ヲタッキーズ149 新橋鮫の憂鬱
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第149話「新橋鮫の憂鬱」。さて、今回はビニール袋とテープを使った独特の手口で整形外科医が惨殺されます。
美への異様な執着を持つ患者達が次々現れる中、真相に迫るヲタッキーズの前に国家が手術代を支払う謎の整形手術が行われている疑惑が浮上して…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 始まりのエピローグ
その車のフロントガラスには、コレでもか、というぐらいに駐車違反の黄色い切符が貼られている。
何処からともなく現れたレッカー車から、作業員が飛び降り驚くべき手際で違反車の移動を始める。
朝焼けに染まる昭和通り。車列は和泉橋を右折して姿を消す。運転席に顔をビニールで覆われた死体を乗せたママで。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「刺殺?テリィたんにしちゃヤタラ普通ね。前回は頭をレンジでチンしたらどうなるかと聞いて来たのに。しかも、火星人」
「今回の事件はフィクションじゃない。被害者は新シリーズのモデルの母親なんだ」
「ふーん」
病理鑑定書を斜めに読む女医のジョイ←
「事実上、迷宮入りしてる事件ナンだけど、アキバで1番の法医学者なら何かわかるかと思って」
「現実は、フィクションとは違うわ。迷宮入りした事件を10年経って解決する確率って…」
「天文学的な数字ナンだょな。でも、ちょっち見てくれょ」
ジョイに"バランタイン30年"を薦める。
「あら?ヤルだけヤルわ。でも、結果は約束できナイ」
「わかってる。助かるょ」
「何かわかったら電話スルわ」
ジョイは"30年"を1舐め。お出かけスル。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラと居心地良くて回転率が悪化。メイド長はオカンムリだ。
「テリィたん、死体専門医と何の話?」
「ちょっち相談さ」
「ラギィのお母様のコトに首突っ込んでルンでしょ?」
"オンライン呑み"のルイナがモニターの中から突っ込む。
「また盗み聞きしたの?」
「私だって"御帰宅"してルンだモノ。トイレに立ったら、たまたま聞こえたって感じ?」
「マイクが集音モードになってるぞ」
ルイナは車椅子の超天才で秋葉原D.A.大統領府の補佐官。
「で、テリィたんが調べてるって。ラギィは知ってるの?」
「万世橋の許可が必要かな?」
「だって、コレはプライバシーの侵害でしょ?」
"新橋鮫"にプライバシーって必要か?
「別にパンツの入った引き出しを漁ってるワケじゃナイ」
「ラギィに言うつもりがないんだったらヤメときなさい。女の過去を漁っちゃダメ…」
「大事件よっ!」
ソコへ突然スピアが御帰宅。僕の胸に飛び込んで来る。
「どうした?」
「誘われたの。彼に!」
「誰に?」
来る者は拒まズ。ヒシとハグ。
「オエンよ!テリィたんならYESって言ってくれるよね。お願いだからYESと言って!」
「YES?」
「やったー!」
ますますヒシヒシと抱きつかれるw
「でも、何がYESなんだい?」
「プロムよっ!」
「待て待て待て。プロムって、高校生の卒業パーティだょな?スピアは、とっくに高校は卒業して今は立派なアラサー…」
強引に遮るスピアw
「"チョベリバ"のイベントよっ!オエンは太客なの。しかも、マジかっこ良い。ねぇお願いょ」
「わかった。でも、許可したら約束だ。アフターまで楽しんでくるって。でも、楽しみ過ぎはアウト」
「手をつなぐぐらいょ。キスも未だって"設定"なの」
じゃ"設定"を守れw
「ソレ以上は話さなくて良いや」
「行っていいの?」
「もちろんだょ」
興奮したスピアは、突然スク水になるw
「そうだ!ドレスを買わなきゃ。ドレスハンティングょ!テリィたんも付き合って」
「ぼ、僕もか(その赤スク水でも良いと思うけどw)?」
「ありがとう、テリィたん!」
モニター画面の中でルイナがつぶやく。
「オエンって良い子なの?」
「会ったコトない」
「会ってないのに、デートを許可したの?テリィたん。貴方、一体どんな元カレょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「スピアの彼氏の身元調査?」
新幹線ガード下の昼でも薄暗い駐車場。奥に張られた黄色い規制線テープに向かって歩きながらラギィは小首を傾げる。
「だってさ。物静かで自宅に住んでルンだぜ?連続殺人犯のキャラまんまだろ?」
「テリィたん、誰の話?」
「だから、スピアの彼氏だょ。"チョベリバ"の秋イベにスピアを誘った奴がいるんだ」
"チョベリバ"は、東秋葉原にあるスクキャバの名門だ。ストリート育ちのスピアは、キャバ嬢をやってた時期がアル。
「テリィたんの元カノ会長が初めてのプロムデート?そりゃ連続殺人犯より100倍怖いシチュエーションね」
「僕も昔は高校生だったんだぜ?」
「今も高校生のマンマでしょ?特に味覚」
ヲタッキーズのエアリ&マリレの2人が規制線テープを上げて僕達を事件現場に入れてくれる。因みに2人はメイド服。
ココはアキバだからねw
「駐車違反で数時間前にレッカー移動されて来たばかり。車両識別番号を調べる時に、作業員が初めて死体を発見した」
「袋をかぶせられた状態でね」
「違反切符が6枚も切られてるのに、誰も中を覗こうとしなかったのか」
メイド達からの報告を聞き、溜め息をつく僕。
「サンシェードがあったから生姜焼きライス…じゃなかった、しょうがないカモ」
「でも、少し開けてみれば中に誰がいるかわかったろうに」
「大都会ってコトね」
引き続きエアリから状況を聞く。
「ジョシ・リーズ。37才。財布の中の名刺によれば、整形外科医らしい。車も彼女の名義」
「現金は?」
「現金?今どき持ち歩いてる人が変人」
うなずくラギィ。彼女は万世橋警察署の敏腕警部だ。
「じゃあ強盗の線はナイってコトね」
「ラギィ、ビニール袋にテープだ。ずいぶん効率の悪い殺し方をするモンだな」
「そうね。でも、ソレだけに意味がありそう。怨恨かもしれないわ。身内に連絡して、いつからいなくなったか聞いて。死亡時期は?」
検視中の鑑識が振り向く。
「恐らく1週間位前です。"blood type BLUE"」
「最初の違反切符も1週間前だわ」
