10話「2人の侵略者」
暑い夏の放課後。
楽斗が夢の少女との会話に成功し、辰彦が衝撃的な事実を目の当たりにした時間。
2つの出来事は1つに交わり、1つの必然になった。
しかし、もう1つの偶然がそこに重なる。
そして、3つの出来事は、1つに交わっていく。
「お前・・・どこに行くんだ」
俺の“眼鏡ごしの”視界には、1人の人間が映っていた。
白銀の髪の少年。
年齢としては少年なのだが、その容姿はとても大人びて見える。
視界の少年、天鐘寺は俺をどこかに誘導していた。
どうしてこうなったのか。
話は数十分前にさかのぼる。
「・・・鬼紅雷」
掃除時間、俺が適当に掃除を済ませていると、真後ろから名前を呼ばれた。
感情の全くこもっていない声。
PCなどの機械が話しているような声である。
まぁ・・・。誰の声か、すぐ分かるが。
「なんだ?天鐘寺」
俺は後ろに振り返る。
・・・というか、こいつはいつも後ろから話しかけるよな。
正面から話すっていう礼儀も知らないのか?。
そんなことを考えていると、天鐘寺は簡潔に一言だけこう告げた。
「放課後に来てほしい」
「はぁ?・・・あぁわかった」
俺はそれに従い、放課後天鐘寺の所に行った。
「どうした?何の用だ?」
俺が聞くと、天鐘寺は自分の鞄を持って、教室から出て行った。
「え?・・ど、どこ行くんだ?」
俺が声をかけると、天鐘寺はこっちを一瞬見て視線を元に戻した。
生気の灯らない、闇の瞳。
なぜか俺には、それが“ついてこい”と言っているような気がした。
決して言葉ではない、なにかを感じた。
俺は、それに動かされて天鐘寺を追った。
そして、今の状況である。
天鐘寺は無言で、俺の30メートルほど先をずっと歩いていた。
ちょっと遠めの距離関係で歩いていると、不意に不安になった。
忘れてはいない、こいつは最近俺に異能の力を見せてきた。
本人は見せるつもりが無かったかもしれないが、俺ははっきり見てしまった。
こいつは、俺をどうするきなのだろうか?。
変な不安がよぎり、俺は下を向きながら歩いた。
そうしているうちに目の前の人影が止まった。
「・・・?着いたのか?」
人影が頷く気配を感じ、俺は顔をあげた。
「はぁ?またここか」
そう、そこに有ったものはとても見覚えのある建物だった。
光華総合病院。
俺は昨日もここに来て、1人の少女に出会った。
華凛。天鐘寺の妹である。
まぁそれより先に・・・。
「お前は、俺を家に呼んでどうするつもりだ?」
ここは、こいつの家でもある。
何の為に呼ばれたのか、はっきりしたい。
しかし、天鐘寺は無言だった。
無言で、数メートル先をずっと見ていた。
「?、どうした?」
俺が声をかけ、天鐘寺の顔を覗き込む。
俺は、言葉を失った。
只でさえ、生気の灯らない眼が真っ暗になっていたのだ。
いくら、光が灯らない瞳でも、日の光で反射ぐらいはしていた。
借り物の光は所持していたのだ。
しかし、今の瞳は絵具で塗りつぶしたような黒だった。
光を反射せずに、吸収しているような・・・。
「・・・大丈夫か?」
俺が心配していると、声が聞こえた。
「うわぁー!テンパーグルだ!」
へ?。
あきらかに、天鐘寺の声では無い。
しかも、テンパーグルって・・・。
俺をこの呼び名で呼ぶ人間は1人しかいない。
「華凛・・?か?」
俺が声の方を向くと、やはりツインテールの少女がいた。
すると、少女は俺の方を向いて、強気な笑みを投げかける。
「そ!。覚えといてくれたんだ。ありがと!」
ニコニコ笑みの妹と、全く表情を変えない兄・・・。
この差はなんだろう?。
そんなことを考えていると、いつのまにか兄妹は俺と向かい合う形で立っていた。
横に並ぶと、余計に違いが目立つ。
やっぱりなにか違うぞ。こいつら。
ちなみに、天鐘寺の瞳は通常営業だ。さっきのは何だったんだろう。
まぁ、普通でも異常なほど暗いが。
3人で病院の前に立っていると、誰も話を始めないようだ。
沈黙が続く。
「おい、何の為に呼んだんだよ」
俺が当然の疑問を投げかけると、華凛はからかうような目を向けてきた。
「ほらほーら、焦らないの、せっかちテンパーグル!」
むかつく。
「まぁ、こっちにも話があるんだけどね。」
「じゃぁ、早く言えよ」
