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銀兔の宴(仮)  作者: a~A
序章 503
3/26

2話 集結せし兎

同時刻 イタリア ローマ


街道を走る一つとその後ろでてくてくと歩く二つ、合計で三つの影があった。

三人は一様に燕尾服のような制服を着用している。



「おい急げ!遅ぇぞ!!」


そこでは一際大きな声が…いや、怒声が響いていた。

自称ボスの右腕、アルメルだ。

燃えるような真っ赤な髪でうなじが隠れる程度には髪が長い。そのため髪を後ろで縛っているが性別は男である。切れ長の鋭い目付きをしていて不良に見えるのが特徴だ。


「お前らたらたらすんな!日本にいくぞ!俺ら【銀兎】にケンカ売ったことを後悔させるぞ!」


アルメルが力説するが、他の二人のメンバーはだらしない。


「え~。アルメルだけで行ってきなよ~」

「焦っても何も始まらない」


前者のやる気のない声はクリスだ。

クリスは金色の髪を後ろにかきあげているが然程長髪でもない。アルメルと同様に切れ長の鋭い目付きをしているが不良には見えない、怠け者の男。

身長は191cmと長身でまた隆起した筋肉が力強さを物語っている。


後者は冷静な声でアルメルを宥める。

ヴォルフだ。【銀兎】の参謀役である。

日系アメリカ人で髪は黒髪。目の色が黒がかった藍色をしている。髪を後ろで束ねており、ポニーテールのように靡いている。

黒縁眼鏡を掛けているため、特徴としては他人と見分け安い。身長は187cmと少々高めであり、また、がたいも良い。



クリスならまだしもヴォルフにまで言われてしまってはアルメルも黙るしかない。


「チッ!すみませんボス、遅れそうです」


アルメルが空を仰ぎながら呟いた、その時だ。


八人ほどの一団が立ち塞がった。


「クソッ!お出ましか!!」


アルメルは舌打ちしながら毒づいて、腰の両サイドのホルスターから拳銃を引き抜いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


7月6日 アメリカ ロサンゼンルス



昨日の雨の降りが強くなり、また風の影響も出始めたため、飛行機は運航を見合わせることになった。


日本行きは延期となったためラビッツとシュナイダーは旅先のホテルで過ごしてる。

彼らが泊まったホテルはきれいなもので、部屋と従業員がきちんとしているところだった。

近頃そういうちゃんとしたホテルが減少しているため、シュナイダーは当りを引いたな、と思っていた。


シュナイダーはロビーから部屋に戻ると直ぐさまラビッツの部屋に向かった。このとき、すでにチェックインしていたため従業員は彼を引き留めはしなかったら。

シュナイダーとラビッツの部屋は二階である。

シュナイダーは一旦自分の部屋に戻り、隣の部屋へ向かった。

隣の部屋のドアを二回、軽くノックすると低く嗄れた声で、「入れ」と言われた。

ドアをあけるとソファーで新聞を読んでいたラビッツが顔を上げた。


「ボス、アルメルらが奴らと交戦したようです」

「! アルメル達は無事か?」


シュナイダーの嫌な知らせにラビッツは肝を冷やした。アルメルたちが心配になったのである。


「いえ、ヴォルフとクリスがいたから無事だった…と」

「そうか…。ん?待てよ。今、いたから、と言ったか?」


シュナイダーの知らせはアルメルらの無事を報告したものだった。

だがその知らせにラビッツは、疑問を抱いた。


「はい。これはアルメルがこぼしていたことですが、二人が居なければ危なかった、と」


ラビッツはにわかに信じられない事実をつきだされ、薄い困惑の色を浮かべた。

元より、ラビッツ率いる【銀兎】は人数こそ他のファミリーに劣るも個々が精鋭中の精鋭である。それ故に受ける依頼の多さは他のファミリーより数倍上回っているため、こうしてファミリーのボスであるラビッツも依頼をこなすハメにもなっている。

人数の少ない割に世界有数のマフィアであり、また裏社会において、その名を知らぬものはいないくらい有名だ。


その世界有数のマフィアの一員が、多勢とはいえ舌を巻くのはただ者ではないという何よりの証であった。


「ヴォルフやクリスも、一人だとあのレベルが揃うと危うかった、とのことです」

「それほどの手練れか。ヴォルフもクリスも今回は運が良かったな。依頼は無事達成したか?」


ラビッツは三人が無事であることに嬉しさで少し満たされた気分を味わった。


「はい。滞りなく」

「そうか…。良くやった、と伝えてくれ」

「yes boss」


シュナイダーは顔を綻ばせたラビッツを誇らしく思えた。


(日本の危機が迫っていて余裕ないくせに、仲間の安否聞いて喜ぶとか…。あんたやっぱり大物だよ)


シュナイダーは心からラビッツに称賛を送った。



「ところで、シュナイダー」

「はい、何でしょうボス?」


ラビッツはクククと苦笑した。


「今はプライベートだ。ボスじゃなくていい」


ラビッツは苦笑しながら別の解答をした。

するとシュナイダーは盛大にため息を吐いた。


「はぁ~~~。俺、こーゆーの本当に苦手なんだよな~、親父」

「ククク。それでいい。それで」


シュナイダーは許可を得た瞬間に素に戻った。

それを眺めてラビッツは悪戯な笑顔を浮かべた。

低く嗄れた声も優しくなり、和らいでいる。


「シュナイダーよ、彼女はできたか?」

「出来てたら、さっさとファミリー抜けて平和に暮らしとるわ、この老い耄れが」


ラビッツは、彼女いない歴=年齢、のシュナイダーをみてニヤニヤしている。

一方、シュナイダーは心底うざそうにしている。

これは良く家庭でみられる家族の会話であった。


「そろそろ彼女見つけんと、ファミリー内で相手見つけて結婚するハメになるぞ」

「ほっとけ」


ラビッツまだニヤニヤしている。

シュナイダーは面倒な親を持ってしまったと思っていたかは、定かではない。

シュナイダーはラビッツの実の息子ではなく、養子である。これはアルメルも同様で孤児院にいたところをラビッツに拾われたのだ。

本当の親の愛情を知らずに育ったシュナイダーは今ではラビッツが実の親であるかのように接している。

またこれはラビッツも同様であり、ファミリーの大半が彼が集めた身よりのない子供達であった。

無論、その過半数が成人していて、子供と言えるのは極僅かだが。


「じゃあ、あれだな。俺が死ぬ前にお前が結婚しなかったら俺の娘と結婚してやってくれや。なぁシュナイダーよ」

「はぁ?また縁起でもないことを。てか、あんた娘いたのかよ」


シュナイダーはぶっきらぼうに言った。

ラビッツは幼少の頃からしっているシュナイダーが我子のように愛しくて、ついつい悪戯をしてしまうのである。

これは生ける親の性ゆえか。

そんなとき、ふと思い出すのは彼の最愛の妻が最期に残した言葉と姿。


<私が愛した、この娘とこの国を、今度はあなたが愛し続けて――>


ラビッツは最愛の妻の最期に残した言葉をふりかえって、強い意思を再確認した。


(イグゾースト、貴様が手を出していい国じゃない)


急に黙り込んで動かなくなったラビッツをシュナイダーが狼狽する。


「おい、親父?」

「ん?おぉ、すまない。考え事をしていた」


そう言ってソファーを立ち上がったラビッツは、窓の外を確認し、シュナイダーに告げた。


「雨が止んだ。これより日本防衛に向かう!」


それはラビッツの揺るがない意志を感じさせる強い言葉だった。

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