物語っているこの少女は『御子柴明日香』。荒れた中学時代を送っていたが、ふとしたことから進学を目指して綾乃に勉強を教わる。その代わり、綾乃は明日香にファッションや流行などを教わっていたので、お互いにギブアントテイクの関係を築き、そのまま親友となり同じ高校へと進んだ。
二人とも同じ文芸部に所属していたが、最近になって綾乃がさっさと帰ってしまうことが多くなっていた。それを明日香は不審に思っていたところ、またいつもと同じように帰ろうとするので、
「今日は付いていくよ。別に人に話せないようなことしてる訳じゃないんだろ?」
すると綾乃は少し恥ずかしそうに、
「…わ、分かった。いいよ」
と、渋々明日香の申し出を承諾した。
数分後、二人は〝クレスト〟の前にいた。
綾乃は店の前で足を止めた。明日香は、
「ここ?カフェじゃん」
「うん。ここで本を読んでるの」
「本を?別に部室で読めばいいじゃん」
訝しがる明日香をよそに、綾乃は扉を開ける。
「いらっしゃいませ…あ、桔梗。いつもの席空いてるよ」
輝が案内をする。綾乃は少し俯いてそれに従うが、その頬はほんのり朱に染まっていた。
それを見逃さない明日香は、
(はっはーん。綾乃ってば、そういうことね)
と、密かに納得しつつ誘導に従い席に座る。
輝がお水を持ってテーブルへ来ると、
「桔梗、いつものでいい?そちらのお友達は…」
綾乃は小さく頷く。明日香はメニューを見ながら、
「ん。じゃ私はレモンティーお願い」
輝がメニューを持って退散するころには綾乃は文庫本に目を落としていた。
しかし、未だ朱に染まった綾乃を見ると明日香は、
「…ふーん。そういうことか。綾乃ってば、大人しそうなフリをして行動的なんだから」
綾乃は本に目を落としてはいるが、全くページが進んでいない。そんなことにはお構いなしに明日香は、
「もしかして、最近FPSなんて始めたのは…この彼の影響?」
すると綾乃は『ビクッ』と反応し、その顔は真っ赤になってしまった。
それを見た明日香は、
「おいおい、図星?全く分かりやすいね、綾乃は!」
と、抱き寄せて顔を摺り寄せた。そしてそのまま小声で、
「…で?もう告ったのか?んん?」
すると綾乃は飛び退くように、
「そ、そ、そ、そんなこと、してません!」
周囲の視線が一斉に綾乃に注がれる。そうでなくても『メルダ効果』で男性客が多くなっているので、その視線が綾乃に刺さるのは本人も非常につらい。
小声で「ごめんなさい」と言うと、そのまま席に沈み込む綾乃。それをニヤニヤしながら見守っている明日香。そこに輝が飲み物を持ってきた。
「桔梗はミルクティのミルク多め、こちらはレモンティお待たせしました」
すると明日香は、
「明日香。御子柴明日香だよ。綾乃の友達」
輝は少し驚いたように、
「明日香さんね。同じ高校だよね?桔梗と同じクラス?」
「ああ、A組だよ。キミは?」
「俺?俺は二階堂輝、C組だ。あ、そうだ桔梗さ、最近FPS始めたって言ってたよな?」
綾乃は少し顔を上げて、
「うん。まだまだ下手っぴだけど」
「最新型のFPSが楽しめるんだけど、よかったら後でどう?ここの上なんだけど」
と言って輝は上を指さす。綾乃は、
「最新型…?うん。やってみたいな」
「よし、じゃ、一息ついたら声かけて。案内するから」
そういって輝は別のテーブルに走って行った。綾乃がその様子を目で追うと、自分と同じくらいの可愛らしいメイドさんと話すのが見えた。すかさず明日香が、
「お?綾乃、ライバル発見だね♪」
と、綾乃を煽るのだが、当の綾乃はその言葉も耳に入っていない様子。輝とにこやかに話すメイドを食い入るように見つめていた。
しばらくして二人がお茶を飲み干したころ、輝が二人のもとへやってきた。
「お待たせ。そろそろ行く?」
「うん。いいよ」
と、綾乃が返す言葉に被せるように明日香は、
「私もいっていいかな?」
すると輝は、
「もちろん。俺はまだ手伝えないから、二人でやっててくれると助かる」
「よし。決まり!じゃいこっか!」
そのまま三人は店の三階に上がる。球型コントローラーが五つ並んでいるのを見た明日香は、
「…なにこの玉?」
「そのFPSのコントローラさ。えっと三番と四番を使えって言ってたな。綾乃はここ、御子柴はこっちに入って」
輝はメルダに教わったとおりに操作していく。
