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銀兔の宴(仮)  作者: a~A
序章 503
4/26

3話 犬のお巡りさんは狩人を従える

場面がコロコロと変わる回です。この先こんな感じのが多くなるかもですがご了承くださいm(__)m

7月6日 イタリア ローマ



「くっそ~。あいつら、完全にこっちの手札を読んでいやがった」


イタリアから日本に行くための飛行機内で、座席をリクライニングして寝そべっていたアルメルが、今日何度目かの文句を吐いていた。


「ま~、切り札までは切らずに済んだけど、流石にちょっと強かったよね~」

「奴らも相当な手練れでした。ですが次の任務はボス直々の召集によるものなのでここで我々が疲労を理由に休むのは出来ないのです」


彼らに任務で連れて来られたクリスは完全にだらけていた。

また、ヴォルフも隠そうとしているが、若干の疲労は見えている。

他の二人より疲れているようには見えないが、ヴォルフもまた、彼らと同様に身体的に疲労が蓄積しているのである。


手元の懐中時計に目を落とし、時間を確認するとヴォルフは言った。


「もうすぐ日本です。手入れは済んでいますか?」


その言葉を聞いてだらけていた二人はやっとこさ全身に力を入れた。


「あ~。一対一サシ本気(ガチ)に成れる奴はいるかな~」

「あれでしょ~。本気でって負けるんでしょ?」

「あ゛あ゛!?」


アルメルのぼやきにクリスは茶々をいれる。

何ら変わらない今がヴォルフは楽しいと感じていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


7月6日 日本 東京都・渋谷区


彼女らは夜のその雑多の中を歩いていた。


「今日も賑やかですね♪」

「うふふん。そうねん。でもねん、今回はボス直々の任務よん。警戒してねん」


前者の弾むようなおっとりした声の主の少女は、語尾に必ず『ん』がつくようなしゃべりの、濃いメイクの男…というよりオカマに話かけた。


「父様直々の……。…そうですか」

「あらん。ごめんなさい。私ったら、少し無神経だったわん」


表情を暗くして肩を落とす少女にオカマは申し訳なさそうに謝った。


「いえいえ、大丈夫です。気にしないでください」


無理矢理作った笑顔で、少女は胸の前で軽く手を振りながら言った。

それを眺めてオカマは心底申し訳なさそうに思った。

周囲から目を惹くほど可憐な、オッドアイの少女に誰一人として話し掛けて来ないのは横を歩く化け(オカマ)のせいか。

そんな奇妙な二人に、日本人は気にせず今日を過ごす。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

7月7日 日本 東京都


一足遅れてやって来たのは先ほどまでロサンゼンルスにいたマフィア、シュナイダーとラビッツだ。

彼らの目的はあくまでイグゾーストの計画阻止及び捕獲である。

決して旅行に来たわけではない。そう、決して。


「お~いシュナイダー!これなんかどうだ!ジャジャン♪はとサブレ~」

「親父ぃ!旅行じゃねぇって何度も言ってんだろ!」


売店ではしゃぐ一マフィアの頭領(ドン)。そしてそれに付き合っている部下。

シュナイダーも苦労人である。

到着時からはしゃぐラビッツを注意するも止まらず、挙げ句の果てに係員まで登場しかけた。


「はぁ、何で俺がおおもりりしなくちゃなんねぇんだ」

「なーなー、シュナイダー……」


ため息をつくシュナイダーにラビッツは子供顔負けの天真爛漫っぷりを見せつけていた。


そんなとき、シュナイダーは係員と話しているスーツの二人組が目についた。

普通ならば、気にも止めない光景なのだが、二人組は、特に片割れの方が、あまりにも異質だった。

その二人組は普通の日本人の男で、片や黒のスーツ、片や灰色のスーツを着ていた。


(黒のスーツの奴、ただ者じゃねぇな)


シュナイダーはそう確信していた。

待合室で知り合いを待つ合間に二人組を観察しようと腰かけたとき、見知った顔が三つ、入口付近に現れた。


「よー!元気か~!」

「おう。悪いな、わざわざ来てもらって」


燃えるような赤い髪の、ガラの悪い青年が話し掛けて来た。

それは良く知った顔だった。


「ボス、迎えに上がりました」

「ああ、助かる。アルメル」


ラビッツに向かって恭しく腰を折った赤髪の青年はアルメルだ。

他の二人も軽く挨拶する。


「どもー」

「ボス、お疲れ様です」

「ああ、では行こうか」


はたから見れば異様な集団にしか見えないが、シュナイダー以外は気にしている様子はなかった。

ラビッツの号令にみな従って、ホテルに向かう。


シュナイダーは最期にもう一度だけ、例の二人組の方を向くと黒いスーツの男と目が合った。


目が合ったのは、ほんの数秒だったが、長く感じられたのはどちらだったのだろうか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


7月7日 日本 東京都



警視庁は、アメリカの闇商人が日本で大規模なテロを起こそうとしているとの情報を得た。

そこで、担当刑事の内の一人に配属された犬神いぬがみ 隆敏たかとし)はまず空港へ向かった。

後輩で、まだ新米刑事の狩谷かりや 猟人(りょうと)を連れて。


「先輩、空港に行ったって、そら恐ろしい程の外人が来てますよ?」

「んなこたぁ、わかってんだよ」


犬神は黒いボサボサの髪に無精髭という顔立ちで切れ長の細い目が特徴である。煙草が好きで、煙草を吸っているときの黒いスーツ姿が良く、さまになっている。クールな男である。

