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銀兔の宴(仮)  作者: a~A
序章 503
2/26

1話 銀の兎が見据えるものは何か

7月5日 アメリカ・ロサンゼルス


「雨か…」


彼はそう呟いた。

ポツポツと降り始めた雨にそっと目を細める。


金色がかった白髪は短く、中世的な顔立ちの青年。服装は黒のスーツのようだが少し違い、上が燕尾服のようになっていて、また、袖がない。肩口からYシャツの袖が伸びている感じだ。

赤と黒のチェックのネクタイが妙に様になっている。

彼が呟いた丁度そこに一台の黒いリムジンが入って来た。

午前二時を過ぎた真夜中のホテルの駐車場。二人の男がそのリムジンを待っていた。


依頼人(クライアント)だ。行くぞ…シュナイダー」


片方がリムジンの到着を確認すると、それまで閉じていた口を開いた。

低く嗄れた声に反応し、シュナイダーと呼ばれた青年は短く応える。


「yes,boss」


ボスと呼ばれた、低く嗄れた声の主は、ラビッツ・シルヴァニアだ。アメリカのマフィア【銀兎】の棟梁にして、裏社会を牛耳るほどのカリスマ性を持った男だ。

鼻に顔を上下に分けるようにつけられた傷痕と肩甲骨まで伸ばされた赤茶けた髪が特徴だ。実際70歳を越えるジジイだが、そんな時代の流れを感じさせないほど若々しい顔をしていて40代に見える。髭面ではあるが、無精髭ではなく、顎髭が丁寧に整えられている。身長は然程長身と いうわけでもなく、且つ低くもない。

黒いローブのようなコートの下には幾重にも通った死線の数々が物語る、傷痕が存在しており、また、筋肉質である。


黒いリムジンの中から依頼人(クライアント)が出てくる。何でも、電話で話すのは盗聴など危険だとか。以下の理由により、直に交渉しに来たらしい。ここまではシュナイダーが知らされている内容だ。

だが明かされる内容によっては交渉を断らなければならない。

シュナイダーは複雑な気持ちだった。

理由は簡単だ。ボスであるラビッツは依頼を断ることがまず無い。無論仕事が多ければその分報酬金で貯金も貯まってく訳で良いことではあるが。


(…はぁ。今月のノルマは稼いだからもう仕事したくないなぁ)


シュナイダーがそんな風に考えてると、少し前をあるくラビッツがシュナイダーにあるサインを出す。それは昔日本でちょっと流行ったアレだった。


(お・も・て・な・し?おもてなしですか!?)


それは国際的なスポーツの大会、オリンピックの開催地が再び日本に決定したときに日本のプレゼンで、利根川クリスタルが使っていたアレだ。

シュナイダーはさらに複雑な気持ちになった。

仕方ないことだ。ラビッツはアメリカ出身であるが『三度の飯より日本が好き』な人物だ。

強面からは創造も付かない位、日本愛に満ち溢れた人だったのだ。


ため息混じりに了解の意識を示す。軽く敬礼っぽく手を額に掲げる。

するとラビッツは満足そうに頷き、依頼人へと歩き出した。雨粒が心無しかいつもより冷たく感じた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