「窒息のようにも見えますが、一応、毒物検査にもかけてみます。でも、窒息と考えて良いと思います」
僕は頭をヒネる。
「なぜビニール袋を破かなかったんだろう。薄手のビニール袋なのに」
「縛られてたのカモ」
「ソレだけじゃナイ。全部の指の爪がはがされてるわ」
ビニ手をしたラギィが死体の手を摘む。
「しかも、全ての指が折られてる。爪は生きている内にはがされた形跡がアル」
「指の骨が全部折られてる?」
「YES。死ぬ前に拷問を受けた可能性が高いわ」
第2章 エレファント・パースン
万世橋の検視室は地下にアル。ラギィが白い布をめくると、死体の顔が現れ金髪の婚約者が泣き崩れる。
「婚約者のコート・ニート。1週間前に彼女の失踪届を出してる」
「鑑識の結果は?」
「"blood type BLUE"。被害者はスーパーヒロインなので"リアルの裂け目"経由で入"秋"した可能性があります。異次元総領事館に照会中。移民管理局の指紋データベースの照合結果は明日になります」
僕と一緒に隣室で様子を見ていたラギィは、検視室から出て来たジャニーズ顔にアニメTシャツのヲタクに声をかける。
「万世橋警察署のラギィです。今回の件を担当します。お悔やみ申し上げます。少しお時間いただけますか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さすがに、取調室ではマズいので応接セット。
恐らく、昨夜も徹夜組の誰かが寝ていたハズw
「帰らないので嫌な予感はしてたんです」
「いつ婚約を?」
「1年ほど前です。式は来月でした。ガーデンヒルズ。強盗に遭ったと聞きましたが…」
婚約者のコートは顔面偏差値"高"。カワイイ系イケメン。
「強盗目的では無さそうです」
「え。じゃあなぜ?」
「何らかの犯罪に関わった可能性はありませんか?」
軽くのけ反るコート。端正な顔は母性本能くすぐり系だ。
「いいえ。彼女に限って、そんなコトは絶対にありません」
「失踪した日、何か変わった点は?心配したり、おびえてたり、上の空だったりしませんでしたか?」
「ありません。ウェディングケーキの試食のために会う予定でした。彼女がなかなか来ないので、クリニックに電話をしたけど誰も電話に出ませんでした」
ラギィが突っ込む。
「クリニックは東秋葉原のミッドタウンですね?なぜ車が133丁目に?」
「133丁目?通勤には佐久間河岸トンネルを使っていたのに、そんなに東へ行くコトはありませんでした」
「"河岸トンネル"ですか」
神田リバーの河底トンネルだ…泣き崩れるコート。
「連絡もナシに遅れるなんて。とてもマメな人だったのに。彼女は、絶対何かあれば僕に連絡してくれてました」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に帳場が立つ。
「現場は防犯カメラの未設置の通りです。有力な目撃情報もありません」
「あのイケメン議員はシロでした。アリバイの裏が取れました」
「車の発見場所は、ケーキ店からは相当遠いわ。婚約者すら知らない秘密があったようね」
ラギィが首を傾げる。僕の出番だ。
「例えば、小遣い稼ぎにインバウンドの臓器を摘出して売買スルための手術をして闇市場に流通させたりしてとか…コレは次のシリーズで使えるな。今のうちにメモしておこう」
「…SF作家の勝手な妄想は放っておいて、被害者の行動を整理してみましょう。最初の違反切符は?」
「先週の水曜です、警部」
僕の目の前でテキパキ会議を薦めるラギィ。優秀だw
「ジョシが使っていたミッドタウンの駐車場を調べて。ヲタッキーズ、行ける?」
「了解、ラギィ」
「テリィたんも連れてって」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
突然アキバに開いた"リアルの裂け目"からの脅威に対抗スル南秋葉原条約機構は、秋葉原D.A.大統領府の直属組織。
僕の推しミユリさん率いるスーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"はSATO傘下の民間軍事会社。僕がCEOを務める。
「ねぇラギィ。ちょっち聞いてもOK?」
「あら?テリィたん、現場に出たんじゃなかったの?」
「ラギィのお母さんの事件、再捜査は考えてないか?」
ラギィの母親は、2008年の"秋葉原無差別殺傷事件"で命を落とした、とされている。あくまで当時の調書の上では。
「母の事件?テリィたん、どういうつもり?」
「いや。ただ一緒に…」
「ヤメて!断るわ」
ラギィは、瞬時に般若の顔になる。
「優秀な法医学者を知ってるんだ」
「テリィたん。母の事件を蒸し返したら、貴方との縁を切るわ。わかったわね?」
「ROG」
何と本部を飛び出すラギィ。必死に追いかける。
「待てょラギィ。どうしてそんなに嫌がルンだ?」
「あのね。アルコール依存症を治す人は、お酒には近づかないでしょ?テリィたんは知らないでしょうけど、私が母の事件を調べ直さないとでも思ってるの?ファイルは、全部暗記出来るほど調べ尽くした。警察に入って3年間、非番の時間を全て事件の洗い直しに費やしたわ。でも、このママでは人間として壊れるとセラピーで指摘され、そう悟るまで1年かかったわ」
「ソンなにしてまで…」
気迫に圧倒される。辛うじて同じエレベーターに乗る。
「知らなかった」
「わかれば良いのょ」
「ごめん」
エレベーターのドアが閉まる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そのクリニックは"秋葉原マンハッタン"の一角、高層タワーの中層階にアル。
ほとんど下着姿の"谷間美人"が、重い胸をユサユサしながら退院?して逝く。
「テリィたん!どーして男は胸が好きなの?」
「しょうがないょ生物学的な特性だ」
「あの人、明らかに偽物だったけど」
そんなのワカラナイょ。触ってみなきゃw
「サンタクロースも偽物だけど、僕は大好きだ」
ラギィに続いてクリニックに入る。
「センセが失踪するハズがありません!…でも、心の底で嫌な予感がしてたんです。何か起きたの?」
「何か変わった様子はありませんでしたか?」
「いいえ。全く通常通り診察していました。ハネムーン休暇を控えていたし…」
先任ナースのジリアは、アラフォーの"美魔女"だ。
「最後に会ったのは?」
「先週の火曜日。婚約者に会いに行くとルンルンでした」
「帰ったのは何時ごろ?」
美魔女ナースは思案顔だ。彼女も整形?
