表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/54

第九話 森の中を進む

 ──そして現在。


「どうしたの? リアンくん」


 ふと我に返る。気遣うように声をかけてきたのはキーラ。切れ長の目とかなり細い身体のライン──ローブで隠れているが、出るところはしっかり出ている──が印象的な女性の魔術師だ。


「あ、ごめんなさい。少しぼうっとしてしまって・・・」


 キーラはリアンの深くて青い瞳をじっと見つめる。そして何かを察したのか、リアンに少し体を寄せてきた。


「怖いのね、でも心配はいらないわ。討伐隊の戦士はオーラントでも有数の騎士や冒険者ばかりよ。とくに団長を務めるオーバン殿はヴァレアの騎士団で随一の剣士だわ。それに──」


「戦神マヌダルの僧侶プリーストが二人と付与魔術師エンチャンターの私がいるから、戦士の方々は普段以上の力を発揮するでしょう」


 少年の不安を少しでも取り除こうと、落ち着いた声で語りかける付与魔術師エンチャンター。しかしリアンの表情は暗いままだ。


 なぜ十一歳の子どもをこんな危険な仕事に随伴させるのか。キーラはすぐ前を歩くジョスランの背中を睨みつけた。


「あなたの雇い主であるジョスラン殿も、オーラントでは名うての魔術師よ。負けることはないわ」


 自分の名を呼ばれて、貴族の魔術師はキーラとリアンへ振り向く。「ああそうだ」と言って、一枚の紙をリアンに手渡した。


「ジョスランさま、これは?」


護符タリスマンだよ。人を眠らせたり金縛りにかけたり、そういった悪い魔術から君を保護するお守りさ。──ポケットにでも入れておけば大丈夫だよ」


 キーラが気になって護符を見ようとした時、先頭を歩くオーバン団長がまた行軍を制止した。


 森の奥からゆっくりと近づく手練れの気配に、討伐隊の戦士たちが身構えた。やがて闇から人の形が染み出してくる。


「待たせたなギリアー」


 現れた男はギリアーと呼ばれた。長い前髪と口元を隠す覆面により、その表情は伺えない。


「皆、彼はギリアー。今回楽団のアジトを発見した斥候だ。ここからは彼も同行する」


 オーバンの言葉に頷くと、ギリアーは来た道へと向き直った。


 合流した斥候ギリアーと共に、森のけもの道をひたすら征く。

 討伐隊は霧滔むとうの森に入ってからというもの、獣にも魔物にも遭遇しなかった。


 獣はわかる。単にこちらが集団だから寄ってこないのだろう。だが魔物は違う。大渓谷が近いだけあって、森には獰猛な個体が多い。


 とりわけ危険なのは、ドゥーフェと呼ばれている魔獣だ。黒豹の如き体躯にほぼ死角のない三つの目、そして二本の長い尾を持つ。

 かなりの距離から獲物を捕捉し、飛びかかり、長い尾で打ち据え、締め上げ、肉を切り裂き、そして食いちぎる。


 熟練の冒険者でも一人で相手をするのは自殺行為と言える。


 森の捕食者ドゥーフェに遭遇しなかったのは、戦神マヌダルを信奉する僧侶プリーストのおかげだ。

 討伐隊は彼らが使う魔物除けの神聖術によって、戦力を消耗せずにここまで辿り着いていた。


(ここまでは予定通り。こっちは実力者をかき集めた精鋭部隊だ。仮に相手が五十人いようとも、賊相手に負けることはない)


 討伐隊の長を務めるオーバンは、見えてきたアジトと思しき木の柵を前にして、静かに猛る(たける)。


(さあ、賊を斬り殺して、とっとと帰るぞ)



お読みいただき、ありがとうございました。


少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたなら、

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を

【★★★★★】にして頂けると幸いです。


評価をいただけると、続きを執筆する励みになりますので、暖かい応援をいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