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06 食糧危機と夜の訪れ





【HP:13/14】


【HP:12/14】


【HP:11/14】


 

「やばいやばいやばい!死ぬぅ!!」





 現在【空腹】のソラシドは、数秒刻みにダメージを受けて蝕まれていた。早急に食料を調達しなければならない。食料がなければ死ぬ。

 大慌てで辺りを見渡せば、遠方に浮いている土地に大きな木が生えているのを確認する。




「うん?あれは……」



 その木の中を覗き込んでみれば、なんと赤くて丸くて美味しそうなモノが実っているではありませんか!



「あれだぁぁあ!!ハンドパワーァァァァ!!」



 その島へと手を伸ばす。空腹に苛まれながら、重力の力を解放し、手繰り寄せる。すると……。



【HP:11/14】


【HP:4/14】





「うわああああ!!HPごっそりもってかれたぁぁあ!!!耐えろ!!俺の体!!」



ーーーーー

その八

生活の基本、衣・食・住。


マスターは島にある、ありとあらゆる草花、石、土、水、生き物の血肉、その全てに触れて、【スキル:採取】を使用できます。


【スキル:採取】を使用すると、衣食住に必要なモノを手に入れることができるのです。


さあ、文明の第一歩。生活の基盤を作りましょう。

ーーーーーー



「ちょっと待って採取ってなに!?」


【HP:4/14】



 指南書の添付映像に目を通す。どうやらモノに触れて【採取】を発動しているらしいが。にしてもテンポが悪い。動画の、テンポが、悪い!



【HP:3/14】



 ソラシドは一目散に木の幹に駆け寄って、ガキのケツを引っ叩くようにばっちり叩く。



「頼む頼む!食糧くれ!」



 しかし何故か反応せず。



【HP:2/14】



「ちょっ!死ぬって!!なんで!!早く早く!!」



 一生懸命に叩く、叩く、何回も何回も。でも無反応。徹底的無反応。何故?ホワイ?そんな疑問が脳をグルグル駆け巡り、錯乱状態に落ちかける。



「あっ!えっと!【採取】!」



【HP:1/14】



 土壇場のところで、頭が働き、自然とそう言葉で宣言していた。

 なぜできないか、それは【採取】も島を動かす時のように念を集中する必要があったのだ。慌てて思考が乱れていてはそれも出来ず。言葉でこうして宣言することで、システムを直接発動させたのだ。


 言葉に反応するように手のひらは光を放つ。



「頼む間に合ええええ────ッ!!」














ーーーーー

採取結果

ーーーーー

リンゴ×12

太い木の枝×1

木の皮×1

ーーーーー



「ほぁーっはっはっはっ!!果実めっちゃ採れた!!生存!!生存!!舐めんなよ!!」


 ソラシド、間一髪で死を免れる。

 結果は、幸いにもホクホクで、抱えるくらいに大量のリンゴとその他副産物。ソラシドは果実を一つ残し、残りは全て持ち物欄(インベントリ)にしまった。


 死に物狂いで採ったリンゴにありつく。ゲームなので食べれない。代わりにその実体がポリゴンとなって崩れ、身体に直接吸収される。



「ふぁー生き返るわぁ!よし空腹治った!」



 状態異常、万事解決。だがしかし、ソラシドは「余裕を言っていられない」とそんな気がしていた。なぜかはわかるだろう。


「しかしリンゴがなってる木はこれ一本だけなんだよなぁ。多いと思ったけどそれも統計が自分だけだからわからないし……空腹の頻度によっては残り11個もすぐに底を尽きるかもしれない。割と余裕はない」