「5時半頃でしたが、6時頃に電話したら、トンネルの辺りで渋滞してると言ってました」
「秋葉原は出たのね…なぜ戻って来たのかしら。彼女に敵はいましたか?手術で合併症が起きた人とか仕上がりに不満がある人とか?」
「当クリニックでは、合併症を起こしたコトは1度もありません」
美魔女ナースは胸を張るが、その横から異論が出る。
「でも、不満を持つ人なら結構いますょ」
「そーなんですか?」
「美しさと言うものには、基準がありませんし、ゴールもなく、従って完璧な満足というものも存在しません」
先任ナースは新人?ナースを睨みつける。
ラギィは、新人?ナースに狙いを定める。
「何かあったの?」
「ゴドバ・ルーグ夫人。3ヶ月前にトラブルがありました。顔の整形を希望されましたが、4度目の手術になるので断ったんです」
「4回も顔にメスを入れたの?ソレで?」
新人?ナースは、ツインテのトランジスタグラマーだw
「夫人はクリニックを訴えましたが棄却されました。でも、その直後から脅迫が始まったのです」
渡されたファイルを開けた瞬間、のけ反る僕達w
「こりゃスゲェ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室の隣室。マジックミラー越しにゴドバ夫人を観察中。
「アレが整形手術4回の結果?」
「自然の摂理に反した報いね。ゴドバ夫人は、夫の手で精神医療センターに入院させられてた。美への執着という強迫観念が度重なる手術へと駆り立て、強迫性障害から強迫症を発症しているらしいわ」
「で、テリィたん。誰が診断し、入院の手続きを行なったと思う?」
ヲタッキーズのエアリ&マリレから交互に質問されるw
「医師のジョシってコト?整形外科医が患者を精神病院送りに出来るのか?」
「とにかく、資料では、夫人が退院したのは1ヵ月前」
「ジョシの失踪届が出される3日前ょ」
真実は妄想よりも奇ナリw
「精神的に不安定な整形女か。患者が犯人?確かに良い筋書きだ。臓器売買よりウケるカモ」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。顔面各部が変形・膨張した整形女子が口紅を塗る。
「見て見て。どうしてあんな顔にしたの?」
「ドクターモローの改造人間みたい」
「黙りなさい。彼女も人間ょ」
隣室で盛り上がるヲタッキーズを諌めるラギィ。
「わかってるけど、あれ今のエレファント・マンのセリフ?いや、エレファント・パースンか」
ラギィは、僕をチラ見して微笑む。
「あぁ良い顔したなー。素敵だょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ゴドバ・ルーグさん。万世橋警察署、警部のラギィとヲタッキーズのテリィたんです」
「ヲタッキーズ?何でSATOが絡むんです?私の依頼人は"blood type RED"だ」
「整形外科医のジョシ女医をご存知ですね?」
夫人は、老練な弁護士を同伴している。
「彼女を最近訴えましたね?」
「その通りょ」
「顔面整形とインプラントと脂肪吸収を、彼女に拒否されたからですか?」
顔面はトンデモナイが冷静な答えが返って来る。
「その通り。でも、言っておくけど、アレは全て医学的に必要な手術だったのょ」
「でも、ジョシ医師は反対した」
「医者に反対する権利ナンて無いのにね」
僕が口を挟む。
「他の唇…じゃなかった、医師でも良かったのに…」
「彼女がNo.1だったの。私には、No.1に施術される権利はナイと言うの?ソレなのにオファを断るなんて」
「だから、脅迫したのか?」
老獪弁護士も口を挟むw
「とにかく、ジョシ医師には決定権はありません」
「自分の容姿は自分で決めるわ」
「ソレで殺したのか?」
明らかに動揺するエレファント・パースンとその弁護士。
「待ってください。ジョシ医師が殺害された?」
「夫人が精神医療センターを退院した数日後です。貴女の依頼人には、動機も機会もあったコトになります」
「確かに脅迫はしたけど…殺すなんて言ってないわ!」
ラギィが王手をかける。
「では、火曜の夜はどちらに?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィはガックリ肩を落とし、ゴドバ夫人の画像を消去w
「で、どこにいたの?」
「クリニックだって」
「え。結局また手術したの?あと何処をイジるの?」
そう言っておきながら、急に顔を赤らめるヲタッキーズw
「ウッソー」
「リアルょ」
「あんなトコロ、どうやって?」
その場の全員が"何か"を妄想w
「…ほ、ほかに不満を持つ患者はいないの?」
「車からは指紋1つ出ナイんだって。単なる復讐目的じゃナイ。一般人には出来ない芸当だわ」
「プロのお仕事?」
だとスルと厄介だ。
「ゴドバ夫人なら、殺し屋を雇う財力がアルわ」
「でも、アラフィフのセレブ妻ょ?拷問や窒息とはどうも結びつかないわ」
「指を折ったのは、何かのメッセージかな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ドレスショップ。ピンクのドレスで現れるスピア。
「テリィたん、どうかな?」
「キレイだょ」←
「いつもソレばっかり!このピンク、肌が青白く見える」
何を褒めても怒られるw
「スピアがどう思おうとも、そのママで完璧に美しいょ」
「聞いてナイから」
「あら、ダメだわ。やだ!ぞっとする」
何てコトを?!と、思ったがスピアは…
「そうょね!そーなのょ!」
「姉様。例の色、当ててみたら?」
「コレかしら」
スマホ片手のミユリさんが、お店のワードローブから水色のドレスを抜いてスマホ画面のルイナに示す。え。水色かょ?
