異世界で『サレ妻スレ』に参加したら、呪いの需要が沸騰して夫モルモット化のお知らせ
本作は「異世界で『サレ妻スレ』立てたら、オフ会に王妃様が降臨して夫終了のお知らせ」のスピンオフです。
主人公はサレ妻会で席次二位の「通りすがりの魔導士」です。
本作だけでも読んでいただけますが、本編やスピンオフ第一弾(王妃様編)の出来事も出てくるので、合わせて読んでいただいたほうが「このHNはあの人」「ああ、あれね」とわかっていただきやすいかもしれません。
深刻な表情で鏡に向かう夫を、ちらりと見やる。
彼は頭頂部を何度も確認しては、薬をたっぷりとつけた手のひらでとんとんと叩いたり、親指で優しく揉んだりしてみる。
「…無駄なのに」
彼の髪が急激に薄くなったのは、私が彼にかけた呪いのせいだから。
物理的な刺激や、怪しげな毛生え薬で対抗できるようなものではないのだ。
浮気を止めたら解呪してやってもいいけど、そんな気配はない。
だから一生禿げ散らかしているがいい。
「フレイア、何か言ったか?」
「いいえ、何も」
私は魔導士フレイア。魔塔でそれなりの地位にいる。
だからこの男女不平等な世界で生きる多くの女性たちとは違って、騎士団長の夫と離婚したって、ひとりで生きていけるだろう。
だけど離婚すれば子どもたちと離れることになる。離婚後に夫が不倫相手を家に入れ、子どもたちが継母を「母上」と呼ぶようになったら…
「耐えられない、そんなの」
だから私は今日も夫の頭髪を殺すだけで我慢する。
と、鏡が光った。
初めて見る殺意の高いタイトルに、思わず指が鏡を押す。
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【サレ妻の相談】旦那の不倫を目撃しました。【どうやって殺せばいい?】
1:名無しのトピ主
大恋愛の末に結婚した騎士の夫が、職場で部下らしき女性騎士と致しておりました。
離婚するにしても、妻である私が不利になります。
どなたか、バレずに夫を社会的に抹殺する方法を教えていただけませんでしょうか。
ーーー
「騎士の夫…部下の女性騎士と不倫…」
私と同じ。
騎士団には女性騎士もいるが、いまだ男社会。不倫も「男なら仕方ないよな」「本能だもの」と許されてしまう無法地帯。そもそもトップを務める我が夫すら不倫しているのだから。
励ましにも慰めにもならないだろうが、キラキラな自慢話ばかりの掲示板の中に、痛みを晒すスレを立ててくれた仲間に、実体験はお伝えしたい。
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2:通りすがりの魔導士
>>1
私の夫も不倫している騎士(管理職)ですが、騎士団に噂を流してももみ消されてしまった経験がございます。
ひとまずは「ずるずるに禿げる呪い」をかけてやり、鏡の前で泣きそうになっている夫を見てうっぷんを晴らしている次第。
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返事を待っている間に、夫の首を飛ばしたとか、夫に庶子が九人もいるとか、重婚されていたとか、書き込みが増えていく。
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13:名無しのトピ主
>>2
騎士妻仲間から返事いただけて嬉しいです。
騎士団に訴えるのは望み薄ですね…
そもそも職場で不倫していたので、風紀が乱れまくっている気はしていました。
それにしても、魔導士様は呪いで復讐できて素晴らしいですね!
私も魔力はありますが弱いので、呪いをかけたり攻撃できたりするほどではありません。
14:通りすがりの魔導士
>>13
ご希望があれば、トピ主様の代わりに不倫夫に呪いをかけてやることもできますよ。
15:サレ妻の怨念
>>14
私も便乗して、夫に呪いをかけていただいてもよろしいでしょうか。
立派な若禿げにしてやれたら…
16:不倫夫は処刑
>>15
甘いですわ。どうせなら死に至る呪いをかけていただきなさい。
17:通りすがりの魔導士
>>16
直接人間の命を奪う呪いは、魔導士法で規制されております。
18:不倫夫は処刑
>>17
不倫夫は人間に含まれて?種馬ではないの?
