五話 能力確認と第一異世界人
話の流れを区切る場所を見失っちゃって、無駄に長くなっています。
一万文字ちょっとあるので、注意して下さい。
俺は、帝国の街に向けて歩きながら気になっていた事を口にした。
「そういえば、俺たちが女神様から授かったスキルやステータスってどうやって見るんだ?」
すると親父が
「そりゃお前、自分の能力を見たいと念じながら『ステータス』って言えば《ブォン》お、ほら出たぞ。」
と言いながら、当たり前のようにステータスプレートを出現させた。…そりゃ俺も異世界好きだし、どうすればステータスを見れるかの検討はついていたが、目の前で当たり前のようにされるとムカッと来る。
…まぁそんなことはいいや、取り敢えず親父のステータスを見てみよう。そう思い、俺は親父の前にいきなり出現し、宙に浮いているプレートのようなものを覗き込む。が、そのプレートには何も書かれてなかった。
「ありゃ?何にも書いてねぇーじゃんか。なんでや?」
「ん?お前には見えんのか?ふむ…これは他人には見えんようになっとるんかもなぁ。」
「まぁ確かに、簡単に他人に見られたらたまったもんじゃないもんな。…でも謎のプレートが出てくるだけってのも他人からしたら怪しいけどな。他人に見えなくするならプレートも見えなくしとけよって感じ。」
「…俺もこの魔法(?)については詳しくないからなぁ。そのうち、親しい人には見せることができるようになるかも知れん。まぁ、今はその方法がわからんから口頭でお互いのスキルを確認しよう。まず俺だな、えっとなになに。〈軍団指揮ex〉〈士気向上〉〈地形把握〉〈思考加速〉〈知力上昇〉〈弓術ex〉だとよ。最初の〈軍団指揮ex〉は敵の数や種類から、必要な味方の数やその内訳、そしてどんな戦略を用いて戦うかの候補を出してくれるスキルだ。…まぁ、後のスキルは文字通りだ、説明いらんだろ。」
なるほど、恐らく最初の四つが〈指揮系統〉のスキルなのだろう、女神様は上手く纏めている。親父が『指揮系統のスキルを』なんてあやふやな事を言った時にはどうなるかと思ったが、その心配は杞憂だったようだ。
「じゃあ次は私ね。えーっと、〈道具作成〉と〈魔法具作成〉はね、作りたいものを思い浮かべてから使う素材をこの袋に入れて、えい!ってすると出来るみたい。物を作るときは構造が分かった方が精度や威力が良いみたいだけど、「こう言う物!」って思いながら作ると、一応なんでも作れるみたい。あ、でも生物やこの世の法則をねじ曲げる物は作れないって書いてあるわ。」
「つまり、爆弾を作るときに素材は同じ火薬でも、普通に作るときと『核爆弾のようにしたい』って思いながら作るとでは威力は変わるって事か?」
「ええ、恐らくね。それでも『核爆弾にしたい』って思いながら作るよりも、核爆弾の構造をちゃんと理解して適した素材で作った方が威力は高くなるわ。まぁ私にそんな知識はないんだけどね。春明よく気づいたわね。」
「まぁなんとなくな。どうせ親父も同じようなこと思ってたんだろ?」
「おう、誰も何も言わなかったら俺が言ってた。…後気になるのは、この世の法則をねじ曲げるものは作れない…か。まぁ確かに、母さんの思考一つでなんでも作れたらこの世は崩壊しかねんからなぁ。」
「お父さんそれどう言うこと?」
心晴が質問する。その横で、聖奈もよく分かってなさそうな顔をしている。
「ん?そうだなぁ、例えば母さんが「この世の空気を全て吸引する装置」をしっかり設計し、ちゃんとした素材を持ってきて作ったとしよう。もしそんな物が作られてしまったら、それだけでこの世界の空気を必要とする生物が全て死滅してしまう、そう言う感じだ。」
それを聞いた心晴の顔が青ざめる。
「お、お母さん!そんな危ないもの作らないでね!」
「あほ。」
俺は妹の頭を軽く叩く。
「そう言うものは作れねぇって話をしてんだろ。……まぁでも穴をつけばもしかしたら…。」
なんて、ちょっと妹をからかってみる。すると
ゴチン!!!
