07 致死量の敵勢
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PN:ソラシド
LV.1
HP:14/14
SP:6/6
状態:平常
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装備品:なし
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日は沈んだ。島は、いや世界は暗黒に包まれた。月も星も存在しない、光の一つも存在しない黒。これはもはや夜ではない。闇といった方が正しいのかもしれない。
「く、暗い……」
光源となっている青白い光はソラシドの胸から出る例のそれのみだった。冷たい風が吹き荒び、不穏な空気が流れている。
「来たな……」
説明によると、夜になるとモンスターが"湧いて出る"と表記されている。そう、湧くのだ。つまり何処からともなくポンと現れるわけで。
島の地表を這うように闇の粒子が集まって、その"形"を作り上げる。
まずは2本の脚、次に丸いお腹、細い首、2つの腕、がちゃがちゃな口元に突き出た鼻、飛び出た目玉の不細工な顔。三角の耳がピンと立ち現れたそれを形容するなら。
「ゴブリン!」
「────クギャァァァ!!」
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【ノーマルゴブリン】
LV.5
HP:15/15
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ゴブリンは歯をぎりぎりと鳴らし、奇怪な音で吠えた。それは赤子のゲップのような音、とにかく不快感が強く、ソラシドは眉を顰めた。
拳を構える。ソラシドに武器はない。対して相手は、棍棒と松明を持っている。この松明、暖かい光源はせめてもの救いか、それともその恐ろしい怪物の見た目をはっきりと見せつける為のものか。
「っしゃあ、こい!素手でもぶっ倒す!それでレベル上げじゃ!」
お手並み拝見。ソラシドが恫喝すると、ゴブリンは足を2回その場で踏んだ。さながら相撲取りのシコ踏み、猛牛の足踏み、今から突撃しますと言わんばかりに、大きな目玉が二つがこちらを向いている。
(あからさまだぁ!そんなの見てから回避余裕で────)
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HP:4/14
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「は?」
それは一瞬だった。ソラシドが気がつく頃には、身体が打ち上げられて宙を舞い、赤色のダメージポリゴンが噴き出して死が眼前に迫っていた。
(身体の制御が効かない!?突撃、されたのか!?嘘だろ)
驚愕した。全く見えなかった。ゴブリンの動きが。今は敵どこにいる。自分はどうなっている。考えは混乱と共に加速する。ソラシドの中で暫く眠っていた、戦闘思考が目覚める。「まずい、このままではやられる」という危機感が迫る……!
「ギャアアッ!!」
「ふっ!」
ソラシドは空中で身体を捻った。死角からの攻撃を完全なる当て勘で回避してその場を凌ぐ。
……ゴブリンはどうやら真下にいたようで、打ち上げてからコンボアタックでもしようという魂胆だったらしい。
「……やばいって!あの速度で1発10ダメージってお前ふざけてんだろ!」
「ギャァ……」
「うわまたくるッ!?」
ゴブリンがゆったりと立ち上がり、重鈍な棍棒を担ぎ上げる。細い腕なのになかなかどうして力持ち。
ソラシドはやけに強いゴブリンに対して疑問を持ち始める。
「お前本当に序盤の敵なのか?強すぎね?一体どんな内部ステータスしてんだ?」
返ってくる返事は唸り声。日本語訳をしたらきっと「お前を殺す」になるだろう。
「くっ……とりあえずリンゴ食って回復……えーーっと、あ、やばい。これ悲報かもしれない」
ソラシドは体制を立て直すべくリンゴを取り出し……自分の体力ゲージを見て頭を抱える。
「リンゴの回復量は1個につき5ポイント。俺の体力はいま9ポイント……ゴブリンは1発10ダメージ……1個じゃ受け切れねえじゃんか!!」
仕方なくもう一個使用。ワンキルラインをひとまずは逃れる。ソラシドはゴブリンともう一度対峙した。そしてまず左手に持った松明を確認。次に右手に持った棍棒を確認。最後に相手の目線を確認した。
「大丈夫。さっきの高速アタックはビビったけど、攻撃パターンが多いわけじゃあない」
敵は鼻息を荒げた。姿勢を落とし、棍棒を担ぎさっきと同じように足踏みを1回。
そして、2回。
「そこだぁ!!」
