月まで届け不死の煙/竹取飛翔
今回はもこたんとぐやに視点を合わせた短編です
もこたんの炎を操る力を得た時の話とぐやの日常の一部です
「た、助けて……誰か!」
時刻は夜中。見知らぬ少女が助けを呼んでいる。で、そこに偶々居合わせた私
少女の目の前には下等妖怪。まぁ、話し合いとか通用しないタイプだろう。出来るんなら既に喋ってる筈
このまま見捨てるのもいいけど、それだと後味が悪いわ
「燃えなさい」
妖怪の体の一部を掴んで発火する
一瞬で妖怪は火のだるま。私にもちょっと引火したけど不老不死である私が気にすることじゃないわ
「こんな夜中に出歩くなんて何考えてるの?死にたいの?」
火だるまを適当に投げ捨て、火事にならないように火を消す
最後に一度踏んで絶命を確認する。まぁ、これで生きてたらもっと燃やしてただけなんだけど
「次からは気をつけなさい。食われてもいいんなら止めはしないけど」
ついでにこれを持って行きなさい。と言って予備の松明を取り出して火をつけ渡す
「あ、ありがとうございます」
「んじゃ、気をつけなさい」
踵を返して来た道を戻る
今日も野宿だ。乾いた枝を探した方がいいだろう
「そ、その!」
「ん?何?」
家までついてきてくれとか言われたら断るけど、一応は聞いておこう
「あなたは陰陽師……なんですか?」
「……うんにゃ、違うよ」
「じゃあこの炎は……」
そう言いながら松明の炎を指さす
…………まぁ、その、なんだ
「運が味方した結果よ」
そう言い残して私はその場を去った
私の炎。あれは一言で言うなら妖術だ
何故人間(いや、人外かな?)の私が妖術を使えるか……それは数年前、不老不死になってから数年の時が経った時のことだった
あの時、私はとある竹林で迷っていた。後に聞いた話だとあそこは迷いの竹林と言うらしい
迷いの竹林は筍がよく採れると評判なのだが、一度入れば運が良くない限り出られないと言う
まぁ、よくよく考えれば人が立ち寄らないのだから筍がよく採れるのは普通だろう
私はなんにも知らず、ただ野宿で身を隠すためにそこに入って歩き続けた
そして、竹林で一晩明かし、さぁ竹林を出ようと思ったら私は見事に迷った
大体一週間だろうか?何度か自殺して飢えを凌いだ事もあったと思う
一日中真っ直ぐ歩いた時もあったが、外には出られなかった
そんな時だった。私は何故か落とし穴に落ちてしまった
あの時の驚きは今でも覚えている。そして、落とし穴の上から私をニヤニヤとしながら見るあの妖怪兎も
「ふふふ……馬鹿な人間が引っ掛かった!」
(…………どうでもいいからここから出せ)
あの時、特別な力が何もない私にとって、あの落とし穴を脱出する術は無かった
ついでに言えば竹林に行くまで何度か妖怪に食われた事もあったからやられたらやり返すとかやられた事での屈辱とか、そういうのはもうどうでも良くなってた
だから、落とし穴に落とされて見下されてもそんなに悔しくは無かった。気が済んだらここから出してくれ。ついでに竹林からも。としか思ってなかった
「……あれ?なんか無反応……」
「ふわぁ……このまま寝ちゃおうかしら」
あの時は夜通し歩いてたのもあってかなり眠かった
落とし穴の土がひんやりとしていて逆に寝心地が良かったとも言えた
明日は寝違えて体中痛いだろうなぁなんて事も思っていた
「……お~い、なんか反応してよ~」
寂しそうな目でそんな事を言ってる妖怪兎を見てざまぁみろとか思ったのは秘密だ
「わー、驚いたなー悔しいなーここから出せー」
感情込めずにそんな事を言ったのは覚えてる
そっからなんか妖怪兎が笑い出して、どうせなら埋めようとか言って土ぶっかけて来た所で久々にブチギレた。食われるのには慣れてたけど(痛いのは慣れない)土ぶっかけられるのは慣れてなかっただけなんだけど
気が付いたら落とし穴から出て妖怪兎の耳つかんで妖怪兎を宙ずりにしていた
「……離してくれると嬉しいんだけど」
「ここから出る方法教えたらいいけど?」
「あっち」
「そう。行くわよ」
「え、ちょっ、離して……」
数歩歩いた所でまた落とし穴に二人同時にハマり、妖怪兎に馬乗りになって殴りまくったのはいい思い出だ
で、半日かけて落とし穴から出た
「あー腹へった」
「とんだとばっち……」
「燃やすわよ?」
「すみません」
その時からだった。私が炎を扱えるようになったのは
