死期に楽しかったと言える人生を送りたい
百励編其の二完結です
とうとう、香李の死期が来た
もう、香李の髪も真っ白となり、しわも増え、寝たきりになっている
もう、今夜で香李の命も尽きるだろう
いや、もう数時間といった所かもしれない
「具合は大丈夫か?香李」
「うん……」
もう返事にも元気がない。それに、霊力も段々と少なくなってきている
歳は六十後半。この時代の中では、長生きした方だろう
「何か、欲しいものはあるか?」
「……昔の……」
「うん?」
「昔の……服を……」
昔の服?
「わ、分かった!」
大急ぎで俺の自室を漁り、次の巫女のために綺麗に折り畳んである巫女服を取り出す
取り合えず……九歳頃に着てた物でいいか?
それを持って香李の部屋に転がり込む
「持ってきたぞ」
「ありがと……」
そう言って、震える手で巫女服を受けとる
あぁ……こんなに痩せて……
「昔はこれを着て……旅をしたよね……」
「あぁ……昨日の事のように覚えてるよ」
「楽しかったなぁ……」
「あぁ……皆で野宿したり妖怪と話したり妖精と遊んだり……楽しかったよな」
「私も……覚えてるよ……」
「それならなによりさ」
あの時は聖徳太子に会おうと思ってたんだっけか
その時にチルノ、大妖精、ルーミアと会ったんだっけか
ほんと、昨日の事みたいだ
「後は親子水入らず……よね」
「そうだね……」
なんやかんやでもうあの子も寿命ね……
私達はあぁ、死ぬのか程度なのに……これが妖怪や妖精と人間との違いなのかしらね
……さて、こんな時にも空気読まない馬鹿共が来てるわね
何十年経ってもこれだけは変わらないわね
音を立てないようにフウ達と外に行き、そのまま里の入り口まで飛ぶ
そして、馬鹿共の目の前に降り立つ
「貴様等、妖怪か!!」
……チッ
「るっさいわね。力の差を弁えなさい」
「妖怪と会話する口などもた……」
「吹っ飛べ」
「ぶっ!!?」
あら、今日は妖精達も結構やる気ね
「私達は今すこぶる機嫌が悪いのよ」
「まぁ、帰れって言っても帰らないだろうけど」
「だったら、潰すしか無いよね」
「悪いけど、手加減出来ないよ」
「赤色の肉塊になっても知らないわ」
「そう言うことよ。ってな訳でやられなさい」
「他に、欲しいものは無いか?」
「……もう、大丈夫だよ」
「そうか……」
香李の手を握り、涙を堪えながら話す
「この一生……幸せだったよ……」
「俺もだ……」
「じゃあ……そろそろ眠るね……」
あぁ、もうそんな時間か……
早いなぁ……ほんと、早いなぁ……
一瞬だよ。ほんと……
「お父さん、泣いちゃ駄目だよ?」
「分かってる……分かって……るさ……」
「じゃあ……おやすみ。またね」
「あぁ……また……数百年後……会おうな……」
そして、香李は静かに、ゆっくりと目を閉じていく
「お父さん……」
「何だ……?」
「……ありがと…………」
一瞬、香李があの時の……神社で一緒に料理したり、ぐだぐだしたりした、あの時の姿に戻った気がした
香李は目を閉じ、少し、笑った後、眠った……
「香李……」
段々と、香李から霊力が無くなっていくのが分かる
そして、霊力の塊……魂が空へと昇っていくのが分かった
「香李ぃ…………」
俺は、香李の亡骸に顔を埋めて静かに泣いた
あぁ……泣くなって言われたばかりなのに……
「ここは……?」
気が付いたら、何処かの岸に居た
体が軽い……あ、若返ってる?
あぁ……死んじゃったんだな。で、ここは三途の川の一歩手前
「今日はあんたがあっちに行くのかい?」
少し前から声をかけられた
声をかけた人は、赤髪で、釜を持っている
直感で私は死神だと分かった
「お願いします」
「じゃあ……」
と、言って死神さんが手を出してくる
自分の着ている白装束を漁って、見つけ出した六文銭を死神さんに手渡す
「うん、確かに受け取ったよ」
そう言うと、死神さんは船の上に立つ
「思い残すことは無いかい?」
「……無いと言ったら嘘になります。ですけど、死んでしまった物は仕方ありませんから」
「そうかい。ほら、乗りな。連れてってやるよ」
「ありがとうございます」
そう言って、船の上に足を運び、座る
「あんたが行くのは、天国か地獄か……どっちだろうねぇ」
「さぁ……分かりませんね」
「まぁ、もし、気が乗ればの話だよ?転生するためにえい……閻魔様の元で働くのなら、あたいの話し相手になってくれないかい?」
「……良いですよ」
「お、じゃあ、楽しみにしてるよ。あたいは小野塚小町。死神だよ。あんたは?」
「……桜庭香李。元、百励の巫女で、桜庭暮羽の娘です」
「香李ね。覚えたよ。じゃあ、三途の川、横断始めるよ」
……お父さん、また、数百年後…………
香李が死んでから、百年程の時が流れた
あれからは陰陽師が来る頻度も少なくなり、次の代の巫女さんを見付けては育てる日課を続けていた。とは言っても一人か二人だけどな
香李が死んで、三日三晩泣き続けた俺は、暫く立ち直れなかったが、数週間後に何とか立ち直った
その後も巫女さん達は死んで、世代交代を続けたが、やはり泣き癖は治らず、死んでは泣きを繰り返していた
さとりに男だから泣くなと言われつづけてたが、俺は泣いていた
そして、時代は代わり、平安時代に突入した
陰陽師は段々と増え、都が移動したりと色々とあった
そんな中で、俺はあいつ等と会うことになる
次回から新章突入です
レギュラーはルーミア+αです