「そう。その色がスピアのカラーコーディネートょ」
水色ドレスを肩に当て、ウキウキと更衣室に消えるスピア。
「ミユリさん!何てコトを」
「テリィ様。お気に触りましたか?」
「僕じゃない。スピアが劣等感を持ったらどうする気だい?」
珍しくミユリさんを責める僕だったが…
「テリィ様。腐女子は、コンプレックスなら、もうとっくに持ってます。だって、コンプレックスは腐女子の本能だもの。どんな腐女子も、自分のヲタクの部分に劣等感を持っています。BL、百合、非モテ、逆ハーレム、くせ毛、耳が立ってる、ツルペタ…ホント、嫌だわ。胸がペッタンコ。何と慰められても、メイドのコンプレックスは消えません。御主人様方は、わかってないんだわ。似合うメイド服やメイク、寄せて上げるブラだけが欠点を隠してくれるの。その…つまり、コンプレックスを隠すってコトです。メイドは、ソレを良く知っていて、だから、美しく装っているのです」
「スピア…スクキャバ時代はスク水デーだけで大ウケしてたのに」
「だから!あの頃の気持ちを、あの頃の自信を今、取り戻そうとしているのです」
その時、水色ドレスでスピアが登場。
僕は、息を飲み、思わズ立ち上がる。
「テリィたん、どう?」
「輝いてるさ」
「ありがと」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"医学博士ジョシ・リーズ"ゴールドプレートにそう描かれたドアを開け、彼女のオフィスで家探し中のヲタッキーズ。
「気になる患者はいないし、怪しげな秘密もなさそうね」
「でも、弱みを見つけたわ」
「何?」
ゴミ箱からカラフルな空袋を取り出すエアリ。
「エナジーバーょ。しかし、慈善活動に熱心でPCには逆ポルノ画像もゼロ。クリーンね」
「立派な変人だわ」
「でしょ?しかも、鍵付きの引き出しには…」
引き出しを覗き込むメイド2人。
「小切手帳ょ。他に隠すモノはナイのかな」
「こっちのファイルは?」
「結婚式関連の請求書とか何かが色々と入ってる。式場をめぐって別のカップルと争奪殺人とか…テリィたんがネタに使いそう。お得意のコメディ系スリラーね」
エアリがファイルをめくる手を止める。
「ねぇマリレ。コレは結婚関連じゃナイわ。オペ記録?」
「おかしいわ。患者情報が塗りつぶされてる」
「やはり、ジョシ医師には秘密が…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
先任の美魔女ナース、ジリアに尋ねる。
「センセの筆跡ですが、このカルテは初めて見ました」
「患者が誰だかわかります?」
「見当もつきません。55才の男性としか描かれてません」
ジリアも頭をヒネる。
「オペ内容はわかりますか?」
「あり得ません。センセは、オペ看である私抜きでオペはしません」
「でも、していたようです」
エアリの指摘にスタッフを振り返るジリア。
「マリヲ、8月18日のセンセのスケジュールを調べて」
「記録では、外神田医療センターで再建外科学会に御出席となっています」
「ウソをついて、私抜きでオペを執刀したと言うの?」
ジリアは絶句スル。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「病院によれば、手術は9時間。オペ看も麻酔医も同行していますが、クリニックの常勤スタッフは使っていません」
「常勤スタッフにも知られたくない9時間の極秘の手術ってワケね?その患者の記録、病院にないの?」
「ありません。まるで手術が行われてないかのようにファイル自体が存在しないのです」
ラギィに報告しながらポリポリ頭をかくヲタッキーズ。
「誰に聞いたの?」
「病院の管理部で確認しました」
「惜しい。ソレが誤りね。病院の患者情報が欲しい時は、絶対に漏れがナイ部署はただ1つ、会計ょ。病院は、必ずお金は取るハズだから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
引き続き万世橋の捜査本部。
「病院の会計でバッジを見せたら、謎の患者の手術費は退院直後に全額が支払われてるコトがわかったわ」
「誰が払ってるの?」
「ソレが電子送金なの。今、口座番号の持ち主を確認中」
ラギィは仕事が早いが…忙中閑あり。
「その後、テリィたんの元カノ会長さんは?」
「スピアか?美しいドレスを買ったょ。良い色のが見つかった。しかし、あの年齢でプロムとはね。御屋敷に迎えに来る彼氏をイジめるのが楽しみだ」
「何それ?脅すの?」
女子には馴染みがナイかもしれない。
「娘の恋人に、玄関でやる伝統的ないじめの儀式だ。娘が現れるまで、彼氏と父親は2人きりになる一瞬があるだろ?」
「そー言えば、私の高校時代のボーイフレンドも、その瞬間を恐れていたわ」
「え。どんな目に遭うワケ?」
マリレが"経験談"を披露スル。
「パパに音波銃をつきつけられて、財布の中の避妊具を確認させられたって。その後で彼、手が震えて私にコサージュをつけられなかったわ」
「ラギィは、どーだったンだょ?」
「わからないわ。私は自分の部屋で着替えてたから」
ボーイフレンドの苦労を女子はワカッテナイw
「カレは、どんな様子だった?」
「そういえば、何かに怯えていたように見えたけど…でも、私が怖いのかと思ってた」
「"カノジョ度"低いな。とにかく、今度は僕の番だ」
カップコーヒーを飲みながら拳を固める僕。
「で、テリィたんは何をスルの?」
「テーマは"僕らしく"だ。例えば…」
「ねぇ聞いて!みんな、驚くわょ!」
メイド服を翻し、エアリが飛び込んで来る。
「どーしたの、エアリ?」
「ラギィ、送金して来たのは最高検察庁だった。謎の整形手術の費用は、政府が支払ってるわ」
「どーやら豊胸手術じゃなさそうね」
誰も笑わないw
「なんで最高検察庁が整形手術のお支払いをスルの?」
「理由は1つしかない。誰かの身元を隠すのが目的ね。例えば、重要事件の証人保護プログラム」
「そして、恐らくジョシ医師に拷問した犯人の狙いは、その患者に関する情報だ」
騒然となる捜査本部。
「証人が危ない!犯人より先に見つけて保護しないと!」
「法が保護スル人間をどうやって見つける?」
「ソレは、保護してる人に聞くのが1番」
ラギィは、頭を抱えるw
