6話 兎の児は副司令を護る
遅くなりましたm(__)m
7月7日 日本 東京都・練馬区
「おいシュナイダー、お前、セレ……あー、ニアたち送ってこい」
その場の流れでみんなとのパーティに出席しようと、ホールに向かうシュナイダーをラビッツは引き留めた。
「はい?」
「だから、送ってこいって。あんまここで物騒なこと言えないから…ちょっと耳かせ」
ラビッツはシュナイダーを手で招く。
小声でなければ不味い話だろうとシュナイダーは推測する。
「最近、イグゾーストが集めた連中がこの辺を彷徨いている」
「でも、そのための護衛では?」
「バカヤロー、こっちから呼んどいて、じゃあねバイバイ、とはなんねーだろ」
ラビッツが苦笑い気味に言った。
ラビッツの言ったことは正論ではあるが、シュナイダーの言ったことも間違いではない。
「それによ、イグゾーストのバックにいるファミリー…」
ラビッツがここで一旦切る。
目を伏せて警戒しながら言う。
「…かなり強ぇぞ」
「!」
ラビッツがここまで警戒している姿をシュナイダーはあまり見たことがなかった。
先日のアルメルたちの一件で心配なのはわかるが、ここまで警戒するとなると強敵である可能性が高い。
「まぁ、そんな連中に負けるような、やわな育て方はしてねーけどな。わはははは」
最後にラビッツは冗談めかして、シュナイダーの背中を軽く叩きながら、豪快に笑った。
その姿にシュナイダーは苦笑いを浮かべる。
「…はぁ、めんどくせ。了解したぜ。ボス」
ラビッツにそう言い残してシュナイダーは自分の部屋に戻って行った。
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10分後にロビーに戻ると、ニアの護衛のフーと出会った。
「あれ?どうかなさいましたか、シュナイダーさん?」
「いやー、ウチのボスが送ってこいってゆーもんでして…」
そうでしたか、と若干の喜色を浮かべるフー。
なぜ、喜んでいるか、尋ねると、「面子がちょっと…」と言っていた。
シュナイダーも、自分もその立場だったら、と考えると同情した。
5分くらいするとニアとウィッチが現れた。
「あら、シュナイダーさんはどうして?」
「いやー、じつは…」
フーにした説明を繰り返す。
すると横にいたウィッチが、ウィンクしながら言ってきた。
「いざとなったら、守ってねん」
語尾にハートが付きそうなくらい朗らかに言った。
それに対して彼は苦笑いしかできなかった。
ウィッチがドライバを勤める車内。
助手席にフー、後部座席にシュナイダーとニアという形になった。
高速道路を走るレンタカーは夜の月に照らされている。
「そういえば、シュナイダーさんはなぜ【銀兎】に?」
ニアの唐突な質問だった。
「え?…うーん、そんなに面白い話じゃないですよ?」
「大丈夫です!興味あります!」
シュナイダーは困惑しながら言うと、ニアは目を輝かせてシュナイダーのいる左に向いた。
「ん~、そーですね~。どこから話したらよいものか…」
シュナイダーが、目を伏せて暫し黙考する。
そして目を開けて、語ろうとしたときに、前方で大きな爆発が起きた。
ドゴォォン!
「くっ!みんな掴まって!!」
ウィッチはハンドルをきって車を横にする。
勢いで車がドリフトするような形になり、慣性で皆が左に押し付けられる。
「おわぁ!」
「ぐっ!」
「きゃっ」
悲鳴で車内が震える。
車の静止と同時に、ウィッチ、フー、そしてシュナイダーが外に飛び出す。
すると、前方で爆発した乗用車の横で一人の男が立っていた。
その男をフーが睨む。
「ククク。いいねぇ、その目。ぐちゃぐちゃにしたくなるぅ」
卑下た笑みを浮かべ、こちらを見据える男は細身ながらも、両手に大きめの釘バットを持っている。
「誰だと訊くつもりはない。死にたくなければ投降しろ」
そう言いながらフーが着ているタキシードの内ポケットに手を入れる。
「殺るの?殺るの?いいねぇ、いいねぇ!僕はこーゆーのをまってたんだぁ!!」
男が発狂しながらフーに突っ込んで来る。間の間隔、およそ15mを切ったところから、一閃の銀が線を描く。
「あらぁ、いい男じゃなぁいん?でもざぁんねぇんねぇ。……ウチの頭潰させねぇよ」
男は線を描く一つ手前で飛び退く。
そこには大きな鎌を構えたウィッチがいた。
ウィッチの最後の方に言った底冷えするようなドスの効いた低い声にシュナイダーは、身震いする。
「ウィッチ、そのまま奴を抑えて!フーはウィッチの援護を!」
後ろ方から澄んだ声が響く。
シュナイダーは咄嗟に振り向いた。
そこにはニアが車内から出ていた。
「ニア様!危険です!」
シュナイダーは叫んだ。
するとニアは少し俯いたが、直ぐに顔を上げた。
そのニアの目はターコイズの碧から紅く朱に染まっている。
「あたしは大丈夫だ!それより奴を!!」
シュナイダーはニアに怒鳴られてびくっとした。その驚きと同時にニアの後ろからやって来る二台の車に気がついた。
(しまった!罠か!!どおりで高速が空いてると思った!)
