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十三話 武器屋にて

急に、一万字超えてます。

サクッと読みたい方注意。


 ミオンの先導で俺達はパシズの街の色んな店を廻った。ミオンは律儀に親父の要望通り、八百屋、装飾品屋、雑貨屋なんかを中心に廻ってくれた。本屋は一応あるみたいだが、この辺には無かったので寄ってはいない。

 その途中、昼に使わなかったお金を使って食い歩きなんかもした。勿論夜に宿を取る分のお金は残している。その時買った串焼きの味は、まぁ普通に美味しかった。なんの動物のどこの部位を使っているか知らない肉に、塩と胡椒のシンプルな味付けだ。〈メイガ亭〉で料理を食った時ほどの感動は無かったが、それでも串焼きとしてみたら地球のものとそう変わりはなかった。

 もしかしたら料理に関して言えば、幸か不幸か地球とこの世界にはあまり違いはないのかもしれない。…いや、まだこの世界のものを二品しか食べていないのに、この答えを出すのは早計か。

 

 そうしているうちに特に何か問題が起こるわけでもなく、最後の心晴が待ち望んでいた場所についた。

 そこは〈ガル武器・防具店〉と、でかでかと書かれた看板を正面ドアの上に掲げているどっしりとした二階建ての建物だった。


「はい!ここが最後。この街の一番高級な武器屋は上級市民の区画にしか無いから、心晴の望んでいるものとはちょっと違うかもだけど…。それでもその店を除けば、ここが一番だk」


「全然いい!もう、武器屋ってだけで良いから!」


 心晴は今の今まで聖奈と繋いでいた手を振り解き、ミオンに肉迫する。心晴に迫られたミオンの方は、その心晴の迫力と声のデカさにビックリして後ずさりしてしまっていた。

 それをみかねた俺は心晴に注意する。


「おい、心晴。お前声デカすぎ。武器屋を前にして興奮しているのはわかるけど、その調子のまま店に入ったら叩き出されるぞ。」


「う。…確かに…。せっかくここまで来たのに、杖を拝めないのは生殺しにも程がある。」


 だろうな。

 俺としても、心晴と杖との出会いを邪魔するつもりはない。いやむしろ、さっさと出会わせて心晴のテンションを落ち着かせたいとすら思っている。だから、ここで心晴が店から叩き出されるような事態は避けたい。

 …念のためもう一押ししとくか。


「もし、自分のテンションを全くコントロールできないようであれば、俺はお前を地球に置いていくことを検討しないといけなくなる。」


「!?!?!?!?!?!?」


 お、効いてる効いてる。

 まぁ、ちょっと考えれば俺にそんな事をするつもりも理由も無いことは分かると思う。っていうか、杖がないと攻撃魔法が使えないとは言え、魔法の使える可能性のある人間を一人地球に残しておけない。しかも、心晴はドが付くほどの魔法馬鹿だ。下手すれば、無理に魔法を使おうとした心晴によって「久しぶりに地球に戻ってみたら滅んでました(笑)」みたいなこともなくは無いかもしれない。…怖。

 力を持ってしまった俺たちは、いろんな意味で互いにカバーしあって初めて安心してその力を振るえるのだ。


 おっと、話が逸れてしまった。

 まぁ、要するに。目的の杖を前にしてIQが著しく下がっている今の心晴には、静かに杖を見るか騒いで地球に戻されるか。二つに一つだと思っているに違いない。

 流石にまだ地球に戻りたく無いだろう。だから静かにしてくれるはずだ。

 

 俺のそんな意図を汲み取ったらしい幼馴染は、やれやれと首を振っていた。そのまま聖奈は心晴の方に歩きながら口を開いた。


「そんなのほぼ脅しじゃない…。こはちゃんが騒ぎそうになったら私がセーブしてあげるから、ね?」


「ありがとう、セナ姉。」


 さっきは渋々と聖奈と手を繋いでいたようだが、今度は心晴の方から聖奈の手を握っていた。そしてそのままミオンと三人で店に入っていく。

 俺もそれに続こうとすると、後ろから


「…まぁ、お前のやりたいことは分かるが…。あんまりやり過ぎるなよ。いつか魔法でやり返されても知らないからな。」


 と、親父が苦言を呈してきた。


「…流石に妹には負けたく無いな…。スキルがあるとは言え、鍛錬するべきだろうか?あ、そうだ。そのスキルにもレベルがあるんだった。………鍛錬しよう。」


 というか、鍛錬でレベルが上げるのだろうか?それともモンスターの落とす経験値?…帰ったら親父ぺディアに聞くしか無いな。


「魔法vs剣か…。魔法はこちらの技量で切ったり弾き返したり出来るのかな?あ、ってか母さんに頼んで魔法具を作って貰えばいいやん。母さん!」


 俺は、親父と一緒に店に入って行こうとしていた母さんを呼び止めて魔道具の相談をする。それを聞いた母さんは、「あらあら、うふふ。」と、打っても響いていないような返事しかしない。そして終いには、


