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HOPE  作者: 滝 陽水
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第十五章 対決

第十五章 対決



ゲートを抜けると森は一層深くなり、木々によって視界は狭まっていた。

しかし、元々RBSを通じて過ごしていたエリア、輝たちが適応するのに時間はかからなかった。

しばらく走るとRBSの序盤で登場したような機械獣が襲ってきたが、五人は冷静に処理して事なきを得ていた。

「けっこう楽勝だねーこのままいけちゃうかな?」

「そんな訳ないじゃん、油断するなよー」

翔と明日香は軽口を叩きながら先頭を走っている。その後方から輝がGPSの信号を確認して方向を修正していた。

「…」

次から次へ出現する機械獣を見て輝は奇妙な違和感を抱いていた。無意識に綾乃に視線を送ると、綾乃も同じく違和感を感じていたようで同時に目があった。

「何か…変だよね。うまく言えないけど」

GPSの信号が目前に迫った時、目の前を大量の機械獣が覆った。

「うわっ!数多い!」

明日香が思わず悲鳴を上げる。しかし、次の瞬間には手近な敵を叩き壊していた。

数分間各々が撃破していったが、どうにも数が減らない。この状況を見た愛は、

「ここはアタシが引き受けます!みなさんは早く!…お姉ちゃんをお願いします!」

その声に翔と明日香は、

「こんな数、愛ちゃんだけじゃ無謀だ。僕たちも加勢するよ!輝と綾乃ははやくマスターを捕まえて!」

輝は何か言いたげだったが、

「…分かった、すぐ追いかけてこいよ!」

すると愛が突然、

「ああーっと輝さん!これを!」

小さなお守り袋を輝に投げた。受け取った輝は、

「なんだ?これ」

「本当は私が持って行きたかったんですけど、一刻も早くお姉ちゃんに!お願いします!」

「ああ、分かった。…無理するなよ!」

そのまま中央突破して森の奥へと消えて行った。

再び包囲網を敷く機械獣に愛は、

「よーし。この銃の本当の力を見せてやるです!」

それまではごく普通のマシンガンのように見えていた銃器が、愛が手元の黄色いボタンを押すと音を立てて変形し、砲身も増えて大きさも倍になってしまった。

翔と明日香が呆気にとられていると愛は、

「ちょっと試し打ちするです!」

目の前にいた機械獣の群れに向けてマシンガンを乱射したあと、間髪を入れずに強大な電撃を放った。電撃は機械獣たちの間を瞬く間に走り抜け、付近にいた群れをすべて倒してしまった。

