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HOPE  作者: 滝 陽水
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第十七章 行方

第十七章 行方



「輝!おはよう!」

翔の声に輝は手を上げて答える。

いつもの登校。あれから二ヶ月が経過していた。

「早いもんだねー。マスターまだ入院してるのかな?」

「さぁな…」

翔の問いかけに輝は気のない返事。ムッとした翔は、

「まだメルダの事、引き摺ってんの?」

すると輝は真っ赤になって、

「ち、ちげーよ!そんな訳ないだろ!」

思わず持っていたカバンを振り回す。翔はそれを笑顔で回避すると、

「今日も朝から仲いいねー、おはよ!」

綾乃と明日香が合流した。最近はこの四人で登校するのが日課となっている。

「あれからもう二ヶ月だね…マスターもう退院したかな?」

綾乃がうわ言のように呟く。輝は同じように、

「さぁな…あれっきりだからな…」



あの日、背後に大爆発を聞いて数分後。

六人はやっとの思いで街まで帰ってきた。するとまるで待ち構えていたかのように救急車がマスターを乗せた。これを見た愛は、

「私が行きます。皆さんは休養してください」

マスターと共に乗り込んで行ってしまった。

残された四人は疲れ果てており、追いかける気力もなかった。

「愛に任せて俺は〝クレスト〟で待つよ」

輝はそう告げると足早に歩き出し、他の三人はそれを見てそれぞれ帰路についた。


輝は〝クレスト〟で数日間過ごしていたがマスターと愛から何の連絡もなかった。

一人で待つ輝の元へ綾乃が訪れた。

「輝、まだ連絡はない?」

「ああ、全く病院名くらい教えてくれてもよさそうなもんだけどな」

「そっか…」

綾乃は輝の隣に座ると、辺りは静寂に包まれた。

「俺さ…」

輝は独り言のように呟き始めた。

「俺は一人で何でもできるって思ってた。RBSなんか無くてもマスターやメルダを守れるって」

綾乃は前を向いたまま静かに聞いていた。

「でも、実際は…何もできなかったんだよな。ビビっちゃってさ。笑っちゃうよな」

自嘲気味に呟く輝。それを黙って聞く綾乃。

「ほんと、俺ってバカだよな…自分を過信した挙句、結局メルダに…舞に頼りっきりで」

「そんなこと…ない」

綾乃はようやく聞き取れるような微かな声で反論した。

「あの場にいたら、みんな同じだと思う。私も動けなかったし、輝は悪くないよ」

「でも…そのせいで愛につらい役目をさせてしまった…」

「輝だって聞いてたでしょ?メルダの身体はもう持たないって。だから仕方なかった、誰が悪いとかないよ」

「だけど!俺が、もっと戦えてたら、こんなことにはならなかったんだ!」

『パン!』

部屋に乾いた音が響き、輝は頬に痛みを感じた。

輝は綾乃のほうを見ると、綾乃は潤んだ瞳で、しかし厳しさを持って輝をみていた。

「輝!これ以上メルダの犠牲を無にするつもり?メルダの気持ちも考えて!」

綾乃の激昂した声を初めて聞いた輝は、何もできずに綾乃の背中を見送った。


それから数日後、親の手前もあり、輝は自宅へと帰ることになった。

そして時は何事もなかったかのように流れていく。



昼休みになると輝はなんとなく屋上で寝転んで物思いに耽っていた。


結局、なんだったのだろう。


誰にも言ってないし、確認もしていない。薫さんはなんだったんだろう…


RBSって本当に兵器なんだろうか…


〝クレスト〟って単なる喫茶店じゃなかったんだろうか…


マスターは無事なんだろうか…


ふと気が付くと隣に綾乃が座っていた。

「マスター…もう帰ってこないのかな…」

輝は無意識に呟いていた。綾乃は空を見上げたまま、

「そのうち帰ってくるんじゃない?それより…ずっと気になっていたこと、聞いてもいい?」

輝は綾乃に目線を移すと、綾乃は不安げに前を見ていた。

「なんだ?」

「輝、なんでマスターを助けに行ったの?」

「…」

確かによく知った仲、とはいえ、それほど付き合いが長いわけじゃない。親戚でもない。メルダに惚れていた?それもある。しかし…

「俺さ。実は家が…いや親を信用してないんだ」

綾乃は輝を見ると首を傾げる。

「なんでかな、物心ついたころから家でリラックスできたことはなかった。もっとも、そんなことに気が付いたのはつい最近なんだけど。親父もいていないようなものだし、これが当たり前だと思っていたから」

輝は上体を起こすと綾乃と並んで座る。

「そんなとき、マスターと出会ったんだ。何でも聞いてくれて、何も聞かず俺を見守ってくれた。ダメなところはちゃんと叱ってくれるし、イイところはちゃんと褒めてくれる。俺はそんなマスターを本当の親のように思っていた」