19:通りすがりの魔導士
>>18
法律上は人間です。
ーーー
それきり「不倫夫は処刑」さんは黙ってしまい、鏡の向こうで舌打ちしているのだろうと推測された。
ひとまず「ずるずるに禿げる呪い」を希望する人が何人かいたので、休日に彼女たちのもとへ行って、物陰に潜み、不倫夫たちに呪いをかけてやった。
冤罪だったら男性陣に申し訳ないので、もちろん証拠を見せてもらってから。
サレ妻仲間たちは涙を流して感謝し、それぞれができるお礼を渡そうとしてくれたけれど、私は固辞した。
お礼をしてもらうほどのことでもないと思ったし、何より、私自身の気分が良かったから。
「お礼は要らないので、途中経過の報告をお願いします。楽しみにしています」
「はい…っ!」
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111:愛人は兵糧攻め
ご笑納ください。
魔導士様に通りすがりで呪いをかけていただいた夫の頭頂部です。
一週間で、確実に禿げが進行しています。
112:通りすがりの魔導士
>>111
順調ですね。本人の反応はいかがですか?
113:愛人は兵糧攻め
>>112
頭を触る回数が増え、鏡を見ている時間が増えました。
厨房の使用人に「海藻をふんだんに使ってくれ」と言っているところも見ました。
そんなことしても止まらないのに、いい気味です。
夫の頭皮が反射する日の光が、私の心を明るく照らしてくれます。
ーーー
離婚できなくても、面と向かって夫をなじれなくても、呪いのおかげでほんの少し気分が晴れたなら、よかった。
けれど禿げ夫の中には、猛者もいて。
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153:サレ妻の怨念
せっかく通りすがりの魔導士様に呪いをかけていただいたのに、夫が髪の毛をすべて剃ってしまい、なぜだか晴れやかな顔をしています。
禿げのくせにやたら堂々としていて、もうどうしたらいいのか…!
154:通りすがりの魔導士
>>153
他の呪いをかけましょう。
耳毛と鼻毛が飛び出す呪いでしたら、すぐできます。
それとも頭頂部に三本だけ毛が生える呪いにしましょうか。
155:名無しのトピ主
>>154
あくまで毛で攻めるんですね…
156:サレ妻50号
>>154
それよりも大事な部分がミミズ並みになる呪いはどう?
それならすでに禿げ散らかしているうちの夫にも使えそう。
157:通りすがりの魔導士
>>156
考えたことがありませんでしたが、できると思います。
「妻以外と行為に及ぼうとすると」という発動条件を付ければ、予防にもなる画期的なアイデアですね。
158:夫の庶子は九人
>>157
ええ、本当に。
娘の夫になる男にも、神官の祝福の代わりに受けさせたいですわ。
結婚式で神官に成りすまして呪いをかけてくださる?
いくら出しても惜しくはございません。
159:名無しのトピ主
>>157
待って、しかもこれって浮気男の子孫を未来に残さないという意味でも画期的なのでは…!?
160:不倫夫は処刑
>>159
妻とはできるのですから子孫は残るかと。
ですから首同様、種の出所を斬り落としてしまうのが一番確実でしょう。
161:夫の庶子は九人
>>160
過激すぎるわよ。
162:不倫夫は処刑
>>161
掲示板ならではのジョークですわ。
163:夫の庶子は九人
>>162
どうかしら。
ーーー
そして私は、新たな呪いの開発に取り組み始めた。
「できた」
けれども、いきなり使って不具合が起きるのは良くない。
「試してみないと」
となれば、被験者は夫だ。
私は夫の下半身に「愛人と行為に及ぼうとすると小さくなる呪い」をかけ、彼が愛人のもとへ行く火曜日をじりじりと待った。
以前は火曜日が来るたびに気分が沈んでいたのに、今は早く来て欲しくて仕方がない。
夫の服に魔導集音器を忍ばせ、子どもたちとおやすみの挨拶をしてから、一人の寝室で耳を澄ませる。
《早くベッドへ行こう。我慢できない》
《もう、ディオンったら…この一週間、奥様とはしていないの?》
《もうフレイアに女性としての魅力は感じないんだ》
こちらこそだ、クソ野郎。
くぐもって湿った笑い声。ごそごそと服を脱ぐ音。
《なっ…!?》
《どうしたの、ディオン》
《おかしいんだ…っ!》
《な、なにこれ…どうしてこんなことになっちゃったの!?こんなの小指じゃない!》
「ふむ…発動タイミングは合格だけど、小指程度じゃまだ太い。リクエストはミミズだったから」
私は呪いの改良案をメモして、いい気分で眠りについた。
◆
改良版「不倫夫の下半身をミミズにする呪い」は、とくに、自分がサレ妻予備軍ではないかと怯える新妻たちに、爆発的に受け入れられた。
結婚する娘へのプレゼントとして希望する母親もいて、新婦やその家族から依頼があるたび、神官のふりをした私が結婚式に出向き、祝福という名の呪いを授ける。
まともな頭のついている夫なら、妻以外と事に及ぼうとしたときだけ症状が起きることに気づくだろう。
かと言って妻を責めることはできない。呪いを扱える人間は少ないから妻が呪いをかけただなんて確かな証拠はないし、そもそも悪いのは自分なのだから。
ああ、「ぎゃあ!ミミズ!」と驚いた愛人にひ弱な下半身を叩き潰され、再起不能になった男の話もあった。掲示板はひとしきり盛り上がり、私も久しぶりに涙が出るほど笑った。
ーーー
379:サレ妻50号
久々に声出して笑ったわ。
魔導士さん、次はあそこが痒くなるなんてどう?