「ほら、せっかちテンパーグルになってる」
「・・・・」
こんな会話はするのだが、肝心の何故ここに呼ばれたかがわからない。
早く帰りたいんだが。
しばらく時が過ぎ、俺がそろそろ帰ろうかなぁと思った頃。
兄妹の目線が一点に固定された。
「どうした?お前ら」
2人の視線の先を見てもなにもない。
何だ?。これは。
「・・・何もないじゃないk」
「危ない!!!」
言い終わらないうちに、華凛に俺は押し倒された。
すると、さっきまで俺の頭があった場所に―――――大量の氷が飛んでいた。
一通り落ち着く。
もしも、俺があのまま立っていたら・・・・、頭を撃ち抜かれ、絶命していただろう。
「ちっ!外したか?」
少年のような声が遠くから聞こえる。
“外したか?”ってこいつ、俺を狙ってたのか?。
おいおい、冗談になってないぞ。
俺、死んでたぞ。
そんなことを考えていると、目の前に2人の人影が降りて来た。
男と女で、華凛より年下に見える。
幼児かこいつら。
「お久、華凛。私達のこと覚えてた?」
女の方が、華凛に話しかける。
「・・・覚えてるわ、忌々しいけど」
華凛が、珍しく嫌悪感まる見えで話している。
「そう、ならわかってるよね」
「ええ、決着をつけるんでしょ」
「話が早いじゃない。じゃぁ行くわよ」
・・・!!話がわからん。
降りて来た女の方が、華凛となにやら物騒な話をしている。
決着って・・・戦うのか?。
「おい、お前ら話がわからん」
素直に疑問をぶつける。
「・・・テンパーグルは黙ってて」
華凛の冷たい声が返ってきた。普段のあいつからは想像できない声だ。
俺が後ろに下がっていると、女の声が聞こえた。
「貴方が鬼紅雷君?」
答えていいか戸惑ったが、一応頷いておいた。
「自己紹介が遅れたわね。私は藍須奈那子。よろしく。」
藍須と名乗った少女は二コリと笑いかけてきた。
小さい子のわりにしっかりしてるな。
「・・・あんたの名前なんか知る必要ないわ」
華凛がやたら不機嫌そうに言う。
「華凛?わかってるでしょ。私達は決着をつけないといけないの」
「わかってるわ。・・・早くやりましょう」
「ノリがいいわね」
すると、華凛はなにを考えたか、天鐘寺に話しかけていた。
「お兄ちゃん、お願いできる?」
天鐘寺は小さく頷くと、右手を挙げた。
あ、これってそういえば・・・。
そう思った時は遅かった。
俺、天鐘寺と華凛、奈那子ともう1人以外が完全に世界から消えていた。
「・・!。え?」
驚きが隠せない。どこだここ?。
俺が疑問に思っていると、体が突き飛ばされた。
「―――っっ!。痛てえな」
顔をあげると、目の前で信じられない光景が広がっていた。
4人が戦っていた。
しかも、常識を覆した能力で。
俺の前で、華凛が5メートルくらいジャンプしたと思ったら、奈那子も同じような高さに飛び、上で2人がぶつかって、衝撃波で地面が崩れて、それを奈那子の相棒が凍らせて氷にし、こっちに投げつけてきて、それを天鐘寺が片手で全部打ち砕いてて、氷が全部落ちて、破片が飛び散って、それを奈那子が飛ばしながら突っ込んできて、華凛が迎撃して・・・etc。
とにかく凄かった、人間のできることじゃないだろこれ。
というか・・・俺死ぬんじゃね?。巻き込まれて。
死ぬとか嫌だな。はは・・あはは・・・。
異様な光景を目の当たりにして、俺の意識は闇に墜ちた。
こんにちは。蒲沢公英子です。
10話更新しました。
今回も長いですね。前回ほどではないですが。
現実味のない話になってしまっていますが、正弥のルートは基本ファンタジー風です。
彼自身はそこまで嬉しくなさそうですが・・・。
ところで、夏ももう終わりですね。
小説内では、まだまだ夏真っ盛りです。
実は、番外で海の話をやろうと思っているのですが、そろそろ時期がやばくなってきました。
やめとこうかな・・・・。
まぁそれはどうでもいいですね。なるようになります。(!?
では、今回はここまでです。
次回お会いできたら幸いです。
次回予告
少女のために、リストバンドを元に戻そうとする楽斗。
しかし、彼にも限界が訪れる。
その時、見つけた新しい手がかりとは?。
晴嵐が昇る時に、11話「アルバムの紡ぐストーリー」。
楽斗のアルバムになにがあるのか?。