第三章
__それは、いつもの退屈な夜だった。
怪物は孤独だった。何年も、何年も、餌を求めてはひっそりと生きた。死ぬことを許されず、神にも愛されぬその生を、怪物は戒めだと感じていた。
その日、怪物は悲痛に泣き叫ぶ声を聞いた。
何の気なしに、怪物が悲鳴のする方へ足を運ぶと、そこにいたのは、かつての自分のような目をした、居場所のない少女。
それが少女と怪物との、初めての出会いだった。
怪物は少女のもとへ腕を伸ばした。なびく髪が絡みつく。
ああ、初めて彼女と会ったときも、こんな目をしていたっけ。
神に、人に、少女に。許されなくともどうでも良かった。
少女を捨てた人間たちから、ただ攫った、連れ去った。ただそれだけなのだから。
怪物はその時、少女の骨ばった首筋に、初めて牙を突き立てた日を思い出した。
___一筋の赤い雫は、まるでワインのように、淡く、白い肌を染める。
怪物の頭には、少女のワインを搾り取る気も、はたまた、自分と同じ成れの果てにする気も毛頭なかった。
しかし、愛欲よりも食欲に負けたことが憎らしく、許せないのは自分だけだった。
それなのに、少女の血は贅沢にも甘い。
少女は怪物に求めることを求め、怪物はそれに憂いた。
それが愛情ではないと、怪物は知っていた。それが愛情ではないと、少女も知っていた。
愛していても、互いに求めるそれは、二人をつなぎとめるだけのただの証だった。
けれど怪物は、卑怯にも、少女の求めを受け入れ、ただ漠然と、彼女からの愛を願った。
絶対に、その先へは…自分と同じ姿を、少女に覚えさせてはいけない。あのとき怪物は、そう、心に誓っていた。