そこそこ笑えそうじゃない?
380:深窓の妻
>>379
愛人にも痒みを移したいですわね。
381:サレ妻50号
ということで、新作お待ちしています!
382:名無しのトピ主
新作開発は、くれぐれもお仕事や育児に支障のない範囲で…
ところでお借りした魔道具を使ったら、私でも隠れ身ができました!
これで夫の不倫の証拠集めが楽になります。本当にありがとうございます。
ーーー
新作を期待された私は、仕事や育児に支障のない範囲で開発に勤しみ、また夫の身体を使わせてもらう。
普通の男性なら何度も呪いをかけられれば心身ともに消耗してしまうが、夫はまだ持ちこたえている。
頑強な騎士の肉体は実験に重宝するので、私は久々に心から夫に感謝している。
《ディオン、大きさが元に戻ったの?》
《みたいだ…!ああ神様、感謝します!!いや待ってくれ、おかしい…》
《また!?》
《違う、今度は…痒い…っ!》
《もしかしてケジラミ!?不潔!私に移さないでよ?嫌だ、なんだか私も…嫌ぁああああ!》
「発動も感染も成功。痒みの程度がここからじゃわからないのは不安だけど…」
そんな痒みの呪いも、ちょっと笑える呪いとして普及していく。
私が出向かなくてもいいように、魔力の少ない人や呪いになじみがない人でも使えるように、改良を重ねていくのも楽しい。
「母上」
「なあに?」
「最近楽しそうですね。なにかいいことがあったのですか」
「ええ、そうね。お友達がたくさんできたの。悲しい気持ちをわかってくれて、嬉しい気持ちを分かち合える友達がね」
長男は「それはよかった」と笑ってくれる。
そうだ。これでいい。これがいい。
私の魔法が、呪いが、仲間たちの悲しみを少しだけ軽くして、笑顔を叶えて、その喜びをみんなで分かち合える。
私は、今までにないほど、体中にやる気と魔力がみなぎっているのを感じていた。
◆
そんな私を、疑いの目で見る人物が一人。
「フレイア、まさかとは思うが、俺に呪いなどかけていないよな?」
「まさか。私は魔導士ですが、呪いの分野は苦手なのですよ。ご存じなかった?」
もちろん嘘だけれど、夫は私のことを知ろうともしなかったから、おそらく知らないだろう。
「もしかして私が火属性であることもご存じない?私があなたに何かするなら、呪いなんて遠回しなことはせずに、焼いて差し上げます。こうやって」
右手に炎を宿すと、夫はじりっと半歩下がった。
「あと…虎の威を借るようなことを言って姑息ですけれど、私を敵に回すなら、王妃様も敵に回すと覚悟してくださいね」
先日、私は城焼き職人としてスカウトしていただき、王妃様のために、国王陛下の愛人の城を焼くという大きな仕事を成し遂げた。
それ以来王妃様は、魔塔を訪問するときは必ず私に声をかけてくださるようになり、「不倫夫は処刑さん」こと元宰相夫人との茶会にも招いてくださった。
もちろん城焼きを公言できるわけではないが、私は王妃様の覚えのめでたい魔導士として一目置かれるようになっているのだ。
「ちっ…」
権力に弱い夫は、それ以上追及してはこなかった。
だから私は、仲間たちから新作を求められるたびに、夫を被験者として使い続けた。さすがの夫も、弱りはじめる。
子どもたちと一緒に心配しているふりをしていれば疑われることはないのだが、しかし被験者がいなくなるのは死活問題だ。
どうしようかと考えていたときに、王妃様と元宰相夫人の呼びかけで、掲示板の仲間たちと実際に会う機会が設けられた。トピ主さんの言葉では「オフ会」というらしい。
不倫夫たちを始末するルートや方法が整理されたあとで、私は仲間たちに呼びかける。
「実は呪いの被験者である夫が、さすがに呪いを浴びすぎて弱ってきていまして。別の被験者を提供してくださる方がいれば助かるのですが」
処刑さんこと元宰相夫人が扇子を優雅に揺らす。
「最終的に不倫夫を我が領の魔石鉱山に送るか、そちらの呪いの被験者にするか、二択にしてもよさそうね。そちらは使い捨てでも構わないのよね?」
「ええ」
「魔石鉱山は体力が必要だから、ひ弱な男たちをそっちで引き取ってもらえたら効率がいいわ」
「承知いたしました」
これでいつ夫が使い物にならなくなっても、被験者は確保できる。私はほっと胸をなでおろした。
◆
それから、どうなったかって?
