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08 あぁ!!なんて楽しいゲーム!!(死にかけ)






ーーーーー

【アックスゴブリン】

LV.11

HP:26/26

ーーーーー

ーーーーー

【ノーマルゴブリン】

LV.10

HP:24/24

ーーーーー

ーーーーー

【ゴブリンブレイダー】

LV.12

HP:24/24

ーーーーー

ーーーーー

【ノーマルゴブリン】

LV.9

HP:23/23

ーーーーー

ーーーーー

【ノーマルゴブリン】

LV.10

HP:24/24

ーーーーー







 ソラシドは奪った棍棒も捨てて逃げる。流石にあれは絶対に勝てない。

 いくらプレイヤースキルがあるとはいえ、大きすぎるレベル差と多すぎる敵、圧倒的に不利な状態で正面から戦うのは、むしろ愚かなことである。



「島の地下室で籠城する!生存方法はそれしかねえ!そもそも!最初っから!ゲームバランスが戦うことを想定してない!極力戦闘を回避して生存する、最初の一夜は大人しくそうしろってことだ!」



 武器はない。レベルも低い。スキルみたいなものもない。回復アイテムも偶然見つけたリンゴだけ。最初の朝から始まる物資調達の時間と、それで得たものに対して、夜の敵の強さはまるで釣り合っていない。


 逃げる、逃げる。島の中枢めがけて、青い胸の光をなぞって、走って走って逃げる……追いつかれる。



「はっ、はっやぁ!!?」



 気がつけば横一列にゴブリンが並んでいた。

 レベル差は最低でも8以上。一体どうして走って逃げ切れることができるだろうか。一撃の火力も、その耐久力も、走るスピードでさえも。全てにおいて勝てる要素は一つもない。

 逃げることさえ許されず、ソラシドはあっという間に包囲されていた。


 そこに希望はない。無慈悲、理不尽、圧倒的な高難易度。ソラシドがちらと奥を見てみれば、まだまだゴブリンが湧いて出る。5体どころじゃない。目で見て数えるも、両手でたりなさそうだった。



「せめて、せめて地下室に逃げ込めばッ、まだワンチャンスある……」



 目の前のゴブリンの大群に、なすすべなくやられてしまうのか?いや、そんな事にはさせない。絶対に一矢報いてみせると気合を入れる。



「クソ!今死んだらリンゴをロストするぞ!!そうしたらいよいよ勝ち筋が無くなる!!なにか策は策はないか!?」



 ソラシドは決して諦めない。この状況を打破する何かを必死に考える。

 このゲームは死んだらリセットされる。広げた島も集めたリンゴも。全て失うのだ。そんなことあっちゃいけない。



「武器もない、レベル差もある。あきらかな不利。これをひっくり返す方法は────」

 















 ────その方法はどこからともやってきた。


 まだ終わらない。絶望の初夜、常闇の中に、劈く稲妻のように、明るく大きな声が響き渡る。



「大丈夫ですかぁぁぁ!!!」


「お前はっ……ツルギ!?」



 そこには、片手に石剣を携えて、バタバタ駆けつけてきたツルギの姿があった……。







「そうか……このゲームの攻略法ってそういうことか」



 ソラシドは絶体絶命のピンチに陥った。だがそのピンチを切り抜ける為に残されたたった一つの方法がある。



「大!丈夫!ですかっ!!」



 ついさっき出会ったばかりの女性プレイヤー、ツルギは、どういうわけか、片手には石を砕いて溶かして作り上げたような、切れ味は一切無さそうで粗暴ながら、形は立派な剣を携えている。

 その石剣の暴力でゴブリン1体を2振りで仕留めてみせる。



「協力だ。プレイヤー同士による協力。このゲームはそれを前提に、難易度調整がされてるんだ……!!攻略するには、人の数による力が不可欠!!」



 曰く、黎明期のMMOでは、ソロプレイヤーなんてものは余程じゃなければ成立しなかったという。今でこそ一個人だけで輝けるゲームが沢山輩出されたが、当時は呆れるほどの時間、呆れるほどの金、そして呆れるほどのマンパワーによって高難度を攻略することが多かったと言う。


 このゲームはそんな時代を逆行したようなMMOなのかもしれない。



「その人をいじめないでください!!ゴブリンさ……うわぁあ!!みんなこっち向いたぁ!!」


「ツルギ!?」



 ゴブリンの目線が一気にツルギの元へ集中した。物騒な鈍器を振り回す人間がいたら当然か。これは俗に言うヘイトが溜まるということだ。



「まずい!分散させねえとツルギが死ぬ!!」



 ソラシドの身体は勝手に動く。一番手前のゴブリン……【ゴブリンブレイダー】は錆びたナイフを持っている。その持ち手を脚で蹴り飛ばし、ナイフを無理やり引き剥がすと、強奪してみせる。