輝は綾乃に向き直ると、

「〝クレスト〟は俺の居場所だったんだ。そしてマスターは俺の親父だと思ってた。それならば、理由は分かるだろ?」

目があった綾乃は、瞳に溜めた涙が今にも零れそうになっていた。輝は慌てて、

「あ、いや、な、なんで綾乃が泣くんだよ…」

綾乃は黙って輝を抱きしめた。綾乃は何か声をかけたかったが、とても言葉が見つからない。

しばらく抱き合っていると、昼休み終了を知らせる予鈴が鳴り響いた。二人は慌てて離れて、

「じゃ、今日帰りに〝クレスト〟に寄ってみようか」

輝の言葉に綾乃は大きく頷くと、一緒に屋上を後にした。



そして放課後。

輝と綾乃は共に〝クレスト〟を訪れた。

すると、いつの間にか普通に営業していた。

「あ、あれ…?今朝見たときは誰もいなかったのに…?」

輝は首を傾げながら勝手口を開ける。

「お!輝、いいところに来た!ちょっと手伝え!」

「マスター!!」

いつもの〝クレスト〟の日常だった。輝は涙を拭いながらマスターを手伝い、綾乃はホールを手伝った。

輝は厨房作業がひと段落したところでマスターに詰め寄った。

「どうして今まで連絡くれなかったんだよ?心配したんだぞ?」

「あー悪い。いろいろ忙しくてな、連絡できなかったんだ」

「でも、またここに戻ってきて…いいのかよ。仕事は」

「あー…仕事な。これからは当分、ここにいることが仕事になりそうなんだ。なんていうかー…保護者っていうか」

「なんだそれ??」

「後で話すよ。とりあえず上へ上がってろ」

輝と綾乃は訳が分からないといったように首を傾げながらも三階へ上がった。



三階には以前RBSコントローラが占領していたスペースがぽっかりと空いており、大きめのソファが少し小さく感じるほど寂くなっていた。

「はーい!賄いご飯おまたせです!」

反射的に声の方向を見ると、

「メルダ!!」

輝は思わず叫んだ。そこにはメルダがいた。

しかし、呼ばれた少女は、

「あ!違うんです。私ですよ!」

と、ウィッグを取って見せた。マスターについて行ったはずの愛だった。

愛は再びウィッグを被ると、

「けっこう似合ってるでしょ!お姉ちゃん人気有ったから、この方がいいかなーって」

そう言うとその場で一回転する。さすがは姉妹、メルダ…いや舞そのものだった。

愛が座るとマスターも三階へやってきた。

「保護者…ってことは、ここで愛の面倒を見るのか」

輝がマスターに問いかける。マスターはソファに座りながら、

「そういうこと。愛はこの件で舞同様に悪漢に襲われる可能性もあるし、今回のことには俺も責任あるからな。愛が成人するまではここで面倒を見ろとのお達しがあった。それに…」

「それに?」

「あの最先端技術研究所。二人の柱をまとめて亡くしたもんだから、後継がいなくってな。愛に白羽の矢がたったんだ」

「愛ちゃんに?」

それまで静観していた綾乃が思わず声を上げた。マスターは愛の頭を撫でながら、

「ああ。愛はこう見えて亮仕込みだ。あのRBSの設計図を見てすぐに理解してたしな。俺にはさっぱり分からなかったが…。国からも相当額の研究費用が捻出されているんだ、いまさら成果は何もありませんって訳にも行かないんだよね」

愛は輝たちを見ると、

「この件で亡くなってしまった新田さん、お姉ちゃん。そして亮さんのためにも私が完成させるのです。させなきゃいけないんです」

その目には決意に満ちた光が宿っていた。

「アパートを借りるよりはってことで、ここに住むことになったんです。だから、輝さんも綾乃さんも今まで通り来てくださいね」

輝は愛の様子に安心したように、

「分かったよ。ま、二人とも元気そうで安心した。ところで、だ」

マスターに向き直ると、

「結局さ、マスターはどこからどこまで知ってたんだ?っていうか、マスターって結局何者なんだよ?」

するとマスターは、

「何者って…。その質問にはまだ答えられんが、今回の件についてはほとんど聡のシナリオ通りってことくらいは知ってたかな。アイツが自らの改造をするとは思っていなかったが…」

「前にメルダが現れたときのことは聞いたけど、ジェネラルが久保さんって人だったらとてもゲームに見せかけてとか言う必要はなかったんじゃないのか?それともその辺もマスターの妄想なのか?」

「はっはっは。いや、あの話は実話だ。聡に頼まれてな、ジェネラルの性能検証も兼ねていたんだ」

「そうだったのか…何かずっとマスターの手の上で踊ってた気分だ」

「そうだな。ま、早く俺を越えれるように勉強に励むんだな!」

そう言うとマスターは輝の肩を叩いた。それを見た愛はその場で立ち上がると、

「そうそう!もう少ししたら、新しいRBSができるので、またモニターお願いしますね!」


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