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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第3章 5本の腕と向日葵のかけら

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『サニー』の過去

 ついたのは、『よっち』さんがサニーさんと待ち合わせを予定していた喫茶店だった。

 オフィス街にある昔ながらの喫茶店で、店内にはコーヒーの少し酸味のある豊かな香りが充満している。ざわざわと何人かの大人が打ち合わせや休憩をしている。座った席の隣に置かれた観葉植物は少しほこりをかぶっていた。


「それであなたはなんなの? キーロの関係者?」


 飲みかけのコーヒーを少し乱暴にソーサーに置いて、サニーさんは僕に尋ねる。

 改めてこれまでの経緯を話す。キーロさんは友人の友人で、キモオフ参加者が『腕だけ連続殺人事件』の被害者だと考えて助けてほしいと連絡があった。

 でもいろいろ調べていると、写真をアップしたのが犯人で、向日葵の布のうわさを広めようとしているのも犯人で、LIMEを見るとサニーさんが誘導してた。だからサニーさんが犯人だってわかった。僕は怪異の存在がわかるからあの路地にサニーさん達がいるってわかって、話をしたいと思って来た。


「あなた、なんでそこまでわかってて来るのよ。どれだけ馬鹿なの?」


 サニーさんは目をまん丸にして言う。信じられないという顔をして。

 うう、反論の余地がない。


「でもそれでわかったわ。だから蛇が最後の一人が近づいてるって言ってたのね」

「えっ居場所ってわかるんですか」

「キーロはストラップを持ち歩いてたんでしょ、すっかり蛇の呪いが体にうつっているわ。蛇が起きればすぐにでも捕まえにいくわよ。最後だし、もう正体を隠す必要もないもの」


 サニーさんは、フゥ、と吐息をこぼしてコーヒーにできた波紋を静かに眺める。


「あの、何があったかはわからないですけど、キーロさんに向日葵の布に心当たりはないんです」

「それがどうして信じられるのよ。まあ、高校生っぽいあなたが関係してるとは思わないけど」


 サニーさんは何があったかを教えてくれた。

 サニーさんの身内は妹さんだけで、サニーさんが行く予定だったキモオフに行って殺された。

 サニーさんが神津アリーナに着いた時にはすでに人影はなく、絶望に暮れていた。そこに大きな蛇が妹の死体をくわえて現れた。テトラポッドのところに3人の人間が投げ捨てて行ったらしい。テトラポッドの中に落ちれば、水流の流れの関係で外に出るのは困難と聞いたことがある。それならこの蛇は妹の死体を探してきてくれたのか。そう考えた。

 けれども蛇はサニーさんにささやいた。聖書でイブにリンゴを勧めたように。


「仇をうちたいなら手伝ってやるよ」


 妹はたった一人の身内だ。

 早くに両親を亡くし、施設で育った。突然放り込まれた見知らぬ場所におびえ、親切に差し出される手も恐怖にしか思えなかった。そんなサニーさんの目の前に現れたのは、サニーさんより小さくて同時期に施設に預けられた女の子だった。その子も事故で両親を亡くしてより不安に震えていて、そんな姿が気になってそっと話しかけた。

 最初は拒否されたけれども、境遇の似た2人は、いつのまにか寄り添うように生活するようになった。妹のように思えた。


「妹のことを理解できるのは私だけ、私のことを理解できるのは妹だけ。いつしかそう思うようになったの。多分共依存っていうやつね」


 サニーさんはたまたま手先が器用だったからストラップを作る工房に勤めるようになった。住み込みで働くようになって施設を出たけれど、毎日のようにその妹に会いにいった。妹が高校に行くようになった頃にはサニーさんもなんとか独り立ちできるようになり、妹と一緒に小さなアパートに移り住んだ。小さなアパートには本当になにもなかった。最低限の家具くらいしか。

 生活は大変だったけど、妹もバイトをして、つつましいながらもそれなりに楽しく生活していた。

 サニーさんは妹の一部で、妹はサニーさんの一部。妹の楽しみはサニーさんの楽しみ、妹の苦しみはサニーさんの苦しみ。サニーさんには他になかった。


「私の半身は無残に殺されたの。残りの半身が私が復讐を誓って何が悪いの?」

「それは……だって」

「妹を殺した者には妹が感じた恐怖より数倍も多くの苦しみを与える。そう思って私は蛇の話に乗ることにした。駄目かしら」

「駄目かって……それは」


 蛇はサニーさんに条件を出した。

 妹の死体は蛇が食べること。復讐が終わった時はサニーさんも蛇に食べられること。1人殺すたびにその分のサニーさんの体の一部を食わせること。サニーさんの体はもう7分の6は蛇に食われて蛇に乗っ取られている。

