第五章
__きっと、そのうちに、怪物は少女をどこまでも深く求めてしまうのだろう。
それが何よりも怖い。
けれど、怪物はその事実に目を背けた。そう、これは、少女が望んだのだから。
いつしか少女は、その先を求めるかのように、怪物の牙を自身へ食い込ませるようになった。
怪物は欲望と理性の間に埋もれながら、その求めに気づかぬふりをして、口元を離した。
怪物にとって、少女にその先を求め、同じ業を背負わせるのは、乱暴で激しい暴力のような、歪んだ愛情と束縛だった。
けれど、今、そんな愛はとうに必要がないほどにすべてが壊れかけていた。
連れ去った少女はいつにもましてボロボロで、刺さったナイフが痛々しかった。
安らかな死こそが愛であり、優しさだと、怪物は理解していた。
しかし、どれだけ少女を愛していて、どれほど後にその行為を悔やんでも、怪物にも少女にも、それが全てに思えた。
赴くままに怪物は、少女の白い首筋に、ありったけに牙を食い込ませる。
喉に流れこんだ甘く濃い血は、自分のわがままさを物語っていた。終わることのない生を、神に愛されない孤独さを、一番愛する人に味合わせる罪深さを。
怪物は全てに背を向けた。
卑怯にも彼女の生を求め、無条理で尽きることのない罪を共に背負おうことを望み、闇夜にその天使の手を引きずり込んだ。
「許さなくていい。私も自分を許さない。だから今は、私を抱きしめて」
怪物のその言葉に、少女はいつもの生暖かい目で答え、怪物をきつく抱きしめた。
少女への深い噛み跡だけが、印象深く刻まれていた。
とある村の煌めく星空に、反射する月、夜空には、吸血鬼と少女の影。
炎はとうに燃え尽きて、怪物を求めた少女の滴る血だけが、くっきりと残っていた。
見上げれば、すでに吸血鬼と少女の姿はなく。二人は永遠に、闇夜へ溶け込んでいったのだった。