「"Hard MIX"か…うーん"鉄の腐女子"に私から頼めと言うのね?」
「"Hard MIX"?」
「ミクス・キデス次長検事。組織犯罪が専門。マフィアも泣かす"鉄の腐女子"にして…テリィたんの元カノ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
最高検察庁…しかし元カノvs元カノでは通る話も通らないw
「久しぶりね、ラギィ。でも、証人保護プログラム下の情報は、全て極秘扱いょ。手術に関する証拠があろうとなかろうと関係ナイ」
「待ってょミクス。ソレじゃ被害者の権利はどーなるの?残された遺族や婚約者も、被害者との未来を奪われたのょ?」
「お気持ちはお察し。でも、検察には検察の職務がアルの。
上から目線だ。歯軋りするラギィ。
「あのね。検察が雇った医師が殺され、証人も命を狙われてる。ほっときゃ死体が増えるだけ。ソレでもアンタ、平気なの?」
「進行中の捜査に関する証人は明かさない。ソンなコト、絶対に許せません!」
「答えになってない!そんなんだから、アンタはテリィたんに捨てられたのょ。目を覚ませば?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やっちまったな、ラギィ。どうする?僕からミクスに詫びを入れるか?」
「ダメよっ!ソンなコトしたら、私、テリィたんの元カノをヤメる!…でも、証人が鍵なのに、その証人に関する情報がなければ動きようがないわ」
「別ルートで探ってみよう」
やれやれ。奥の手を出すか。
「奥の手?どーするの?」
「ミクスは、組織犯罪が専門だ。だったら、組織に話を聞きに逝こうょ」
「え。証人が誰かマフィアに聞きに行くの?」
僕はうなずく。
「YES。きっと業界の中では有名人だと思う。何たって命を狙われるぐらいナンだから」
「じゃ…今からマフィアのアジトに乗り込むの?」
「いや。友人を訪ねルンだ」
ま、1種のガールフレンドだね。
「マフィアの友人?」
「以前、執筆のリサーチでシンジケートの支部長だった女ギャングと会った。とても良い人だったな」
「…犯罪者ょ?」
僕を上目遣いで見るラギィ。彼女の得意技。萌えw
「だから、情報をもらえるのさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ランチタイムの過ぎた街中華。奥の円卓で1人黙々と計算をしているチャイナドレスの女子。
声をかけようと近づいた次の瞬間、横から女が飛び出し、僕の頭をカウンターに叩きつけるw
「おぃ!待てょ!僕はサルラの友達だ!」
「サルラ?」
「裏庭で殺して」
簡潔な質疑応答だ。僕は絶叫w
「何でだょ!サルラ、おいサルラ!僕だょ…」
「ジタバタしないで!」
「…待って。からかっただけょ」
円卓から立ち上がるサルラ。豪快な笑い声。
「悪かったわ」
ボディーガード嬢?に背中をポンと叩かれるw
「笑えないょ…」
「確かに。爆笑しちゃうモンね」
「座って」
ボディガード嬢?にイスを薦められる。
「"パルプフィクション"の巨匠BIGテリィ先生ね。ミユーリは元気?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
サルラが電話してる間に、僕はスッカリ打ち解けたボディガード嬢?のシャツにサイン。彼女の名前は…何と沈丁花だw
「あら?私のブラにもサインして…テリィたんの言っている証人は、スプラ・ファミリーのジミィ・ラット・モランね。ボスのお気に入りだったけど、Jrに疎まれてね。ボスが死んだらファミリーから追い出されちゃった。ソレで数ヶ月前、腹いせに桜田門に駆け込んで、内部情報を漏らしまくったモンだから、ファミリーは戦々恐々。ヤバい帳簿類もソックリ持ち出してるから、ファミリーのトップは全員、蔵前橋送りになりそうだって」
「そりゃシンジケートは全力で殺しにかかるな。どーりで整形をするワケだ。でも、医者がヤラれたんだから、彼女も時間の問題だ。"マルチバースの彼方"を執筆した時に…」
「あぁ!アレは面白かったわ」
ありがと。でも、アレは駄作w
「だろ?自信作だ…えっと、確かヒットマンによって、それぞれ殺し方に流儀がアルって話だったょね?」
「そうね。確かに言ったわ」
「今回は、ビニール袋とテープが使われてルンだが、誰か心当たりは?」
アッサリ首は横に振られる。
「そりゃスプラ・ファミリーの連中に聞かなきゃ」
「無理だょー」
「大丈夫。テリィたんでも話が聴ける奴がいるわ」
僕は必死に頭をヒネるw
「モランか!ネズミのモラン本人だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターにデカデカと顔写真。
「ジミィ・ラット・モラン。またの名をネズミのジミィ。モランは賭博に闇金融、ゆすりもやってる」
「裏切り者?いかにもシンジケートを裏切りそうな名前ね…ヒットマンの手がかりが欲しいわ。先ずはファミリーの周辺を探りましょう」
「ラギィ、ダメさ。どうせ何も出ない。プロの殺しは厄介なんだ。被害者との関係性も動機も何もナイからな」
本部にイライラが募る。
「じゃモランと会って話したい。事情を聞かなきゃ」
「そうだな。でも"鉄の腐女子"が許さナイ。動きようがナイんだ。やっぱり僕からラギィの非礼を詫びて…」
「絶対にダメ。情報源なら私にだってあるモン」
プイと横を向くラギィ。カワイイ。カワイイが…
「あ。元カレだな?デカくて陰気で嫌な感じの元カレだ!」
「そうょ。だったら何か問題?」
「ナイょ。でも、またラギィは肩幅デカ男にヨリを戻したいって迫られるぞ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
曇天。緑も池も残暑に蒸れる日比谷パーク。
「驚いたな、ラギィから電話して来るナンて」
「そう?でも、コレにはもっと驚くわ」
「スプリンクルだ!スッカリ見抜かれてるな」
子供のようにはしゃぐ元カレ。微笑むラギィ。
「私がウィラを知り過ぎてるだけ。だって、私達、付き合ってたのょ?」
カラフルなドーナツを千切ってハーフを薦めるウィラ。
「ヤメとくわ。私はもう卒業したの」
「そうか…捜査に関して何か頼みゴトか?」