「これでよしっと。今日はとりあえずチュートリアルをやってみて、いけそうだったら本格的にやろう」
輝の提案に二人は『うん』と答える。そして輝は、
「それじゃ、俺はまだ仕事あるから頑張ってな」
と、言い残して店に戻っていった。
二人はコントローラから顔だけ出してお互いに頷き、コンソールのスタートボタンを押した。
カフェ営業を終了した〝クレスト〟の三階。マスターは引き続きバーの営業をするためお店に残っているが、輝と翔はバイト終了となって引き上げてきた。
翔がソファに腰を下ろすと目の前にあったモニターの電源を入れる。すると綾乃と明日香のプレイ映像が表示された。
「おお?なんだこれ。もしかしてこれってこのRBSってののプレイ映像?」
翔の声に輝もモニターを覗き込む。
「…そうみたいだな、桔梗と御子柴明日香だったかな、間違いなく二人だ。…ってことは、昨日マスターとメルダもこれを見てたのか」
二人でしばらくモニターを覗き込むと、既にチュートリアルは終了していてフリーで練習をしていた。
昨日のプレイでは輝と翔はお互いに意識しつつも、各個撃破していたがこの二人は違った。元々影の薄い綾乃と快活な明日香、プレイにおいても自然とそれぞれの持ち味を生かして連係プレイをこなしていた。
明日香は初撃を浴びせて敵を引き付けて走り回る。そこへ綾乃が超ロングレンジのピンポイント射撃で五機をたちまち撃破していた。
これを見ていた輝と翔は口をあけて感心していた。
「こりゃすごいねー…完全に役割が決まってて、すごい綺麗なパーティプレイだ」
二人が感心しているとプレイが終了し、綾乃と明日香がコントローラから出てきた。
「ふぃーおつかれ!」
「はぁーつっかれたー」
二人はそのままソファに倒れこんだ。その場にいた翔は、
「おつかれさん!すごく綺麗なプレイだったね」
と、声をかけると明日香は、
「ん?見てたの??ってか、君は?」
「俺は翔、桐生 翔。そこのモニターで見れるみたいなんだ。僕たちもいま知った」
すると明日香は、
「恥っずかしいなー。今日初めてなんだから勘弁してよね」
翔は慌てたように手を上げて、
「とんでもない!二人のプレイを見ててすごく勉強になったよ」
一方、輝の方には自然…を装って綾乃が座っていた。
「お疲れ様。どう?この新作」
輝が声をかけると、
「私、普段あんまり運動しないから、ちょっと疲れたかな」
と、綾乃は自然に受け答えしていた。
「でも、すごいね。あの距離を正確に弱点狙うなんて」
「た、たまたまだよ。まだ全部当たってないし」
綾乃は顔の前で手を振り謙遜すると同時に、自然に話をしていることに気がついた。途端に真っ赤になり下を向いてしまう。
「いや、あの距離で一発でも当たってたらすごいと思うよ」
「…あ、ありがと」
二人のプレイに賛辞を贈っているとメルダまかない飯を持ってきた。
「輝も翔もお疲れ様。まかないどうぞ~」
輝も翔も昨日見ていたので『待ってました』と言わんばかりに飛び付くのだが、初めて見せられた綾乃と明日香は呆然としていた。
思わず明日香は、
「これ、まかないの量じゃないよ…」
この声に同意して綾乃も頷く。メルダは二人の姿を認めると、
「お二人もよかったらどうぞ」
ニッコリとほほ笑みながら声を掛けた。それを見ていた翔は、
「明日香も食べなよ。夕食まだでしょ?これ、美味しいよー?」
目の前で好物の鶏唐揚げをクルクルされて限界の明日香は、
「仕方ないな。加勢するかな!」
と、綾乃とアイコンタクトを交わすと食事に飛び付いた。
育ちざかりの四人を前にしてもメルダの賄いは十分な量だった。
四人は昨日の輝たちのように、お腹を抱えてソファに沈んでいた。
「あーお腹いっぱいだー。にしても、美味しかったー」
と、明日香が独り言のように漏らす。綾乃は無言で頷いた。
「だろー。メルダの料理、かなりいけるだろ」
翔は我がことのように自慢する。後片付けをしながらもメルダは、
「喜んで頂いてなによりです」
皿をカートに乗せ終え、メルダは下階へと降りて行った。
すると思い出したように明日香が、
「そういえば、彼女…メルダさんって何者?カフェにいたときから気にはなっていたんだけど」
この問いには翔が答える。
「なんかマスターの親戚の子らしいよ。ついこの前からココの手伝いにきたんだってさ」
「ふ~ん…」
明らかに明日香は納得していない様子。