 妹が味わった恐怖と絶望を味わわせたい。妹は向日葵が好きだった。だからサニーさんは殺された時に妹が着ていた向日葵の服を切り裂き、仇を取った証に切り取った腕に巻きつけた。加害者へのメッセージになればと思ってた。


「1人には効果があったけど、他はわからなかったわ。妹の服なんて気にもしてなかったのかもしれないわね」

「そんな……でも、7人のうち何人かは無関係なんじゃないの?」

「無関係の人もいるでしょう。でも妹も理由もなく殺されたのよ。他の人だって理由もなく殺されてもおかしくないでしょう? 妹と同じように運が悪かったのね」


 まるで他人ごとみたいだ。

 でも、サニーさんの世界では自分たちと他人の区別しかないのだろう。


「この7人以外にも加害者がいたら? その人たちも殺すの?」

「それは私も蛇に尋ねたわ。蛇は妹の血から宝石を作った。あなたも見たんでしょう? 珊瑚に似たストラップを。私は容疑者たちにそれを配り、宝石を通して蛇は匂いを調べる。蛇は妹についていた臭いから、あの夜の加害者を判別できるそうよ」

「どうして今回のキモオフだと思ったの?」

「妹を殺した3人のうち、ピクルスは妹が殺されたキモオフまでは固定HNだった。今回直前に参加申し込みした人のIDがそのピクルスのIDと同じだった。もちろんIDは違う人が被ることだってあるわ。会って違う人なら、なにもせずに次の機会を待つ予定だった」


 そこで、サニーさんは一度言葉を切る。


「蛇は、残念そうに、今回のキモオフに加害者の3人がそろっていると言ったわ。蛇はその3人が誰かは教えてくれなかった。あなたも今日話してわかったと思うけど、蛇は人の苦しむ姿がすきなのよ。この遊びが気に入っている。犠牲者をわざわざ7人から3人に減らしてあげたりはしないわ」


 恐る恐る尋ねる。


「でも、蛇が本当のことをいってるかはわからないんじゃないかな」

「それはそうね。蛇に騙されているのかもしれない。でも、他に方法はなかった。さすがに全てのキモオフに出て、参加者を全員殺し尽くすわけにはいかないでしょう?」


 サニーさんは恐ろしい言葉を吐きながら、困ったように微笑んだ。


「でも、キーロさんは違う。人を殺すような人に見えない」

「あら? 私は人を殺すように見える?」


 ……見えない。


「そもそも、私は無関係だったとしても、申し訳ないけどやめるつもりはないの。私は必ず、私の手でキーロを殺すわ。妹の復讐に区切りをつけるために。なんていうか、無関係なら他の無関係の人の死とバランスが取れないわ。だから、諦めて。本当にキーロが無関係だったらあの世で謝るわ」


 サニーさんの頭のなかでは全てはもう覆らないレベルで決まってしまっていたのだろう。

 サニーさんは澄み切った目で言い切った後、ふと申し訳なさそうな表情で僕を見つめる。


「それにしてもあなたは本当にお気の毒。あの蛇は人が苦しむのが大好きよ。今回ももっと長く苦しませようといっていたわ。私もたくさん苦しんでほしかったけど、あんまりゆっくりしてると人が来てしまうでしょうし」


 『よっち』さんの姿がまぶたに浮かぶ。あんな捻じくれた姿で苦しんでいなかったとでもいうの?

 多分、もうサニーさんは感覚が違うんだろう。


「蛇は最後に私を随分苦しめて殺すつもりだったんでしょうね。それをあなたが肩代わりしてくれた。私はもうほとんど蛇だから、蛇が寝ているうちにお礼にあなたを殺してあげようかとおもったけど、そうすると私が恨まれるでしょうから、ごめんなさいね」


 そんな……。


「蛇から逃げるのは無理なのかな」

「こんなにくっきり呪われてたら、無理じゃないかしら」


 サニーさんは細い指で僕の左手首をとって、アザをなでた。

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