稲妻は荒野を走る
見渡す限り果てのない荒野はとても静かだった。
時折見える砂吹雪は雨があまり降らない証拠だ。
その荒野に、堂々とそびえ立つ巨大な岩山がいくつもある。天へと伸びる一枚岩は陽光に照らされ、輝いていた。
その岩の上には灰色の狼が群れを作っていた。獲物がいないのか、舌をちらちらと覗く。
しかし、腹が減ってか、どれも力を失ったように倒れて、鳴き声すら洩らさない。
このまま荒野の静寂は永遠に続くと思われたが、狼達が耳を立てて起き上がった。
遥か彼方から、やかましい騒音が聞こえたからだ。狼達の顔の先には青く光る何かが見えた。
光る何かは砂煙を撒き散らしながら、真っ直ぐ荒野を突き進む。
靄のような砂煙を突き抜けて現れたのは、変わった形をした一台の装甲車だった。
普通とは違い、車輪が四つしか無く、スポーツカーのような面影があり、
なにより、普通よりひと回り大きい上に、青い電気をまとい、装甲車とは思えないスピードを出している。
荒野を突っ切る光る装甲車は、まるで稲妻のようだ。
しかし、装甲車のスピードは段々おちていった。その時、装甲車の上の丸い扉が開いた。
中から顔を出したのは、16歳くらいの金髪の少年だった。
額には黒いハチマキを巻いていて、首には砂塵ゴーグルをぶら下げている。
少年は手に持っていた双眼鏡を前方に向けて覗き込んだ。
少年の行く先には大きな都市があった。海が近くにあり、船も見える。おそらく貿易都市なのだろう。少年は手に持っている双眼鏡を、着ていたジャケットの懐に押し込んだ。
「もうそろそろか」
少年はそう呟くと、車内に顔を引っ込めた。すると、また装甲車は電気をまとい、スピードを上げた。
まだ誰も街の人間は知らないだろう。この装甲車が街に着く時、都市に大きく関わる事件が巻き起こることに、少年はわかっている。あの街に着けば、大きな殺戮ミッションが始まることを、それでも装甲車は止まらない、激しい、いままでに無いほどの爆音を轟かせながら、まっ直ぐ都市へ突き進む。その爆音は都市への警告だった。長い殺戮ミッションの始まりだ。