硝煙混じりの愛と血の霧
いつも通りカニバ、グロ注意
戦争を助長するような意図は一切ありません。
とある国で、内戦が起こっていた。
勢力は現地の政府軍と反政府派、そして反政府派につく外国からの派遣勢力となっている。
現在は、反政府派が有利に戦局を進めているものの、政府軍のゲリラ攻撃や地雷などによる犠牲が後を絶たない。このままでは、反政府派も疲弊しきってしまうであろう。
そして、反政府派のとある派遣部隊に、ある兵士がいた。彼は卓越した戦闘能力を持っていたが、仲間達は皆彼を評価はしていたものの、深く関わることを皆避けていた。
そして、そんな彼を擁する部隊は、現在、戦闘の真っ最中であった。装甲車の援護任務中、通過地点である街に差し掛かった所、装甲車が地雷を踏んでしまい、履帯が切れ走行不能になった所をゲリラ部隊に襲われたのである。
「クソっ、支援はまだか!こちらの弾もタマもなくなっちまうぞ!」
「要請はしています!しかし歩兵も戦車も危険すぎるという理由を付けられ却下、唯一通った航空支援もこちらが座標を割り出すまで来られないということです!」
「クソが…!俺等を何だと思ってやがる…!」
「しかし、私たちは幸運ですよ。彼がいるんですから」
そう言った直後、前方で大きな爆発が起こり、建物といくつかの人間が吹き飛んだ。
「アイツ…!爆破するの一言も言えねえのか…」
「あんな人間が、まともに号令を使うと?」
「号令はまだいい、だがアイツは前に出過ぎだ!こっちはアイツをまともに援護できねえんだよ!」
「まあまあ、どうせ彼は死にませんし、大丈夫でしょう」
そう話す前で、鋭い銃声と、撃ち抜かれたであろうゲリラの悲鳴とが響く。
不意に銃声と悲鳴が止み、前に出ていた兵士は装甲車へとゆっくり歩いていく。
「殲滅したか?」
「ああ」
「…わかった、念のため航空支援は要請し続けておく、座標も割り出せたからな」
「私から逃れられる奴もそうそう居ないと思うがな」
「自惚れないことだ、食いしん坊くん」
「…了解、ヘタレの軍曹」
そう言って、その兵士はまた爆破した建物に向かい、遺体をひとつ回収する。
そしてナイフを取り出し、遺体を少しずつ切り、齧っていく。
「またやってるよ…」
「病気にかからないもんなのかね」
そんな言葉が彼の胸に突き刺さる。
無言のまま、ナイフを左手に持ち遺体の腕だけを切り取り、骨付き肉のようにしてまた齧る。その様子は、行儀のいいハイエナのように見えた。
彼には、遺体を食べるという癖があった。
普通の食事も摂れる上、栄養が足りていないというわけでも無いが、彼はそれを辞めない。
ポケットから戦闘用興奮剤を取り出し、腕に刺す。いつも見えるのは、「特定の病気を持つ者、妊婦は使用するな」という注意書き。彼はいつもそれを見て、そんな弱い者が軍にいるはずが無いと呆れていた。
切り取った腕が完全に骨と化した頃、突然彼の横っ面に銃口が向けられた。
彼は何も言わず、その場に立ち止まる。
建物の内部にいるせいで、味方からは見えない。
絶望的な状況に見えたが、彼は落ち着いて、向けられた銃をよく見た。微かに震えている。
それを確認した直後、彼は銃を奪い取り、銃を持っていた人間を押し倒す。
ライトを点灯させ、倒した人物をよく見た。
現れたのは紛れもなく政府軍の女性兵士だったが、彼は引き金を引けずにいた。
両者は暫く沈黙したのち、彼は銃口を下ろしてしまった。
「…何故?」
「俺にも分からない、だが生きたいだろ?」
「まあ」
「なら俺に従え、悪いようにはしない」
その女性兵士は頷き、立ち上がった。
「…捕虜?珍しいな、いつもならすぐ殺して腹に入れるくせに」
「まあ…何となくだ」
そう言っている内に装甲車の修理が終わり、また移動が始まる。
装甲車には空きが無かったため、彼女は兵士と共に歩かされた。
「捕虜になってずーっと歩かされた、って私が言ったらどうするんでしょうね」
「殺されたなかっただけマシだと思え、その口を閉じろ」
