04 健全で文化的で最低限の衣食住が、安全かつ満足に行える環境
────風は心地よく、広がる晴れの空は際限なく広がる。地面は踏み心地のよい芝で、胸の透き通るような解放感。
地上に広がる光景は、実に美しい。
「うおおおお!天!空!世!界ッ!やべえ!ワクワクしてきたぁ!」
ソラシド、ここに至るまで2度の死を経て地上に這い上がることに成功する。
その達成感から出る叫びはヤケクソに近い。
「初手からロッククライミング強要してくるのは反則だろ!」
と、悪態をつくが、その表情はどこか嬉しそうだった。
「まあ俺もだいぶ鈍ってるな。要リハビリと……いやしかし、美しい!絶景じゃあないかぁ!」
確か彼はゲームを始める前にこう言った。
「さあお手並み拝見といこうか。まあ、せいぜい楽しませてくれたまえよ」と。
先程の少し斜めに構えたような態度は何処へやら。地上に広がる空にテンションが爆上がりになったこの即落ち男。シド改めソラシドである。なんだかんだゲームが大好き。
皮のズボンにシャツ、裸足で手持ちは一切無しの状態から、どこともわからない島の上に立つ。
────これが【-SKY-】だ。
「じゃあしっかり面白いかどうか吟味させてもらうぞ」
ソラシドは首を横に振って、ゲーム世界に目を凝らす。
ここは浮島……といってもかなり小さい。せいぜい街にある公園と同じぐらいの規模。特徴と言えばそこに舵取りがある。海賊船とかでよく見る円形のアレだ。
足元には緑が生えていて、数歩進めば断崖絶壁。下は底の見えない雲だらけ。
そして中央の崖のみ、長い木の突起物がある。船首だ。ここは島であり飛空艇であることをよく表す。
「ここも地盤がボロボロになってる。さっきだんだん島は崩落していくと言ってたな……」
実際に崖っぷちを踏んでみると、地表が柔らかく潰れて砂となり、空の底へと消えてゆく。
いずれ崩れゆく島という時間制限、突然襲ってくる無慈悲な死を悟った。
「けど慌てることはない。このゲームは島を大きくするゲーム、当然その方法があるはず。じゃなきゃ娯楽として成立しないだろう。それじゃ【その三】を読んでいこうか?」
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その三
「他の島を引き寄せて領土を大きくする」
さあついに貴方自身が動く時です。マスターは自身の力を使って、近くにある他の浮き島を引き寄せることができます。
これでどんどん領土を大きくしていきましょう。
領土が大きくなればエネルギーも増え島も安定します。
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「ほいきちゃぁ!これよこれ!ゲーム始まった感出てきたなぁ!」
解決法はそれだった。
【その三】の下には実際に引き寄せて島を拡大する様子も一緒に映し出されていた。
ソラシドは見様見真似でやってみることに。
「こうして?向こうの浮島に手をかざして?念を込めて……はい、せーの、ハンドパワーッ!!」
まず手始めに小さな小さな他の島を見つける。それに向かって手を伸ばし、握りしめ、手繰り寄せるように腕を動かした。
島はゆっくりとこっちに向かってくる。まさに超能力みたいだ。
「あっ!!キタキタキタキターッ!!島が動いた!!はいはいなるほどね!!これでぇ、くっつけてぇ、デカくしていくってわけだ!!」
小さな島が自分の島の元へ。ソラシドのテンションが高まりが反響するように、島が近づく速度もぐんぐんと早くなって……。
「あっ!ちょっ早────」
島と島が衝突した衝撃でソラシドは吹っ飛んだ。3デス目。
忘れてはいけない。このゲームは"死にゲー"につき。
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【擬似孤島型永久重力戦艦-SKY-】へようこそ
ここは島の地下室です。まずはハシゴから登って外の状況を確認しましょう
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「ハロー、アイムファインセンキュー」
ソラシドは壁をつたってハシゴを登る。
[おめでとうございます。マスターはこれで土地を広げることができました]
「おう……慣れるまで時間かかったよ……」
慎重にやったら引っ付け方が悪く島がバランスを崩してそのまま墜落 (2敗)
既に5度の死を乗り越えたソラシドに、島の機械音声が祝福するように語りかける。その結果に喜んでいる……間も与えず音声は続く。
[さて、さっそくですがここで我々が課せられている使命をお伝えします]
「使命?」
ソラシドは首を傾げた。これはゲーム的な目標のことを指しているのだろうか、と。
先に言うと正解になる。してその目標とは。
[────健全で文化的で最低限の衣食住が、安全かつ満足に行える環境を作る]
これを目指して頑張っていきましょう。言葉の尻はそう括られた。
「健全で文化的で最低限の衣食住が、安全かつ満足に行える環境……か」
これまた随分と定義が曖昧だな、ソラシドはそう思った。しかしながら文字通りそんな環境作りができたなら【-SKY-】を攻略したと言っても過言ではない。
目標が明確になった時、ソラシドの心のうちで、何かが音を立てて騒ぎ始める。
「やってやろう。このソラシドに攻略出来なかったゲームはないからね」
それはモチベーション。
ソラシドはそう宣言して、次の島を見つけては、空を掴む。
そして腕を動かす。こっちへ来い、こっちへ来い、引っ張って、引っ張って、漁師のように島に手を伸ばす。
「────あれ?」
しかし、異変は突如起きた。
何故か島がいつまで経っても近寄ってこないのだ。いや、確かに一度引っ張れている感触はあるが、引っ張られた分向こう側に戻っていくようだった。
それはまるで、そう、自分の島とは別の場所からも引っ張られる力が加わっているかのような。
「あっ」
「えっ」
気づかなかった。目と鼻の先。フリーの島を挟んで、自分と同じ大きさの浮き島とその上には……少女が立っていた。
「あの、どちら様ですか」
「いやそれはこっちのセリフで」
そんなやりとりをしかけた次の瞬間には、持っていた指南書がウィンドウを展開する。
その隣でも同様の展開が起きたのは必然か。
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その四
「フリー状態の島の奪い合い」
周囲に浮く島は、フリー状態と言って、誰の所有物でもありません。
なのでもし、同じ島を貴方と誰か、マスター同士で競合してしまった場合引っ張り合いの奪い合いになります。
勝ちましょう。
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主人公が最強軍団集め出すのは10話あたりからになります。それまでしばしお待ちを。