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君と歩いた、ぼくらの怪談 第1部  作者: tempp
第3章 5本の腕と向日葵のかけら

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『よっち』の心配

 10時半ちょうどに神津駅南口改札に到着する。既にナナオさんとキーロさんが待っていた。

 神津駅は神津市内で1、2を争う大きな駅だ。高速鉄道の停車駅でもある。北口には公共施設とオフィスビルが多いけど、南口には商業施設もたくさんある。12階建ての駅ビルをはじめ駅前には3つのデパートが立ち並び、そのまま繁華街につながっていていつも人であふれている。賑わう繁華街の目抜き通りを抜けて目的地に向かう。

 歩きながらキーロさんから昨夜の話を聞いた。

 昨夜『よっち』さんから連絡があったらしい。

 LIMEのグループじゃなくてショートメールで直接メッセージがあった。

 『よっち』さんはキモオフに参加していて今も生き残っている3人のうちの1人。

 なんとか協力してもらって一緒に生き残らないと。


ー『サニー』さんから襲われるのが怖いから一緒にいてほしいって連絡があったんだ。どうしたらいいかな。


 キーロさんは『よっち』さんと会ったのは2回目。穏やかで信用できそうな人らしい。

 LIME電話で話した結論。

 『よっち』さんは『キモオフメンバーが狙われている』説を信じていなかった。

 企画の終わったLIMEグループを未読にしたり非表示にするのは特におかしいことじゃない。だから他の4人が未読スルーでも気にならない。

 キーロさんは腕が『くまにゃん』さんのだとわかったから危機感を持ったけど、そうでなければ信じなくてもおかしくないのかもしれない。自分が連続殺人事件に巻き込まれてるってピンとこない。

 僕もキーロさんから怪異の気配を感じなければ信じなかったかも知れない。


「気のせいだよ、連続殺人なんて」

「でも、私『くまにゃん』さんのブレスレット見たもの。間違いないよ。それに『神津ペッカー』さんも「助けて」って」

「ペッカーさんは出会い系の人なんでしょ? きっとああいうナンパなんだよ。現在地表示もあるし行ってみたらドッキリ、なんじゃないの。キモオフの時にも『でりあ』さんをナンパしてたみたいだし」


 『よっち』さんは『でりあ』さんの企画には何度も参加していて仲が良かったそうだ。

 『でりあ』さんは彼氏さんの車で帰宅中に手持ち無沙汰なのか『よっち』さんに感想とかをLIMEでやりとりしていて、今回はナンパされたとグチが入っていたそうだ。


「彼氏同伴なのにナンパとかよくやるよね」


 それで今回『よっち』さんが連絡してきたのは1回しか会ったことのない女の子を家に泊めるのはどう考えても無理だから。万一襲われたとか言われると困る。でも断ってしまうのも気が引ける。だからどうしたらいいか相談したかったとのこと。

 同性のキーロさんならもしよければ相談に乗ってもらえるんじゃないかと思って。

 キーロさん自身も実は一昨日『サニー』さんから連絡をもらって、けれども既にナナオさんの家に泊まる約束をしてたから断ったそうだ。『わかった』って返事があってそれでお終い。


「私が断わったから『よっち』さんに連絡したのかも」

「それじゃあ本当に怖がってるんだね。でも流石に泊まりはないよ。困ったな」


 それで今朝『よっち』さんからメッセがあって、夕方に会って話だけ聞くことにしたそうだ。

 キーロさんは念の為に待ち合わせ場所を教えてもらった。万一何かの冤罪をうけたら困るからって。

 そんなことを話しながら僕らはその場所にたどり着く。

 そこは繁華街の終点近く。1階部分にそれぞれ喫茶店と整骨院が入った灰色の5階建のビルのすき間に横たわる幅2メートルほどの細長い路地。それぞれのビルの非常口が一つずつあるくらいで、他には配管や室外機くらいしか置かれていない。