「お前は洒落にならん事を言うな。」
親父に怒られてしまった。
「へぇへぇ、えろうすんまへん。で?次は誰が言う?…って言う前に俺が言うか。俺がもらったのは…ん?そういえば、俺のは神界で女神様にスキルを授かる時に皆の前で言われたな。そのほかに追加で授かったスキルはありません!はい、次は心晴。」
「ん、私のは〈攻撃魔法威力上昇〉〈魔法知識(攻撃)〉〈詠唱簡略〉〈詠唱省略〉あ、あと〈魔力蓄積最大値上昇〉〈魔力蓄積最大値超上昇〉があるわ。」
「へぇ〜良かったやん。因み最大値上昇ってどんくらい上がんの?」
「〈魔力蓄積最大値上昇〉は二倍〈魔力蓄積最大値超上昇〉は三倍で互いに影響するってあるから実質六倍!!すごい!魔法撃ち放題じゃない!あ、あと気になってたんだけど〈詠唱簡略〉と〈詠唱省略〉ってどう使いわければいいの?」
心晴が首を傾げる。俺が答えようとすると、先に親父が口を開いた。…恐らく俺と同じ考えだろう。
「何、簡単な事だ。スキルに〈詠唱〇〇〉とあると言うことは、この世界では魔法を使う時に詠唱が必須と言うことだ。女神様が一応二つ用意してくれたのは、人前では〈詠唱簡略〉を使い、そうでないときは〈詠唱省略〉を使えと言うことだろう。」
「え?でもなんで…」
「恐らく〈詠唱省略〉の方がよっぽどレアで色んな意味で狙われやすいからだろう。…まぁそんなこと言ったら、ここいる人間全員がそんな感じだがな。」
まぁ確かに、ここにいる全員がはっきり言って化け物…になる予定だ(レベルが低いうちはそれなりに誤魔化せそう)。特に女性陣がやばい。男性陣も強いが、女性陣と比べると替えが利かないほどではない。
…だが、俺は味方を守ることに特化している。だから俺があらゆる危険から皆を守ろうと改めて固く心に誓うのだった。
「よし。最後は聖奈だな。」
「ええ、私が授かったのは…長いわね…。〈魔法知識(治)〉〈薬精製〉〈治癒効果上昇〉〈魔力蓄積最大値超上昇〉〈味方能力向上魔法〉〈敵能力低下魔法〉〈バフデバフ効果上昇〉〈魔物従属化〉〈召喚魔法〉ふぅ…この9つよ。」
「お疲れ、…七つ目までは大体わかるが、最後の二つはどういう能力なんだ?」
「〈魔物従属化〉は野生にいる魔物に自分の魔力を通して、自分の眷族にすることができる魔法よ。因みに、友好的な魔物を眷属にしたら野生の頃と比べてステータスが高くなり、逆に無理やりに眷属にしたらステータスが下がるそうよ。…だから、眷属化の数に上限がないからと言って無闇矢鱈にそこらへんの魔物を眷属にするのはやめた方がいいわね。」
「なるほど…。確かにそれはやめた方が良いかもな。管理するのも大変だし、数が多いだけで足を引っ張るようじゃ元も子もない。」
「ええ。あと、人の魔力を流されれて眷属化した魔物は人の言葉を話せるようになる。っていうのと、眷属化する前にあらかじめ『〇〇の眷属になりたい』と魔物が望むことで、他人を主人とした主従関係を結ばせることも可。これが〈魔物従属化〉の能力よ。」
「ん?つまり魔物が『僕、春明くんの眷属になりたい!』って思ったら、そいつを俺の眷属にさせることが聖奈には可能ってことか?」
「そう、そういうこと。まぁ、どうやって魔物がそう思っているかっていうのはその場のノリで判断するしかないわね。」
なんて適当な…と思ったが、魔物の言葉がわからない以上そういうふうに判断するしかないだろう。…もしも、ツンデレな魔物がいたとしたら判断するのは大変そうだ。
「それと最後の召喚魔法だけど、これには二つの全く別の使い方があって、一つ目は『眷属化した魔物を召喚することができる。』二つ目は『私の魔力との親和性が高い《存在》が、私の呼びかけに応じてくれた場合に召喚される。』って言うちょっとよくわからない能力だったわ。」
