阿鼻叫喚は続くよどこまでも
異世界に誘拐するという黒い人物は、さっきからルービックキューブを弄っている。
カチャカチャという音が妙に響く。
何しているんだろう?
誘拐...するんだよね?
何だか僕が不安になってくる。
だってあんまりにも地味だからなあ。
ただの暇潰しにしか見えない。
まあ、暇なんで自称誘拐犯を観察してみる。
全体的に黒い人物はもう紹介したので、頭おかしいの(銃装備ばーじょん)の紹介をすることにする。
肩幅は広く、身長も大きい。
というか、ゴツい。
筋肉モリモリ、服はちょっとピチピチ。
僕も男として筋肉は欲しいけど、あんなにいらないと思う。
『KILL・FREE』と、恐ろしいことがプリントされたTシャツに、真っ赤な革のジャケット。
そしてジーンズ。
すべてぴったり、じゃなくてピッチピチ。
Tシャツについた血痕と肉の切れ端が恐ろしい。
「さて、諸君。行こうか」
終わったみたいだ。
得意気に全面が揃ったルービックキューブを掲げている。
胸を張り、誇らしそうだ。
心なしか、ニンマリ笑っているようにも見える。
しかし、なにかルービックキューブがおかしい。
ただのオモチャの筈なのに、正方形の箱が恐ろしく思える。
それはもう、ここにある全ての人より怖い。
冷や汗が額をつたう。
ブロックの隙間から、何か、出してはいけない、隠さなければいけないモノが溢れだしそうで...
「い、嫌だ。誰か助けてっ」
叫んだのは同級生の女子生徒だった。
恐怖のあまり、ボロボロと涙を流している。
その声をかわぎりに、一旦静かになったみんながパニックに陥る。
ちょっとヤバい。
叫びだしたかった。
身体にまとわりつくような不快感。
叫んでコレを洗い流したい。
洗い流したい。
でも絶対に叫ばない。
ムカつくから。
「おい、ど、どこに連れていくつもりなんだっ」
「もういや、うちにかえりたい」
「警察呼ぶぞっ」
「マサくん起きてってば、お願いだってねえ、起きてってばっ」
「あ゛あ゛あーッ!」
まさしく阿鼻叫喚。
本日二回目?
いつのまにか、恐ろしさはなりをひそめ、なにも感じられない。
黒い人物はやれやれと言うように頭を振っている。
頭おかしいの(銃装備ばーじょん)はイライラ、カチャカチャと銃を動かす。
怖いな、なんか撃ちそうで。
スーパーハイテボンバーヌとかなら撃てそう。
何なのかは知らないけれど。
でも絶対笑えるのは間違いない。
まだ異世界に行けない。