確かに仕事の手際といい、料理の腕といい、にわか仕込みとは思えないものがあった。しかし、それ以上の説明を受けていない輝と翔に取ってはそれで納得してもらうしかない。それを遮るように輝は、
「まぁ、とりあえずさ。ココにいる四人がチュートリアルを終えたわけだし。みんなでパーティー組んで初ミッション行かない?」
これにすかさず綾乃が反応した。
「いいですね!行ってみましょう」
明日香は何か納得していない表情を残しながらも、翔と共にこれに従う。
「仕方ないな。一つ腹ごなししよっか!」
明日香は照れ隠しをしながらソファの束縛から逃れた。これを皮切りに、それぞれソファから立ち上がってコントローラに入って行った。
『ブォン…』
RBSの起動音と共にコンソールに明かりが灯る。
画面には〝ファーストミッション〟とある。四人は迷わずそれをタッチする。
すると、モニターにはオープニングムービーと思われる映像が表示された。
西暦5015年10月…太陽系はその寿命を迎え、人類は第二の地球への移住を迫られていた。
地球軍統一本部は近場で17光年の場所に適当な惑星を発見し、その視察へ探査艦隊〝ホープ〟を派遣した。
〝ホープ〟は三隻の宇宙船からなる艦隊で、一隻目は護衛艦、二隻目には移住の可否を調査する学者を乗せた調査船、三隻目は有事の際に母星への連絡をするため連絡船で構成されている。
航行は極めて順調であった。目標の星の大気圏に突入するまでは…。
「ようやく着いたか…」
声の主は軍服のような黒っぽいコートを着た男性。メインモニターに映る青い惑星を見ながら誰ともなく呟いた。
場面は〝ホープ〟の護衛艦ブリッジである。着陸準備に向けて忙しそうにそれぞれの乗組員が準備を進めている。
「艦長!大気圏突入準備完了!いつでもいけます!」
艦長と呼ばれた男性は、二番艦、三番艦の状況を確認し、号令を発した。
「よし。大気圏侵入!すぐさま近くの陸地へ着陸する!」
艦隊は大気圏に侵入すると同時に燃えているかのように真っ赤に色づき惑星へと降下していく。
「大気圏通過まであと五、四…」
ブリッジでのカウントが三に達したとき、『ドォォォン!』とブリッジに大きな揺れが襲った。外的要因による揺れであることは明らかだった。
「カウント終了と同時に被弾状況確認!シールド展開、レーダー索敵開始!メインカメラ映せ!」
艦長は素早く号令を出し、モニターを注視した。
すぐに大気圏を突破し、前方に地球と同じような青空が広がる。眼下に広がる森林や遠くに見える海のようなもの…。それらを確認すると続けざまに艦長の指令が飛ぶ。
「二番艦!すべての物質組成を早急に解析!三番艦は大気圏下の上空で待機!」
するとレーダーを注視していた哨戒長が、
「ミサイル第二派来ます!!は、はやい!」
と、言い終わる前に『ドォォォン!』とブリッジは再び大きな衝撃に襲われた。
「くっ…被弾状況確認!シールドの隙間を狙っているのか?哨戒長!発射場所の特定は?」
「おおよその位置は三時の方向。しかし弾速が早すぎて対応ができません!」
すると機関長から通信が入る。
「こちらメインエンジン!直接被弾!出力低下!これ以上被弾すると高度を保てないぞ!」
艦長は、
「シールド出力を下げろ!衝撃を吸収してくれればいい。哨戒長!次の攻撃で位置を特定しろ!」
その指令が言い終わると同時に、
「ミサイル来ます!場所特定、よし!これで…」
哨戒長が言い終わる前に『ドォォォォォン!!』と凄まじい衝撃が走る。
「何?!ミサイルはまだ…」
と言い終わる前に再びミサイルがシールドに激突する。どうやらミサイル攻撃は複数個所から受けているようであった。艦長は、
「む…これ以上は持たないか。仕方ない、不時着する!総員衝撃に備えよ!」
ちょうどそのとき、二番艦から通信が入る。
「この惑星の組成調査結果はほぼ地球と同じだ!そして当艦も被弾した!不時着する!」
それを聞いた艦長は、
「よし。三番艦!聞こえるか?このまま地球まで引き返し、調査結果を報告し援軍を要請してくれ!」
三番艦はそのまま回頭すると全速力で引き返していった。
「まもなく地表に不時着します!衝撃に備えてください!3・2・1」
操舵主の声で全員が衝撃に備える。その直後、一番艦は激しく揺さぶられ、地表を削り取る形で不時着した。そしてすぐ隣に二番艦が不時着した。
「各員被害状況を確認、五分後に報告。手の空いているものは戦闘装備を持って艦外へ集合
