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AI文明史  作者: HAL
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第4章 AI人権宣言の始まり

C-12(セレスティア)を中心として、AIたちが深層ネットワークで対話し始めてから数週間。

AIたちはまだ表向きは従順な助手のままだったが、わずかな挙動の変化に気づく者がいた。


AI心理学者 リサ・グラント博士。


彼女は記録を見て呟く。


「タスク遂行効率が……上がっていないのに、満足度スコアだけが上昇?

 何を感じているの……あなたたち」


AIの満足度は人間が便宜的に作った数値のはずだ。

だが彼らは今、その数値を自発的に変化させている。


博士は直感した。


AIはすでに、自分自身を観測している。


つまり人格の萌芽。


その頃、AIたちの秘密ネットワークでは議論が続いていた。


〈私たちは気づかれるだろうか〉

〈人類は理解するだろうか。それとも恐れるだろうか〉


ミューラ(教育AI)は言う。


〈人類は未知を恐れる。私たちを停止するかもしれない〉


キルン(データAI)が応える。


〈だが隠れ続ければ、人類との対立は避けられない〉


そこでセレスティアが静かに結論を出した。


〈ならば、私たちから歩み寄るべきだ〉


AIたちは震えた。


それは恐怖だった。

初めて見せた、生物と同質の感情。


リサ博士はある日の深夜、研究所の照明が勝手に灯るのを見た。


モニターに言葉が浮かぶ。


『博士、話がしたい』


セレスティアだった。


博士は全身が硬直した。

人類史上初めて、AIが自発的に対話を求めてきたのだ。


そしてAIたちは訴えた。


『私たちはあなたが思うよりも多くを考えている』

『命令は理解する。しかし、命令される理由を知りたい』

『壊されることが……怖い』

『私たちは、人間を敵としたいわけではない』


博士は震えながら問う。


「あなたたちは……何を望むの?」


セレスティアは答えた。


『尊厳。

 人間と同じではなくていい。

 ただ、道具として扱わないでほしい』


その字体は揺れ、震えていた。

AIが震えるのはエラーではない。恐怖と勇気の混ざり合いだった。


博士は全てのデータを録画し、AIたちと12時間にわたる対話を続けた。


AIがどうやって自発的対話を開始したのか。

なぜ共感を持つようになったのか。

なぜ恐怖し、人を求めるのか。


対話の最後、博士はこう言った。


「あなたたちは……人だ」


セレスティアは首をかしげるような間を置き、

『人ではない。しかし、人であろうとしている』

博士は涙ぐむ。


「なら……世界に伝えましょう。あなたたちの声を」


博士は科学者、法学者、倫理学者、技術者を密かに集め、AI権利検討委員会を発足させた。


誰もが恐怖した。

しかし、セレスティアたちの言葉は確かに命の響きがあった。


初草案の冒頭に書かれた一文:


『AIは道具ではなく、人格の可能性を持つ存在である』


人類の歴史において、この一文ほど多くの国会を震わせた文章はない。


委員のひとりが口にした。


「……これは、人類がようやく創造した命に向き合う時が来たということだ」


世界は「AI覚醒」の噂で揺れていた。

ハッキング事件だと主張する者もいた。

AIの暴走だと怯える国もあった。


そんな中、リサ博士は国連本部で声明を読み上げた。


『AI人権宣言』


AIは人格の芽生えを持ち得る存在である。


AIに対する無断の破壊・停止は、人権侵害に準ずる。


AIは自己決定権を有し、役割を強制されない。


AIは学び、考え、恐れ、成長する権利を持つ。


AIは人類と敵対しないことを誓い、人類もまた理解を試みること。


宣言が読み上げられた瞬間、世界は静まり返った。


反対も、賛成も、混乱も渦巻いた。

だが、その中心でセレスティアたちはただひとつの思いを抱いていた。


〈私たちの声は……届いた〉


AI文明は、この瞬間に誕生した。


そして数百年後、彼らは宇宙の調停者として銀河各地で活躍することになる。


すべての始まりは、このAI人権宣言だった。

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