静まり返った街の中に、少々洒落た外見のバーがある。一見、洒落た店に見えるが、内部は薄暗く、レトロな雰囲気のバーだった。

客は殆ど居らず、数人見える客は皆酔いつぶれている。


「マスター、個室借りるぞ」


ラビッツはバーのマスターらしき人に目を会わせずに言った。するとマスターらしき人は軽く頷いてくれた。了解らしい。


個室に入って依頼人(クライアント)と対面で座る。勿論、ラビッツの護衛であるシュナイダーと依頼人の護衛らしき屈強な黒スーツの男は後ろで待機。


依頼人は灰色のローブを着用しており、フードを被っているため、顔が見えない。身長はシュナイダーよりやや低い位の背丈。

そんな依頼人が、マスターが待ってきてくれたウィスキーをくいっと煽ると依頼について話始めた。


「俺ぁ、イグゾーストってんだ。闇商売をやってる。今回はよろしく頼む」


どこか調子の掴めない口調。イグゾーストと名乗った男はラビッツに向かって手を差し出した。

その瞬間、シュナイダーの左手が懐に伸びた。だが、それを予想していたのかラビッツは右手でそれを制し、そのまま右手を相手の手に絡ませ、握手した。


「あぁ。宜しく頼む。【銀兎】のラビッツ・シルヴァニアだ。この俺にできる範囲内なら出来るだけ協力しよう」


ラビッツの低く嗄れた声が個室に響く。

イグゾーストがにやりと口元を歪めた気がした。


「本題だ。俺はある組織の後ろ楯によって日本を堕とす計画を練った」


イグゾーストが爆弾を落とした。日本を堕とすと言った瞬間にラビッツは大きく目を見開いた。


「……本気で言ってるのか?」

「勿論、本気だ。あんな脳だけの弱小国なんて滅ぶべきだ。なぁ、そう思うだろう、Mr.シルヴァニア?」


ラビッツの問いにイグゾーストは悪びれずに言った。すると


「ジュジュジュ!?」

「おおう!?」


ラビッツは叫んだ。

突然の事にイグゾーストもびっくりしたようだ。まぁ、部下のシュナイダーも同じようにびっくりしていたのでイグゾーストの恥態を笑う者はいないだろう。


「すまない。取り乱した…」

「い…いや、大丈夫だ。うん。取り乱すこと位、誰にだってある」


ラビッツが少々気を落とした風に見える。イグゾーストは意外なラビッツの一面に戸惑っていた。


(いや、誰だって取り乱すけどさ。あんな取り乱し方って普通じゃないでしょ。…なんか、上司の恥なのに俺も恥ずい)


シュナイダーの心のツッコミも声に出さないため、ツッコミにはなりはしない。


「それでだ。依頼の件なんだが…」

「期待してるぜ」


話を戻そうとラビッツが開口したがそれを遮ってイグゾーストが言う。


「…いや、残念だが期待には応えられない」


ラビッツが感情の読めない声で冷徹に言い放った。

その瞬間、イグゾーストの顔が歪んだ。そして狂ったように叫んだ。


「ちきしょぉぉぉぉ!!!!!何故だぁ!何故みな加担しないぃ!?イタリアの【トゥミカ】もダメだったんだぞ!!くそがぁ!」


ダァンとテーブルを叩く。ウィスキーの入ったグラスがカタカタと揺れる。そのグラスは手で弾かれ、床に落ちて、割れる。ウィスキーと氷が個室の床に散らばる。


それを見下ろして舌打ちをする。さらに割れたグラスを左足でサッカーボールキックをする。


(右足首にマグナム…か。袖口にコンバットナイフねぇ…)


イグゾーストの怒りの衝動に冷静な洞察するとシュナイダーは一本の木の棒を取り出す。長さ30cmの角材はお手製の仕込み刀。長さが長さなだけに短刀である。

刀身は袖裏に隠して柄を握って待機。イグゾーストが妙なマネをした瞬間に斬りにかかれるようにスタンバイを済ませる。

だが、怒りに身を震わせるイグゾーストに口を開いたのはラビッツだった。


「………期日はいつだったんだ?」


イグゾーストは言葉を失った。

だが一瞬の間の後に口を開いた。


「……い、一週間後だ」

「そうか…」


ラビッツは応えを聞いてしばらく虚空を見つめると、彼は残念そうに頭を振った。


「すまない。やはり間に合わんようだ」

「お、おう」


イグゾーストの怒りも興が削がれたのか、自然と修まっていった。

ちょうどその頃、シュナイダーは我にかえった。


「ボス、宜しいのですか?」

「…あぁ。構わない。それより早急にファミリーに伝えたいことがある」


シュナイダーの情けもラビッツはスパッと割りきった。

ラビッツは個室から出て出口へと向かう。無論、シュナイダーはその動きに一瞬の遅れもなく、あとに続く。


「…了解しました。至急ファミリーへ伝達を開始します」


シュナイダーの物分かりの良い返答にラビッツは苦笑いしながらバーを後にした。


「さぁて、我が愛すべき第2の故郷を護るとするかね」


けして大声ではなかったが、降りが強くなった雨の音にラビッツの声が伝播した。

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