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十四話 武器屋にて2


 結局、心晴が大杖を見ていた一時間の間、俺たちは先程と同じように過ごしていた。

 今度は逆に親父達が弓矢や防具の区画を見て廻って、その間俺と聖奈とミオンの三人で、三本の大杖の前にいる心晴を見守り、もとい監視をしていた。


「いやー、滅多に人が入れないって言ってたからどんなとこかと思ったけど、想像の倍は凄い場所だな。」


 俺はこの場所に入る前に、ガルムが「常連や特別な客しか通さない」と言っていたことから察して、高級なものや貴重なものしか置いていないのだろうとは思っていた。そして、案の定俺のこの予想は当たっていた。が、置いている物の額が想定していた倍はあって少し目眩がしている。……いや、額に目眩を感じているのか、はたまたここに置かれている武器、防具のカッコ良さにあてられているのか。今の俺には分からない。

 色々混乱しながらも、心晴の監視だけはしっかりしようと頬を叩いた俺の隣でガルムが言う。


「すげえだろ。ここには素材も出来も一級品のものしか置いてない。額で言うなら、この部屋にあるもの全部とこの部屋の外にあるもの全部でどっこいどっこいかな?ってくらいだ。」


「…マジかよ。あんだけ大量に並んでいた武器、防具全部と、ここに少ししか並んでないもの全部で釣り合っちまうのか……。…粗相のないようにしないと。」


 値段の話を聞いた俺は心晴の監視を強めた。


 俺が睨め付けるような視線で心晴を監視している横では暇を持て余していた聖奈とガルムが会話をしていた。


「あの、なんで大杖は高級品なんですか?」


「それはだな。まず、魔核の話をしよう。杖を作るには倒した魔物の魔臓に入っている小さな核、〈魔核〉と呼ばれる部位を使うんだ。そして、その魔核の大きさにも色々ある。魔物の大きさ、魔法をよく使っているか、あるいは全く使わないかで大きさが決まる。」


 うん。それに近しいことは今日魔物を剥ぎ取る時にアルディス達に聞いたな。

 

 ガルム達の話している内容に興味を持った俺は、二人の会話に耳を傾けた。


「さっきまで見ていた小さい方の杖を作るためには、最低でも中級の魔物を倒して手に入る中位の大きさの魔核が必要なんだ。そして中位の魔核の中でも、魔法を使い慣れている個体のものでないと上手く魔法が発動しない。だから、必然的に数が少なくなり、ただの棒に見える杖もそれなりに値段が張るのさ。」


 同じ大きさの魔核の中にも、杖に適する物とそうでない物があるのか。覚えておこう。


「大杖の方は、まず魔核を入手するのが色んな意味で難しい。強い魔物を倒さないと魔核は入手出来ないし。例え、その大きな魔核が競りに出されても、競り落とすのが難しすぎる。大魔核は、その大きさ、美しさ、そしてそのうちに溜めることができる魔力量の多さから、色んなことに使われる。具体的には、王族、貴族の為の装飾品や大きな魔道具を動かす為の動力源、過去には悪魔を呼び出す為の触媒にも使われていたそうだ。そういう用途を目的とした連中に俺たちのような人間は財力ではなかなか勝てない。」


 まぁ、王族や王族相手に商売しようとする連中には勝てないわな。…もし仮に運良く勝てたとしても、色んな意味でグッスリ眠ることは出来なくなるだろう。強盗、暗殺者、周りの人間の目…警戒しないといけない事が多すぎる。


「だから、俺達のような王族専属の職人でない人間は、独自のルートで手に入れないといけないんだ。金に靡かないような信用できる強い冒険者を雇って、強い魔物を狩って魔核を持って帰って貰う。こうまでしてやっと手に入れることができたんだ。……まぁ俺が大魔核を入手した経路を聞いたら価値がわかりにくいだろうが、取り敢えず、『大杖に使われている大魔核は王族が大金を叩いてでも欲している』ってことだけ覚えとけばいい。」


 なるほどな。長々と説明していたが、結局最後の一文が全てだろう。ガルムの説明のおかげで、色んな「可能性」を考えることができた。ありがたい。


「だから、まぁ、この部屋の存在も一種のカモフラージュだな。高級なものしか置いていない部屋の中に大杖があるんじゃなくて、大杖を大衆の面前から隠す為の部屋を作った。そこに、店の高級な物を置いて信用できる人間しか入れていない。これが正しい。」


「おいおい、いくら俺達がミオンを助けたからって、ベラベラと喋りすぎじゃないか?信用してくれているのは嬉しいが、喋りすぎるのはどうかと思うぞ。」


「あ?…あぁそうだな。あんまり喋りすぎて、お前達に秘密を抱えさせるのもかえって迷惑だな。」


「いや、別にそこまで言ってねぇけど…。」


「すまんすまん。俺もこれ以上は口を滑らさないように気をつけるさ。」


 口滑ってたのかよ…。それは本当に気を付けて欲しい。

 俺たちはその後、心晴の近くで部屋の中にある超一級品の武器や防具の説明を受けた。中には大杖に迫る程のものもあったが、それでも此処にあるどの高級品も大杖には及ばないようだった。