「う〜ん。親としては中立に立ちたいかな〜。」


「いや!息子が妹に殺されるかもしれないんだぞ!?」


 まぁ、原因はこちらにあるが。

 俺の訴えに母さんは表情を変えないまま答える。


「いや、幾ら心晴でもそこまではしないでしょ〜。まぁ、仮にそうなってもハルが殺されないように応援くらいはしてあげるわ〜。」


 どうやら、今度は俺が脅される番の様だった。

 俺は、もしそういう局面になったらどうやって妹を丸め込もうか考えながら武器屋に入っていった。


 …ここで直ぐに、どうやって妹を丸め込もうか考えてしまう時点で、俺の兄としての威厳は地に落ちているも同然だった。

 

ーーーー


 ドアを開けて中に入ると、そこには沢山の鎧が飾られていた。手前には安そうな皮の鎧があり、奥に行くにつれて金属の鎧が多くなっていった。そして最奥には、ケースに入ったピカピカの鎧が入っている。


「かっっっけー。ピンピカピンじゃん。……重そう。」


 カッコ良過ぎる鎧を前にして俺の語彙は消失した様だった。だから、こんなに高級そうな鎧を前にしても安っぽい感想しか出てこない。

 ふと気がついて周りを見渡す。俺は俺の好奇心の赴くままに一階の奥まで来たが、心晴達を見なかった。…いや、当たり前か。皆んなは武器を見に来たのだ。防具しか置いていない一階にいるわけがなかった。

 それに気がついた俺は周りを見て階段を探した。すぐに二階に続く階段を見つけ、それを駆け上がっていく。二階に足を踏み入れると、そこには沢山の種類の武器が飾られていた。そしてその近くでは、目から「キラキラ」という効果音が出ている心晴がいた。

 いや、心晴だけじゃ無いな。二階にいる皆んな、俺の家族を含めた客全員が興奮している様に思える。かくいう俺もそのうちの一人だ。さっきから口角が上がるのを止められない。

 こういう場所には、年齢性別関係なく皆んなを興奮させる魔法がかかっているようだ。前世で言う、ゲーム売場や家電売場にいる感覚だな。

 

 俺は自由に二階を探索したい衝動を抑え込み、皆んなに合流する事にした。皆んなは丁度、杖が飾られている区画で杖を眺めていた。

 因みに、心晴達が眺めている杖は指揮棒の様な形状の物だった。いや、指揮棒と呼ぶには一回りは太くて長い。それに、先端に何か宝石のような物も埋め込まれていた。

 

 俺はまず、心晴に話しかけようと近づいたが、念願の杖を前に真剣になって考えている心晴を見て、今の心晴に声をかけることは憚られた。なので、近くにいた聖奈に話を振る。


「何か良さげなものはあったか?」


「…武器屋に入ってから一直線にここに来たけど、一向に決まる気配がないわ。こはちゃん、ずっとブツブツいってる。」


「そうか…。このまま、心晴の欲しいものが決まるまでここにいるのはちょっと時間がもったいないな。」


「そうね…。」


 聖奈と二人でどうしようかと悩んでいたら、少し後ろで俺たちを見ていた親父が、


「心晴は俺と母さんが見とくから、春明は聖奈ちゃんとミオンちゃんの三人でぐるっと見てくればいい。」


と、提案してくれた。

 俺はそれを聞いて、聖奈とミオンの方を向く。すると、二人とも満更でもない様子だった。どうやら、二人も自由に武器や防具を見て回りたかった様だ。

 それを確認した俺は、まだブツブツ言っている心晴を親に任せて、俺と聖奈とミオンで店内を廻る事にした。


「いやぁしかし相当広いな。どっから回ればいいんだか…」


 店内の広さに、どういう順番で廻ればいいのか考えていると、


「別に今日一日で全部回る必要はないんじゃない?とりあえず今日は、ハルの使いたい武器の相場が分かれば御の字でしょ。」


 聖奈がそう提案してくれた。そしてその後、


「そうね、パパッと廻った後一回戻って、まだコハルの時間がかかる様だったら、追加で廻るようにすればいいと思うわ。」


と、ミオンが付け加えてくれた。

 

