4話「運命の出会い」
話は過去に戻る。
風紋や楽斗が、朝学校で別れたころの時間。
俺(正弥)は教室で、ある人物を凝視していた。
生まれつき視力は良くは無い。
どんなに視力を矯正しても、少し遠くのものを見るだけで、目を細めてしまう。
睨んでいると言われる事が多いのも、そのせいだろう。
しかし、それよりも今の俺には重要なことがある。昨日の事だ。
昨日俺は、現実ではありえない現象を見た。
クラスメイトを中心に起こった空間分離。
真っ二つになった空間。
恐れ、怯える男達。
その中心に居た友人。
生気の灯らない漆黒の瞳・・・。
すべての真実を俺は知りたい。
知らなければいけない気がしたのだ。
俺は凝視していた友人に声をかける。
「おい、今日は元気か?」
普通に体調を聞くところから始めてみる。
すると、天鐘寺は少し俺の方に振り向いたが、返事は無く無言だった。
今日も相変わらずの瞳、それは見ている俺が吸い込まれそうなほど暗かった。
「天鐘寺。お前に聞きたいことがある、昨日の事だ」
天鐘寺は表情を全く変えずこっちを見てくる。
「昨日の空間分離。やったのはお前だよな?」
昨日と同じ質問をしてみる。
無言。今日も答えるつもりは無いようだ。
しかし、昨日と違ってここで引くわけにはいかない。もう少し問い詰めることにする。
「俺はきちんとこの目で見たんだ、あの空間分離の中心はお前だった。違うか?」
肯定も否定もせずに、天鐘寺はこの場を去ろうとする。
「待て!教えてくれ、昨日の恩もあるんだ。誰にも言わないでやるから」
すると何があったか急に、天鐘寺は紙とペンを出し始めた。
そして、尋常じゃない速さでペンを走らせた。何かを書いているようだ。
30秒ぐらいで出来上がったらしく、その紙を無言で俺に渡してくる。
すると、天鐘寺は役目は終わったというように、その場から去っていった。
その紙に書かれていたのは、地図だった。
しかも、とても精巧で人間の書けるレベルのものではないほどの。
こんな地図が30秒で書けるって・・・。あいつの力にまた不信感がわく。
地図には、晴嵐中学周辺が書かれていた。
そして、ひとつの建物に赤い丸が書かれていた。
この建物は・・・。方角と距離で計算すると、ひとつの回答に辿り着いた。
光華総合病院。この町で唯一の病院だ。
この町は広いのだが、病院が周辺に1つしかない。
そのため、この病院はかなり立派な作りである。
しかし、ここに印があって俺にどうしろと言っているのだろう?
あいつの考えは分かりにくい。
「おっはー!!鬼紅雷!」
考えていると、急に耳障りな声が聞こえてきた。
思考の邪魔なので、無視しておく。
「え?無視された・・・!。え、僕ちょっとショック」
何か喚いているが気にしないでおく、考えることは他にある。
「鬼紅雷、僕だよ。楽斗だよぉ!!!」
分かっている、そのくらいな。
すると、林堂の興味は俺の持っている地図に向いたようだ。
「あ!これ地図?。すごいねすごく詳しい!。これ鬼紅雷が書いたの?」
「違う。」
これ以上はうるさいので、返事をしてやることにした。
「え?じゃぁ誰が書いたの」
余計にうるさくしてしまったらしい。しょうがないな、話を聞いてやるか。
「書いたのは天鐘寺だ。30秒でな」
「へぇ~すごい。天鐘寺って絵上手いんだね」
普通はここで疑問を覚えるべきだが、こいつは馬鹿なので普通に聞き流していた。
「それで、鬼紅雷は天鐘寺とどっか行くの?」
「はぁ?なんでそんな話になる?」
「だって丸付いてるじゃん、待ち合わせでしょ」
待ち合わせ?。そんなことはしてないはず・・・
・・・そうか。あいつは俺を病院に呼んでいるのか。
考えていたことが分かった。こんな馬鹿に気付かせられるとは。
「ありがとよ・・・全部分かった」
小声で一応礼を言う。