《存在》か…。精霊、悪魔、神…色々なものが頭をよぎるが、これだ、と今決めつけてしまうのは早い。親父も顎に手を当てて考えている。
いや、今そんなことで頭を巡らせていても意味がない。とりあえず、皆の能力も確認できたことだし、自分たちの能力で帝国に着くまでの道中で何ができるのかを考えよう。…いや、頭のいい親父に考えさせよう。
そう考えた俺は、《存在》について未だに考えを巡らせている親父に話しかける。
「おい、親父。今はそんな事に頭を使うべきじゃ無いだろ。ほら、俺たちのブレインらしく俺たちが生き残るためにはどうしたらいいか、それだけを考えてくれ。」
「あ、ああそうだな、すまん。ふむ…今現場で、戦力になるのは〈魔法知識(攻)〉を持っている心晴だけだな。俺の〈弓術ex〉と春明の〈バトルマスター〉を使うために、母さんは〈道具作成〉で武器を作ってくれ。聖奈ちゃんは…そうだな…もし、友好的な魔物がいたらすぐ眷属にしてくれ。まぁ、そんなに簡単に友好的な魔物が見つかるとは思えないから、いたらラッキー程度の心構えでいてくれ。」
「よし、そうと決まったら…まずは道具に必要な素材集めだ。母さん、弓矢と剣に必要な素材は?」
「そうねぇ。弓の方は、よくしなる頑丈な木と紐のような物。矢は、細めの真っ直ぐな木と葉っぱと石。剣は…作れなそうだから、大きめの太い木を持ってきて頂戴。」
俺たちは周囲を確認して、それっぽそうなのを持ってきた。
「ほい。こんなのでいい?」
「ええ、じゃこれを入れて。………えいや!」
母さんが、俺たちの集めてきたものを袋に入れ、変な掛け声を出すと袋の中から弓と15本の矢が出てきた。…がそこに一つ変な物が混じっている。
「お、すごいな。これは俺が使う弓矢に…ん?バット??」
そう、そこには普段俺たちが目にするよりも一回り大きめな木製のバットがあった。
「ええ、剣を作るよりも簡単かなと思って。…木や石で剣を作るのは、切れ味や耐久性にちょっと不安がね。だから最初から殴り専門のバットにしちゃえって。」
………母さん、バットは敵を殴る道具じゃありませんよ……。
「親父…。」
「何も言うな…。多分最近の漫画に毒されているんだろう。」
「いや、どんな漫画を読んでんだよ!熱い青春スポーツ漫画も読もうよ!!」
はぁ…まぁいいや。そう思ってバットを手に取る。すると
「!!!へぇ、これが〈バトルマスター〉の能力か。バットを持った瞬間にどう扱うのが最適かっていうイメージが、脳内にインプットされたぞ。これなら!甲子園!いや!Jリーグでも!ホームラン!打ち放題だぜ!」
そう言いながら素振りをする。いやぁこれはすごい、さすが〈バトルマスター〉どんな球が飛んできてもホームランを打つ未来しか見えない。
「あ、そうそう。今作った道具に効果を付与したから見てみて。」
母さんがそういうので、俺と親父は〈鑑定〉を使って自分たちの装備を見てみる。
「ん、なになに。弓の方は、矢を番えた時間に比例して威力が上がる。矢は、放った瞬間に風の魔法が発動して速度が上がる………か。強すぎないか??」
「え、なにそれすげぇ!えっと、俺のバットの方は……デッドボールに当たらない。…………ネタじゃねぇか!!なんだよこの能力!もっと何かあっただろ!身体能力向上とか!」
「ふふ、ごめんなさい。悪戯したくなっちゃった。」
母さんがそう言って手で頭をコツンとする。…おい、さっきからどういうつもりなんだ。母さんは俺に何か恨みでもあるのか?