「あ、愛ちゃん…すごい」

明日香がその場で呟くと、翔が明日香を突き飛ばした。

その直後、機械獣の攻撃が空を切り、その機体を翔がショックガンで処理した。

「ダメだよ明日香、まだ戦闘中なんだから油断するなよ?」

「ああ、ごめん。そうだね、がんばらないと!」



雑魚を翔たちに任せて先行する輝と綾乃。

分かれてから数分立つと前に拘束されていた施設の前に出た。GPSの反応は更に先へと移動している。

ここまで数匹の機械獣が襲ってきたものの、輝と綾乃は連携して難なく撃破していった。

目の前の施設を見ながら綾乃がポツリと呟く。

「…ジェネラルって、愛ちゃんの彼氏だったのかな?」

「どうなんだろう。いろいろと世話にはなったみたいだけど…」

「少なくとも最愛の人だったみたいだよね。あの部屋に何か残ってないか、ちょっとだけ見て行っていい?」

「…分かった。次ここにこれるかどうかも分からないしな」

「ありがと、輝!」

綾乃と輝は意気揚々と施設の中に入って行った。

施設内部はRBSで来たとき同様に真っ暗だった。輝が引き返そうとしたが、綾乃は冷静にライトを取り出した。

「綾乃って用意いいな」

輝が感心していると、

「だって、突入するんだったらもう一度ここに来れるかなーって思ってね」

どうやらこうなることも予測していたようで、すぐにジェネラルの元へ辿り着いた。

しばらくその機体を眺めていた綾乃はジェネラルが何か握りしめていることに気が付いた。

「何を握っているんだろ…?栞…かな?」

かわいいピンク色の和紙でできた栞のようなものだった。

「後で愛ちゃんに渡してあげないと」

綾乃は大事そうに栞をしまった。

そして先に進もうと施設を出たときだった。

前を歩いていた綾乃の足もとから突然網のようなものが出現し、たちまち綾乃を宙に吊り上げる。

「きゃ!なにこれ!!」

上に延びていた木の枝に宙吊りにされてしまった綾乃。輝はその少し離れた場所に小さな機械獣を発見した。

「お前の仕業か!」

輝はショックガンを打ち込み、そのまま最大電力を流し込んだ。機械獣はそのまま煙を上げて機能を停止したようだったが、その前に網を固定されてしまった。

「クソ…どうすれば…」

輝は以前の光景を思い出していた。

あの時も油断したがために綾乃を危険に晒してしまった。今回も油断があったことは事実。

あの時は薫が助けてくれた。しかし、もう薫はいない。もしいても助けてはくれないだろう。

「輝…私は大丈夫だから、マスターを追って。もう少しで追いつくんだから早く行って」

輝は必死に考えた。もし、ここで綾乃を独りにしてしまうと、いつ別の機械獣が来るとも限らない。なんとかあのロープを切れないか…。

輝は一部の望みに賭け、ショックガンをロープに向けて発射した。そしてすぐに横へ飛ぶと手前へ引く。するとなんとかワイヤーが綾乃の上にあるロープに巻きついた。次に輝はワイヤー回収ボタンを押しながら強くショックガンを引いた。音を立ててロープとワイヤーが擦れていた。しかし、ロープに少し傷がついただけだった。

「まだ、もう一回!」

輝は投げ続けた。輝の見立てだと、十回も擦ればロープが切れるかと思っていたのだが、既に二十回以上投げていた。肩で息をする輝を見て綾乃は思わず叫んだ。

「もう、いいから。私は大丈夫だから行って!」

すると輝はそれを打ち消すように、

「うるさい!こんなところに綾乃を置いていけるか!」

そして放った渾身の一投は、ロープに強く巻きつくと深く傷をつけたようだった。しかし、同時にワーヤーが切れてしまった。

綾乃は涙を堪えるために上を見上げると、ロープが深く傷ついており、今にも切れそうになっていた。綾乃は思わずその場で暴れてみた。するとロープの傷はミシミシを音を立てて広がり、プツンと切れてしまった。

輝は不意を突かれてしまい、動くのが一瞬遅れた。

(間に合わない!!)

