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銀兔の宴(仮)  作者: a~A
序章 503
6/26

5話 同盟ファミリーの副司令はええ娘です

やっとヒロインの一人目が登場です。

待ちわびていました。(作者がw)

7月7日 日本 東京都・新宿



青年はカフェにいた。

何の変哲もないお洒落なカフェテリア。だが、一風変わった風景である。

それは、人つまり、客が全然いないのだ。

お昼時には有り得ない光景である。


そんな中で一人、ブラックコーヒーを楽しむ青年は、慌ただしくカフェに転がり込んで来る親友に口の端をつり上げた。



店の入口の戸の鈴がカランカランと鳴る。

そこには息を切らしてぜぇぜぇ言いながら両膝に手を置いて息を整えている一人の青年がいた。


カフェの適当な椅子に座って、コーヒーを飲んでいた青年が、まだ息荒い青年に話かける。


「やぁ、久しぶり。シュナイダー」

「…はぁ…はぁ。よぉ、リョウト」


店に転がり込むようにして入って来たのは、先ほどまで池袋にいたシュナイダーだ。

対して、コーヒーを飲みながら彼を待っていたのは、新米刑事の狩谷 猟人である。


彼らは大学時代にひょんなことからつるむようになった、要は悪友|(親友)同士である。

尤も、悪友と思っているのはシュナイダーの方で、親友と思っいるのは狩谷である。


「ふぅー。疲れた。日本はホント迷うな~。特に東京は」

「わはは。田舎とは違うからな」


シュナイダーと狩谷は北国の大学、つまり北海道大学の出身である。なぜ北国なのかは、シュナイダーも知らない。その当時はラビッツの命令で北海道大学に編入したのだ。

よってその真意はラビッツしかわからないのである。

シュナイダーは十中八九、そのときの気分だろうと推測している。


「まぁ、俺も最初の頃は良く迷子になったな。んで、先輩に迎えに来て貰ってた」

「はは。お前らしいな」


狩谷の思い出話に付き合いながら、昔の青春が脳裏にフラッシュバックする。

これから彼らは懐かしの再会を噛み締めるのであった。




一頻(ひとしき)り、思い出話と愚痴に(ふけ)った。久しぶりに再会した二人は時間を忘れ、笑い合った。語り合った。共感し合った。

彼らはそれが楽しかった。また、こうしている時が幸せだった。



話す間にも時は流れ、現在時刻は4時半。

携帯端末のバイブが鳴ったのは狩谷の方だった。

狩谷がスマホを取りだして焦った声を出す。


「うおっ!ヤッベ」


狩谷はスマホにかかってきた電話の宛名が仕事場の上司だとわかった瞬間、血の気が引いた。


「じゃ、行くわー!…っと、会計…」

「いいよ。会計なら俺が払うから」

「おぉ、さんきゅ!またな」


狩谷は大慌てで店を飛び出して行った。

一人残されたシュナイダーは、自分のコーヒーを最後とばかりに煽って席を立った。


会計を済ませて店を出る。


「今日は良い日だ」


夏の日差しはまだまだ温かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


同時刻 日本 東京都・練馬区



「シュナイダーめぇ!アイツだけ欠席とか、許すまじ」


アルメルは【銀兎】の会議を終えて憎々しげに吐き捨てた。

会議当初はシュナイダーを待つ予定であったが、あまりにも遅いので連絡を入れようと、何回か電話やメールを入れたが、いくら連絡を入れようが反応がなかったのである。

故に彼が欠席として会議は行われた。

だが、つい先ほど(会議が終わったあと)、アルメルの端末に『今戻るよ^^』と送ってきたのだ。

これにはアルメルも怒りを越えて呆けてしまった。

ラビッツやクリスに至っては腹を抱えて笑っていたのである。



そんなこんなで会議は終わり、アルメルはホールから自分の部屋に戻る最中である。

今アルメルらがいるのは一般的なホテルである。


なぜマフィアが堂々と一般的なホテルのホールで重用な会議を行っていられたのかというと、それは【銀兎】が誇る最強のハッカーがホテルの警備システムをジャックし、日本に予め潜伏させておいたその手のプロフェッショナルがこのホテルで暗躍していたためである。


【銀兎】は個々がその道を極めた達人たちの集まりである。

その中にハッカーやら、スパイやらがいる。

個々が極めた分野で、敵う相手が務まるのは現時点では、ボスであるラビッツ・シルヴァニアのみである。


ラビッツは何もかもが出来てしまった、生まれながらの天才である。

裏社会やマフィアの世界において、彼を知らない者はいないほど有名なのは、彼が現役時代についた異名からくる部分も大きい。

彼のその何でも出来る天性の才能と、災害級の被害を被ることから畏敬の念を込めて『天災(ジ・オール)』と呼ばれた。


そのラビッツが頭領(ドン)を張る【銀兎】は、ラビッツの指導の下、元々が達人ばりの技術力をさらに延ばして叩き上げた超一級の人材ばかりである。

だがそれでもマフィア界でトップクラスであってもトップではないのは人数によるところが原因である。



そういうわけで要は、天才ハッカーと天才スパイがこのホテルで、ラビッツたちの機密を全力で守っている訳だが、そんなことをお構いなしにシュナイダーは犬神にべらべらと機密をしゃべってしまったのだ。

