表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第五章

__きっと、そのうちに、怪物は少女をどこまでも深く求めてしまうのだろう。

それが何よりも怖い。

けれど、怪物はその事実に目を背けた。そう、これは、少女が望んだのだから。


いつしか少女は、その先を求めるかのように、怪物の牙を自身へ食い込ませるようになった。

怪物は欲望と理性の間に埋もれながら、その求めに気づかぬふりをして、口元を離した。

怪物にとって、少女にその先を求め、同じ業を背負わせるのは、乱暴で激しい暴力のような、歪んだ愛情と束縛だった。


けれど、今、そんな愛はとうに必要がないほどにすべてが壊れかけていた。

連れ去った少女はいつにもましてボロボロで、刺さったナイフが痛々しかった。

安らかな死こそが愛であり、優しさだと、怪物は理解していた。

しかし、どれだけ少女を愛していて、どれほど後にその行為を悔やんでも、怪物にも少女にも、それが全てに思えた。

赴くままに怪物は、少女の白い首筋に、ありったけに牙を食い込ませる。

喉に流れこんだ甘く濃い血は、自分のわがままさを物語っていた。終わることのない生を、神に愛されない孤独さを、一番愛する人に味合わせる罪深さを。

怪物は全てに背を向けた。

卑怯にも彼女の生を求め、無条理で尽きることのない罪を共に背負おうことを望み、闇夜にその天使の手を引きずり込んだ。

「許さなくていい。私も自分を許さない。だから今は、私を抱きしめて」

怪物のその言葉に、少女はいつもの生暖かい目で答え、怪物をきつく抱きしめた。

少女への深い噛み跡だけが、印象深く刻まれていた。


とある村の煌めく星空に、反射する月、夜空には、吸血鬼と少女の影。

炎はとうに燃え尽きて、怪物を求めた少女の滴る血だけが、くっきりと残っていた。

見上げれば、すでに吸血鬼と少女の姿はなく。二人は永遠に、闇夜へ溶け込んでいったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