「答えにもなってないわよ」
結局両者の口は閉じられないまま、部隊は基地へ帰還した。
そして、彼女は捕虜となった。
「…なんであんたがここにいるのよ」
彼は、自ら彼女に食事を運んでいた。
「まあ…何だか懐かしくてな」
「懐かしい?」
「ああ…俺のお袋に似てるんだ、俺が一番最初に愛した人」
そう言って、彼は自分の母親の話をし始めた。
彼は元々、母子家庭に生まれたただの学生だった。
彼らは裕福では無かったが、母は彼を愛し、彼もまた母を愛した。一人でいることが多い彼にとって、母は唯一心を許せる、恋人のような存在となっていた。
しかしある日、彼が外出している間に、母は自宅で突然心臓が止まり、そのまま亡くなった。
彼が帰ってきた時には、母は既にただの肉となっていた。
彼はショックで何日も家に閉じこもり、それを抱きしめ続けた。
家にある食べ物も、口に入らなかった。
閉じこもってから3日目、彼は遂に空腹に耐えられなくなった。
目の前の肉を、臓器を、ハイエナのように食い漁った。
腹に頭ほどの大きさの穴が空いた頃、突然家のドアが破られ、彼は近所の軍人に保護された。
それからは彼も、人肉以外の食事を摂り、普通の人間のように過ごしていった。
しかし彼の中には、食べた母の味がずっと残っていた。
彼は同じ味を求め、人を殺せる、そして助けてもらった義理があるという理由で軍に入隊した。
「…で、私はその食われた母親に似てると?」
「ああ、だが今食べたいとは思っていない」
「なんで?」
「言っただろ?俺にとって、母親は恋人のような存在だって…大切な人を、また失いたくないからな」
「…はあ!?」
突然の告白に、彼女は黙って俯き、赤面していた。
それが彼女の返事でもあった。
間もなく、彼女は解放された。
家の場所を伝えられた彼は、休暇を取れれば彼女の家に必ず行くようになった。彼女は予備兵となり、前線を退いた。
「…このペン型注射器…こっちの軍のものじゃないか」
「それ?そりゃあ…もらったのよ、あんたたちから」
「ハハ…悪い奴だ…」
そんな日々を送り、彼の心も、徐々に満たされてきた。人肉を食べることも少なくなった。
しかし、戦闘が長く続き、暫く彼女の家に行けなくなっていた。
そしてある日、基地でとある報告があった。
敵の居住地に侵攻、これを壊滅させたとの報告だった。
彼は心に何か引っ掛かりながら、休暇を取って、翌日の朝に彼女の家に向かった。
その地区は、いつにも増して静かだった。
彼は嫌な予感がして、彼女の家へと駆け込んだ。
嫌な予感は、的中していた。彼女は心臓を撃ち抜かれ、ベッドに倒れていた。
銃は壁に掛けられたままで、彼女の側に置かれていた注射器も、使われた形跡はなかった。
彼は何も言葉を発せなかった。嘘だ、という一言のみが脳を駆け巡った。
窓が割れていたり、壁などが壊れてもいなかったし、部屋に侵入されて撃たれたようだった。彼女には、銃を取り、注射器を刺すくらいの時間はあるはずだった。
彼は机に日記を見つけた。震える手で、最初のページから遡っていった。
日記には、捕虜になる前から、これの前日までの記録が残されていた。
彼は、それの一字一句を見ては、それを忘れていった。その日記は、彼に耐え難い苦痛を与えた。
そして、最後のページ。
身籠った子供と、将来について書かれていた。
この戦争が終わったら、彼と幸せな家庭を築きたい。
それが、最後の行だった。それだけは、忘れられなかった。
「う…ああ、ああああ…」
わなわなと、震えた声を出しながら、彼は遺体に覆いかぶさり、泣いた。
そんな弱い者は、軍隊にいない。自分の考えが、心に深く突き刺さった。
「ああああ…」
どれくらい経っただろうか。涙は枯れ始めた。
「ああ…ア゛ア゛ア゛…!」
彼は行き場のない怒り、憎しみに体を沈めた。
悪いのは、彼だけだった。敵と恋に墜ち、彼自身がその敵を弱らせ、絶好のチャンスを狙われ殺されたことを勝手に恨んだ彼だけ。