「ここまで来ると、買い手がつくかどうかも怪しいよな…。因みに、ここにある物は売れてるのか?」


「あぁ、たまぁにこの街の上級冒険者が買いに来るくらいだ。」


「そうか…大杖は?」


「………まだ一本も売れていない。」


「まぁ、だろうな。例え、上級冒険者であっても大魔核を使った物を装備していたら嫌でも目につくしな。実力はあっても、王家と関わりがないような一般人が持っていたら問題が起きるのは目に見えている。買い手も売り手もこの辺のことを気にしてるんだろう?」


「…………あぁ、そうだよ。買い手が欲しても、この大杖を売るにある人間ではないと俺が判断したら売らない。下手なやつに売ったら、一週間後には死体になってるだろうからな。…それに、これも一種のロマン武器だ。普通の魔術師には大杖なんか必要ない、小さい方の杖で事足りるからな。」


「…そうなのか?因みにどれくらいの人数又は人物が大杖を使ってる?」


「さぁ、正確な数字は分からないが二十人いないんじゃないか?どんな人物が使ってるかは…。金が有り余ってる王族、貴族、宮廷魔術師団長、トップ冒険者位じゃないか?……まぁそいつらでさえ、大杖を持て余してそうだがな。」


 ……それほどの人物でも持て余すほどのポテンシャルを秘めた武器なのか…。

 ん?というか二十人位しか使って無い武器?


「っ!って言うかそんなレア中のレアな大杖が何でこんなところに三本もあるんだよ!?!?」


「あ〜。それはだな…。」


 ガルムは恥ずかしそうに鼻をかきながら答えた。


「夢、だったんだよ。大魔核を使った武器をつくるのが。だから親友の冒険者に頼んで、もし大魔核を手に入れたら俺のところに持ってきてくれって頼んでたんだ。そしたら、三つも持ってきてくれてよ。それが、あの大杖だ。」


「そうだったのか…。でも三つって…。流石に買い取れなかっただろ?」


「あぁ。だから、そいつらはくれたよ。『もし大杖が売れたら、そん時金を返してくれればいい。それよりも、お前の夢を叶えることの方が重要だ!』ってな…。」


「じゃあ、早くこれを売ってそいつらに恩返し出来るといいな。」


「………あぁ。…………そうだな。」


 ガルムはそう言って俯いてしまった。しばらくそうしていたが、周りに俺たちがいる事を思い出すと慌てたように、


「ちょっと、疲れたみたいだ。俺は奥で休むから、なんかあったら呼んでくれ。」


 そう言って、奥に引っ込んでしまった。

 その様子を見ていた俺と聖奈は顔を見合わせる。


「…なんか地雷を踏んだかな。」


「そうかもね。…まぁ気にしすぎるのも良く無いわ。…さぁ、さっきの説明を思い出しながらここに並んでる物を見て回ってくれば?」


 聖奈がそう言って、俺の気分を紛らわせようとしてくれる。

 さっきの今で、気分を紛らわせるのは流石に少し無理があるが、ここは聖奈の厚意に甘えさせて貰うことにした。


〜五分後〜


 俺は五分間だけ皆んなの所を離れて部屋の中を回り、近くで色んな物を見た。そのおかげでさっきまであった「やっちゃった感」が少しだけ和らいだ気がする。

 俺が聖奈達のの所に戻ると、親父たちも戻って来ていた。


「おい、春明。男のお前が三人のの近くに居ないでどうする。今この部屋に客はいないが、もしものことを考えて俺はお前を此処に残していったんだぞ?」

 

 親父は怒ってはいないが、少し責めるような言い方で俺に注意した。

 それを聞いていた聖奈が庇ってくれる。


「あ、いえ。私が見てくるように言ったんです。ちょっと…気分を紛らわせて欲しくて。」


「悪い。親父、聖奈。今のは俺の判断ミスだ。何も考えずに発言をしてしまった事と、そのあとの俺のフォローをさせてしまった事。そして、自分の気を紛らわすために皆んなの所を離れた事。全部判断をミスったのは俺だ。」


 ちょっと周りが見えなくなっただけで、これだ。自分の事しか考えられなかった。今は何ともなかったが、今後大事な局面では判断ミスにないようにしたい。


「はぁ。分かればいい。自分の事だけになってしまうのも分からなくは無いが、此処は異世界だ。そこは忘れんなよ。」


「あぁ。」


 親父によるありがたい言葉を聞いたあと、俺達は心晴が大杖を見るのに飽きるまで部屋の中で過ごした。その時に、親父に大杖の事や大魔核のことを伝えたら思案顔になったあと「それも、落ち着いて話ができる夜だな」と言われた。……一体どれだけの事を夜に話合わなければいけないのだろうか…。