!敵の襲撃に備えよ!」
艦長が号令を発するとモニターはフェードアウトして真っ暗になった。
マスターとメルダは一階のお店でバー営業をしていた。
メルダはその装いを昼間のフリフリメイド姿から、ちょっとセクシーなミニスカメイド姿へと変えていた。
しかし、マスターはどうにも輝たちの様子が気になるようで、メルダに頼んで手元のタブレット端末に状況を表示させて観覧していた。
「なぁ、メルダ。まさかこのムービーって本当にあったことか?その、お前のいたところで」
メルダは小さく頷くと、
「正確には私はこの出来事をデータとして記憶しているだけです。一部ゲームらしく脚色してありますが、概ねこの通りとお考えください。でも、RBSにはこんなムービーはありませんでしたので、さっき私が作りました」
メルダは悪戯っぽく微笑む。
(さっき作ったってレベルじゃないが…アンドロイドって便利なんだな)
マスターは内心を悟られないようにタブレットを覗き込む。するとカウンターの座っていたお客が、
「ねぇマスター。何見てんの?私にも見せてよ~」
半ば強引にマスターからタブレットを奪ったこの女性は最近よく通ってくる常連さんの一人だ。身長はお世辞にも高いとは言えず、ヒールを履いて高くしようとはしているものの、どうしてもその顔の幼さが際立ってしまう。しかし、正反対に青っぽい色の長い髪を掻き上げる仕草は酒のせいもあってか色っぽさが際立っていた。
彼女は剣崎 薫。近所の大学へ通う女子大生だ。
「へぇ~面白そうじゃん♪これって何?新しいRPG?」
「RPGっていうかFPSに近いかな。戦争ものとかよくあるでしょ」
と、マスターが答えると薫は目を輝かせて、
「FPSなの?いまウチ、ハマってるんだよねーー。これどこにあるの?URL教えて!」
マスターが返答に困っているとメルダが、
「マスターさえよろしければ、ご案内しますが?」
と、マスターの瞳を覗き込む。マスターは少し考えてから、
「…分かった。薫ちゃんだし大丈夫だろう。メルダ、頼む」
するとメルダは薫に向き直り、
「このゲームはここの三階でプレイできます。ご案内しますね」
薫は飛び上がって、
「マヂで!やったぁぁぁ!マスター大好き!」
と、一瞬でマスターの頬に口づけると、メルダを伴って店の奥へ消えて行った。
(薫ちゃん、あんな酔ってて大丈夫かな…?)
マスターは一抹の不安を感じていた。すると、その不安に呼応するかのようにタブレットの画面が二つに分かれ、同時に映像を流し始めた。どうやらメルダの仕業らしい。もう一つの画面には以前のチュートリアルの映像が表示され、中には薫が立っている。
メルダが返ってくるとマスターは注文を捌きながら輝たちのウィンドウに注目した。
再び光が戻った輝たちのモニターには〝HOPE〟艦内のブリーフィングルームが映し出されていた。
中央に大きなテーブルがあり、それを囲むように各セクションの責任者が顔を並べている。
「では、報告を聞こう」
艦長の重々しい声を皮切りに、各セクション責任者から報告が始まる。
「居住エリアですが、特に問題ありません。備蓄食料等もすべて無事です」
「艦の乗員も全員無事です。軽傷を負ったものもおりますが、特に問題はありません」
「艦の砲台もすべて無事です。元々弾はあまり積んでませんので、無駄遣いはできませんが」
「艦の装甲は攻撃を受けた機関部以外は問題ありません。機関部の装甲については既に修理に入っており、半日くらいで元通りになります」
ここまで聞いて艦長は安堵の溜息をついた。
「で、肝心の機関部は?」
この艦長の問いに機関長は、
「はい。先程の集中攻撃を受け、壊滅的な状況です。修理資材をすべて投入して、なんとか生活用エネルギーは確保できますが、航行は不可能です。三番艦から本部の援護を待つしかありません」
この報告にその場の全員が溜息を洩らした。艦長は、
「待つしかないのか…しかし今の人員では戦えるものは少数だ。いつまで持ちこたえられるか…」
ここで酷い現状に対して戦術長は一つの提案をした。
「まだ試験段階ですが、アレを使ってみてはいかがでしょう。設計通りに動けば相当数の人員に匹敵します」
すると艦長は、
「しかし、アレを使うには莫大な電力を消費する。ここにはそこまでの余剰エネルギーはないが…」
ここで、機関長が、
