03 一寸先で死ぬ
[……]
巨大機構が突然喋り始めた。ただそう思ったのも束の間で以降は日付と時刻を教えてくれるだけのbotと化した。その代わりと言ってはなんだがこんなものを拾った。
{ソラシドは指南書を手に入れた}
「これを読みましょう的な?」
指南者は本の形をしているが、その表記の仕方はホログラムウィンドウを展開する方式。
開くと透明な板とテキストが浮かび上がって見える。テキストの内容はこうだ。
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【擬似孤島型永久重力戦艦-SKY-】へようこそ
ここは島の地下室です。まずはハシゴから登って外の状況を確認しましょう
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ソラシドは無機質なハシゴに目をやる。
「おーけー、行ってみよう」
そして手をかけた。
その瞬間、地面の底が抜けて、ソラシドは落ちる。
「ぬんっ!?なんだこれぇ!!」
身体が天空に放り出された。重力に従い、加速度的に落下する。身体の自由はまるで効かない。
「うわああああ」
果ての無い空の底、落ちて落ちて……そして。
ソラシドは死んだ。
目を覚ますとそこはさっきの地下室で、巨大機構が忙しなく動いているが、さっきと岩の作りやパイプのつき方等々若干の違いが見受けられる。
つまり何が言いたいかというと、島は再構築され、リスポーンしていた。
「えっ、マジ……?」
死因その1。地盤崩落による落下死。あまりの突然死に戦慄するソラシド。こんな最序盤ならそうなるとは予想もせず。「負けイベントか?」と思った。
その思考に反応するように、先ほど拾った指南書が、テキストを顕現させる。
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その一
「貴方と島は一心同体」
この島はマスターである貴方の生命エネルギーと同期して稼働しています。
マスターが死んでしまうと、島も沈んでしまうのです。生き残ることを最優先にしましょう。
合言葉は「命を大事に」
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「いや、ごめん。今死んだんですけど」
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その二
「島は崩壊する」
島は空に留まるために沢山のエネルギーを使います。なのでマスターの生命だけではその形を維持できません。
時間経過とともに外側なら崩れ去り縮小していきます。
また地盤が緩いと地の底が抜けることもあります。注意しましょう。
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その忠告先に言えと、頭を抱える。
「ちょっと本気出すわ、このゲームやばい」
この島、この地下室、想像以上に終わってるようだ。チュートリアルからこの仕打ち、なるほど一筋縄ではいかなさそうだ。ソラシドはエンジョイモードからガチモードに頭を切り替えることにする。
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【擬似孤島型永久重力戦艦-SKY-】へようこそ
ここは島の地下室です。まずはハシゴから登って外の状況を確認しましょう
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「しゃあっ!!外に出て────」
と、今度は一歩動いた瞬間に崩落した。2デス。
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【擬似孤島型永久重力戦艦-SKY-】へようこそ
ここは島の地下室です。まずはハシゴから登って外の状況を確認しましょう
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ソラシドはすーーーーっと息を吸い込んだ。
「いいよ?いいじゃない?そうこなくっちゃあ面白くないよねぇ?」
その表情は笑顔も笑顔。引き攣ったような笑顔。
あまりにも理不尽過ぎるゲームの仕様に対して、遊び人としての血が騒ぎ、やってやろうじゃないかと火をつける。
「俺は遊びが好きだ。何よりも好き」
そう呟きながら、ソラシドは足を踏み込む。サクッと、柔らかい砂の感触があった。かと思えばすぐにその地面はサラサラと抜け落ち穴が出来上がる。
穴の底は、底のない空。果てしない雲の海。
「その中でも特に好きなのは、パズルゲームのような、プレイヤー側に問題を叩きつけてくるタイプのヤツ」
ソラシドは思い出す。数々の遊びの思い出を。
「初めてルービックキューブに触れた時は、一面揃えるのも一苦労したなぁ」
ブチギレながら、キューブを回していたのをよく覚えている。その結果、変な方向に無理やり捻って27個の四角形がサイコロステーキみたいに弾け飛んだ。ひどい話である。
さて、ソラシドは今、目の前にある"難問"に向き合う。
「現在地点から地上につながるハシゴまでの距離は大股で3歩ぐらいか?」
この絶妙で、かつ微妙な距離の間に、抜け落ちる地面が散らばっている。
周囲は真っ暗でハシゴのみにスポットライトが当たっているような景色だ。つまり一歩先が真っ黒でまるで見えず、目利きに頼ることは望めない。
「1回目と2回目で落ちた場所違うし、抜ける確率は乱数だと仮定する」
だとしたら厄介だ。さっきは抜け落ちなかった安全な地面を覚えていたとしても、リスポーン後にはまたリセットされる。次は落とし穴に変化しててもおかしくない。
「どうにかして、地面を踏まずに飛び越える必要がある」
アクロバティックに大ジャンプしてみるか。いやはやそれが出来る気はしない。レベル1の駆け出しプレイヤーにそんな派手な動きを要求されてもステータスが足りないだろう。
重要なのは模索すること。知恵を巡らすこと。知識を引き出すこと。
「あっ、そうだ」
ソラシドは不意に、すぐそばにある、この空間を取り囲む壁に手をつく。
壁はひんやりしていて、ゴツゴツとしていて、そしてなによりも。
「壁は硬いんだよなぁ、地面の質感と違って」
そしてなによりも硬い。安定感がある、頼もしい硬さだ。少なくともちょっと体重乗せたくらいで崩れるような気はしない。
ソラシドは試しに、凸凹の間に手を入れて、足の裏も壁の窪みに乗せてみる……。
「壁に崩れる気配はない。ってことは?」
────そして正しい解を導き出す。
ソラシドは壁をつたい、ヒタヒタと蜥蜴のように渡り歩く。地面を一度も踏むことなく、あっさりとハシゴに到達してみせた。
「この手の遊びで大事なのってなんだと思う?」
その貧弱さでソラシドを2度殺した地面に対して、問いを投げる。もちろん返ってくることはない。
ただ一つ、彼の中では答えが決まっている問いかけだった。
ルービックキューブはあんな苦労があったからこそ、頑張って白い色の一面が揃った時は大はしゃぎだった。
10000ピースのパズルは、絵が無い真っ白なせいで、深夜に泣いて震えながら頭を悩ませた。けど最後のピースを埋める時は朝焼けに吠えた。
どれも、これも、それも、最後には楽しかったといえる結果になった。
この手の遊びで一番大事なことはなんだ。その問いに対する答え。それは。
「それは、途中でやめずに、遊び込むことだぜ」
娯楽好きとしての矜持。ソラシドは凱旋門をくぐるような清々しい気持ちで、ハシゴを登って、地下空間から抜け出していく。
────いざ、この先の地上に広がる、広大な、空へ。