彼らの努力はいつ報われるのだろうか。




「おーい、アルメルぅ」


アルメルがむしゃくしゃしていた時だ。

気の抜けた声が後方から聞こえる。


「あ?」


苛立ち気に振り返るとクリスがいた。


「これからニア様がお帰りになられるのに、何帰ろうとしてんの?」

「あー、そーいやーそーだったな」


クリスが問うが、アルメルは明後日の方向を見ながらガシガシと頭を掻いた。


「そりゃー、ニア様は可愛いけど、ナンパしたらダメよ」

「してねーよ!?会議中いつナンパしたよ俺!?」


クリスのからかいにご丁寧に反抗する。

アルメルは天然なところがあるため、クリスはよくからかって遊んでいるのである。


「取り敢えず、行くよぉ」

「わかってらぁ。引っ張るな!ノッポが!」


比較的身長の低いアルメルを、文字通り摘まむようにして連れて行く。


仲が良いのか悪いのか、判断がつきにくいところである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ホテルについたシュナイダーは玄関口のロビーで見知った顔の集団と、中に見たことない顔が混ざっているのが見えた。


「スマン!今帰った!」


シュナイダーはロビーで何やら話ている一団に話しかけた。


「おっ!来たか、シュナイダー!」

「スミマセン、ボス。用事が長引いてしまって…」


一先ずラビッツに謝罪する。その後に他のメンバーにも謝罪する。

シュナイダーは律儀な奴…という、皆の印象通りの光景であった。


最後にシュナイダーが謝罪したのは、同盟ファミリーの【トゥミカ】の副司令・ニア・シルレーネ。

綺麗な銀髪が腰まである可憐な美少女で、幼い面影を残しながらも成長期の真っ只中であろう、大人な顔になる前の段階の童顔で、透き通ったターコイズの目は凛としている。

見た目から、歳が16~7歳と見受けられる。


「いえ、大丈夫です♪用事だったのでしょう?なら仕方のないことです♪」


笑顔で言う彼女の弾むようなおっとりした声が、シュナイダーの心に染みた。


(……ええ娘や~)


内心、関西弁みたいになるくらいには心に染みたシュナイダーであった。


ニアの優しさに心を癒されながら、ニアの護衛であろう二人にも謝罪した。


「この度は、本当に申し訳なかった。【銀兎】の一員でありながら面目ない」

「あらぁ、いいのよん。いやんだん、この子ちょっとかわいい~ん」

「イエイエ、問題ないですよ。姫もこのように仰っていますし」


シュナイダーの謝罪に応えた護衛の、前者の男はガッシリとした巨躯で身をくねくねと(よじ)らせて頬に両手を当てる。気持ちの悪いしゃべり方だ。しかも(たぶん)男なのに女性用のメイクをしている。

シュナイダーは悟った。

コイツ、ソッチ系だな…と。

後者の紳士な男は、アジア系の顔立ちで細身である。顔立ちからして中国人だろうとシュナイダーは推測した。スラッとしているが来ている服の中身は尋常じゃない鍛練を続けてきたであろうオーラを放っている。また、短髪で糸のように細い目が特徴だ。


「初めまして、【銀兎】のシュナイダーです」

「初めまして、【トゥミカ】副司令のニア・シルレーネです。以後お見知りおきを」


シュナイダーは恭しく腰を折り、礼をする。

ニアもペコリとお辞儀する。


(ええ娘や~)


シュナイダーはまた内心、癒されながら護衛の二人にも自己紹介する。


「初めまして、【銀兎】のシュナイダーだ。宜しく頼む」

「あたしは【トゥミカ】のウィッチよん。宜しくねん」

「私は【トゥミカ】のフーと申します。ニア姫の側近と護衛をかねております。以後お見知りおきを」


自己紹介しながら二人と握手するシュナイダー。

ウィッチはバチーンとウィンクしながらシュナイダーより一回り大きな手で握手した。

フーはマジシャンのように右手を前に、左手を後ろにして礼をし、握手した。


「シュナイダーさんは、今までどちらに?」


フーが問う。


「実は日本の旧友に会っていま……ぶっ!?」


シュナイダーの言葉は最後まで紡がれなかった。

そうさせなかったのはアルメルである。

シュナイダーの顔を見つけるなりある程度の距離から走り込んで来て、ドロップキックを後頭部に決め込んだのである。

フロアの床にのめり込むようにして倒れたシュナイダー。傷みを気にせず振り返って言う。


「テメっ!何すんだバカヤロー!!」

「うっせぇ!バァカ!テメェの自業自得だろ!ボケがぁ!」


ホテルのロビーで暴言の応酬が始まった。

このままいけば乱闘になりかねないと見越して【銀兎】のメンバーが止めに入るが。


「おい、止めろ」

「コンニャロー!」

「なんだとー!」


掴み合いのケンカが子供のケンカにしか見えなくて。

ニアは吹き出して笑っていた。


「ぷっ、あははは」


それにつられつように笑いが伝染する。


「「「わはははは」」」


ホテルを貸し切ったマフィアたちのパーティは始まったばかりだ。

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