「…私ってそんなにわかりやすい?」
ぱくぱくスプリンクルを食べながら、ヌカリのない元カレ。
「俺が知り過ぎてるだけさ。何だい?」
「"ネズミのモラン"に会わせて」
「アジアンマフィアの?ってか何で俺が関わってる思う?」
ラギィもヌカリはナイ。
「警視庁と検察庁が証人として保護してるからょ」
「だから…ソレをドコで知ったんだ」
「電気街の噂」
前の職場で、その筋から"新橋鮫"と恐れられたラギィだけど、今は元カレとの距離感を慎重に見極める元カノモードw
「ラギィ。俺は組織犯罪の担当じゃない」
「でも、エリートでしょ?検察に話が通る"ケモノ道"を知ってるハズだわ」
「俺がリクエストを断らない理由は?」
淡い期待をバッサリ裏切るラギィw
「シンジケートは、モランが検察に通じていると知り、整形手術を担当した医師を殺した。警察は、被害者のために捜査に協力スル義務がアル」
第3章 鉄の腐女子vs新橋鮫
"潜り酒場"自体がバックヤードなんだけど、そのまたバックヤードから血染めの白衣を着て、生首を持って現れる僕。
「ふははははは!行くぞ!」
「テリィたん!生首はヤメて」
「テリィ様。ヤメて」
水色のパーティドレスで現れたスピアと僕の1番好きなミニのメイド服で現れたミユリさんから総攻撃を受けヨロメく。
「だってプロムと言ったろ?」
「白衣を脱いで」
「早く」
大好き女子2名には逆らえない。
「わかったょ」
僕が血染めの白衣を脱ぐと、パーティガールとメイド長は顔を見合わせ肩を震わせて笑う。スピアは瞬時におすまし顔。
「わぉ。何て言うか…ホントに綺麗だ」
端正なタキシード姿のイケメン。ソレが僕の初オエン。
「貴方も素敵ょオエン」
「目線をくれ」
「テリィ様、控えめに」
スマホで動画撮りスル僕に注意が飛ぶw
「スピア、僕は無視してくれ」
「ミユリ姉様、テリィたん。オエンょ」
動画を撮りながらオエンと握手スル。
「はじめまして。お2人のコトはスピアから良く聞いてます」
「私達もょ」
「コサージュ、君の手首につけても?」
何と本格的だな。キャバの秋イベントなのにw
「もう行かなきゃ。行きましょオエン」
「待ってくれ。君が殺人鬼かどうか聞いておきたい」
「楽しんで来て。いってらっしゃい」
ドアを閉めるミユリさん。
「すっかりスピアも大人になったな」
「味覚5才児のテリィ様とは大違いですね。生首だなんて」
「クリストファ・ウォーケンのマネも考えてみた。"美しき…獣達"」
とても残念そうな顔をするミユリさん。
「素敵ですが…演技は彼に任せましょう」
スマホが鳴る。
「やぁラギィ警部。電話をくれて喜ばしいょ(クリストファ・ウォーケンの声で)」
「誰?テリィたん?」
「ゾーリンのモノマネしてた」
アッサリ種明かしw
「007?悪いけど似てないわ」
「そのうち似てくルンだ」
「…ウィラの手配でこれからモランと会うの。彼が手を回したら検察庁が承諾してくれた」
少なからず驚く僕。
「え。モランと話せるのか?」
「1時間後だけど来れる?」
「確かか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
何処だか逝えないビルの地下駐車場。
「ホントに地下駐車場なんだな」
「なんで?」
「昔見た香港映画と同じシチュエーションだ」
覆面パトカーの中で2人座っている。
「そのうちスモークガラスの4WDが登場スルんだ…」
ライトに照らされてホントに黒の4WDが現れる。
目の前で止まり、黒服が降車して、周囲を警戒w
「やれやれ。安い香港映画のマンマだな」
「許可出来るのは5分だけだ、ラギィ」
「万世橋警察署を代表して感謝します」
ウィラはうなずく。
「おじゃま虫作家は?」
「一緒だけど?」
「勝手にしろ」
ラギィと4WDに乗り込み振り向くと、後部座席に黒い目出し帽みたいなマスクをかぶった男が座っている。モラン?
「万世橋のラギィ警部。コチラはテリィたん」
「SF作家と同じネームだな」
「本人だ」
ポケットからクシャクシャに丸めたハンカチを差し出す。
仕方なく、ウィラからサインペンを借りてサインをスルw
「こんなトコロでサインをゲットとは!…でも、検察に全て話した。質問があるなら検察に聞け」
「貴方の手術をした医師について聞きたいの」
「あのドクターか?なんでだ?」
声に不安が混じる。
「先週殺されたわ」
「殺された?あのドクターがか?」
「窒息死ょ。ビニール袋とテープが頭に巻かれてた。スプラ・ファミリーの仕業カモ」
途端にブルブル震え出すモラン。
「カモじゃない!確実だ!」
「現場の特徴から考えて、ヒットマンが誰か教えて」
「おい!出してくれ!おーい!」
ドアをドンドン叩き出すモラン。ウィラが顔を出す。
「何だ?どーした?」
「ココから出してくれ!今すぐ!」
「モラン、犯人は必ず捕まえるわ。でも、ヒットマンが誰かワカラナイと探しようがナイの!」
もはや半狂乱のモラン。
「いるよ!ビニール袋とテープを使うヒットマンだろ?俺だ。ソレは俺の手口だ。わからないのか?コレは、俺への警告なんだょ。医者の次は俺だ。帰らせてくれ!車を出せ!早く!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に戻る。ヲタッキーズが飛んで来るw
「首尾は?」
「絶望的な大失敗しちゃった」
「あらあら」
スッカリ自虐的になってるラギィ。
「大事件の重要証人をすっかりビビらせちゃって…証言ヤメるとか言い出してるらしいの」
「それだけ?実は、さっき検察庁から電話があったの」
「OK。私から説明スルわ」
ラギィは溜め息。だが、事態はもっと深刻だw
「違うの、ラギィ。モランは、警視庁のセーフティハウスに戻る途中で、車ごと襲撃された。モランをかばったウィラのカラダを徹甲弾が貫通した」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜の"秋葉原マンハッタン"。摩天楼の合間をぬい首都高を走る車のヘッドライトが光の川になって流れる。
"外神田ER"は、アキバが市場だった頃から続く老舗病院だが先日、最先端医療機関としてリニューアルw
「信号待ちで隣に来た車が突然発砲してきた。先ずタイヤを撃ち、後部座席を掃射した」