そう思って母さんに詰め寄ろうとすると。
「……ま、待て春明!」
何かに気づいた親父が慌てた様に言う。
「これは、考え方によっては「飛び道具無効」になるんじゃ無いか?」
「!!た、確かに!ちょっとそこらへんの石を俺に投げてくれ。」
俺がそういうと、親父が足元にあった石を軽く投げてくる。すると
カッキーン!
俺の手が無意識に石を弾いていた。
「……今のはバットのおかげで弾けたのか、〈バトルマスター〉のスキルが無意識下で弾いたのかわからんな。…次は親父がバットを持ってくれ、俺が石を投げる。」
そう言って俺は、足元の石を拾いながら親父の死角にいる心晴にアイコンタクトを送る。心晴はそれに気付いて同じように足元の石を拾った。そうして二人同時に石を投げると
カカッキーン
親父は、俺が正面から投げた石と心晴が死角から投げた石をほぼ同時に弾いた。
「…無意識に手が動いた。どうやらこのバットは飛び道具を完全に防ぐ能力があるようだ…。」
…なんと言う事でしょう。母さんが悪戯で作り出したバットは、とんでもないバットだったようです。…っていうか母さんの能力エグすぎんか?ネタで作りったのに飛び道具無効って…。今後、道具に何か能力を付与する時には家族会議が必要だな。
「…まぁ、武器も手に入った事だし、これで魔物に遭ってもある程度は安心だな。まぁ遭わないにこしたことはないが。」
…親父。そういうのをフラグって言うんだよ。
しかし、その後すぐ何かあるわけでもなく、俺たちはまた帝国の街に向かって進んでいった。
が、しばらく進んでいると、前方からやけに騒がしい連中が砂煙を立てながら近づいてくる。
「お!あれは第一異世界人だ!おーい(ゴチン!)」
俺が大きく手を振っていると、親父に頭を殴られた。
「初めて異世界人に会うから興奮するのは分かるが…警戒は怠るな。まだ相手が善人か悪人か分からんからな。数は…5人か…春明!お前は前で構えてろ。心晴はその後ろで待機だ。俺は1番後ろで全体を見るから、母さんと聖奈ちゃんは心晴と俺の間にいてくれ。」
親父の指示で隊列を組み直す。俺はバットを持って先頭に立ち、心晴は俺の後ろで魔法を放つ準備をする、親父は弓に矢を番えながら最後尾に移動した。親父と心晴の間では、今はまだ戦闘力皆無の母さんと聖奈が何かに祈るように胸の前で手を合わせている。
さて、相手さんはどう出るか…。先頭にいた俺は睨み付けるようにして向かって来る相手を見た。…って、あれ?よく見ると…。
「ん?なあ、親父。先頭にいる男、後ろに誰か背負ってないか?…よく見ると周りの人間の服や装備には血がついている…?」
向かって来る相手との距離が近づくにつれ、ぼんやりとしか分かっていなかった相手の状況が少しずつ読めてきた。
「本当だな。‼︎よくみてみると、魔物に追われているぞ!魔物の数は……8匹、全部狼系の魔物だ!」
「…お父さん、どうするの?」
心晴が親父に指示を仰ぐ、だが親父が何か言う前に、こちらに向かってきていた先頭の男が大きな声で叫んだ。
「た、助けてくれ!頼む!助けを!」
俺は、必死に救援を求める男の声を聞いた瞬間にその場を飛び出していた。
「親父!あいつらをどうするかは一旦魔物を倒してからだ!ここにいたらどうせ俺たちも巻き込まれる!だったら、あいつらが殺される前に助けた方が俺たちの為にもなる!」
俺は、親父の返答も聞かず魔物に向かって一直線に猛スピードで飛んでいく。しかし、俺が着く前に1番後ろにいた小さな女の子が石に躓いて転んでしまった。そして、その子の手を引いていた女性もバランスを崩し、一緒に倒れてしまう。それを見た魔物たちは、すかさずターゲットを集団から二人の女の子に切り替えて、二頭の魔物がその女の子達に飛びかかる。
(しまった!!間に合わない!!!これ以上はスピードが出せない…。何か手はないか!)
