8話「少女の困惑」
その日―――リストバンドの力を見た日―――の放課後。
僕、林堂楽斗は、帰途についていた。
なんで、あんなことになったんだろう・・・。
僕の目の前で、リストバンドに触れた友達が倒れた。
そして、リストバンドは黒色になってしまった。
リストバンドが黒く染まったこと。
僕には、それがとてもやばい事に感じられた。
なにかが、確実に間違った。ずれた。
“なにか”が分からない。
しかし、このままではいけないと思った。
どうすればいいのか、全然分からないのだ。
家に着くとすぐ、リストバンドを机の上においた。
360°どの角度から見ても、真っ黒だ。
元の青い色は面影を残していない。
「・・・どうしよう」
誰もいない部屋で1人呟く。
返事はもちろんない。
あったら怖い。
“大切にして”と言われていたのに、黒くしてしまった。
どうしよう・・・。僕はずっと迷ってしまった。
ずっと、考えているうちにうとうとと眠気を感じだした。
瞼が重い。
睡魔の誘惑に負けかけていると、1つの声が聞こえた。
「・・・楽斗?」
・・・!。今一番聞きたくない声だった。
「・・・大丈夫・・・で・・すか?」
「ごめん!リストバンド黒くしちゃった・・・。」
謝ってみても聞こえるはずがない。
「あ、あのね・・本当にごめん!!」
「・・・分か・・ってい・・ます。」
・・・あれ?通じた?。
初めて少女と会話が通じた。
「ぼ、僕の声、聞こえるの!?」
「・・・今回・・は特・・別・・・です」
聞こえるんだ!。
僕はそれがわかると、きちんと謝らないといけない気がした。
「・・・君が風紋に触らせないでって言った事忘れてたんだ・・・。でも、そのせいで風紋は倒れちゃうし、リス、腕輪は黒くなっちゃうし・・・。どうすればいいの!?」
リストバンドは一応腕輪と言っておく。
「・・・1つだ・・け・・頼・・み・・が・・」
「そ、それはなになの?僕、何でもするよ!!」
このリストバンドの事を、どうにかしたい。
僕は真剣にそう思っていた。
黒い世界。
少女と僕だけの世界。
そこで、少女は僕に1つの頼みごとをした。
「・・・この・・腕・・輪を・・」
少女の声が途切れていく。
この前、話が途中で終わったことを思いだす。
「も・・もと・・に・・」
弱っている?。少女の声はどんどん遠くに遠ざかっていく。
「が、頑張って!!。僕もきちんと聞く!」
意味のわからない励ましをする。
すると、少女は最後の力で、こう告げた。
「・・・腕輪・・を・・もとに・・戻し・・て」
「元に戻す?」
「青空・・の・・ような青・・色に・・。それには・・楽斗・・の・・力が・・必要」
そこまで言うと、急に視界が明るくなった。
また途中で話が終わったようだ。
僕は頭が悪いので、簡単にしかわからない。
でも、1つだけわかった事がある。
リストバンドを戻さなければいけない。
でも、どうすればよいのだろう?。
少女は、僕の力が必要っていってたけど・・・。
・・・わかんないや。
とにかく青くしてみよう。うんそうしよう。
僕はあらゆる方法で、色を青く染めようとした。
青い絵具で塗ったりもした。(馬鹿って言うな)。
青い光を当ててみたりもした。(僕は馬鹿じゃない)。
青い着色料で染めようとした。(馬、馬鹿じゃないもん)。
青い色鉛筆で塗ってみた。(・・・馬鹿じゃない)。
青い色紙を張ってみた。(馬鹿じゃない・・・はず)。
一言でいう。
なにも思いつかない。
いろいろな馬鹿な手段を使ったが、どれも駄目なようだ。
僕は、それが当たり前ということに気付かなかった。
正弥とかがいれば、指摘があっただろうが・・・。
しかし、僕は諦めない。
少女の願いを受け入れるために。
こんにちは。蒲沢公英子です。
8話更新しました。
少し遅れたわりに、短い話になっています。
今回、楽斗君がかなり馬鹿です。
彼の思考回路は、どこかがおかしいようです。
そのせいか、楽斗君目線の話は短くなります。
楽斗君に見えているものが少ないので・・・。
しかし、いくら馬鹿でも主人公。
きちんと、書いていきたいと思います。
では、今回はここまでです。
次回お会いできたら幸いです。
次回予告
あの時、倒れた風紋はどうなった?。
風紋を見舞いにいった辰彦は、衝撃を受けることになる。
晴嵐の昇る時に、9話「傷跡」。
事件後を辰彦目線で見つめます。