 それが懸念点だ。食糧危機がいずれ来る。それもすぐに。今回は偶然、果物が実った木を生やした島を手に入れていたからよかったものの、次は今のところない。



「と、いう、か、このリンゴなかったら今頃、飢餓に蝕まれ続けて死んでたわけで……やっぱこのゲームイカれてるぜ」



 あたりを見回してみるが、木もなにもない平地の浮島しか見られないあたり、今回の幸運っぷりが見て取れる。

 ソラシドはじわじわと高難易度の謳い文句が効いてきているのを実感した。



「これ結構なプレイヤーが飢餓で死んでそう……ああ、そう、あんなふうに」



 そしてその"難易度"に今まさに殺されかけている奴がいるではありませんか。真隣に。



「あのー、すみませーん」

「なんでしょう。ツルギさん」



 おずおずと、さっき会ったばっかりの変な奴が、申し訳なさ半分の苦笑いで、島の際まで近づいてきた。

 その胸から放たれる光は、鈍く、緑色だ。そしてこう言った。








「そのリンゴ1個、いや2個ください!」

「ダメに決まってんだろ!!」

「なんでー!!」



 なんでもクソもあったもんじゃない。



「理由は二つ。まず渡す義理がない。それから食料の重要度がまだわからない。以上、おいそれと渡せない」



 ソラシドは至極真っ当に意見を述べてみせた。乞食しようとする輩に慈悲はない。しかしツルギはその2つの理由に対し2つの答えで食い下がる。



「義理って、私と貴方の仲じゃないですか!それにそのリンゴあんま美味しそうじゃないし、いいでしょう!3個!3個ください!」


「お前と俺にそんな仲はねえよアホぉ!!ぜってえ渡さんッ!!美味しそうじゃないとかいう奴にはぜってえ渡さんッ!!あとナチュラルに要求個数増やすな!!」


「お願いしますそこをなんとか!」


「あーー!!土下座しながら条約違反するなお前ーーッ!!」










「……なぜこんなことに」

「やったあ!空腹解消しました!ありがとうございます!この御恩は一生忘れません!」



 結局リンゴを渡したソラシド、頭を抱える。ニコニコとリンゴを消費していくツルギとは対照的。


 ────空が赤くなってきた。上も下も右も左も、無限の空が広がるが、その果てがあるのだろうか。わからない。ただ一つソラシドの目に映る太陽は、地平線のように広がる雲の向こう側へ消えていく。



「ツルギ、恩義を感じるならそのまま、ぐるっと回って俺の前から消えてくれ……」



 そういうとこう返す。



「ダメですよ!そんな恩を仇で返すような真似は!私はね、義理堅いんです!」



 えっへんとふんぞり変える。自分で言うのか「義理堅い」と。流石に呆れてしまう。



「……俺この手のゲームは結構やってるから色んな奴を知ってるつもりだったが、お前みたいなタイプは初めてだ」

「え?あっ、ありがとうございます!」

「褒めてねえよ。さっさと自分の島に戻れ」

「はい了解です!」



 そうして追い返すとツルギは去っていった。ゲーム内時間はもう日が暮れ始めていた……。





◆◆◆◆








ーーーーーー

その九

「夜がやってくる。モンスターが現れる」

ーーーーーー




「やっぱ、いるのね、このゲームにも」



 モンスター。敵。プレイヤーの平穏を脅かす存在。エネミー。


 指南書によると、このゲームは夜になるとモンスターが島に湧き出るらしい。

 モンスターはプレイヤーの命を狙って攻撃してくる。であれば当然自衛のために色々取り揃える必要があるのだが……



[日暮れまで残り3分]


「どうしよう。もう夜だよ。リンゴしか持ってないのに」



 これでどうやって戦えばいいんだ (錯乱)

 一難去ってまた一難。食糧問題を解決した矢先に今度は敵の襲来。

 ソラシドは心底頭を悩ませながら、指南書に目を下ろした。有力な情報を求めて、読み進める。考える。そして導き出そうとする……。



「って、おっと!危ない危ない。足元崩れやすいんだった」



 ついそのことに夢中で油断していた。

 ふと駆け巡るのは死の思い出。ちょっと踏み込んだだけで落下死するあの理不尽。つい忘れかけていた。



「あれ?でもさっきより硬いぞ……」



 それどころか地下空間は始めたての頃より遥かに広い。地面も少しだけしっかりしたものに変わっていた。その証拠に今、少し足踏みをしても抜け落ちることなく、地面はその形を保つ。



「なるほど、これが島を広げた恩恵か!」



 ぴょーんぴょーんとその場でとんでも全然平気!ソラシドは感動を覚える。あんなに弱かった地面君が……と。成長を見守る母のように。


 冗談はさておき、島を繋げるとエネルギーが増え、崩落を抑えられる。このゲームの基本中の基本だ。ソラシドはしっかりと頭に入れておくことにした。



 ────ピキッ。



「と、あんま調子乗ってたら地面にヒビ入ったぜ、飛ぶのやめとこ」











 この時はまだ知らなかった、【-SKY-】が史上最高に難しいゲームと騒がれている所以を。

 これから待っている地獄を。夜が始まる。深い深い夜が。

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