俺がそう思っていると、俺の横を二本の矢が凄まじいスピードで過ぎていった。そして、その二本の矢は女の子達に飛びかかっていた二頭の魔物の眉間に命中し、絶命させた。
「チッ、唯一の前衛が勝手に飛び出しやがって、こっちに別の魔物が向かって来てたらどうするつもりだったんだ。……だがまぁ、それでこそ俺の…いや、俺たちの息子だ。やれ!春明!バックアップは俺がしてやる!お前はバットを持っている限り矢に当たらんだろうから好きに動け!」
「ナイス!親父!」
俺はそう言いながら女の子と魔物の間に着地した。そして、魔物の方を警戒しながら、転けてグズってる小さな女の子に話しかける。
「ほら、もう大丈夫だ、お兄ちゃんがきたから安心だよ。」
急に話しかけられた女の子達は少し困惑している。今度は、転けた女の子を庇う様にしている俺より少し歳下くらいの女の子に話しかける。
「君、大丈夫かな?立てる?」
「は、はい。」
「良かった。じゃあ、ちょっとこの魔物達をやっつけるからこの子と一緒に皆所まで下がっててくれる?」
俺は、親父達や魔物に追われていた人たちの方に指を差しながら言う。
「わ、分かりました。」
そう言うと、小さな子を抱えて行ってしまった。俺はそれを見送って、魔物の方に向き直る。改めて目の前で魔物を見てみると、思っていたよりもデカかった。大型犬の二、三回りくらいの大きい。普通、こんなに大きな狼を見かけたら、怖くて一目散に逃げ出してしまうだろう。しかし、俺はその狼を前にして、恐怖という感情は出てこなかった。むしろ、戦いを目前にして気持ちが昂ぶっていた。
(さて、魔物との初戦闘だ。地球では、戦闘とは程遠い生活をしていたが、女神様にもらった〈身体能力向上〉と〈バトマスター〉それと母さんが作ったチートバット、これでどれだけ魔物に通じるのか、レッツラ検証だ!)
数を確認すると、元々八匹いた魔物は五匹にまでその数を減らしていた。どうやら、俺が女の子と話をしてる間に親父が牽制で一匹仕留めてくれていたらしい。
俺は、バットを握りしめて魔物に向かっていく。一瞬で魔物に近づいた俺は、1番近くにいた魔物の頭を目掛けて力いっぱいにバットを縦に振り下ろす。すると、その魔物の頭は豆腐の様にグチャグチャ…にはならなかった。が、あれだけの攻撃をまともに喰らったんだ、おそらく死んでいるだろう。
「(まぁ、レベルの低い俺と俺のスキル、それに打撃しかできない木製のバットじゃこんなもんか。)…さぁ、まず一匹!さぁどうしたかかってこいよ!」
「グルゥゥゥ!!ガウ!!」
俺が魔物を挑発すると、それに応えるかの様に残った四匹の魔物のうち三匹が襲いかかって来た。
俺はまず、襲いかかって来た三匹の中で一番近いやつに狙いを定めた。そいつが飛びかかって来た隙を狙って、バットでアッパー攻撃をそいつの顎にお見舞いしてやった。どうやら俺の攻撃はクリティカルヒットした様で、吹っ飛んでいった魔物は起き上がって来る様子がない。それを確認した次の瞬間に、今度は二匹が左右から同時に攻撃して来た。俺はとっさの判断で、自分が右回りすることでバットを左から右に振り切り、二匹を同時に攻撃した。その二匹は悲鳴をあげながら右に飛んでいったが、俺の攻撃が甘かった様でふらつきながらも立ち上がろうとする。俺は、そいつらに止めを刺しに行こうと、右を向いた。
その瞬間!今まで動かずに、こちらを観察していた最後の一匹が、猛スピードでこちらに突進して来るのを俺は視界の左端で捉えた。
(早い!しかも、正面で捉えなかったせいで反応するのが遅れた!)