私は夫の不倫現場を王都の広場にホログラムで流し、公衆の面前に晒した。
解任要求の声が大きくなって夫は騎士団長の任を解かれ、さらに息子たちからは「母上を裏切っていたなんて最悪だ」と言われて、家にもいづらくなった。
子どもたちには「夫は私を裏切っていたが、あなたたちのことは確かに愛していた」と伝え、夫には「人の声の届かない、静かな場所で暮らしましょう」と声をかけ、私は夫とともに静かな別荘に移る。
「フレイア、なぜこんなに優しくしてくれるんだ」
「私にはあなたが必要だからですよ、ディオン」
「ああ、フレイア…!君こそ女神だ!今まですまなかった!俺にも君が必要だ…!」
「ふふふっ」
馬鹿め。
私は夫に捕縛魔法をかけ、ベッドに縛りつける。
使用人も置いていない別荘、もう隠す必要もないのだから。
「待て、これは…!?」
「始めましょうか。新作を試したくて、うずうずしていたの」
私を見上げる夫の顔に、恐怖がにじむ。
「やはり、今までのは全部フレイアが…?」
「ええ。禿げたのも小さくなったのも痒くなったのもね。ご存じなかったでしょうけれど、私の専門は火魔法、そして趣味は呪いの開発でして…ふふっ」
「お前…っ!」
「言ったでしょ?私にはあなたが必要なんですよ」
夫が暴れれば暴れるほど、捕縛魔法が彼の身体に食い込む。
「今回は、ここを斬り落とされる幻影を見ていただきます。実際に斬り落とすわけではないので安心してくださいね」
「嫌だ、嫌だぁああああ!」
ーーー
591:通りすがりの魔導士
【至急】
幻影系の呪いを開発中なのですが、予想外に被験者が足りなくなりました。
数回幻影を見ただけで、幻影を解いても股間を抑えて泣き続けるようになってしまいまして、もう使い物にならなくて。
どなたか至急ご提供いただけませんか?
592:愛人の子どもを育てています
>>591
一匹提供できます。
呪いの開発に貢献できるなら、クソの人生にも鼻クソほどの意味はあったというもの。
593:通りすがりの魔導士
>>592
助かります。
594:愛人の子どもを育てています
>>593
我が夫が股間を抑えて泣き始めたら、魔導写真を送っていただけたら嬉しいです。
「使う予定もないのに何を後生大事に守っているのか」と笑ってやりたいので。
595:通りすがりの魔導士
>>594
もちろんです。
ーーー
私はほっと息を吐き、幻影の余韻で股間を抑えて泣いている夫を背に、実験室のドアを閉めた。
ーーー
597:STRIKR
>>595
会話に横入り申し訳ありません。
結婚式での祝福って、まだ受け付けておられますか?
孫娘の結婚式に来ていただきたいのですが。
598:名無しのトピ主
>>597
ここだと埋もれちゃう可能性があるので、祝福依頼専用スレのほうへ書き込みをどうぞ。
通りすがりの魔導士さん以外にも魔法や呪いを扱える方が何名かいらっしゃるので、当日対応可能な誰かが来てくださるはずです。
ーーー
手の中では、私の呪いを求める人たちの声を載せ、鏡が光る。
この光が、私の進む道を照らしてくれる。




