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仮面の魔騎士ドレイク  作者: ulysses
プロローグ
1/5

第000話

「伝令っ、衛士隊サンティネル第三小隊、半壊しましたっ!」

「くそっ、間に合わなかったか。冒険者アヴァンチュリエどもは、どうだ!?」

「住民の避難誘導、及び小魔獣への対処を行っていますっ」

「あの化物どもの処には、廻せんか……。第五小隊に第三小隊の動ける者を合流させろ!」

「了解。第一小隊、第四小隊も、間もなく配置につけます」

「よし、化物二体を包囲、殲滅する。衛士隊の力を、今こそ示すときぞ!」

「はっ!」


 簡易指揮所を出る衛士隊総隊長レオポルド・シャントルイユは、黒煙の上がるベルニス街の方向に目を向ける。

「くそっ、いつの間に城壁内に入り込まれたのか……。副長、指揮所を現場に移す」

「はっ。……、勝てるとお思いですか?」

「勝つ……、と言うしかないのだ、どれだけ犠牲を払おうとも。憎むべき魔獣どもめ!」




         ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞




 軒を寄せ合う建物、生地の並ぶ織物工房、安宿、庶民向けの食材店。普段のベルニス街は、行き交う人々で騒々しく賑わっている。

 今はあちこちで建物が崩れ、内部をさらし、瓦礫のうずたかく積まれる中で炎が燻り、黒煙を上げている。今しも、通りの向こうで三階建てのアパルトマンが崩れ落ち、土煙をあげる。

 路地の影には衛士たちが待機し、包囲が完了するのを待っている。


 石畳に影が落ち、頭上を黒い影が通り過ぎる。

 目の前の雑貨屋が破壊され、紅い塊が躍り出て咆哮を上げる。


 それは約2.5mの巨体を筋肉の鎧で覆い、全身に真紅の鱗を纏っていた。

 突き出した長い鼻面には鋭い牙が並び、頭部には発達した隆起や畝が走る。裂け目のような眼、巨大な眼球の縦長の瞳孔は怒りとともに、暴虐の喜悦を浮かべる。

 背を丸め二足で立ち長い尾を持つ姿は、竜とも人ともつかぬ、醜悪な戯画ともいえた。

 炎のように熱い息をふいごのように吐きながら、その禍々しい【もの】は、太く逞しい鉤爪の腕を振るい、瓦礫を薙ぎ払った。


 衛士たちは、物陰で命令を待つ。震えながらも槍を構え、化物を睨む。

 さきほどの、地に影を落とした【もの】が、化物の頭上を舞った。

 それもまた、異形の存在だった。


 巨大な蝙蝠の翼をはばたき、半鎧に小さな布地を纏った裸身をさらす女の姿。

 右は青銅の脚、左はロバの脚、両の手には鉤爪。淫蕩な笑みを浮かべる、美しい顔。肉感的な唇はほころび、のこぎりのような歯を覗かせる。


 暴竜は息を吸い込み、頭を仰け反らせ天を仰ぎ、咆哮する。

 この世のすべてを呪い、討ち滅ぼさずにはいられない、そんな憎しみを込めた巨大な咆哮が、大地を震わせた。


 誰も気づくことはなかった。

 何故かそのとき、竜の左眼から一筋の涙がこぼれ落ちたことを。




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