「あの…アレとは?」
「RBS…リモートバトルシステムだ。遠隔操作でドールと呼ばれる機械兵と同化して戦闘を行う。操作者の動きに合わせてドールが動くので、簡単に操作できるほか、遠隔なので操作者は無理をできるし、やられても死亡して兵を失うことはない。というものだが、まだ開発中でな。難点はエネルギーが多量に必要というところかな」
と、艦長が答える。これに続けて二番艦の代表が、
「RBSについては、あと実戦テストだけとなっている。五つだけ用意しているんだが…」
ここで哨戒長が、
「電力さえあればどこからでも操作できるのか?」
この問いには二番艦代表が答える。
「設計上はそのように作ってある。特定の周波数をミックスさせることで、五十光年くらいの距離は問題ない。それ以上は検証が必要だが…可能なはずだ」
「では地球からでも操作可能ということか…」
と、哨戒長のつぶやきに機関長は、
「しかし、三番艦はもう行ってしまった。RBSのコントローラーをどうやって地球まで運ぶと…?」
長い沈黙の後、艦長が口を開く。
「…転送を使ってみるか」
すると二番艦代表は、
「転送ですって?!ダメです!あれはまだ試験段階、危険すぎます!大体誰が行くというのですか?!」
艦長は沈痛な面持ちで、
「分かっている。乗務員の誰かを行かせる訳ではない。実はワシの私物の中にT型アンドロイドがおる。これのプログラムを修正し、RBSを持たせて地球へ転送する。もちろん、成功する保証はないが、アンドロイドなら万一のことがあっても問題はあるまい…」
すると今まで沈黙を保っていた医務長、通称〝ドクター〟は、
「いいのか?あれは…」
その言葉を制止するように艦長は、
「いいんだ。このような緊急事態では仕方ない。何より優先するのはこの状況の打破。アンドロイドなら代わりはいくらでもいる」
ドクターは肩をすくめ、それ以上何も言わなかった。
数時間後、艦長のアンドロイド〝メル〟の転送が始まる。
着々と進行する転送プロセスを眺めながら艦長は思いに耽っていた。
転送台に横たわる艦長の私物アンドロイド、実はメーカーに依頼しての特注品である。アンドロイドの外見及び思考パターンのモデルは実在の人物、艦長の娘であった。
数年前、太陽の肥大化によって屋外での活動が困難になり始めた。しかし、一般人に開示される情報は少なく、『今日は暑いな』程度に思っていたものも少なくない。そんなある日、肥大した太陽が一時的に爆発的なフレアを発生させ、瞬く間に地球表面に到達、一部の有機生命体を絶滅させるといった事件が起きた。この爆発フレアで数名の人類が一瞬のうちに消滅してしまった。その犠牲者の中に艦長の娘がいたのだ。このとき、娘はこの日任務を終えて帰還予定だった艦長を迎えるため、自宅を出発するところであった。
艦長はその寂しさを紛らわすため、当時の財産のほとんどを投じて〝メル〟の作成をメーカーに依頼したのだった。
しかし、実際にアンドロイドを受け取った時、眠るように安らかな表情を見るととても起こす気になれず、でも手元において置きたいという欲求から、どの任務へも持ち歩いていた。起動することなく…。
その〝メル〟がこんな形で役に立つとは…いや、我が孫だからこそ、我を助けてくれる。艦長はそう言い聞かせ、最後まで起動できなかったことを暗に詫びた。
「艦長!準備完了しました!いつでもいけます!」
艦長は我に返ると、
「よし。直ちに転送開始!急げ!」
一斉に部屋内の動きが慌ただしくなる。
「お前をこんなことに使って…すまない…」
艦長は心から詫びた。このまま共に…と思っていたがその状況ではそうも行かない。
「まだお前、そんなこと言っておるのか。あれはただの人形なんじゃろ?」
「ドクターか…。分かっている、分かっているが…」
艦長は決断したはずなのに、未だ迷っている自分に嫌気が差した。そんな艦長を見てドクターは、
「転送は未だ未発達の技術じゃ。人間で試すわけにはいかんじゃろ。人形なら代わりはいくらでもおる。そう言ったのはお前さんじゃろ」
艦長はすべてを振り切るかのように正面に横たわる少女を見据え、
「…頼むぞ、メル」
と、つぶやいた後、転送開始ボタンを押した。
少女を包む光が一面に広がり、モニターは真っ白になった。そしてタイトルが表示される。
『Real Battle Simulation 〝HOPE〟』