 しばらくそうしていると、心晴がこっちに近づいて来た。


「お、もういいのか?」


「うん。腹八分目って所。」


「いや、満腹じゃ無いのかよ…。」


「当たり前でしょ。買って触れて使って初めて満たされるのよ。」


「さいですか。…ま、取り敢えず心晴も一応は満足したようだし、帰ろう。」


 俺がそういうと、親父がガルムさんには挨拶しとこうと言って、ガルムさんを奥の部屋から呼んだ。

 声をかけると、ガルムは先程のしんみりした空気は感じさせないような雰囲気で出て来てくれた。


「おう、もう帰るのか。」


「もうって、俺達はこの店に一時間以上居るんだぞ?」


「あ?…もうそんなになるのか…。そうか。ま、お前らの顔を見る限り楽しんでくれたみたいじゃ無いか。兄貴もいれば、防具の方はもっと詳しく説明出来たかも知れないがそれはまた今度だな。」


「あぁ。俺達はしばらくはこの街にいると思うからまた世話になると思う。そん時はよろしく!」


 俺が挨拶したあと、皆んな感謝を伝えていた。

 全員が挨拶を終え、店を出ると大分日が沈んでいた。


「…こんな時間になるまでこの店で時間を使うつもりはなかったんだがな…。」


 俺はそう呟くが、心晴は悪びれもせず


「別に、後はちきゅ……宿に戻るだけなんだから別にいいでしょ。」


 なんて言っている。まぁ、俺も責めるつもりはないがもうちょっと感情をコントロールして欲しいものだ。


「はぁ。後は…ミオンを家に送るだけか…。」


 俺がそう口に出すと、ミオンが慌てたように言う。


「い、いえ。私は自分で帰れますから皆さんはどうかお気になさらず」


「いや、そうもいかねぇだろ、こんな薄暗い中、女の子一人で帰らせるわけにはいかない。アルディスに任されてるんだ。ミオンを送り届けるまでが、俺達のパシズ観光なのさ。」


 そして、ついでにアルディスに会って聞きたいこともあるしな。ククク。


「……分かりました。」


 ミオンは俺の言葉を聞いて観念したようだった。

 ミオンの先導で歩く事約三分。ミオンは周りの家よりも一回り小さい家の前で立ち止まった。


「此処です。今日はありがとうございました!あ、ちょっと待ってて下さいね兄を呼んできます。」


 ミオンはそう言って家の中に入っていく。しばらくすると、やんちゃ少女のリズと一緒にアルディスが出て来た。俺達の姿を目にすると、リズが開口一番に「ハル兄泊まっていくの?」と聞いてきた。

 元から俺達は今日は地球に帰る予定だったし、この家では俺達五人の寝床を確保出来るかも分からない。


「ごめんな。今日は俺達は帰ることにするよ。あ、でも明日からの予定が決まっているわけでもないし、時間があったら遊びに来るから。その時一緒に遊ぼう?」


 俺がそう言うと、リズは「はーい」と言って家の中に入って行ってしまった。それを見ていたアルディスは「すまんな、うちのチビに付き合わせちまって」なんて言っている。

 しかし、いろいろな面で助けられているのはこちらの方だ。異世界転移初日でアルディス達に出会えた事、リズ達のもつ子供特有の雰囲気で俺達の緊張を解してくれた事。感謝してもしきれない。

 俺はそのの感謝を伝えてから、アルディスと立ち話をした。とは言っても、日も沈んできているし少しの間だけだ。

 パシズの街の事、ミオンには街案内をして貰って助かった事、今日の報酬はまた後日払うこと。この辺のことをさらっと話し終えてから家族に話しが終えた事を告げる。すると、俺の家族はそれぞれ別れの挨拶を済ましてから踵を返した。

 俺は家族が皆んな後ろを向いたことを確認してから、アルディスに特大の一撃をお見舞いする。


「あ、そうそう。今日昼ごはんを食べた〈メイガ亭〉って定食屋、料理うまかったんだよなぁ。(チラッ)」


 俺は横目でアルディスの頬がピクッと一瞬動いたのを確認した。それを確認した俺はさらに続ける。


「そこにいた看板娘のアンナさんめっちゃ美人だったなぁ。」


 …この次なんて言おう。適当でいいか。


「……告白しようかなぁ」


「あ!?んなこと許すわけねぇだろ!第一お前にはせいn」


「だぁぁぁ!うるっせぇ!声がデケェんだよ!」


「いや…声がでかいのはハルアキ、お前の方だろ。」


「……まぁその話は置いといて。なんで俺がアンナさんに告るのが許せないんだぁ??」


「グッ、そ、それは…」


 お、言葉に詰まってるねぇ。

 

 俺はこれ以上変に刺激して反撃を食らわないように家族の方に走りながら大きな声で言う。


「他の男に取られないようにしろよ!!」


「それは!お互い様だろうが!!」


 アルディスはそう叫んでから、ため息を一つこぼした。そしてその後ニカッと笑ってから手を振り、家の中に戻って行った。

 それを見送った俺が家族のもとに戻ると、親父に


「なんの話をしていたかは分からんがあまり大きな声を出すな。」


と注意を受けた。

 なぁ〜にが「なんの話をしていたかは分からん」だよ、大方見当はついてるだろうに…白々しい。まぁ他の家族、特に聖奈に聴かれるよりはマシなので良しとしよう。

 俺は親父に適当に返事をしてから、転移しても良さそうな人目につかない所を探しながら歩くのだった。



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