「え?今何て言った?」
やはり、聞こえていないようだ。
「何でもない」
「え~!それは無いよ鬼紅雷。教えてぇ!!」
そのあと、1日俺は林堂に追い回された。
放課後。
異常に詳しい地図に従って、光華総合病院に行く。
実質地図が無くても、道は知っているのだが。
何故?何のために?・・・。疑問は尽きないが、俺は急ぎ足で病院に向かった。
病院に着くと、そこに天鐘寺の姿は無かった。
しかし、すぐ目の前に1人の少女がいた。
見た目で小学生・・・低学年だろうか?。
髪は純粋な黒髪で、赤いリボンでツインテールにされている。
表情は気の強そうな笑みを宿していた。
「君が鬼紅雷君って言う人?」
少女が声をかけてくる。気の強そうな声だ。
「そうだが、何か用か?」
俺は適当に答える。こんな奴に用はないのだ。
「・・・そうか、こいつが鬼紅雷正弥か・・・」
小声で何か聞こえたが、思考に邪魔され正確に聞こえなかった。
すると、少女は自信に満ち溢れた笑みで名を名乗った。
「あたしは天鐘寺華凛。ここの病院に住んでるの」
天鐘寺・・・?。ここに来るように言った(?)奴もそんな名前のはずだ。
「天鐘寺恢霧は、あたしの兄なの」
それは意外だ、あいつに妹がいたとは、あいつは医者の息子だったらしい。
ただ、兄と違ってこの少女はよくしゃべるが。
「・・そうだ。お前の兄は何をしているんだ」
俺は天鐘寺に呼ばれたんだ。どこにいるのか知りたい。
「お兄ちゃん?。あぁ今回は、あたしがお兄ちゃんに頼んで君を呼んでもらったの」
ということは、こいつは俺に用があるのか。
「何の用だ?」
「ううん、今日はとくに何もない。」
「はぁ?じゃぁ何故呼んだ??」
俺は用も無いのに呼ばれたのか・・。
「正式には、あたしの存在を知ってほしかっただけ」
存在を知る・・・?。こいつの存在を知ってなにがわかるのだろう。
しばらく沈黙が続く。
俺は耐えかねて口を開いた。
「じゃぁ俺はもう帰っていいのか?」
早く帰りたいので、本音を言う。
「待って、鬼紅雷って呼びにくいから渾名つけていい?。あとあたしの事は、華凛でいいから」
「いや・・お前はずっと『君』呼びなんだが?。」
すると俺の言葉を無視し、少女は俺の事をマジマジと見つめた。
「・・・う~ん・・・よし!『テンパーグル』ってどう?」
意味不明なのきた。
「君の天然パーマと、ゴーグルで略してテンパーグル」
抗議の声を挙げなければいけないようだ。
「待て、俺は天然パーマじゃないし、これは眼鏡だ。ゴーグルじゃない」
「え?だって髪の毛クルクルだし、すっごいレンズ大きいじゃん」
レンズが大きく厚いことは知っているが、髪の毛?。
自分のを見てみると、見事に焦っていたからか、パーマのようになっていた。
テンパーグルも納得できてしまう。
「んじゃぁテンパーグル。また会う日まで」
急にそう告げると、少女は病院の中に消えた。
「なんなんだ・・・あいつ」
今日も俺はまた、懸案事項を抱えたようだ。
これは運命の出会いだった。
正弥と華凛。2人は絶対に出会うはずの人間だったのだ。
しかし、この物語はわずかにずれたまま進んでいく。
この出会いを始まりに・・・。
こんにちは。蒲沢公英子です。
4話の更新です。
かなり遅くなってしまっています。すいません。
今回は題名どうり、この出会いはかなり大切な出会いになります。
物語が本格的になってきますね。
今回から、後書きで次回予告をしていこうと思います。
気分でやりたくなっただけですが。
では、今回はここまでです。
また次回で、お会いできれば幸いです。
次回予告
楽斗は夢の内容を気にかけながら眠りにつく。
すると、夢の少女との再会に成功するが・・・?
晴嵐が昇る時に、5話「夢の少女」。
久しぶりの楽斗の活躍があります!。