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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第4章 明日の日記と僕の日常

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6月9日 僕の大切な友達

 1人になった。

 石段から神津(こうづ)市の夜景を眺める。

 時刻はもう21時半。あたりはすっかり暗くなっていて、神津と辻切センターの夜景の明かりが暗い空を明るく照らしていた。

 前に来た時はナナオさんと一緒だった。その時と夜空の景色は違っていて、南南東の神津湾から東の三春夜市までつながる海岸線上、水平線に近いあたりに、夏の大三角形がうっすら昇って来ていた。わし座のアルタイル、白鳥座のデネブ、こと座のベガ。理科で習った星座。来月になると天の川を通って織姫が彦星に会いにいくんだろう。今年は会えるのかな。

 山の上は町より星がよく見える。久しぶりの梅雨の晴れ間を満喫する。

 少し湿った草木のいい匂いが風に混じって通り抜けていく。


 おなかが小さく、クゥ、と、なる。

 おなかすいたな。体育祭の後も結構走ったし。ちょっと疲れた。

 でも真っ暗な中で山を降りる自信はないや。新谷坂神社の周りには封印の結界があるから、基本的に悪いものは入ってこれない。朝までここにいるのが得策だと思う。『外骨格』のワープみたいに座標指定で飛び越えてくるものは想定外だったみたいだけど。

 そう思って、ぼんやりしていると電話が鳴った。藤友君からだった。


「大丈夫か」

「大丈夫だよ? 何かあった?」


 電話口で小さな舌打ちが聞こえる。


「何かあった、じゃない。寮の飯の時間が終わっても部屋にいないようだったから心配した」

「あっ、ごめん、でも大丈夫だよ、心配しないで」

「……鳥の鳴き声がする、お前今どこにいる」

「ああ、今新谷坂神社にいるんだ。でも、問題は解決したから、気にしないで、朝には帰るよ」

「なんでそんなとこにいる」

「まぁ、いろいろ」

「……腹減ってるだろ、迎えに行くから待ってろ」


 そういって、電話は突然切れた。

 えっ、迎えに来てくれるの? もう真っ暗なのに。


 2時間ほどたって、藤友君がライトを照らしながら石段を登って来る。本当に来てくれたのか。すごくびっくり。そしてすごくうれしい。本当に心配して来てくれだんだ。

 転校続きの人生で、今までこんなに心配してくれる友達っていなかったかも。

 これが本当の友達?


「お前の大丈夫があてにならないことは十分身に染みている」


 うう、心当たりがありすぎる。

 でも、今回は本当に大丈夫だったんだよ……結果的には。


「それにしてもずいぶん早かったね、僕が前に夜にここに登った時は、迷っちゃって4時間くらいかかっちゃった」


 今はまだ0時。電話をかけてから2時間半くらいしかたってない。


「……東矢、世の中にはな、地図アプリとGPSというものがあるんだ」


 ……この間の僕らの苦労はなんだったんだ。


「飯」


 藤友君がぶっきらぼうにビニール袋を僕に差し出す。

 袋の中にはBLTサンドとポテトが入っていた。健康バランスが考えられているところが藤友君らしい。途中のコンビニで買って来てくれたらしい。


「ありがとう、本当に。実はおなかすいてた」

「恩にきろ。何も食ってなかったんだろ?」


 僕のおなかはまたクゥと小さくなって、藤友君が吹き出す。


「それからこっちはデザート」


 小さな箱を開けると、カットされた抹茶ケーキが二つ入っていた。くっついていた小さなプラフォークで切って食べたけど、藤友君は包装ごとつかんで豪快にかじっている。あれでよくこぼれないな。


 夏の星座はもう中天近くに登っていた。山の風が優しく吹き抜ける。

 リィリィという虫の声と、シリリリリという鳥の声と、葉っぱが擦れてさわさわという音が聞こえる。それからしめった葉っぱと土の匂い。夜がふけるにつれて、夜景の明かりはずいぶん小さくなって、夜はさらに暗く、星の明かりが存在感を増していた。僕は満天の星空を見ながら夜食を食べて、藤友君はぼんやり空を眺めていた。


「星なんて眺めるのはずいぶん久しぶりだ」

「そうだね。僕は父さんと一緒にキャンプにいくことがあるから、たまに見る」

「そうか、いいな」


 藤友君は目を細めながら羨ましい、という感じの声を出した。


「あ、ごめんっ」


 僕は藤友君にはご両親がいなかったということを思い出す。


「気にしなくていい。もともと一緒に星を見るような親じゃなかった」


 藤友君がごろりと寝転がった。僕も隣で寝転がる。

 黒い影に縁取られた鳥居を下から眺める。堂々とした丸みを帯びつつも直線を感じさせる柱、その向こうに瞬く万の星、鳥居を囲んでザワザワとざわめく木々の影。


「ここ、いいな。なんか落ち着く」

「ここは新谷坂の封印の場所だから悪いものは入ってこれないんだ」

「そうか」


 石畳はひんやりとしてとても気持ちいい。

 寝転んだまま、いろいろなことを話した。花子さんのときの深夜の教室では全然教えてくれなかった好きなもの、好きなこと、昔のこと。藤友君は8歳くらいまでのことしか話してくれなかったけど。

 そうしているうちに、だんだん東の空が薄い藍色から橙色、濃い美しい赤になり、そして再び青く澄み渡るのを、僕らは黙って眺めた。

 新しい朝が来る。その光の変化はとても幻想的で、太陽の光が当たったところから世界が美しく煌めいていくのを感じた。


「日の出を見るのは初めてだ」

「きれいだよね」


 藤友君が買ってきてくれた缶コーヒーをカツンとあてて、太陽とあたたかな1日の訪れに乾杯する。

 太陽が海から足を離してうまく飛行を始めるまでたっぷり待って、僕らは山を降り、日常に帰還した。


 体育祭の翌日の今日は日曜日。僕は昼過ぎまでたっぷり寝坊を楽しむ。正午を回って起きたときには、また雨が降り始めていて、ぱらぱらとした音が窓にあたって跳ねていた。

 恒例になった赤司れこのTwiterを開いたけど、今日はつぶやかれていなかった。もともと毎日つぶやいてはいなかったしなぁ。昨日僕が送ったコメントにもレスはなかった。


 今回はすごく助けてもらった。情報はなんだかとても断片的だったけど、このTwiterがなければ『外骨格』から逃げようとは思わなかったもの。

 ありがとう、赤司れこ。

 そのうちお礼をしないといけないな。

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