 路地の外には人の流れがあるけれど、この路地には誰も見向きもせず、まるでここだけぽつんと空間が切り取られて生臭くて生温い、そんな空気が堆積しているように見える。


 僕はその路地に入る前から強い怪異の存在を感じていた。

 キーロさんのストラップから感じた気配と同じもの。

 ここは危険だ。空気が震えるほどの害意と悪意に満ちている。気持ち悪い。

 やっぱりこの『腕だけ連続殺人事件』は僕が開放した怪異の仕業。


「ここ、やばい。キーロさんは入らないほうがいいかも」


 僕の声にキーロさんはびくっとする。


「でもここにキーちゃん一人で置いとけないよ、ボッチー悪いけど見てきてくんないかな」

「わかった、ちょっとまってて」


 なんだか心臓がバクバクするけれど、ふぅと息を吐いて覚悟を決める。

 路地は狭く昼なお薄暗い。路面のアスファルトはひび割れ、そのひびに沿って汚れた水が溜まっている。目を横に移すと、屋上まで真っすぐ灰色の壁が続き、細長い牢獄のように僕を閉じ込めようとしていた。路上の室外機からは生暖かい風が漏れ、足を一歩踏み入れるとはき出された空気が地面を滑ってぬるりと足首に絡みついてくる。


 視線を奥に向ける。

 路地は10メートルほど続き、違う通りに抜けていた。けれども、僕は路地の真ん中あたりで視線を止める。そこにあるのは、まるでナメクジがはいずまわったような、ふつふつとしたよどみ。その濃厚なよどみからは新谷坂の封印の気配を色濃く感じる。

 腰をかがめて一帯に視線を這わせる。

 しばらくそのよどみに動きがないのを確認して、ようやくほっと一息つけた。


「ナナオさん、今はもういないから大丈夫だと思う」


 路地の入口に声をかける。二人が恐る恐る入ってくる。


「なんかここ、気持ちわりぃ」


 ナナオさんの直感は正しい。ここはなんていうか最近呪われた場所なんだ。

 ただ、そのよどみ自体はそのうち風に散らされて、もとの状態には戻るとは思う。

 キーロさんは小さく、あっ、と言って、震える手である一点を指し示す。


「ここに『くまにゃん』さんの腕があった」


 そこは壁に何かのロゴのような落書きが描かれている以外は何もない場所だったけど、よどみのちょうど真ん中あたりで路面に灰色の染みができていた。


 はっきりしたことは事件の原因が怪異だってこと。そしてそれは新谷坂に封印されていたものだってこと。

 藤友君は何ていってたっけ、確か怪異から逃れるために共通点を探すこと。僕はこの路地を目に焼き付ける。路地の全景、そして『くまにゃん』さんの腕があった場所。こういう場所に立ち入らなければ安全なのかな。


 次の場所に移動する。

 『神津ペッカー』さんの位置情報が示す場所だ。

 同じ神津駅南口でも南東区のこちらは夜の街方面だった。さすがにまだ午前中だったからひっそりと静まり返っている。夜になると明るく騒がしい電飾も、陽の光の下ではうらぶれさびれて見えた。さっきと同じで人通りはない。


 位置情報の場所は『くまにゃん』さんの腕があったのと同じような幅2メートルくらいの路地。薄暗くじめじめしていて雰囲気もよく似ていた。違いといえば置かれたポリバケツから生ごみの臭いが少しするところくらいだろうかな。 

 そして『くまにゃん』さんの時よりさらに濃い怪異の臭いがして、よどみはさらに深かった。

 位置情報しかなかったから腕がどこにあったのかはわからないけれども、よどみの中心には、誰かがそなえたのか赤い小さな花が飾られていた。『神津ペッカー』さんが好きな花だったのかな。

 そしてそこはやはり路地の中ほどの壁よりのところにあった。


 このあとは逆城のコンビニ。ちょうど正午になったので、僕らはお昼にする。キーロさんおすすめの喫茶店でLIMEの履歴を見せてもらった。お昼ご飯はあんまり味がしなかった。

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