一方、狩谷はセミロングのブロンズヘアーで癖っ毛がはねている。またアーモンド型の猫目で、少々チャラい感じの男だ。灰色のスーツがだらしなくならない程度に着崩されているがあまり気にならない。



犬神の愛車で空港に向かう道中。

狩谷は犬神に疑問をぶつけた。


「じゃ何で行くんですか。時間の無断ですよ」

「頭の良いお前なら勘づくとは思ったが、やっぱりダメか~」


狩谷の問いに犬神は呆れたように言った。


「お前、去年から外国人が日本の職場の6割を占めてんのは知ってるな?」

「はい。あれですよね?第三次世界恐慌と日本の少子高齢化のせいで日本の企業が外国人を雇うようになったやつですよね?」


狩谷は、それとこれと何の関係が?みたいな顔をした。

犬神はその顔をひっぱたいてやろうかとか考えたが運転中は危ないので止めた。


「はぁ。逆にそこまで言われて何で気づかねーんだよ」

「僕だって完璧じゃないんです」


狩谷は何故か誇らしげに胸を張った。

この後が狩谷をひっぱかれるだけで済まなかったのは自業自得である。


そうこうしている内に前方の信号機は赤に変わり、車は停止する。


「第三次世界恐慌ってのは商人にとっても消費者にとっても絶望的な経済を意味する。それは裏の商人でも同じだ」

「はぁ、では第三次世界恐慌で生き残れなかった商人は日本の少子高齢化を良いことに日本で働いている、と?」


狩谷は確認するように聞く。

対する犬神は煙草をケースから出してくわえ、年忌のはいったジッポーで火を着けた。

煙をすぅと吸い込むとふぅーと吐き出した。

狩谷は煙草の副流煙に顔をしかめ、窓を開ける。

窓を開けながら狩谷は、さらに質問をぶつけた。


「でも何故、空港なのです?」


犬神はお気に入りの煙草を味わうように吸っては吐く。

信号機は青に変わり車は再び動き出す。


「ふぅ~。まぁ、消去法だ」

「消去法?」


犬神の意図を読めなかった狩谷が反復する。


「海外と日本を繋ぐ交通手段は二つ。船と飛行機だ。単純に考えて空港の方が人通りが多いからバレにくいんだよ」

「でも、まさか職員全員に調査するわけではないんですよね?」


狩谷は面倒ごとに付き合わされるのは御免だとばかりに言った。

そんな狩谷に、犬神は苦笑した。


「ククク。それもありだな」

「冗談に聞こえません」


犬神はちょっとばかし悪戯してみた。

変なところで子供である。


「まぁ、聞く職員は絞ってある」

「本当ですね」


疑いの目を向けられてもなお気にしないのは冗談だとわかりきっているからだろうか。


「あぁ。聞くのは係員だけだ」

「はぁ?係員に?またなんで…っと、そうか」


狩谷はここでようやく犬神の意図を理解した。


(やっとか…。コイツ本当に筆記試験で満点を叩き出した天才か?)


犬神は心の中で狩谷の実績に疑問をぶつけた。


「そうか!係員になることで固定観念からの安心を植え付けられてるから、誰も自分が裏の人間だとは思わないからか!」


狩谷はテストで百点を採った子供のようなはしゃぎっぷりだ。

犬神はそんな狩谷に半分呆れて、半分称賛した。

何せ『犬のお巡りさん』と謳われた自分の思考をヒントを交えつつも自力で解いたからだ。


(はぁ。面倒な後輩をもったものだ)


そんな会話をしている内に時間はあっという間にすぎて、新羽田総合空港に到着した。

今では羽田が世界各国からの飛行機も受付るようになった。一方、成田が潰れてしまったのは新たなテーマパークを設置したためである。


羽田は規模がかなり拡大してしまったため、旧東京都の人口は2割減ってしまった。

だが、旧東京が旧埼玉と合併し、新たな東京都となったため、東京都と言っても間違いではない。



「はぁ~。でかいなー」


狩谷が巨大化した空港を目の前にして改めて思い知った。

犬神が入口で空港を見上げる狩谷の頭を叩いて、行くぞ、と言って中に入って行った。その後を追うように狩谷も続いた。




3時間聞き回ったが、結局有力な情報は得られなかった。

いよいよ最後かと思いつつ。係員に聞く。

犬神が要点だけを聞いて、あとは狩谷が根掘り葉掘り聞いていたときだった。

犬神は気付いた。

こちらを窺い見る視線を感じたのだ。

振り返って辺りを見回したがそれらしい人物は見当たらない。


(気のせいか)


そう思って視線を戻そうとした瞬間、とある外国人と目が合った。

金色がかった白髪で、中世的な顔立ちの青年。

だが、明らかに他の外国人と比べて雰囲気が違った。

何とも言えない異様なオーラ。

数秒目が合っただけでそれ以降は何もなかったが、犬神は確信した。


(近日中に日本で何かが起こる!)


犬神は自然と笑みを浮かべていた。後輩に呼び戻されるまでは。


「先輩?笑顔がキモいですね」


狩谷の空気を読まない言動はいつものことだが、犬神は自身のシリアスが奪われた気がしてイラっとした。


「もういい。行くぞ。あー、えっと、ご協力感謝します」


犬神はビシッと敬礼すると狩谷を連れて羽田を出た。

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