彼は、置いてあった注射器を腕に刺した。彼は力を得て、残っていた理性を失った。
遺体の腕を掴み、左手にナイフを握り、切り落とした。
彼は、ただのハイエナに墜ちた。
遺体を食い漁る。その途中、ナイフは腹を裂いた。
そこからは、水と、生まれるのにはまだ早い胎児が出てきた。
へその緒を半分ほどで引きちぎり、高く持ち上げる。彼は上を向き、それを丸呑みにした。
彼はまた、泣き始めた。
その2つの遺体からは、彼がずっと求めていた味がした。
薬と感情に任せ、遺体を解体した。血はスキットルに流し込んだ。
それらを持って、彼は基地に帰る。日はすっかり落ちていた。
そして、事件は起こった。
弾薬庫に1人の兵士が接近。瞬く間に守衛は殺された。
その兵士は、爆薬を中心に、多くの弾薬と武器を持ち去った。
そして、そこにあった爆薬を1つ、起爆した。
弾薬庫は火に包まれ、騒ぎも大きくなった。
その兵士は逃げた。そして、とある廃墟の街に立て籠もった。どこか懐かしい街に。
兵士を捜索するために通過しようとした部隊が、その兵士によって壊滅したという報告が上がった。軍は、彼を保護ではなく、殺害することにした。
昼夜問わず、兵力を送り続ける。陸と空から。
その兵士も、持っている興奮剤等を使い、徹底的に抗戦する。
それらは尽く撃墜、撃破、殺害された。
夜になり、死傷者が3桁に上った頃、軍は航空支援と歩兵戦力を打ち切った。
送られる戦力は戦車だけになった。それらも撃破されていったが、それを続けたことにより、その兵士の爆薬は尽きてしまった。それは、もう車両の撃破は出来なくなったことを意味していた。
数々の戦車の亡骸を乗り越えて、軽装甲車両がやって来た。
もはや太刀打ちできないと悟った兵士は息を殺し、必死に隠れる。しかし、サーマルスコープを備えていたその車両には、無意味なことだった。
主砲から榴弾が発射される。転がっている遺体が吹き飛んだ。
しかし、兵士は間一髪、何とか爆発から逃れられた。
注射を打ちながら、車両の周りを走り回る。車両に装備されたグレネードランチャーから放たれた擲弾が、兵士を追いかけるように爆発していった。
彼は遺体から奪った機関銃を打ちながら車両の周りを回り、凄まじい咆哮を発した。
しかし兵士の体力も無限ではない。兵士は転んでしまい、動けなくなった。注射の効果が切れたのだ。
ポケットの中を探しても、もうストックは見つからなかった。
その瞬間、彼を嘲笑うかのように、爆発音は止んだ。兵士は、何か言い続けながら、機関銃を撃ち続けた。弾丸は尽く弾かれた。足を必死に動かそうとしたが、動かなかった。
そして、機関銃から弾丸が出なくなった。トリガーを引こうにも、カチカチと言う音が鳴るだけ。
「榴弾装填…目標、12時の方向、5m先、敵兵士」
車両の中では、彼の処刑時刻が刻々と迫っていた。
砲手は、射撃の直前、兵士の発した言葉を耳に捉えた。
「この…このクズどもがああああ!!」
兵士は、そう言った。そして、止まっていた主砲とグレネードランチャーが、動けない兵士を無慈悲に引き裂き続けた。
車両に乗った兵士達は笑いながら、それがあった場所を破壊し続けた。
彼は、大地にシミとして残ることすら許されなかった。こうして、その事件は終わりを迎えた。
しかし戦況は、反政府軍にとってより一層苦しいものとなった。その事件の最中、手薄となった基地へ政府軍の侵入を許してしまい、派遣勢力がほぼ壊滅状態となったからだ。そして、これを好機と見て、突撃して来る政府軍と、基地や居住地を防衛する反政府軍達で、各地で乱戦が起こり始める。
硝煙が、生者も死者も平等に燻す。昼夜問わず赤く染まった霧がかかる。燻す硝煙に混じった一握りの愛で保たれていた正気は失われた。
その戦争は、もはや正義も悪もあったものではなくなった。
何だか長くなっちった…いやあ戦争ものってムズい
カニバ要素今回薄かったですね、次はちゃんと濃くします