「警視庁の特殊車両だろ?防弾加工は?」
「テフロンコーティングのKTW弾だった。4WDは蜂の巣ょ。モランは無事だったけど、ウィラはオペ中」
茫然と立ち尽くすラギィ。
「大丈夫か?」
「テリィたん、話すコトは無いわ。全て私の責任だモノ」
「予想は出来なかった」
激しく首を横に振るラギィ。
「違う。私達が会った直後に襲撃されたの」
「だから?」
「私達が尾行されてた。私達が犯人をモランに案内してしまったの。私がもっと慎重に行動していれば、きっとウィラは…」
そーゆーコトかw
「ラギィ、自分を責めてるのか?確かに僕達は原因を作った。でも、全ては助けたいからだ。普通は壁にぶつかったら諦める。でも、ラギィは違う。決して、サジを投げたり、諦めたりしない。ソレは、君だけに出来る素晴らしいコトなんだょ」
ラギィが顔を上げザマに放つ視線が僕の眼底を貫く。
「テリィたん!あの警察の人、助かるわ!」
馴染みのオペ看が駆け込んで来る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ココで」
「今日は楽しかった」
「私もょ」
ぎこちなくキスをする2人。
「じゃおやすみ」
「おやすみなさい」
「…おかえりなさいませ、お嬢様」
オエンが去っても、唇に手を当て、トロンとした目で微笑んでいるスピアに、ミユリさんが声をかけてニコニコ。
「楽しんだ?」
「ものすごく楽しかった。リアルデートっていいモノね」
「2人のキスの時は、私も目を瞑っていたから」
ポッと頬を赤らめるスピア。
「実は私も…目を瞑ってた。ミユリ姉様、私を待ってたの?」
「テリィ様が、元カノの無事を確かめるのは元カレの務めだって。でも、今宵は事件が佳境だから。ソレに、どーやらテリィ様のお務めも、まもなく終わりそうね」
「ミユリ姉様」
ミユリさんは、ラギィにオリカクをサービス。
「スピアは、いつか結婚に出産。休日にしかアキバに来なくなるわ」
「スゴい。私、30才は年取った気分ょ」
「でも、現実なの。少し前までスクキャバで偽セーラー服を着てた女の子が気づいたら、すっかり大人になってた」
スピアは、グラスをカウンターに置く。
「心配しないで。いくつになっても、私はテリィたんの元カノだから。そう伝えて、姉様」
「ホントに?テリィ様も喜ぶわ」
「約束する」
パーティガールとメイド長はカウンターを挟み微笑み合う。
「姉様は、この後もしかして変身?」
「子供は、もう寝なさい」
「はーい」
水色ドレスの裾をつまみ、スピアはバックヤードに消える。
第4章 赤き死のヒットパーソン
朝焼けが摩天楼を染める頃。捜査本部のボードの前で"考える人"のポーズが続くラギィ。
時折、思い出したように新たなメモを描いてはボードに貼り剥がしては、頭をかきむしるw
ソレを遠巻きに見ているヲタッキーズ。捜査本部のエレベータードアが開いてムーンライトセレナーダーがやって来る。
「姉様!ラギィったら朝4時に来てずっとあの調子ょ」
「私達、今朝も6時に呼び出しをくらった。被疑者を全員洗い直せって」
「あとラギィ、恐らくエスプレッソ合計9杯は飲んでる」
ムーンライトセレナーダーは溜め息。ボードの前に行く。
「ラギィ。ネットによれば睡眠不足はお肌の天敵だって」
シッと言って話を遮るラギィ。
「今、"真実"と対話してるの」
「で、"真実"は何だって?」
「今、モランを探しているのは、私達が話した誰かだって」
進展はナイ。ムーンライトセレナーダーは苦笑い。
「今回もマルチバースマフィアかしら」
「スプラと敵対するファミリーなら、むしろモランには証言してもらいたいハズょ。つまり、犯人は、捜査が始まる前にジョシ医師に接近出来た人物だと思う」
なるほど。
「婚約者かナース?」
「YES。でも、婚約者はシロだ。昨晩のアリバイもあるし、ジョシ医師にも電話してナイわ」
「ナースは?」
首を横に振るラギィ。
「3人ともマルチバースマフィアとは無関係」
「昨夜の行動は?」
「マギィは友人と食事。マリヲはカルテの整理。ジリアは家にいたらしいわ」
ムーンライトセレナーダーが当て推量を発出w
「なぜマリヲはカルテの整理をしてるの?」
「クリニックは閉鎖するらしいわ」
「ソレって、金曜の夜にするコト?」
ヲタッキーズのエアリが口を挟む。
「下っ端なんてそんなモンょ。土曜の朝6時に電話がかかってくるし…」
「女性ナース2人は、どれぐらいの勤務かしら」
「先任のジリアは10年。マギィは数ヶ月」
何となく持て余し始めたムーンライトセレナーダーは、さらに当て推量を発出←
「あら。下っ端のマリヲが働き始めたのは1ヵ月前みたいょラギィ」
「でも、姉様。彼は看護学校までさかのぼって調べたの」
「もう1度、調べて。きっと何か出るわ…あ。ラギィ、何処へ逝くの?」
ラギィは、既にスタスタ歩き始めている。
「私、マリヲに話を聞きに行くわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昼間の摩天楼。日光が差すビルの中のクリニック。
「あら?ラギィ警部、何か問題でも?」
「マリヲ、少し良いかしら。質問があるの」
「僕が何かしましたか?」
怯えるマリヲ。が、ココでラギィのスマホが鳴る。
「ラギィょ」
「マギィだったわ!」
「エアリなの?何の話?」
捜査本部のエアリからだ。その横で写真を見比べるマリレ。
「ナース学校に電話をして再確認したの。ジリア、マギィ、マリヲの3人の写真を送ってもらったけど…マギィだけ全く別人にすり替わってるwモノホンのマギィは仙台市民病院の精神医療センターに勤務中!」
「ジリアさん、マギィは何処ですか?」
「欠勤してます」
ジリアが答える。ラギィは、受付カウンターに置かれた、リード医師のネームカードを1枚手にとってシゲシゲと見る。
「リード医師は"外神田ER"にもお勤めを?」
「YES。ココのクリニックも"外神田ER"と提携していて、大きな手術は"外神田ER"で執刀します」
「というコトは、このクリニックのIDがあれば…"外神田ER"に入院中のモランの病室に入れる。顔を整形したモランを殺せるわ。しまった!」
このクリニックはハズレ。ババを引いた気分になったラギィは未だ事態がわかってないマリヲを睨みつける。テレ隠し?