いや、多分無意識に燃やすって言ったんだろうけど、確かに手のひらから炎は出ていた
落とし穴に落ちて体の一部を打ったから出るようになったのか妖怪兎に馬乗りになって殴りまくったから出るようになったのか、未だにそこは分からない
そして、妖怪兎の案内の元、私は無事に竹林から脱出した
炎が出せると気付いたのは数日後だったけど
さて、そんな思い出話をしてる内に薪と寝るのにちょうどいい場所を発見した
薪を適当に重ねて火を付ける
パチパチ。と音がする
空を見ると、星と月が黒色の空を照らしていた
あの月に、あいつは居るのだろうか
多分、人間が月に行ける事はこれから先無いと思う
私の復讐は終わりを迎えるのだろうか……それは分からない。けど、もし、月に行ける事が出来るようになったのなら。私はあいつを燃やし尽くす
あいつ……輝夜を、骨も残さず燃やし尽くす
それまで、私は人類がどんな歴史を紡いでいくのか、この目で見届けよう
「姫様、いい加減起きてください。最近怠け過ぎです」
「うぅ~……折角何にもない日なのに……」
「婚約してくれと言ってくる輩が居なくなって精々してるのは分かります。けれど、最低限の生活リズムは守ってください」
「分かったわよ……」
渋々、私は布団から出て、起き上がる
京から逃げて数年が経った
私はこの迷いの竹林に永琳と一緒に暮らしている
そう簡単に出られないと評判のあるこの迷いの竹林だけど、永琳はすぐに外に出るための道などを覚えたため、迷うことはまず無くなった
今、私たちが住んでいる建物は永琳が建ててくれた
なんか建築中に悲鳴とか聞こえてたのは気のせいだと思う。気のせい。そう、気のせい。ラリってた妖怪兎なんて私は見てない
「そういえばてゐは?」
てゐとは、私達が竹林に来た時にイタズラを仕掛けてきた妖怪兎で……うん。イタズラに引っ掛かった永琳がバーサーカーの如くてゐをフルボッコにしてた
それ以来永琳の事をお師匠様とか言うようになって私を姫様と言うようになった
永琳曰く、調教しましたとかなんとか。永琳怖い
「てゐなら裏手で餅をついてますよ」
「お餅?ちょっと貰ってこようかしら」
「もう朝ごはんですよ」
「ぶ~……じゃあ後で貰うとするわ」
「そうしてください。じゃあ、ご飯にしましょう」
最近のマイブームはてゐを膝の上に乗っけて縁側でボーっとする事だったりする
あの子あったかいし軽いし耳はフワフワだし可愛いんだもん
それに、やる事も無いから暇を持て余すのにはてゐを膝の上に乗っけてボーっとするのは最適……あ、餅つきやらせてもらおうかしら
「……ん?姫様、少し失礼します」
永琳はそう言うと、弓矢を取り出して薬の入った小瓶を括りつけて何処かにむけて射った
永琳がこれをする時は暮羽が薬をくれと叫んだ時だ
「また暮羽?」
「はい。今度は手が壊死したとか」
な、何があったの!!?ちょっ、本当に何があったの!!?壊死!?洒落で済むような事じゃないわよ!?
「冗談です」
「じょ、冗談なのね……」
「ただの精神安定剤ですよ」
本当に何があったの!!?
「さ、行きますよ」
「ちょっと!暮羽に何があったの!?」
「覚妖怪にトラウマ突きつけられまくったようで」
「あぁ……そう……」
もう何があったのかは追求しないでおこう
「……そういえば、永琳は暮羽に対しては優しいわよね」
「そうですか?」
「そうよ。薬をタダであげたり……あ、まさか惚れて……」
じゃなけりゃわざわざ薬を届けないし……
「断じてありません」
あるぇ?
「まぁ、友人ですよ。ただの友人」
「え~」
「私が月に行く前にわざわざ私の家に侵入してきた馬鹿だからよ」
「それだけ?」
「あと薬の実験台」
「暮羽ぁぁぁぁ!!その薬早く捨ててぇぇぇぇぇ!!」
「失礼な。流石に安全は確認してますよ。効果がどの程度かって事を確認したいだけです」
「そ、そう……」
ただ、毎晩悲鳴が聞こえてくるのは何なんだろうか
まさか兎で怪しい薬をじっけ……
「姫様?」
「な、何でもありません!」
「ほら、早く朝ごはん食べますよ」
「アッハイ」
永琳には逆らわないようにしよう。そうしよう
もこたんの炎はてゐと会った事により、運良く手に入ったという自己解釈を文に起こしてみました
ぐやとえーりんの暮らしてる建物は後の永遠亭です
次回は本編に戻ると思います