俺は、そいつの猛スピード突進から繰り出された引っ掻きをなんとかバットでいなし、距離を取った。そして、そいつを正面間近で見てみると、他のやつよりもだいぶ大きかった。そいつは四足歩行だが、地面から頭までは俺たちと同じくらい、つまり170cmはあった。
「…なるほど、お前がこの群れのボスって事か。最後の最後で出て来るなんていいご身分だな!」
そう言って、俺はボス狼に突っ込んでいく。攻撃方法は先程までとは違い、何も考えず雑にバットを振るだけでなく、フェイントをいれたり隙を作ったりしながら、一撃ずつ丁寧に攻撃を叩き込んでいく。しかし、流石は群れを率いるボスだ、なかなか良い一撃が決まらない。互いに、攻撃を躱したり受け流したりして、なかなか勝負が決まらないでいると、先程右に悲鳴をあげながら飛んでいった二匹が起き上がって来た。
(チッ、あいつら起き上がって来やがった。…俺とボス狼と力は互角だ。そこに弱っているとはいえ、戦力が加わってしまったら、力の均衡が崩れて俺が負けてしまう!)
俺は焦って早くボス狼との勝負をつけようとしてしまい、バットで攻撃するときに無理に力を入れてしまった。すると、恐らく相手は俺の焦りを見抜いたのだろう。その一撃に限って、ボス狼は躱すでも受け流すでもなく、純粋な力のぶつかり合いをして来た。その結果、俺のバットは持ち手から先が折れてしまった。
「!?やばっ!!」
そしてそれを好機と見た、起き上がって来たばかりの狼がここぞとばかりに同時に突撃して来る。
「っ!この曲面、俺ではどうしようも無い!…………俺ではな。」
そう言った瞬間に親父がいる方向から矢が二本飛んできて、俺に突撃して来ていた狼を両方射殺した。
「ナイスフォロー!いやぁ、ピンポイントで欲しい時にきてくれたなぁ。」
そう言いながら、俺はどうやってこのボス狼を殺そうか考えていた。
(俺の武器のバットは使い物にならない。一回撤退するか?……いや、それは無しだ。こいつを引き連れてしまう可能性がある。何かこいつを殺せる武器を……。)
俺はいろいろ考えながら、ふと手に持っているバットの持ち手の先を見る。
(ん?折れた際に先がギザギザに……少し、いやだいぶ危険な賭けだがこれにかけるしかないか。)
俺は、待ち手しか残っていないバットだったものを今までで一番固く握りしめた。
(そろそろ親父が痺れを切らしてボス狼に直接矢を放つだろう。そのタイミングで俺も同時に襲いかかって、やつの首にこれを突き立てる。心配な要素としては、バットが壊れた事で飛び道具無効の効果も無くなったと考えるべきだ。だから万が一、矢が俺に向かって来る様なことがあれば、自力で避けなければならない。それと、もし俺がバットの持ち手をやつの首に突き立てられなかった場合、もしくは突き立てても死ななかった場合、俺はほぼ丸腰でやつと戦わなければならなくなる。そうなったら……俺は奴を引き連れて皆から離れよう、恐らくそれが一番だ。)
俺は自分を鼓舞するために、何も持っていない方の手で自分の頬を叩いた。
「(バシッッ!)ふぅ…よし!!やってやる!!」
俺は覚悟を決めて、親父が矢を放つのを待つ。その間、ボス狼はジッとこちらの出方を窺っていた。
一分だろうか?十分?いや一時間?実際はどれだけの時間が流れたか分からなかったが、俺にはとても長く感じられた。
しかし、遂にその瞬間が来た。精神を極限まで研ぎ澄ませていたお陰で、遠くで親父が弓を放った音が聞こえた。そして矢が物凄い速度で近づいてきるのも感じる。俺は、今すぐボス狼に飛びかかりたい気持ちを抑えて、自分の飛びかかるベストなタイミングを待つ。
(落ち着け、今攻めても無駄死にするだけだ、まだだ、まだ早い、まだ……よし!今だ!)