 なるほど…。まぁ、それが一番効率がいいか。

 

 取り敢えず、店の周り方が決まった。次は俺の使いたい武器を決めるか…。一応、バトルマスターのスキルがあるので武器の扱いは心配しなくてもいいだろう。しかし、だからといって大剣やハンマー、鎌などの明らかに玄人武器にいきなり手を出すほど俺も馬鹿じゃない。そもそも、そういう武器を扱うための筋力が備わっているかもわからないしな。…まぁ筋力に関して言えば、全ての武器に通じそうだが。


「まぁそれでも、初心者の俺が無難に扱えるのは片手剣、両手剣、長剣、槍くらいのもんか…。いや、長剣と槍は除外だな…。剣、剣…。片手剣にして片方は盾を持つか、両手に片手剣を持って双剣にするか…。いや、両手に別々に持って上手く使えるか…。いや、俺はそれほど器用じゃないな…。まぁ練習すればいつか使えるようになるとは思うが…。そう考えると、やはり一番無難なのは両手剣…(ブツブツ」


「はぁ、この兄あって、あの妹ありって感じね…。」


「そ、そうね…。ふふっ、ハルアキとコハルって悩んでいる時のポーズまで一緒なのね。」


 隣の女子二人が何やら話している様だが、今の俺の耳には入ってこなかった。

 こうして悩む事、約五分。俺は遂に結論を導き出した。


「って言うか、今日買うわけじゃないんだから、気になる武器を絞ったらその辺を中心に廻ればいいのか。」


 ズルッッッ

 

 滑って転びそうになった聖奈がこちらにジト目を向けてくる。

 

「約五分考えて辿り着いたのがその結論なの?」


「す、すまんすまん。一回考え出したら止まんなくてさ…。」


「あ、あはは。」


 ミオンの愛想笑いが辛い。

 五分という時間を無駄な思考に費やした俺は聖奈を宥めてから、取り敢えず両手剣が置かれている区画に足を運んだ。


「今んとこ、メイン武器の最有力候補だ。ま、オーソドックスだよな。クセもなさそうだし。それに、品数も一番多い。」


 この店に置いてある武器の質や値段にピンからキリまで有るとすれば、それは両手剣だろう。まぁそれは、品数が一番多い時点で必然だ。

 他の武器の区画をチラッと見た限り、両手剣ほど品数の多いものは無かった。あまり、使い手が多くないのだろうか。そのかわり、高品質の物が多い印象を持った。ピンキリってよりピンピンって感じだ。

 その辺をのことを考えても、ある程度お金が貯まるまでは両手剣の安いものを使うしか無いだろうと、素人ながら考えていた。しかし、なんの知識も無いのに勝手に判断するのは命取りだ。命を預ける武器のことなら尚のこと。ここは、素直に知識を持つ人間に聞くのがいいだろう。

 そう思った俺は、近くにいた背の低い店員さんに声をかける。


「すいません。武器のこと聞いてもいいですか?」


 俺に声をかけられた店員さんは不機嫌そうに答える。


「あ?なんだそのフワッとした質問は。ある程度絞り込んで、どちらが自分に適しているか聞いてくるならまだしも…。まさかお前、なんの知識も無いのにここにきたのか!?」


 しまった。変に変な質問をしてしまったせいで怒りを買ってしまった様だ。

 俺は、どう返すのが失礼がないだろうかと考えようとした。が、その必要は無いようだった。


「もう、ガルムさん。誰にでも初めてのことはあるので、そんな言い方しないであげてください。自分の作ったものに愛着があるのは素晴らしいですが、それも行き過ぎると毒になりますよ。」