そう思った次の瞬間。輝の前に黒い影が滑り込んだかと思ったら綾乃をしっかりと受け止めてしまった。

「ツメが甘めーな。青二才が」

黒い影は輝に向かってそう言い放った。黒い影…に見えたのは黒いコートを着ていたからみたいで、振り返った男はそのコート越しに見ても筋肉質な身体が見て取れた。

「…でも、合格だな、お嬢」

コートの男はそう言いながら綾乃を優しく地面に下ろした。

「ありがとうございます。こうして助けてもらうのも久しぶりですね」

「綾乃…その人は?」

「あ、前に話したでしょ?明日香とのときに出てきたボディガードさん」

「ああ!この人なんだ」

ボディガードさんは輝に向き直ると、

「よぉ坊主。なかなか見どころがあるな。この先はお嬢を頼んだぜ。ここは俺が引き受けるからよ!」

「ああ、分かった。…ここは?」

輝は周囲を見回すと、いつの間にか囲まれていたみたいだった。

引き受ける、の言葉通りにボディガードさんは背負っていた銃器を構えて一閃させる。前方に大きな煙があがり、周囲を包囲していた機械獣たちに隙間ができた。

「さあ行け!ここは俺のお楽しみ、久々に思いっきり暴れてやるぜ!」

「ありがとう!」

輝の声にボディガードさんは親指で答えると輝と綾乃の背中を押した。

銃器のけたたましい音と機械獣の悲鳴を背に聞きながら、輝と綾乃は再び走り出した。



しばらく走るとGPS反応に追いついたが、マスターとメルダの姿は見当たらなかった。

「どういうことだ…?確かにこのあたりのはずなんだけど…」

周囲を見回すと巧みにカモフラージュされた地下入り口があった。

「ここ…しかないよね、きっと」

内部は薄暗い照明が点在しており、かろうじて周囲が見える程度だった。長く続く階段を下りると、目の前に大きな扉が現れた。

扉を開けようとしたとき、新田とマスターの話し声が漏れてきた。

「…だから、もうプロジェクトは中止になったんだ!すべて破棄しろ!」

「なぜだ?一定の成果は出ていたはずだ。私の考えにも理解を示していたじゃないか。納得できん!」

「理由は人道的な側面からとしか俺にも伝えられていない。上からのお達しだからな」

輝と綾乃はその場で顔を見合わせた。しかし、そのままジッとしている訳にも行かないので、二人は意を決して扉に手を掛けた。

扉を開けるとそこには新田がマスターと対峙し、その後方にメルダが控えていた。そしてその周囲にはRBS子機が散乱していた。

「おやおや、あの警備を突破してきたのか。随分無謀なことをするね、君たち」

新田は歪んだ笑顔で二人に声をかける。それを見たマスターは、

「お前たち!手を引けと言ったのに…」

「あんな説明で納得できるかよ。ここまで巻き込んでおいてそれはないんじゃないか?」

輝の言葉に綾乃も頷く。輝は更に続けて、

「それにプロジェクトって何だ?人道的って?」

その言葉を聞いた新田は、

「まさか、自分が何に関わってしまったかも知らずにここまで来たのか?傑作だな!」

新田は腹を抱えて笑っている。しかし、マスターは苦笑いをするのみで、

「…お前たちは知らない方がいい。とにかくすぐ帰れ!」

輝が言い返す前に新田がマスターに、

「まぁ待て。ここまで引き込んだのはお前だ。この坊主にも事実を知る権利はあるんじゃないのか?公僕さん?」

「公僕…?って、公務員ってこと?」

思わず輝はマスターに問いかけるが、マスターは押し黙ったまま。代わりに新田が答える。

「やはり知らなかったのか。そう、彼は私の研究に出資してくれているお国の役人さん、つまりスポンサーなのさ」

「スポンサー…ってことは仲間ってことだよね?」

輝の表情が見る見る曇っていく。綾乃は心配そうに輝の腕を掴む。

「そういうことだ。むしろ、私は彼らの指示で研究をしていたんだからな」

「そうなのか…?マスター。何か言ってくれよ!」

マスターはその重い口を開く代わりに新田に銃口を向けた。

「聡。俺はこの件に関して、超法規的措置も一任されている。しかし、こんなことはしたくない。大人しく指示にしたがってくれないか?」

新田は顔を強張らせると、

「ほぅ?もう用済みだから消えろと?さすが、お国の役人は古来より変わらないな!」

マスターは微動だにせず、

「じゃ、従う気はないんだな?」

「お前らの言いなりになんてなるもんか!もう少し…もう少しで研究が完成しそうなんだ!それを無かったことにしろなんて…」


『ターン』


(本物の銃声って乾いた音がするんだな)

輝はそんなことを考えていた。

目の前ではマスターの構えたハンドガンが硝煙を上げていた。

輝と綾乃は目の前の光景を、まるで映画のワンシーンを見るかのように感じていた。

ゆっくりと崩れ落ちる新田、それを辛そうに見るマスター、悲哀に満ちた表情のメルダ。


しかしそのまま崩れ落ちるかと思われた新田は、そのまま踏みとどまるとゆっくり立ち上がった。

さすがに驚くマスター。しかし、メルダの表情は変わっていなかった。

「聡…お前まさか!?」

「ふん…やっと気が付いたか。ここまで来て生身のまま対応するわけないだろう」

「くっ…」

マスターは構えたままのハンドガンを数発発砲すると、新田は銃弾を受けてはいたが倒れることなくそのまま立っていた。

新田は不敵な笑みを浮かべると白衣を脱ぎ棄てる。するとそこにはほとんどが機械となった身体があった。

「聡…なんてことを」

マスターが怯んだ隙に新田は手近にあったカップを投げ、マスターの手にあった拳銃を弾き飛ばした。

「まぁ、そう焦るな。落ち着いて話し合おうじゃないか。それが無ければお前に勝ち目はないんだから」

新田の言うことは正しい。マスターは瞬時にそれを悟った。拳銃は遠くに飛ばされ、格闘戦では敵いそうもない。痺れる腕を庇いながら半ばあきらめるように近くの椅子に腰を下ろした。

「そうだな。しかし、もうプロジェクトは廃止された。これはもうどうしようもないが、どうするつもりだ?」

新田も近くの椅子に腰を下ろすと、

「とりあえず、そこのギャラリーに事の仔細を説明してあげる…ってのはどうだ?」

新田の不敵な笑みにマスターは苦悶の表情で、

「それは…」

煮え切らないマスターの態度に新田は、

「そうか、それじゃ私から説明しよう」

「やめろ!こいつらは関係な…」

マスターが言い終わる前に新田は片手をマスターに向けると何かを発射したようだ。マスターは衝撃でそのまま仰け反ってしまう。

「うるさいんだよ。今のお前には選択権は無い」

そして新田は硬直している輝と綾乃に向き直ると、

「さて、どこから話そうか」


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