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ボーイ・ミーツ・ボーイ  作者: ピリカピリララ
8/16

八話 胸騒ぎ


 「いってきまーーーす!」


 僕、近藤誠士郎は今日も今日とて慌てて自宅を出発し、小走りをした後、始業チャイムの五分前に生徒玄関に着いていた。


 おっと、毎度期待してもらって悪いが何も起こらなかったぞ。ボーイ・ミーツ・ガールは桜舞い散るときと相場が決まっている。ちなみに決めたのは僕だ。



 桜が散ってから始まる出会いがあったって、別に悪いことじゃないが、時はすでに四月下旬。入学式から三週、小浮気天音が出遅れた登校をしてから一週間が経った。とっくに桜の花は散り、校庭の木々は緑を帯び始めている。なんというか新しい出会いをするにしては風情がない感じがする。


 そんなことを考えていたところ、下駄箱の前にある一つの気配を察知した。僕みたくギリギリに登校するやつがいるんだな。


 その気配は少し暗くどんよりとしたものだった。その容姿は暗くて、眼鏡をかけていて、モブみたいな…。えーっと、何さんだったっけか…。うーんと…。そうだ、日影さんだ。日影(ひかげ)(しずく)さん。いつも一人で本を読んでいる、いかにも陰キャって感じの女の子だ。


 高校生活が始まって早三週間。同じクラスで一度も話したことはないけど、別に人とコミュニケーションをとろうってタイプでもないだろうし意識の外にやっていたな。しかし友人になっておいて損なことはないだろう。


 もし僕がぼっちになったときには、一人でも楽しく過ごせる方法を教えてくれるかもしれない。いや待てよ、もしかしたら学校が楽しくないからこの時間に登校しているのかもしれないな。そうであれば彼女はこの学校生活に絶望しているところかもしれないな。


 ダメだダメだ、他人で勝手に想像することはよそう。相手がいくら陰キャ気質な人だからって失礼だな。変な先入観を持たずに友人となるのだ。


「や、やぁ、日影さん。お、おはよう。」


「あっ、………。」


「……………………。」




 挨拶を返さず、お辞儀だけして行ってしまった。まあ、人生そううまくはいかないよね。人生山あり谷ありだ。また次の機会に頑張ればいいのだ。



■■■



 教室にたどりつくと、つい一週間前には無かった騒々しくも快活な笑い声がした。もっとも今となっては毎日のように聞こえてくるが。


 声の主は天音だ。女子だけでなく男子の会話の輪にもちゃっかり加わっている。


 驚くべきことに僕の幼馴染、小浮気天音はものの二日でクラスメート全員とコミュニケーションをとり、当然のように連絡先も交換していた。一週間経った今日ではすっかりクラスに馴染んでいる。ほんとそういうところ器用だよな、あいつ。


 

「おっ!小杉誠士郎部長は今日も重役出勤ですよ。」



 ははははっ、と男子達から笑いものにされている僕だが、小浮気天音が来てからというもの、ムサシと僕は結婚していることになっている。とんだ迷惑だと思うがクラスの男子達も本気で信じているわけではない。一種のノリとかネタというやつだ。


 別に皆が本気で信じているわけではないから、ツッコミはするものの、ほったらかしにしている。


  



 そんなこんなで今日も実に平和な一日となりそうだ。





 そんなことを考えていた折、またやかましい声が聞こえてきた。今度は天音の声ではない。実に素っ頓狂でアホみたいな声だが、僕も毎日近くで聞いている声だ。


「えっーー!ムシャ、野球部入んないの!?なんでだよーー。お前となら県ベスト4、いや、県優勝も夢じゃないって!しかもムシャなら即戦力として出場させてくれるって。」


「いや…それは…買いかぶりすぎだよ…。別に…野球がしたくて…高校来たわけじゃないし…。」


「えーー。俺はてっきり野球部入るものかと思ってたぞ。そう思って先輩にももう一人来るって言っちまったしよ。なあ頼むよ。」

 


 何やらモメているらしい。


「よっ、タイガ、ムサシ。」


「おー、誠士郎かー、おはよー。」


「お、おはよう…。」


「どうしたんだよ二人して。」


「聞いてくれよ誠士郎〜。ムシャのやつ野球がいやだって言うんだ。」


「べ、別にいやだとは言ってない…。た、ただ、野球部には入らない、ってだけ…。」


「どう思うよ誠士郎。ここまで野球をやってきて高校ではライバルだったやつとチームを組めるんだ。そうでなくても俺らの友情ってやつで入部を決めるはずなんだけどなー。」


「いや、別に無理に入部する必要もないだろ。僕はそんなに部活に熱中してこなかったから分からないけど、高校にあがって部活を変えたり、勉強が忙しくなるからって理由で部活に所属しないやつもいるだろ。かくいう僕もほどほどに疲れない部活に入るつもりだし。」


「ほ、ほらね。誠士郎君もこう言ってる…。」


「えー。なんだよ誠士郎〜。お前もそっちの味方かよ〜。」


「別に敵味方とかは無いんだけどさ、単純に高校生活は一度きりなんだからさ。その人の好きに過ごすべきだと思うよ、僕は。」


「そうなんだけどさー。なんというかー、ほんとに好きなことをやって輝くべきだと思うんだよ、俺は。一度きりの高校生活だからこそ全力で青春すべきだって、そう思わないか。」


「まあ、思うのは勝手だけどな、それを他人に押し付けるのは良くないと思うぞ。人はそれぞれにそれぞれの目標があって、熱の入れ方も違うんだから。」


「だけどよぉ…。」



 ウジウジするタイガをよそに始業チャイムが鳴り響き、さきちゃん先生が教室に入ってきたところでお開きとなった。



 それにしても、タイガはどうしてそんなにもムサシを引き入れたいのか。


 しかもムサシのほうも頑なに断っている。いつものムサシは誰のどんな頼みでも断れないタイプなのに、とても珍しい。まあ誰しも高校生活でしておきたいことの一つや二つあるもんな。


 そんなことを考えながらも、少しの胸騒ぎを感じた。






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