「ミ、ミオンちゃんじゃないか。わ、悪かっなたな。それにしても、この店に来るのは久しぶりじゃないか?」


「そうですか?そうですね…ガルムさんの作る物には興味はあるんですが、いかんせん私にはあんまり縁のないものですから。」


「そんなこと気にしなくてもいつでも来てくれればいいんだぜ?特に、ミオンちゃん達なら大歓迎だ。」


 …ここでもアルディス達の顔の広さに助けられるのか…。

 俺は二人の会話がひと段落したタイミングで、まずは謝罪の言葉を口にする。


「こちらの不適切な言動で、気分を悪くさせてしまい申し訳ありません。」


「いや、こっちこそすまねぇ。他の事で気が立ってたもんでな、少し当たっちまった。んでなんだ?武器のことか?」


 さっきまでの不機嫌そうな雰囲気を散らしたガルムという男が聞いてくる。


「はい。さっき冒険者になったばかりなのですが、初心者におすすめの武器はどれかなと思い。あ、取り敢えずは両手剣を使おうと思っているのですが、他に何か良い武器があれば一応専門職の方に聞いておこうかと…。」


「あー、まずその堅苦しい敬語をやめてくれ。俺には崩した言葉遣いでいい。それと武器に関してだが、大方お前の考えで間違っちゃいねぇ。戦闘に慣れるまでは、両手剣一択だ。」


 ガルムにその敬語をやめる様言われた俺はさっきまでの堅い言葉を崩した物にする。


「…と、いうと?…盾のある分、片手剣の方がいいとかそういうことはないのか?」


「お、おう。敬語をやめろと言われて、急にそこまで言葉を崩せるのも珍しいな。まぁいい。…冒険者はそれぞれの役割に適した武器が有るがそれを見つけられない内は両手剣しかない。一応それぞれの武器のメリット、デメリット、役割を説明すると…」


 ガルムはそう言って、俺たちに分かりやすい様にこれから説明する武器の売り場に移動する。


「まずはさっき兄ちゃんが言ってた片手剣だな。片手剣や双剣は軽くて素早い動きができるがその分リーチが短い。斥候や単純に素早さを武器にしたい奴が使う武器だ。…相手との間合いが上手く測れない初心者が使うと一瞬で相手に殺されるだろうな。盾を持ってるから安心…なんてことはない。むしろその油断が命取りだ。」

  

 ガルムは真剣に説明してくれる。

 片手剣の説明は終わった様で、次の売り場へ向かう。


「次は、大剣、ハンマー、戦斧、鎌だな。この武器は遠心力を活かした大振りで相手に致命傷を与えられる。しかし、その分隙が大きいしそれなりの筋力が必要だ。扱えれば強いが、まぁこんな変態武器を自由に扱えるやつはそう多くない。上級冒険者でも数パーセントしかいないだろう。ロマン溢れる見た目に初心者は憧れがちだが、オススメは出来ないな。」


 ガルムはそう言って俺の方を見てくる。


 …バレていたか。そうだよ!俺だって憧れてたよ!

 ロマン溢れる武器!扱えたら強い武器!最高の響きじゃないか!俺だって男だ。ロマン溢れる武器に憧れて何が悪い!それに、俺はバトルマスターのスキルを持っている。もしかしたらもしかするのだ。今は無理でもいつかは……


「ハル、ガルムさんもう行っちゃうわよ。」


「あ、あぁ。分かってるって。」


 聖奈に呼びかけられ、俺の思考がシャットダウンされた。

 俺は慌ててガルムを追いかける。


「最後の近接武器は、槍と両手剣だ。この武器の良いところは扱いやすいところだ。片手剣よりもリーチが長く、大剣よりも軽い。槍に関しては、上手く扱えれば遠心力で重い一撃を入れることも可能だ。何か特出して優れた所があるわけではないが、一番強い。使用率も初心者〜上級者を合わせても一番高い。ま、こんなとことだ。一応他にも武器はあるが、マイナーなものまで挙げていたらキリが無い。今日のところはこれくらいで良いだろう?」


「…ありがとう。よく分かった。取り敢えず、言われた通りに両手剣を使う事にするよ。」


 まぁ、金がないから今日は買えないけどな。

 そんなことを思っていた俺は、視界の隅でガルムに耳打ちして居るミオンの姿を捉えていた。

 ミオンがガルムから離れると、ガルムは「そうか…」と、一言呟いてこちらを向いた。


「兄ちゃん、姉ちゃん。あんたら名前は?」


 …急にどうしたのだろう。いきなり名前を聞かれた俺と聖奈は互いに顔を見合わせてから正面を向いて答えた。


「俺は遠藤春明。」「私は佐々木聖奈と言います。」


「ハルアキにセイナか…。良い名だ。ちょっと待ってろ。」


 ガルムはそう言って、奥の部屋に姿を消した。

 本当にいきなりどうしたのだろうか。そんな、急に真面目な雰囲気になるほどの失言をしてしまっただろうか?