シュナイダーが自分らが罠にはめられたことに気付く。
その時、ニアの後ろから来る片方の車の、助手席から男がみを乗り出して、銃を構える。
「危ない!」
後ろに気付いたフーが叫ぶ。
ギリギリまで気づかなかったニアが振り向いた瞬間、男は銃の引き金を引いた。
パァン
遠くで小気味のいい音がし、鮮血が飛び散る。
「ぐああああぁ!」
銃を構えた男が車から落ちてのたうち回る。
その銃を持っていたはずの男の手は真っ赤に染まっていた。
助手席の男が落ちてパニクった車がバランスを崩して横転した。
そのままニアが硬直して動けないところへ車は滑って行く。
ギャギャギャギャギャッガッシャァァン!
ニアを挟んで、彼らのレンタカーと横転した車がぶつかる。
「姫ぇぇ!!」
フーが叫んで半分ぐらい潰された車に駆ける。
潰されていない半分のドアをあけると目の前まで潰された車の側面が来ていて、ニアが血の気が引いた顔で震えている。
ニアがフーに気付いて彼の方を向いた。
「…よかった、ご無事で……」
フーが震えた声でニアを抱き締める。
「あー、間に合ったか。良かった」
そこにシュナイダーが駆けつける。
「シュナイダーさん、あなたが?」
「おう、説明は後だ。今はニア様に怪我させようとした無礼者を裁くとしようぜ」
シュナイダーは振り返って、ウィッチと戦ってる男を見る。
「…そうですね。では、奴は私が。後ろのはシュナイダーさんにお任せてもいいですか?」
フーが顎で後ろの車を指す。
行儀が悪いが今は仕方ないだろう。
「おう」
「ではっ!」
若干の会話のあと、フーはウィッチのあとに駆けた。
シュナイダーはまだ蒼い顔のニアに話かける。
「あー、無事で良かった。でも気ぃ抜かないでくださいね」
シュナイダーはニカッと笑って見せた。
ニアはその笑顔に少し見惚れながらコクンと頷いた。
「じゃ、いきますかっと」
丸腰だったシュナイダーの腰にはいつの間にか、右に二本、左に三本の小刀がさがっている。
「くっそ、くたばれぇ!」
二台目の車から降りてきた男たち、計三人が拳銃を構えて、発砲する。
シュナイダーは腰から二本の刀を抜いて、両手に構えた。
片手で水平に薙ぐと拳銃の弾は弾かれる。
「ひぃぃ!ば、化け物ぉ!!」
(伊達に親父の地獄特訓受けてねーよ)
シュナイダーは心の中で呟く。
この人外さは、ラビッツ仕込みなのだと。
拳銃を片手で薙ぐという人外さに、恐怖に駆られた三人の男は一斉に乱射する。
手が震えて、狙いが定まらないのはわかりきっているのでシュナイダーは悠然と前に出る。
だが、その顔は真剣そのもの。
「ち、畜生!あたんねぇ」
「バカヤロー!ちゃんと狙えぇ!!」
「た、弾が切れたぁ!!」
拳銃が弾切れになり、余計に焦る男たち。
シュナイダーは手に持っていた小刀をブーメランのように投げる。
真ん中の男の額に回転しながら刺さって、他の二人は腰を抜かしてしまう。
ザクッ!
「弾がぁ……ぎゃ!!」
「「ひぃぃ!」」
男たちの声が重なり、倒れた仲間の男を見つめる。
その瞬間、刺さった小刀が独りでに抜けて、仲間の男の額から血が噴き出す。
その光景はホラーそのもので、それを見た男たちは、死に近づく恐怖も相まって、二人して気絶した。
一方、その小刀の持ち主は自分のもとへ戻ってくるように飛んできた小刀を、ハンカチで丁寧に血糊を拭き取って、鞘に納めた。
転がっている死体を見て、初めて人を殺したときの記憶が甦る。
眉間に皺を寄せ、頭を振ってその記憶を追い出す。
「だから人殺しは好きじゃない」
目を細め、そう呟いて、気絶した男たちを縛った。
「よしっ。縛ったし、加勢しにいくか。…さっきの狙撃はイクスかな、あとでなんか奢るか」
シュナイダーが、そんなことをぼやきながら、フーのもとへ向かった。
やっとバトルシーンです。
上手くかけたかな?足りない気が…
誤字脱字その他もろもろ、ありましたら感想の方お願いしますm(__)m