突撃。対してソラシドは飛び上がって、蹴りを飛ばす。狙うは振るう右腕の肘あたり。
「グギャッ!?」
意思疎通はできなくても今のがゴブリンの驚嘆であることは誰でもわかるだろう。腕が弾かれる、棍棒を持つ手があらぬ方向に振り回され、ついにはその武器を手放してしまう。
そしてソラシドはすかさず奪取する。
「ふっはーっ!!バカめ!!棍棒は頂いたぜ……おっるぁ!!」
かっ飛ばして、フルスイング。ゴブリンの首元をへし折るように、奪った棍棒を振り回す。勝った、ソラシドはそう思った。
「グァ?」
「んわぁ?全然効いてない?」
なんと倒れる気配なし。よれよれとこちらを睨みつける。戦意は消えていない。むしろ怒って燃え上がっている気がしないでもない。
「いやけど、けどさ。若干優勢になっただろ。相手のメインウェポンは奪い取ったし。まだ松明振り回してきたら厄介だが、こっちも武器持ちになったからトントンだよな」
ゴブリンの貧相な手足を見ると、なおさら重さに違和感を覚える。火力、耐久力、速度、どれも見た目以上の代物であるかと感じる。けれども……。
「たしかに他のゲームの同じ名前の敵とは一線を画す強さだった。でも結局はゴブリン」
棍棒を担ぎ上げて、息を整える。対峙する小鬼と少年。いざ────。
5回だ。
この回数は、戦いの終結に至るまでの攻撃回数。
真っ黒な世界の中で赤色の四角いポリゴンが弾けて飛んで、そこにいた奴は死んで消滅する。
それを見ながら安堵するように、そして達成感に満ちた顔で、高笑いする者がここに1人。
生き残ったのはゴブリンか、ソラシドか。
「俺の勝ち」
ソラシドだ。
膝、腕、峰打ち、顎、脳天、5回の攻撃はその全てが寸分違わぬ最適の攻撃。ゴブリンの動きに完全に対応して、針を縫うように隙の間に差し込む。精密なミシンのように。
そも最初から敗北なんてあり得なかったのだ。そこに立っているのは誰だと思っているのか。
伝説的な記録を打ち立てた、文字通り最強プレイヤーの一角にたかが名無しのモンスター1匹で敵うはずはない。
「これが格の違いだ」
そうしてソラシドはゴブリンを撃破する。これによってレベルが1から2へと上がったのは朗報。この調子で行こうと、ひとまずドロップした戦利品をインベントリに詰め込みにいくのであった。
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PN:ソラシド
LV.2
HP:14/14
SP:6/6
状態:平常
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装備品:【ゴブリンの棍棒】
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────さて。ここでゴブリンというモンスターが、他のゲーム作品やあらゆるコンテンツでどういう扱いを受けているだろうか。
ゴブリンに重きを置いて、彼らを侮ってはいけない存在だと謳う作品はあれど、大概の共通認識はこうだろう。
『群れる雑魚敵、ボスキャラではない』
所謂強さが抜きんでた一個体のボスキャラクターではなく。あくまで最低基準の強さをした、どこにでもいる、有象無象なのである。
「あっ、あっ!?ゴブリン!?」
ソラシドが死体漁りをしようと歩いた先に、大きな目が二つこっちに向いていた。確かにゴブリン。2匹目のゴブリンに違いないのだが……。
「おっと、まーずいねぇ」
あえてもう一度言おう。ゴブリンの共通認識は
『群れる雑魚敵、ボスキャラではない』
つまりソラシドの目の前にいるのは、相手にしなければいけないゴブリンは、決して……。
「一度に5体はやばいって!!」
決して、1体ではないのだ。
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【アックスゴブリン】
LV.11
HP:26/26
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【ノーマルゴブリン】
LV.10
HP:24/24
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【ゴブリンブレイダー】
LV.12
HP:24/24
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【ノーマルゴブリン】
LV.9
HP:23/23
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【ノーマルゴブリン】
LV.10
HP:24/24
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