 

 少し不安になって待つこと数分、奥の部屋からガルムが出てきた。その手に両手剣と短剣を持って。

 ガルムが何をする気なのか分からない俺は、念のために少し警戒をあげ…ようとしたがそれよりも早く


「ありがとう!ハルアキ、セイナ!お前達の家族がミオンちゃん達を助けてくれたんだってな!」


 ガルムがこれもまた急に頭を下げた。

 俺と聖奈は置いてけぼりだ。話が見えてこず、ポカーンとして居る。あ、いや、話は見えているのか。ガルムはいま「ミオンちゃん達を助けてくれて」と言った。先ほどのミオンとガルムの内緒話はこのことだったのだろう。

 

 ミオンが俺たちに助けられた事をガルムに言ったには分かったし、それを聞いたガルムが俺たちに感謝してくれているのも分かった。しかし、それが分かっても俺たちは急な展開にどうする事も出来ない。

 そんな俺たちが言葉に詰まっていると、そんな俺たちの様子を察したガルムが


「あぁいや、お前らは変に言葉を返そうとしなくて良いんだ。俺はどういう経緯でお前達がミオンちゃん達を助けのかは知らない。それこそ、たまたまかもしれないし助ける気は無かったかもしれない。が、事実としてミオンちゃん達は助かってるんだ。だからお前達は黙って俺に感謝されてればいい。」


 そう言葉をかけてくれた。


(俺たちの方から「たまたま助けた」「通りがかっただけ」「別に助けるつもりで割って入ったんじゃない」なんて少し言いにくい。特に今回は100%の善意だけでなく、多少の打算も入ってたしな…)


 俺が言葉に詰まったのはこの辺のことが頭によぎったからだ。これがよぎったせいで、俺の中に少しの気まずさが生まれてしまっていた。


 その気まずさの全てをガルムは察してくれていたわけではないと思うし、俺をその罪悪感とも呼べる感情から解放しようとしてくれたわけでもないだろう。それでも俺はガルムの言葉で少し救われた気がした。


「…あぁ、ありがとう。その感謝を受けるよ。」


「ヘッ、なんでぇそれ。感謝を受けるのか感謝をしてるのか、一体どっちなんだ。」


「ハハッ。さぁな、俺にもわかんねぇよ。」


 俺はそう誤魔化してからガルムの持っている剣に目を向ける。


「んで?その剣はなんだ?」


「あ?あぁ、これは俺の弟子が作った剣だ。お前、今日冒険者に登録したばっかりなんだろ?もし、武器を持ってないんだったらこれを使え」


 そう言って両手剣を俺に渡してくれる。そしてそのまま聖奈の方にも


「姉ちゃんにはこっちだ。メイン武器にするにはリーチが短いからオススメはしないが、それでも咄嗟に自分の身を守る分にはあった方がいいだろ?」


と、短剣を渡していた。

 因みに、短剣は先ほど見た片手剣よりも短かった。


「この二つは、さっきも言ったが俺の弟子の作った物だ。一流と呼ぶにはまだまだだが、出来は保証する。というか、恩人に出来の悪いものは渡せないがな。」


「……ありがたく受け取るよ。代金は…」


「あ、いや金はいい。」


「え?でも…」


「元々、店頭には出さないものだったんだ。つまり、値段は付けないで置くつもりだったってこった。…まぁ正確には付けさせてくれないって感じだが。」

 

「ん?どういうことだ?一流とは呼べないがそれなりの武器でなのだろう?何故売らない?」


「あー、まぁこの武器を打った弟子が自信の持てない奴でよ。良い剣を打っても売ろうとしないんだ。『僕の剣が壊れたせいで誰かが死んだら…』ってな。だが、師匠の俺から見てもそいつは筋がいい。だから、多少自信を持たせる必要がある。そこでお前達だ!この武器を使って、その使用感や良いところ、逆にダメなところを俺の弟子に教えてやってくれ。」


「なるほどな。それなら納得だ。」


「それに、売り物を無料で渡されて、黙ってそれを受け取るほどお前達がいい子ちゃんじゃないのはなんとなく分かる。その辺も考慮してこの案だ。どうだ?」


 …まぁ、そうだな。もし売り物を渡されていたら意地でも金を払うだろう。うん。この案は互いに利しかない。俗に言うウィンウィンって奴だ。


「了解した。まぁ、金に余裕ができたらその時はまたお世話になるよ。」


「あぁ、それでいい。」


 こうして俺と聖奈は両手剣と短剣を手に入れた。

 俺は両手剣を貰ったのと同時に渡されたベルトを腰につけて、左側に両手剣を挿す。…少しこの感覚に慣れるまではバランスが取りにくいな…。背中に装備した方がいいだろうか?