「容疑は晴れた。でも…秋葉原を出ないで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
真っ赤なナース服は、彼女の"勝負服"だ。"冷血マギィ"は、ナースステーションから適当なファイルを抜く。
"重要証人モラン"の病室の警戒は厳重だ。何と病室の左右にメイド服のヲタッキーズが立哨している。そして…
ナースステーションでは、尋問でもあるのか"鉄の腐女子"ミクス次長検事が安い紙コップでコーヒーを飲み談笑中だw
フト渋谷百軒店のアパートで同棲してた頃を思い出す…
「待って。ココは入室制限があります。IDを見せて…マギナ・ダウデ」
「リストに名前がアルわ、マリレ」
「お入りください」
素早くスマホで名前を確認したヲタッキーズは、引き続き周囲に警戒の視線を飛ばす。ニコリと微笑み入室するマギィ。
「モラン。貴方って隠れるのが上手ね。シンジケートは、貴方が顔を整形したのに気づくのにも何週間もかかったわ。チオペンタルナトリウム。薬殺刑に使われる麻酔薬ょ。貴方のビニール袋&テープより退屈だけどね。でも、効果は抜群なの」
薬液を注射針で吸い取り、点滴に混ぜ込むマギィ。
目を見開き見ていたモランは、途端に苦しみ出す。
「あ、そういえばJrから伝言を預かってきたの。こう言ってたわ…"地獄に落ちろ"」
点滴に全量注入。七転八倒するモラン。
病室から出ようとしてドアを開けると…
「Hi」
ムーンライトセレナーダーが立っている。その後ろに僕と…"鉄の腐女子"ミクス次長検事。たじろぐ"冷血マギィ"。
「殺人および殺人未遂容疑で逮捕ょ」
マギィは、別のドアに殺到して開けると…ヲタッキーズw
「未遂じゃないわ」
「タイヘンだ!」
「既にチオペンタルナトリウムを注入した後ょ」
僕は点滴台にダッシュ、点滴を止めるが…
「おや?管が抜けてる。チオペンタル何ちゃら、床にこぼれちゃった。まんまとハマったな、女殺し屋」
「ミクス、予想される懲役はどれぐらいかしら?」
「そうねぇ最低で25年なのょムーンライトセレナーダー。その代わり、最高でも死刑はなくて終身刑。だって、暗殺は失敗だから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。足を伸ばしスッカリくつろいでるマギィ。
「終わりました。後はよろしく」
調書をとったラギィと入れ代わりにミクスが入室スル。
「ミクスは、モランと併せて証人が2人になったって大喜びしてたょ。今さらだけど、単独犯の可能性は?」
「マギィの本名はカーラ。"冷血カーラ"と呼ばれ、スプラ・ファミリーのために働いてきました。ヒットマン…いえ。ヒットパーソンになって5年目。今じゃ腕利きの殺し屋だわ。今回も、シンジケートはモランの暗殺にエースを送り込んだってワケ」
「男女同権、働く女性。ダイバーシティの尖兵ってワケか。モノホンのマギィは?」
解散の決まった捜査本部でラギィと立ち話。
「仙台でナースやってる。仰天してたわ。IDを使われていると知って」
「カーラは転職サイトから推薦状まで盗み、ナースに化け、クリニックに就職してた。でも、手がかりがなく、リーズ医師をつけてたのね」
「そのリーズを拷問して殺した後、なぜ姿を消さなかったのかな」
ラギィは、とったばかりの調書をパラパラめくる。
「遺体の発見前に消えれば自分が疑われるし、私達の捜査の進展も気になったンだって」
「そっか。お疲れだったね、ラギィ」
「thank you。今回もテリィたんがいてくれて助かったわ。余り認めたくはナイけれど」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「警察の検視は、彼女は無作為にメッタ刺しされたと報告してる。つまり、急所を狙ったわけじゃナイと。でも、この写真の傷を見て。この傷は…」
「何?」
「腎臓を突き刺した致命傷。しかも、抜く時にナイフに捻りが加えられてる。恐らく、彼女は直ぐにショック状態に陥ったと思う」
自分のタブレットに映した"致命傷"を指差す。
「こっちの傷は?」
「動けなくなってからのモノだわ。死に導いたのは、最初の傷の方」
「つまり、無差別殺人ではない?」
ジョイは、表情を変えぬママうなずく。
「未だアルの。念のため、検視局のファイルを調べたら、似た事件が3件もあった。いずれも鑑識は無差別殺人だと判断している事件ょ」
「関連性は?」
「聞く覚悟がアルの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜半から降り出した雨は強くなるばかりだ。
「テリィ様。話さなくちゃダメです」
「ラギィの衝撃が大き過ぎる」
「お母さんのコトですょ?秘密には出来ません」
ミユリさんは、僕を諭す。
「話さなきゃ。ラギィは元カノでしょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"外神田ER"。廊下までアフれる陽気な笑い声。
「ラギィ、ウソだろ?笑わせるな。傷口が開くょ!」
「大げさね。もう徹甲弾は抜けたのょ?」
「そーゆー君はスプリンクルは卒業したんだろう?」
半分に違ったスプリンクルを頬張るラギィ。
「してないわ」
僕は、病室のドアをノックする。
「ホラ。おじゃま虫作家が来たぞ。未だ君を追っかけてルンだ。おい、新作の執筆は終わらないのか?」
「今、最終章さ。ラギィ、ちょっと良いかな?」
「えぇモチロン」
立ち上がるラギィ。
「気をつけろ、ラギィ。彼は名器とお手合わせを願ってる」
「テリィたん、忘れて。飲んでる薬のせいだから」
「外で話そう、ラギィ」
僕達は廊下に出る。
「テリィたん。ずいぶん今日は元気ナイけど、どーしたの?まさか、名器とのお手合わせを前に緊張してる?」
「座って」
「え。なんで?」
あどけない笑顔を向けるラギィ。
「…まぁ良いから座れょ」
「ねぇどうしたの?」
「お母さんのコトだけど」
2歩下がるラギィ。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"整形手術"をテーマに、謎の整形手術を行う外科医、その婚約者、そのクリニックの先任ナース、新米ナース、看護士、整形手術魔、鉄の腐女子、女マフィアに重要証人、ハッカーの彼氏、異次元人でレースクイーン姿の美術強盗、ネオナチの老婆、シンジケートのヒットマンを追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部とその元カレで警視庁のパワーエリートなどが登場しました。
さらに、主人公と元カノ達にも元カレや新たな恋人が出現、ヲタクならではのにぎやかな恋愛模様などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、インバウンド的には完全にコロナ前の活気を取り戻した秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。