「オラァこっちだクソ雑魚モンスターどもォォ!!」


「今のすごい!!どうやったんですか!?」


「感心してる場合じゃねえ!!ヘイト分散してるうちに逃げるぞ!!」



 もう5体どころじゃない。後続が次から次へと湧いて出始めている。

 逃走の一手が最善なのは明白。チャンスがあるとすればいまゴブリンたちが、石剣を持った女か、錆びナイフを奪った男、どっちを襲うか迷ってる今しかない。

 ツルギとソラシドはアイコンタクトを取り、同じ方向へ……島の中心部へと走り出す。



「ひとまず島の地下室に閉じこもる!正面から相手して勝てる物量じゃない、なら安全な場所で夜をやり過ごすしかない!いいか?」


「了解です!リーダー!」


「リーダーは柄じゃねえからよせ!」






◆◆◆◆





「はぁ……はぁ……正直侮ってた……。敵強すぎんだろこのゲーム……」



 ソラシドとツルギは島の地下室に身を寄せた。一つしかない入り口を見張り、ゴブリンが降りてこないか警戒する。しかしまあ、まず一命を取り留めたことになる。



「本当にそうですよ!敵が強くて怖いですぅ!!ここもいつ占拠されるか……ひぃっ想像しただけで鳥肌が」


「そう、だな。ちょっと対策考えないと」



 ぞわぞわと武者震いするツルギ。その横で胡座をかき、顎を撫で、このジリ貧状態をなんとか耐え凌いでいく算段を立てていく。

 思考を巡らせつつソラシドはふと聞いた。



「ところで、なんで助けに来た?」


「そりゃもうリンゴの恩ですよ!行ったじゃないですか、私は義理堅いんです!」


「自分で言うか、それ」


「はい!あ、あとこれ、石の剣です!見たところ武器がないんですよね?一個あげます!」


「……その剣をどこで手に入れたかは後で聞くとして、俺のリンゴとその剣で引き換え(ギブアンドテイク)かな」



 少し、ツルギを見直した。コイツはもしかして単にちょっと"ポン"なだけでいい奴なのでは?と。

 そんなツルギは、おずおずと、少し申し訳なさそうに言った。

 


「────あのぅ私、ゲーム初めてなんですけど、大体の作品はこんな感じなんですか?」


「は?マジ?初めてなの!?」




 初めてのゲームがこれってお前……とドン引きする。



「いや、まあ事前に高難易度って謳い文句で売ってるし。他ならこんな最初っから逃げ回るようなことはないから特例だぞ。つーか、事前情報とか仕入れてないのか」


「いえ。なんかすっごい綺麗なパッケージだったので、衝動買いしたんです」



 そういう買い方もある、か。とソラシドは納得する。何かを始めることに、きっかけはどんな些細でも構わないだろう。

 ただどうなのだろう。いわばこのゲームは玄人向けだ。初心者に優しくない。

 そうなるとソラシドは一つ無性に聞きたい質問が出てきた。



「ツルギは、これを楽しめてるのか?」



 一番気になっているのはそこだった。娯楽を愛する者として、他者が娯楽に苦しむ姿は見たくないのだ。

 ただこれに対しツルギは即答した。



「めっちゃ楽しいです!」



 それから付け加えるようにこうも言った。



「私、小さい頃からあまり遊べなかったんですよね」

「へぇ」


「病気がちというか。今は落ち着いて大丈夫なんですけど。ほとんどの時間を寝込んで過ごして」


「病気か」



 語られるその言葉。妙に重みがあった。彼女がどんな生活をしてきたかはわからないが、苦労が多かったのには違いない。


「だから今、何もかもが新鮮で……!ゲームってこんなに楽しいんですね!」


「そう、それは、よかった」



 ソラシドは少し言葉に詰まった。だが、すぐに平静を取り戻す。リアルはリアル、ゲームはゲームだ。

 こちらができることは精々、心中をお察しすることだけ。相手の不幸を知って、同情をしても、そんなに深く気にすることはないだろう。

 と、わりかしキッパリと割り切っていたのだが。





 ────こんな身体じゃなければ、もっと沢山できたのかな




 そう呟いた声は小さく。もしかしたら勝手な想像で、実際はそんなこと言ってないかもしれない。

 だが、確かにソラシドの頭にはこの言葉が浮かんでいた。



 彼女の目の先は、どこか遠くを見つめていて、寂しさを感じさせる。

 ソラシドは、いや、シドは……悲しい気持ちになった。目の前にいるこの無邪気な女性は、娯楽というものを知らずにここまで来たんだ、と。


 娯楽とは何にも変えることができない尊いモノで、一番重要なもので、それが無い人生はあり得ない。17年とちょっと生きてきた彼にとって信条。

 それが病気なんてもののせいで、不自由になるなんて。こんな死にゲーなんかよりもよっぽど理不尽なことだと思う。


 シドの目に、ツルギの存在が映る。つい出てくるのは柄にもないくらいに、気を使うような言葉。



「安心していい」


「安心?」



 こくりと頷いた。



「ろくに遊べなかったってことは、逆に未だ見ぬ面白いことがたくさん溜まってるってこと。見てろ、チャージビームぶっ放すみたいにこれから面白えことで溢れるぜ」

 

「……っ!!」



 ツルギは感銘を受けたように口を抑える。




「それいい、考え方ですね!!」

「だろう?楽しむのに早いも遅いも関係ないんだ」



 ケタケタと笑顔をみせる。娯楽は誰にでも平等。楽しんだもの勝ち。それが遊びを愛するということだ。



「さてと、そうこう言ってるうちに、また問題発生だぜ」

「問題?」



 と、ソラシドがハシゴの方に目をやる。ツルギもそれに続いて目線を合わせる。



「あれ、あれれ?上から砂が……」

「どこまでも、このゲームはプレイヤーに容赦ない」



 ハシゴからゴブリンが降りてきている。それだけではない。天井が一つ二つと砂と土を落として穴が開く。

 そこにいるのは……ツルハシを抱えたゴブリンたちであった。




 





 




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