 俺があれこれ試している横では、聖奈も同じように短剣を装備していた。聖奈は腰の真後ろに装備したようだ。…バランスとりやすそうでいいなぁ。

 

 あれこれ試した俺は、最終的に最初の装備の仕方に落ち着いた。


「多少歩きにくいが、慣れるまでの辛抱だな。」


「なんでその装備の仕方にしたの?」


「ん?それは、咄嗟に武器を取り出しやすいからだ。ぶっちゃけこれだけの理由だ。」


「そう…。それにしても、地球の服だと違和感しかないわね…。」


「確かに…。金が貯まるまでの辛抱だな。」


 現代の服+剣、というなんとも言い難い格好をした俺たちは親父のいる杖の売り場に戻る。

 その時ガルムが「他の家族も紹介してくれないか?」と聞いてきたので、「もちろんいいぞ。ついてきてくれ。」と返答し、ガルムも一緒に杖の売り場に向かう。

 

 杖の売り場に着いた俺達は驚きの光景を目にする事になる。なんと、俺達が離れた時と同じ場所、同じポーズで心晴がブツブツ言っていたからだ。


「おいおい、それなりに時間をかけて戻ってきたつもりだったが…。大丈夫かこれ?」


 こちらも変わらず、先程と同じ場所で心晴を見守っている親に話しかける。


「ん?春明か…。まぁ大丈夫だろう。途中から、『見た目で決めるならランキング』『値段で決めるならランキング』『性能で決めるならランキング』をやりだした。今は『さっきのランキングを総合的に考えて、どれがいいかランキング」を決めている真っ最中だ。もうじき終わるだろう。…それよりお前、その腰の剣はどうした?」


「それはだな…『カクカクシカジカ』って事があって…。」


 俺は先ほどの出来事を要点だけをまとめて親父に話した。


「そうか…俺も会ってみたいな。そのガルムさんに。」


「あ、ガルムの方もそう言っててな、こちらがそうだ。んで、ガルム。これがが俺の親だ。」


 俺は少し横にずれて、正面の親と真後ろに居るガルム、互いの視界に互いをを映させる。あとは俺がいなくても上手くやるだろう。と、互いに挨拶から入った親とガルムを見て思った。

 

 何もする事がなくなった俺は心晴の方へ向かう。俺も杖を見たいなと思って、心晴の近くにあった杖を手に取った。すると、ブツブツと言っていた心晴の独り言がピタっと止まった。ん?遂に杖選びが終わったか?なんて思って居ると。


「お兄。邪魔しないで。」


 と、マジのトーンの心晴に怒られる。妹のいままで見た事のない雰囲気にびっくりした俺は杖を元あった場所に戻した。そして俺も元の場所に戻る。


「あいつ、ガチガチのガチじゃん…。」


「こはちゃんの雰囲気見たら分かるでしょ……。それより、杖はどうだった?」


「んーと。軽かったな。それと握りやすかった。」


「え?それだけ?」


 聖奈が、何かに驚いたような顔で聞き返す。…恐らく、俺の語彙の少なさに驚いて居るのだろうが、仕方ない事だ。あ、いや、俺の語彙が少ない事が仕方ないのではなく、杖を持っていたのは一瞬だったのだからこんな感想しか出ないのは仕方がないよね。という意味だ。

 

