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令嬢の本選び

作者: 末吉空緒子

学園の図書室は、扉を開けると左側に貸し出しカウンター右側にお勧め作品を集めた棚がある。


生徒が希望する本が購入されると並ぶ場所でもあるその棚には、この頃『悪役令嬢』とか『ざまぁ』といったポップが貼ってあり、取り扱っているのは最近巷で人気の少女小説なのだと幼馴染のアンナが言ってた。


私まだ読んだことがないのよね。

なぜならポップが貼り付けられる様になって約3ヶ月、その棚に本が並んでいるのを見たことがないから。


アンナの話だと、返却されても直ぐに借りられてしまうので予約利用者が増え、返却されるとカウンターの向こうの予約本の取置き場に保管されてしまい棚に並ぶ事がないんだそう。

目立つポップだけが飾ってあるという異様な棚になっているのは、なんとももったいない。


空いてるスペースに何か他の新刊を並べたら良いのに。

棚を眺めながらそう考えてしまうのは私だけではないはず。



「あ、」

私は思わず小さく声をげてしまった。

いつもなら空の棚の一番上に、一冊だけ本があるのが見えたから。


ピンクのマーガレット花を模ったマークの入った新書の作者は『ラブハルルーラ』作品名は『ミルフィーユの様な恋がしたいんです!』と書かれてあった。


ミルフィーユ?お菓子の様に甘いと例えてるのかしら。

この国では生まれた時に婚約者が決められる令嬢がほとんどで、顔を知ってるだけマシな政略結婚だから、平民の様な自由恋愛など夢の夢。

私も例に漏れず婚約者がいるが、婚約者から甘い言葉を貰った記憶は全くない。


そんな令嬢事情に夢を見せてくれるのが少女小説なのだというなら読んでみたいかも。

不思議な作品名に少しだけ心惹かれて確認しようと手を伸ばした瞬間、その本は消えてしまった。

正確には私の手が本に届く直前に、斜め上背後から伸びてきた手にサッと本を取られてしまったってだけなのだけど。



私は振り返り、その手の持ち主を見て驚いた。

「お兄様‥」


短髪に褐色の肌と筋骨隆々の体育会系に見える兄のアントニーは、筋肉バカの見た目と違ってかなりの活字中毒者だ。

ジャンル問わず読み漁り、部屋にこもって食事も忘れる事もあるくらいのインドアで不健康な食生活環境なのに、何故か健康的に日焼けした肌と筋肉を保っている学園の七不思議な人である。


地肌が黒い説もあるけど、私は知っている。

兄のお尻が令嬢の私のデコルテよりも真っ白な事を。


知ったのは偶然ですわ。

我が家の廊下で歩き読みしていた兄が、我が家の愛猫のニャンコ師匠に飛びかかられた時に、飾ってあった父様作のニャンコ師匠像(約2メートル)にズボンのお尻部分を引っ掛けて、破けた穴からチラッと見えてしまったから。


私も知りたくて見てしまった訳では無い。



「マリンか。ならいいな」

相手が妹なら交渉や譲り合う必要は無いと思ったのか、兄は左腕に貸出の限度の8冊のうち7冊を抱えてポップなカラーの少女小説を右手に、カウンターへと向かってしまった。


仕方ないわね。そのうちみんなが飽きて棚に並ぶでしょう。

私は別の本を探すことにした。



しかし、その本棚にそれらの本が並ぶのを見ることはないままに、私は学園を去ることになる。


兄からその本を奪わなかった事が後々の私の人生に大きく影響するなんて、この時の私は知らなかった。

始まったら、兄は攻略対象かもしれない。

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