俺は決死の覚悟でボス狼に向けて突撃した。次の瞬間に、親父の放った矢がボス狼の右目に刺さり、その衝撃で、ボス狼は大きくのけ反った。
「ギャン!」
(よし!のけ反ったお陰で首が狙いやすい!)
俺は、そのチャンスを無駄にしないように、よく狙ってからボス狼の首にバットの持ち手を突き刺した。すると、バットの持ち手が少し突き刺さった瞬間にボス狼が後ろに跳ぼうとする。
…やられた。こいつ、本当に頭がいい。もしかしたら、俺がこの一撃を狙っていると理解したうえで、わざと首を攻撃させたのかもしれない。もしそうであれば、こいつにとっても賭けだったろう。が、これで俺の打つ手は限られて来る。ここで俺が取れる選択肢は、ボス狼の首に突き刺したバットの持ち手を離すか離さないかだ。もし、俺が持ち手を離せば、その持ち手はボス狼の首に突き刺さったままになるだろう。しかし、俺の武器はなくなり、俺が攻めあぐねている間にボス狼は首に刺さっているものを取ってしまうだろう。そうなると、俺に勝ち目はほぼ無くなる。次に、持ち手を離さない場合。その場合は、俺の跳躍が甘いと、折角首に刺した持ち手が抜けてしまう。もし跳躍に成功して、空中もしくは着地先で深く刺す事を狙っても、その前にボス狼の前足で反撃されてあの世行きだ。
つまり、詰み……
いや!待て、良い手があった!俺は、その手を思いついた瞬間に、持ち手から手を離した。それとほぼ同時に、ボス狼が後ろに跳ぶ。ボス狼は、俺が持ち手から手を離したのを確認すると、前足の構えを解いた。
(…やっぱり、俺が持ち手を離さなかったら、空中で攻撃するつもりだったのか。危ねぇ。)
そう思いながら、俺はボス狼が着地するのを待つ。
もう既に勝った気でいるのだろうか、完全に警戒を解いたボス狼が優雅に着地を決めようとする。
(まぁ、油断しきっている方が俺的にはありがたいけどな!)
俺は、ボス狼が後ろに跳んだとき以上の速さで奴に接近する。その接近に気付いたボス狼は、慌てて迎撃しようと前足を構えようとする。しかし、丁度地面に足が着いたタイミングだったせいで思うような構えになっていないようだ。ボス狼に顔に初めて焦りの様な表情が浮かんだ。
「相手の息の根を止めるまで!油断してんじゃねぇーぞ!!」
俺は、そう言いながら渾身のパンチをボス狼の首に突き刺さっているバットの持ち手に放った。すると、持ち手は『グジャ』っという気持ち悪い音をたてながら、ボス狼の首を貫通した。首からは夥しい量の血が噴き出している。
「グ、グルァ……」
ボス狼は最後に情けない声を出しながら、自分の血で出来た血溜まりに倒れた。
「はぁはぁ、あぁ〜〜危なかった…。い、意外と倒すのに苦労したな…。あ〜めっちゃ疲れたし、緊張した〜。」
俺は、激戦の末の勝利!を喜ぶよりも、戦闘による疲労にやられていた。
(女神様はチートスキルだって言っていたけど、楽には勝てなかったな……。まぁ、俺の戦闘経験が浅いのとと武器がバットだったからってのもあると思うが。……けど!だからこそ燃える!!やり甲斐がある!!)
俺はそう思いながら、完勝の報告をするためと異世界人と交流するために親父たちの元へと戻るのだった。
初戦闘なのに壮大に書いて、今後の戦闘のハードルを自分で上げていくスタイル。
「ボス狼」と「バットの持ち手」を多用し過ぎて読みにくかったかもしれません。
読みにくかったら申し訳ありません。
もし、読みにくいと言うご意見が多い様でしたら、何とか頑張って書き直します。