 暇な俺たちは適当に雑談をしながら心晴や親父達の用事が終わるのを待っていた。

 しばらくすると、先に心晴の方が終わったようで、俺たちに近づいてきた。


「ふぅ。スッキリした。」


「…そうか。そりゃ、良かったよ。んじゃあとは親父…」


「ねぇお兄。私に似合う杖ってどっち?」


「え??」


 親父達の方を向いていた俺は心晴の言葉を聞いて振り返る。すると、そこには両手に高そうな杖を持った心晴がいた。

 右手の方は黒い棒に赤い魔核が埋め込まれた物を、左手の方は逆に赤い棒に黒い魔核が埋め込まれた物を持っていた。


「セナ姉とミオンちゃんも。どっちが私に似合うかな。」


「うーんカッコよさで言ったら、右手に持ってる方じゃない?」


「そう?私は、コハルには左の方が似合うと思うけど…。」


 そう二人が答えると、心晴、聖奈、ミオンの目がこちらを向く。…こいつら、先に答える事で実質的な決定権を俺に渡しやがった。

 二人の鮮やかな手口に関心しながら、俺は元から用意していた答えを言う。


「右手の方が良いんじゃないか?そんだけ黒いと、夜も目立たないだろ。それにその厨二臭さが今のお前にピッタリだ。」


「厨二?お兄、今私の事厨二って言った?」


「?…事実だろ?」


 え。なんか俺まずいこと言ったか?

 あ。ま、まずい。いま、心晴は杖を手にして居る。つまり、その気になればいつでも魔法を使えると言う意味だ。流石に売り物の杖を使って店内で魔法は使わないだろう。が、変に煽り続ければどうなるかは火を見るよりも明らかだ。


「ど、どうどう。落ち着けって。俺のことはどうしても良いから、犯罪者になるような事は起こさないでくれ。」


 心晴は俺の言葉を聞いて構えていた杖を下ろす。


「それはつまり、お兄がなんでも言うことを聞くってこと?」


「あ、あぁそう捉えてくれて構わない。」


「あっそ。分かった。それで良い。」


 はぁ。我が妹ながら、ちょろくて助かる。あとはどう誤魔化してやろう…


「ハル。誤魔化そうとしたら、私が許さないから。」


「え゛!?」


 意外なところからの援護射撃で俺の心臓は撃ち抜かれて死んだ。こんなところに伏兵が…仲間に伝えなければ……。


「そ、そんなことするわけないだろ!?」


「…幼なじみを舐めないでちょうだい。あんたのやり口は昔から見てきたわ。…本当に、魂胆が見え見えなのよ。」


 ……それで言うと、昔から騙し続けている妹はなぜ引っかかるんだ…。

「心晴よ、お前そんなんで大丈夫なのか?」とは、俺の言葉だ。いや、俺の中の兄としての言葉だな。さっきの妹を騙そうとする春明くんとは別人だ。


 こんなやりとりをして居る横で、心晴は黒い杖を持って、うっとりしている。


「私のダークネスワンド…」


 それだ!それそれ!そう言うとこだぞ厨二臭いってのは!っていうかワンドって…なかなかにコアな英単語を知っているな…。そう考えれば厨二病も案外悪くない…?

 なんて考えている俺の隣では、先程心晴を庇った聖奈が苦笑いしていた。

 …まぁ、そうなるよな。


 俺達がそんなバカをしている間に、親の方も話が終わったようで、三人でこちらの様子を見にきた。


「お、杖が遂に決まったのか。じゃあ、これで取り敢えず今日は終わりだな。」


 流石の親父も疲れたのだろう。早く帰りたそうな顔をしている。

 が、俺たちの事情はガルムは分からないので…


「ん?嬢ちゃん、杖に興味があるのか?う〜ん。よし、普段は常連や特別な客しか通さない奥の売り場に連れてってやる。ミオンちゃんの連れだから特別だぜ?それで、奥には大杖と呼ばれるものがあってだな…」


 あ、ちょっ


「なにそれ!!見たい!!!」


 おいおいおいおいおいおいおい!ちょっと待てちょっと待て!せっかく時間をかけて長い戦いに終止符を打ったというのに、なんて余計なことを…。

 

 心晴の元気な声を聞いて、俺を含め俺の家族は絶望した顔をしている。

 そんな俺たちの様子を見て、ガルムも察したようで…


「…すまん。余計な事を言ってしまったみたいだな。」


と言ってくれた。

 しかし、一度特別なものを見せると言った以上、ガルムもその発言を引っ込めにくいだろう。だから


「あぁ、いいよ。気にしないでくれ。」


 と、俺は声を掠れさせながら答える。これが今の俺にできる精一杯だった。

 ガルムはちょっと気まずそうにしながら俺たちを奥に売り場に連れて行ってくれた。







 








そして、俺達がそこから解放されるのに一時間掛かった。


皆んなを喋らすのって意外と難しい。

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