第四章
「さようなら、愛しい人」
少女はそうつぶやいて、まだ太陽の光が照り付ける森をあとにした。
世界のどこにも居場所のない怪物には、少女を止めることができない。
少女に居場所ができたのなら、怪物である自分は邪魔な存在だからだ。
怪物はただひっそりと、少女の背中を見つめた。
その夜、こっそりと少女の元へ足を運んだ。
そこに少女の姿はなかったが、代わりに別の人間の姿があった。
怪物は逃げるように飛び出し、人間たちは怪物の後を追った。
少女が怪物を裏切ったのか、人間たちに怪物の存在を知られてしまったのか。怪物にとってそれはどちらも同じことだった。
怪物と少女は、もう、二度と会えないのだ。
しかし、その考えは間違っていたと怪物は悟った。
闇夜に紛れ、周りを注意深く見据えてみると、赤く揺れる松明が、村人の行進を示していた。
その遠い行進の先頭では、愛しい少女を無理やり連れた男が処刑を謳っていた。
怪物はそれを自身の過去と重ねていた。
何も考えずに走り出す。少女のもとへ向かわなくては。
男が少女の髪を掴み、首元を周りに見せた。そこにあるのは、怪物と少女を繋ぎ止める証である噛み跡だった。
村人たちは怒りの声を上げながら、少女を殴り、蹴り始めた。
うち一人が、キラリと刃物を向け始める。その傍ら、赤々と松明の炎が燃え上がっていた。