第八話 楽団討伐
ヴァレア城砦に到着してすぐ、ジョスランは城主に謁見するとのことだった。
「ではリアンくん、ブルイエ城伯にお会いしてくるよ」
「はいジョスランさま。僕はその間、どうしていればいいでしょうか」
「そうだね、晩餐会にも出なきゃいけないから、少し遅くなる。だから客室で待機しておいてくれ。ああ、君の食事は、厨房で僕の名前を言えば出してくれるよ。 ──それから、何かあれば指輪で知らせるから、ここで合流だ」
必要なことは言ったとばかりに、ジョスランは薄暗い廊下の向こうへと消えていった。
──ぐう。
リアンの腹が鳴った。城砦に着くまでの間はごまかせていた空腹感が、ひと心地ついたところで主張をしてくる。
「ジョスランさまもお腹がすいてるだろうに、仕事っていうのは大変だなぁ」
孤児院でさんざんこき使われていた自分を棚に上げて、貴族魔術師の心配をするリアン。
何か食わせろと訴えてくるお腹をさすりながら、少年は厨房を目指した。
翌日は客室で朝食を摂るというジョスランのために、厨房から食事を運んだ。
朝食の後は入浴の手配を命じられた。貴族の背中を恐る恐る洗い、髭剃りもした。
(お、お貴族さまの顔に剃刀を当てるだなんて───こ、ここ怖すぎる!)
緊張で震えていた手が落ち着いたのも束の間、今度はアレを貰ってこいコレを持っていけ、アレをしろコレをしろと、次々に雑用を渡される。
少しでも遅いと容赦なく指輪が光り、まだかまだかと急かされる。
(ひいっ! ジョスランさま、人使いが荒いよっ!)
城砦の使用人たちは、小さいながらよく働く小間使いを優しく見守っていた。
その日の夜──
ジョスランは用意した道具を念入りに確認していた。
防御結界、悪意遮断、閃光、起爆、縛鎖、吸収。
多様な触媒・護符・式札を見渡してから、リアンに顔を向ける。(式札とは、特定の魔術が込められた魔具の一種だ)
「よしリアンくん、よく手伝ってくれたね。おかげで準備は整ったよ」
「いえ、ジョスラン様のお手伝いをするのが僕の役目ですから」
ジョスランは労ってくれたが、それよりもリアンは準備という言葉の方が気になる。
「明日の話なのだが、ここから南にある霧滔の森へ行く」
「むとうのもり……」
と言われても、リアンは王都からほとんど出たことがない身だ。当然、霧滔の森なんてものは知らない。
「ああ、仕事だと言っただろう? 僕の仕事とは、霧滔の森へ行く危険な仕事だ」
つまり今日の手伝いは、ジョスランの仕事そのものではなかったのだ。危険と聞いて、少年の心にざわざわとした不安が生まれる。
「一体、どんなことをされるのですか?」
「ここに集められた人間たちと共に、霧滔の森の中にある楽団の拠点を潰しに行くのさ。」
(楽団! 楽団ってあの──!)
オーラント王国の貴族令嬢が誘拐されたとき、たくさんの大人たちが楽団の仕業だと噂をしていた。
十一歳のリアンでも、楽団が危険な犯罪組織であることは想像に難しくなかった。
「僕はラギエ家の魔術師として討伐隊に参加せねばならない。以前伝えたように、僕の魔術は触媒をたくさん必要とするんだ。だから君には荷物持ちとして同行してもらう」
「討伐とは、つまりその──人を殺……」
「心配することはないよ。討伐隊はオーラントの実力者ばかりを集めているからね。それに僕がいる。君に危険は及ばないだろう」
きっと嘘は言ってない。イヴェットもジョスランを高名な魔術師だと言っていた。しかし戦いになれば人は簡単に死ぬ。
でなければ孤児院に、戦争によって両親を失った子供達がたくさんいるわけがない。
自分も命を落とすかもしれない。だが、今さら何もせず孤児院には帰れない。床に体を投げ出し、手足を振り回していやだいやだと喚いても、どうにもならない。
「わかりました。ジョスラン様のお役に立って見せます・・・・・・」
リアンはそう答えるしかなかった。
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